あらすじ

「郁夫スペシャル!」のあらすじ

 夢とは人が寝ている間に見る記憶の断片。医学の進んだ現在では記憶の整理とも呼ばれている現象。

 本来ならば個人で完結する筈のそれが、いつの間にか、人と人との間で共有されるようになった。当初は夢の中で現実の知り合いに出会ったという、非常にオカルト的な話題であった。持て囃し立てたのも、もっぱら、その手の類の情報誌や、ネットワーク上のいい加減な小規模サイトである。

 けれど、そうした事象が頻発するようになり、やがて、圧倒的多数の人間が経験するまでに至った。また、地球上はおろか、衛星軌道上にあっても、海の底にあっても、場所や状況を選ばず発生するようになった。原因は依然として解明されないまま、しかし、事態だけは世界中で広く認知されていった。

 昨今では、疾病患者の百パーセントが、睡眠中で精神癒着と呼ばれる、他者との夢の共有を行っているとされている。そして、夢の中での記憶は、以後、目覚めてより、確実に記憶として残るものとなった。

 夢中性精神癒着症候群。

 通称、夢中病。

 そして、夢中病患者は誰もが共通した世界観を持った夢を見る。それは剣と魔法のファンタジー。中世ヨーロッパを思わせる世界を舞台として、夢中病患者達は第二の人生を夢の中に得る。

 夢中病患者の多くは夢の世界に夢中となり、やがて、現実世界から疎遠となっていく。それは夢中病の発見から五年が過ぎて今、大きな社会問題となっているのだった。現実に生きる富める者と夢の世界に生きる貧しい者。両者の格差は歳を追う毎に開いてゆくばかり。

 これは、そんな原因不明の病気と右斜め後ろから消極的に戦った社会の底辺達の物語。