金髪ロリ僕っ娘ラノベ

エピローグ

「アリスっ! アリスっ!」

 繰り返されるルーシュの声にアリスは意識を覚醒させる。

「……ルーシュ?」

「ああ、僕だ。大丈夫か? 身体は平気か?」

「あ、あぁ、うん、多分……」

 アリスは小さく頷いて身体を起こす。

 酷使した身体は本来ならば立ち上がるにも苦労しただろう。けれど、彼女は肉体の疲労を除いて、負傷の全てが治癒されていることに気づく。大した面倒もなく、自然と上半身を起こすことが出来た。

 すると、そこで自らを囲う群集の姿に気づく。

 それは彼女が予期したルーシュやルーシュの母親に限らない。顔も名前も知らない大勢の人間達が、目覚めた彼女の周囲をぐるり取り囲んでいるのであった。それも二人や三人ではない。それこそ、視界の全てが人に溢れかえるほど、幾百、幾千と、数え切れないほどである。

 そして、そんな彼女の正面には膝を畳み座るルーシュの顔があった。

 後頭部に僅か残る感触から、アリスは今まで自分が膝枕を受けていたのだと知る。

「あ、あの……、これは?」

「あぁ、皆も君に、君の勇気に感謝しているんだ」

 自然と視線は自らの周囲を取り囲む群衆へ向いた。

 場所は依然としてファーレンの広場にあった。頭上に浮かぶ太陽の位置からアリスは、気を失っていた時間が然したるものではないと知る。また、それと同時に家族の敵を取り逃がしてしまったことと、竜を相手にして、そんな風に強がりを考えている阿呆な自分を理解する。

 一度だけ気を失ったことで冷静さを取り戻したのだった。

「……とりあえず、助かったの?」

 ただ、何故に群集が自らを、そして、処刑対象足るルーシュとルーシュの母親を取り囲み笑みを浮かべているのか理解できなくて、彼女は首を傾げる。群集の中には今までルーシュ達を咎めていた憲兵の姿もちらほら混じっている。

「それは全て君のおかげさ」

「……でも、処刑は?」

「それは気にしなくていい。今は皆が僕達に味方してくれるんだよ」

「ありがとう。貴方のおかげで、私達親子は助かったのです」

 傍らよりルーシュの母親が頭を下げた。彼女もまたアリスの傍らに腰を落として、穏やかな表情を向けている。落ち着いて眺めるその顔立ちは、確かにルーシュに良く似た作りをしていた。

「……竜を追い払った、から?」

「ああ、君が、最後の最後まで諦めないでいてくれたおかげだ」

 そうしてルーシュはアリスをぎゅっと抱き締める。

「…………」

「何はともあれ、良かった、良かったよ、アリス……」

 じんわりと衣服越しにルーシュの体温を感じる。それが決して嘘偽りではないと理解して、アリスもまた彼の背に自らの両腕を回した。つい昨日も同じ行為を繰り返したばかりなのに、彼女にしては随分と久しぶりに思える感触であった。

 そして、二人の挙動を受けて群集が歓喜に叫びを上げる。

 それまでも賑やかであった周囲は賑わいを更に増す。

「ありがとう、ルーシュ」

 自然とアリスの口からは感謝の言葉が洩れた。

 別に何があった訳でもない。

 無我夢中で憎らしい竜を殴りつけた。

 打ち倒すことは叶わなかったが、追い払うことが叶った。

 そして、ルーシュの笑顔を拝むことができた。

 ルーシュの母親の笑顔を拝むことができた。

 だから、まあ、今だけはそれで良いのではないかと、アリスもまた心の平穏を取り戻すのだった。

 大きく抗い難い面倒を越えて、一つ、彼女は確たるものを得たのである。

 それはこの世にあって目に見えない。けれど、ちゃんと彼女の心の内で大切な場所にかちんと音を立てて嵌め込まれた。言葉では言い表せない充足感が、餓えに餓えた部分を十分に満たしたのだった。

 決して生来の恨み辛みが消え失せた訳ではない。

 明日への不安も依然として大きい。

 けれど、自らの抱くルーシュの体温は何処までも暖かくて、それだけで飢餓の苦しみすら忘れてしまいそうで、だから、アリスは自分が心から安堵していることを理解する。

 然して自らの置かれたところは変わらずとも、それまで延々と抱えていた不安の消える感触を如実に得る。

 彼女の長い長い焦燥は十年を越えてようやく癒されるのだった。

 やっと、やっとのことで勝ち取った安らぎだった。