金髪ロリ田舎暮らし日記

八日目

 翌日、俺は自宅跡地にて声を張り上げていた。

「おーい! アホ狐ぇえええええっ!」

 隣には穴蔵より引っ張り出した貧乏神もいる。眠っているところを叩き起こしたので、とても眠そうである。ゴシゴシと人差し指で目元を擦っている。ただ、申し訳ないけれど、今日は急ぐのだ。何せ遠出するのだから。

「ねむいー」

「悪いな。けど、すぐにフカフカのベッドで眠らせてやっから」

「別にフカフカじゃなくてもいいよー。それよりも今ねたいよー」

「いいや、俺はフカフカがいいんだ。あと寝るのは夜まで我慢な」

「贅沢だよー。長いよー」

「そうさ、俺はとっても贅沢な男なんだよ。金の掛かる男なんだよ」

 フカフカじゃなきゃ駄目なんだ。

 フランスベッドの最上位モデルじゃなきゃ納得せんのだよ。

「うぉおおおおいっ! 超絶アホ狐ぇええええええっっ!」

 だから、叫ぶ。力の限り。

 日の出から間もない時刻にありながら、既にじんわりと汗ばんでくる陽気。そんな夏の日差しに負けぬとばかり、熱気を押して声を張り上げる。

 届けよ、俺の想い。

「淫乱ペチャパイ狐ぇえええっ! オマエの鳴き声、アッホォオオオオオオッ!」

 何故だか知らないけれど、なんとなく、こうして大声で叫んでいれば、アイツはすぐにやって来る気がしたのだ。そう、これから行うべく作戦は、あのアホ狐の助けが絶対に必要なのだ。

「こんのアホ狐ぇえええぇえええええっ!」

「誰かアホ狐じゃっ!」

 ほら見ろ、出てきた。すぐ背後に気配が生まれた。

 同時、スパンと良い具合に後頭部を平手で叩かれた。

 割と本気で痛い。だが、痛がっている暇はない。

「よし、来たな! アホ狐!」

「朝っぱらから、なにふざけたこと叫んでくれておる」

 どこから出てきたとは聞くまい。

 そんなの瑣末なことだ。コイツは身一つで武装ヘリを落とす化け物だし。

「仕返しにいくぞ!」

「仕返し?」

「そうだ、仕返しだ」

 俺の瞳は復讐に燃えているぜ。この情熱が消えてしまう前に、なんとしても一旗揚げてやるのだ。俺の輝かしい貧乏ライフの為にも、今この瞬間、決意を無かったことにしてはいけない。

「オマエ、匂いの付いた柔らかな便所紙で、尻を拭きたくはないか?」

◇ ◆ ◇

 長野県の名前も知らないスーパー田舎村から、遠路遙々、やって来たのは華の東京。若者の街。ザ・渋谷。JRの改札を抜けたところで、他の何にも先んじて感じるのは、クソ不味い汚れた空気と、人の声やら自動車の排気音やらが雑多に混じり合った喧噪。

 これだよ。これが東京だよ。

 戻ってきたぜ畜生が。

 移動に時間を取られたせいで、朝早く出発したにもかかわらず、既に空は茜色。良い感じの夕日が、ゆっくりと西の空に沈み行く頃合のこと。足もガクガクだ。もう二度と往復したくないな。

「人が一杯なのじゃー」

「人間がたくさんいるー」

 そして、隣にはアホ狐と貧乏神。

 今現在、俺たちが所在するのはハチ公前の駅前広場だ。

「お、おい、あんまりはしゃぐなよ、注目されるだろ?」

「ほーほー、人の街はこうなっとるのかー。すごいのー」

「すごいねー」

 旅費はアホ狐の不思議な力が解決した。

 新幹線を指定席だ。

 マジでコイツってば便利だ。

「よしっ! 行くぞっ!」

 周囲からは幾重にも好奇の視線が寄せられる。アホ狐は金髪ロングの和服姿だし、貧乏神は全身ボロボロの上級ホームレスだし、俺はランニングに短パン小僧だし、なんというか、オサレの街に喧嘩を売りに来たような出で立ちをしている。だからだろう。

 ただ、今はそんな瑣末なことを気にしている場合じゃない。向かうべくは渋谷に居を構えた巨悪組織の本拠地。その制圧を為すまでは、世間からの視線など、何を気にする必要があろうか。

「どっちじゃ?」

「こっちだ」

「そろそろ眠いー」

「もうちょっとだから、ほら、頑張ってくれ! たのむ、神様だろ?」

「うんー……」

 二人を先導するよう歩み出す。

 向かう先、目的地までは既に目と鼻の先だ。

 人混みをかき分けるよう、俺とアホ狐、それに貧乏神は道を西へと取る。実際に足を運んだことはないが、地図の上では幾度も見たことがあるので、また、目的地が巨大であるた為、途中で迷うことは無かった。

 距離にして数百メートル。

 ややあって、辿り着いた先は四方を背の高い壁に囲まれた、謎の巨大施設。調べたことはないが、一万平米はあるんじゃなかろうか。一見して大学か何かのようだが、実はこれが全て、個人の所有する住宅だというから驚きだ。

 都内の一等地にこれだけの規模で家を持ってるヤツは早々いない。

 っていうか、日本ではこの家だけだ。

 正門前には警備員が立っている。しかもただの警備員じゃない。本物の警察官だ。腰には拳銃を下げている。どんだけ権力もってるんだよと、思わず突っ込みを入れたくなるくらいだ。

 くっそ、なんか腹立ってきた。

「でかい屋敷じゃのぉ」

「ここが今話題の便所紙屋だ」

「随分と景気の良い商売じゃな」

「ということで、突っ込むぞ!」

 警察がなんだ。

 こっちには変態ペチャパイ狐と貧乏神がいるんだぜ。

 なんて頼もしいヤツらだ。

「ふふん、そういうことならば、あい分かった!」

 素晴らしい。アホ狐も乗り気のようだ。

 ならば、このテンションをそのままに突っ込むのがベスト。

「貧乏神っ、オマエも一緒に行くぞ!」

「わかった。いくよー」

「おっしゃあっ! 尻の穴ぁ、拭きたい放題だ!」

 今度はこっちが土足で家に押し入ってやるぜ。

◇ ◆ ◇

「侵入者だっ! 侵入者がいるぞっ!」「そっちだっ! 本館の方へ行ったぞっ!」「追えっ! 追い掛けろっ!」「子供だっ! 子供だったぞっ!?」「うぉっ、なんだこいつら、すばしっこいっ!」

 正々堂々と正門から侵入してやった。

 アホ狐を先頭として、駆け足での入場である。車の出入りがある為か、日暮れ直前とあって、門は開いていた。そこを一直線に駆け抜けてのこと。警備員が気付いたときには既に敷地内という寸法だ。

 おかげで鳳凰院家は大騒ぎだ。まさか見ず知らずの子供が正門から堂々と乱入してくるとは思わなかったようだ。止まれと言われても止まらない。おかげで、蜂の巣でも突いたように、警察や警備員が現れては、声も賑やかに右へ左への騒動となる。

 その只中を俺たちは、件のお嬢様を探して走り回っていた。

「いないのぉっ」

「よし、あっちの方へ行ってみるか!」

「そろそろねむいかもー」

「もうちょっとだから頑張れ!」

 途中、幾度も行く手を遮られた。けれども、誰も彼もはアホ狐が腕を一振りするだけで、突風にでも当てられたように、明後日な方向へと吹っ飛んでいった。ヘリを落とした時と同じような不思議パワーなのだろう。

 便利なもんだ。

 もしも俺たちが大人だったら、或いは発砲されていたかも知れない。けれど、ガキんちょであることも手伝い、相手は追い掛けてくる限り。おかげでやりたい放題、好き勝手に走り回れる。

「むっ、あっちに背の高い建物があるぞい」

「よっしゃ、突入だ! 土足で!」

「よしきた!」

 雪辱を果たすべく、俺とアホ狐とは何ら遠慮なく人様の家を進行だ。隣を走る貧乏神がやたらと眠そうなのが気になるが、まあ、足は動いているので良し。もう少しばかり我慢して貰おう。

 敷地内でも奥まった場所にある、四階建てくらいの建物へ突入だ。

 総大理石作りのスーパーリッチな正面玄関を突破。窓ガラスを叩き割り、傍らに立つ警備員を吹き飛ばし、走る勢いをそのままに屋内へとなだれ込む。もちろん、土足。わざと土を落とすように激しくバタバタしてやるぜ。

 っていうか、普通に土足上等の作りをしているから、入館に差し当たり靴を脱いでしまったら、今回は逆にアウトだ。ちょっとムカツク。これだから金持ちは嫌なんだよ。西洋かぶれ共めが。

「上じゃ上じゃ、上へ向かうぞぃ!」

「おうっ! 上がれ上がれ天より高く!」

「天より高くとはまた大きくでたのぉっ!」

「ベッドまだー?」

「もうちょっとだって!」

 声を張り上げて、全力に走り抜ける。既に俺は息もハァハァ、かなり荒くなっている。日頃の運動不足が祟った形だ。一方、アホ狐と貧乏神は、何ら堪えた様子もない。汗こそかいているものの、駆ける姿には圧倒的な余裕が見て取れる。

「むっ! 発見じゃ! どんぴしゃというやつじゃ!」

「おぉ!?」

 向かう先、角を曲がったところで、運良く目当ての人物を発見だ。

 貧乏神の運も決して捨てたもんじゃない。

「な、なんですのっ!?」

 そう、あの暴虐非道なお嬢様だ。

 相手もまたこちらの姿を認めて、ビクリ、身体を震わせる。大きく開かれた瞳が、その驚きを示していた。

 場所は建物の廊下。幅二メートル程度だろうか。相手までの距離は数メートルといったところ。数歩を進めば手が届く。

「いけぇいっ!」

「うぉっ!?」

 アホ狐が俺の腕を掴んだ。

 かと思えば、力任せに投げつけやがった。

「うぉおおおおおおおっ!?」

「ぎゃあああああああっ!」

 脇が軋む。腕が千切れそうになった。そして、数瞬の後には解放感。頬を撫でる風。身体はすっ飛んでゆく。すぐ目前に迫るお嬢様の姿。

 相手は飛び来た俺を避ける余裕がなかった。凡そ女らしくない悲鳴と共に、床へと倒れる羽目となる。その上にはのし掛かるように俺だ。

「っしゃぁっ、ゲットだぜぇ!」

「よし、良くやった。褒めてつかわす!」

「おー、がんばったー」

 仰向けに横たわるお嬢様。その上に馬乗りとなり、相手の両手両足を自らのそれに押さえつけて動きを封じる。年頃は大差ない二人だが、男と女の体格差が手伝い、これで完全に身体を押さえ込めた。

 ここまで来ると、ヤケクソである。後のことなんて気にしている余裕はない。今この瞬間を全力に生きるのだ。俺の思いの丈を、この金持ちへとぶつけてやるのだ。遠慮なんて必要ないのだ。

「な、ななな、なんで貴方たちがここに居るのですのっ!?」

「ふへへへへへ、遠路遙々、東京まで引っ越しに来てやったぜ!」

「なんですってぇっ!?」

 殊更に目玉を見開いて驚くお嬢様。

 俺たちが自宅まで乗り込んでくるとは、夢にも思わなかった様子だ。

「こんなことをして、タダで済むと思ってますのっ!? どきなさいっ! 汚らわしいですわっ! かなり臭いですわっ! なんかペタペタしてて気色悪いですわぁ!」

「そりゃまあ、汗掻きまくって風呂も入ってないからな!」

「ひぃいいっ、き、汚いですわっ! ウンコですわっ! どきなさいっ! その湿気にぺっとりとした気色悪い手とか足とかをっ、早くっ! 早くどかしなさいっ!」

「やなこった。もっとペタペタしてやるよ。ほら、ペタペタペタペタ」

「ひぃいいいいいいっ!」

 見る見るうちにお嬢様の首筋へ鳥肌が立って行く。心底嫌なのだろう。少しだけ心がダメージを受けた気がしないでもない。

「どきなさいっ! どきなさいっ! どきなさぁあいぃっ!」

「やーなこった。もっとペタペタしまくるぞ」

「けけけ、け、警察がすぐに来ますわっ! そうなれば、貴方たちはそろって豚小屋行きですわっ! 田舎者風情が、この高貴な高貴な鳳凰院夕陽子に触れるなど、決して許されることではありませんわよっ!?」

「うっせっ、悔しかった自分の力でなんとかしてみろよ」

「くっ……」

 ここぞとばかりに嫌みな笑顔を浮かべてやる。

 お嬢様は大層のこと悔しそうだ。鳥肌も絶好調だ。

「ほーらほら、お前の大好きな汗だくフェイスだぜぇっ」

 俺は調子に乗って、ゆっくりと顔を近づけてやる。

 これが相当に嫌だったのだろう。

「このっ!」

 お嬢様の足がスカート越しに動いた。

 生地が擦れて、相手の足首を押さえつける俺の足より滑る。骨と骨が擦れ合うよう、上と下で組み合っていた部位が、その瞬間、上下を逆転させる。

 同時、寝転んだ姿勢のまま、大きく振り上げられた相手の足首が、見事、こちらの急所にヒットした。足の付け根、股の部分。

 そう、いわゆる金的というヤツだ。

「ひぐっ!?」

 激痛が走る。

 その隙を突いて、お嬢様は俺の下から脱出、大慌てに立ち上がった。

 この野郎、逃げ出しやがった。

「お、おほほほほっ! ざまぁありませんわっ! この貧乏人っ! その貧相な逸物、この鳳凰院夕陽子が、見事一撃で叩き潰しましたわぁ!」

「いってぇええええっ!」

「ぶははははっはっ! ばっかじゃのぉっ! ここにバカがおるぞっ! バカがっ!」

 お嬢様に加えて、アホ狐にまで笑われた。

 こっちは怒鳴り返す余裕もないってのに。

 股間を押さえて丸くなる。

 痛い。痛いので、必至になって耐える。

 耐える。

 そして、俺がもんどりを打っている間に、周囲の状況は一変する。これまでがらんとしていた廊下へ、けれど、警察官や警備員が押し寄せてきたのだ。わらわら、十数名に及ぶ一団である。本当にここは個人宅かよ。税金の無駄遣いだろ。

「なんじゃ、騒々しくなってきたのぉ」

 周囲の様子を眺めて、アホ狐が気怠げに言う。

「おほほほっ! これで貴方たちも終わりですわっ!」

 対して、途端、お嬢様が勝ち気を取り戻した。

 高笑いを上げて、俺を見下してくれる。マジでムカツクぜ。

「夕陽子、これはどうした騒ぎだ?」

 そうした最中の出来事である。不意に駆け付けた警察や警備員の合間より、一際渋い声が響いた。これを受けて、集まった制服達は、まるでモーゼが海を割ったように、左右へと捌けて行く。生まれたのは人一人が通れるよう作られた道。

 これをゆっくり、歩み来る者の姿がある。

「お、お父様っ!」

「随分と騒々しいじゃないか。何があったのだね?」

「侵入者ですわっ! 侵入者をこの夕陽子が捕らえましたのっ!」

「ほぅ、侵入者とな。先程からの警報はこれが原因か」

 なんと、お嬢様の父親が登場だ。

 股間の痛みが段々と引いていくのを感じて、俺はゆっくりと顔を上げる。視界に映ったのは、三十代後半を思わせる壮年男性だった。百九十程度だろうか。かなりタッパのある身体付きをしている。黒髪黒目の日本男児だ。

 姿格好はスーツにネクタイ姿。仕事帰りだろうか。分からない。

「まだ子供じゃないか」

「いいえっ! 侮ってはいけませんわっ! この者達は危険なのです!」

「危険? どういうことだね?」

 親父は娘の傍らまでやって来て問うた。

「この者たちは、いいえ、そこの娘は、何を隠そう貧乏神ですわっ!」

「……貧乏神?」

「そうですわっ!」

 この子、頭おかしいんじゃないかしら。普通の親であったら、まず間違いなく、そういった感想を抱くだろう。或いはお嬢様の年齢からして、子供に良くある妄言だと、静かに諭したかも知れない。

 だが、その一言が親父の態度を変えさせた。

 突然に表情を硬くして、自らの娘と、俺と、そして、俺の傍らに立つアホ狐や貧乏神へと意識を移して行く。そして、最終的にその視線が固定されたのは、他の誰でもない、一番にボロボロな出で立ちの貧乏神である。

「まさか、ゆ、夕陽子、覇王の秘宝を確認しに行くと言っていたのは……」

「そうですわっ! これだから昔話は嫌いですわっ! 覇王の秘宝だなんて、とんでもない眉唾ですわっ! 妙な狐にボコられるし、こんな汚らしい子供に集(たか)られるし、碌なことがありませんでしたわ!」

 プイとそっぽを向いて、憤慨を顕わにしてみせるお嬢様。

 他方、親父は酷く戦いた様子で貧乏神を見つめている。

「まさかっ、ほ、本当に貧乏神なのかっ!?」

 何かしら事情に通じているのだろう。その表情は大の大人が子供を前に見せるものとしては破格であった。ぶわっと額に汗すら噴き出している。

 だから、ここから先は俺の出番である。金玉は未だにジンジンと痛む。だが、いつまでも蹲っている訳にもいかない。どうやら、俺の決断は正しかったようだ。

 今が勝負の時である。

「おい、オッサンっ!」

 その場にゆっくりと立ち上がり、俺はズビシと親父を人差し指に指し示す。

「この貧乏神は、お前らの祖先が長いこと穴蔵に封じていたものなんだろっ!? こんな良い奴を真っ暗な、日の光も届かない場所にずっと閉じ込めておいて、まさか、何も起こらないなんて思わないだろうなっ!?」

「な、なぜそれを知っているっ!? お前は何者だっ!?」

「俺はコイツの仲間だぜっ!」

「仲間だとっ!?」

 俺の仲間宣言を受けて、更に親父の顔色が悪くなる。額に加えて、頬にまでプツプツと汗が浮かび上がってきた。良くない病気でも発症したようだ。

「ちょ、ちょっと、お父様っ! 早くその臭いのをつまみ出しましょうっ!」

「うっせっ! お前は黙ってろっ! これは俺と貧乏神と、そこの親父との話し合いなんだっ! 邪魔とかしたら、貧乏神のビンビンしているところが、この家の財布を直撃するんだからなっ!?」

「ぐっ……」

 俺の言葉に親父さんの顔が歪んだ。

 やった、効果は抜群だ。

 親父の視線がチラリ、娘へと向けられる。

「ゆ、夕陽子、お前はなんということをっ」

「お父様? どうかしたのかしら?」

 親父の顔は蒼白となっていた。どうやら、この貧乏神は相当にヤバイ代物らしい。金持ちが故の反応なのか、それとも他に何か理由があるのか、詳しいところは知れない。ただ、傍らに眺めて、俺もちょっと引くくらい。

 だが、ここで引いてはいられない。

「おいこらっ! 親だったら子供のしたことの責任はとらないとならないよな? ついでに先祖の責任もお前の代でちゃぁんと果たして貰わないと、こっちとしては色々とヤバイ感じにしちゃうんだぜ」

 どうやったらヤバくなるかは知らないけれどな。

「具体的には、そこの狐がスーパーお稲荷さんタイムだ!」

「コンコンするぞい」

「そうだっ! コンコンするぞっ!」

 コンコンって何だよ。意味が分からん。

 ただ、親父相手には十分な脅し文句であったらしい。

「頼むっ、頼むっ! どうか、それだけは勘弁してくれっ!」

 これが大人の子供に対する態度だろうか。即座に頭を下げてみせる大将。これを受けては周囲に集まった警察や警備員からも響めきが上がった。

 なんだか、ちょっと気分がよろしい。

「だったらこっちの要求をっ……」

 言葉を続けようとしたところで、不意に親父が吠えた。

「……とでも言うとおもったかっ!? 化け物共めがっ! おいっ! コイツらを撃てっ! 私が許可するっ! 撃ち殺せっ! 撃ち殺した者には金を幾らでもくれてやるっ! 撃てっ! 撃てっ! 撃てっ! 撃てっ!」

「え?」

 やけくそ気味な叫び声だった。

 腹に響く大きな怒鳴り声だった。

 だからだろうか、その命令に突き動かされて、集まった者のうち、銃を携帯する警察の一人が発砲した。腰に下げたショルダーから取り出された拳銃。その照準も曖昧なまま、パァン、乾いた音が当りに響く。

 これを皮切りとして、パァン、パァン、幾重にも銃声が鳴り響く。一人が撃ったことで、周囲もまた流されて発砲したようだった。子供相手に発砲とか、伊達に金持ちの家の警備なんかしていない。コイツら狂ってるだろ。

「うおぉおおっ!?」

 咄嗟の出来事であって、俺の身体は何の反応も示せなかった。

 銃声に慄き、声を上げた限りである。

 けれど、弾丸は一発として、この身を捕らえること無かった。

「最近は鉛玉を飛ばす遊びが流行っとるのか?」

 アホ狐である。

「ナイスだアホ狐!」

「お主、一発ばかり頭にくれてやろうか?」

「褒めてるんだから素直に照れておけよ!」

「ふんっ、図々しい人間じゃのぉ」

 打ち出された脅威は、昨日と同様、打ち出されて多少を進んだところで、空中に静止していた。幾十発もの銃弾が、見えない壁に突き刺さったよう止まっている。まるでこの世のものとは思えない不思議な光景だろう。

「なっ……」

 この光景を目の当たりとしては、親父も開いた口が塞がらない。

 そりゃそうだ。俺だって昨日は塞がらなかった。

「そういう訳だから、どうだい、大人の責任ってやつを取って貰うおうじゃん?」

 今度は股間を蹴りつけられることもない。俺は精一杯に良い笑顔を浮かべて、金持ち親子に言ってやった。

 俺たちの勝ちだ。どんなもんだい。