金髪ロリ獣耳ファンタジーラノベ

エピローグ

 光の奔流が晴れた後、そこに龍の姿は見当たらなかった。

 ジョンは短剣に篭められた魔力の大半が失われたと知って、再び意気を消沈させた。

けれど、いつまでもしょ気てはいられない。僅かばかりの残りカスを用いて、少女と少女の父親の治療を行った。幸いにして二人は事切れておらず、彼の魔法を受けて無事に一命を取り留めるのだった。

 マクレーン軍は龍に焼かれて大半が失われた。

 一方でイーペイロスの憲兵は多くが無事に逃げおおせている。

 この度のマクレーンによるファーレンの侵攻は断念せざるを得ない状況となり、街内部に入り込んでいた敵軍兵は早々に捕縛される運びとなった。応じて、早々に治安は回復されて、街は本来の機能を一晩足らずで取り戻した。これには難民による騒動も含まれており、亜人達による暴動もまた同様に鎮火される運びとなった。

 ただし、外壁は依然として崩されたままにある。魔法使いにより石壁等が起こされて応急処置は為されているものの、以前と比べて隙も大きい。今後、しばらくは小競り合いも続くだろうというのが双方共の見通しである。

 そうした理由もあって、先見の明の優れるジョンの言葉の下、二人は日が昇る前に早々街を抜け出していた。旅路の支度は略奪に励む難民やマクレーンの兵に紛れて、火事場泥棒により調達した次第である。

 一夜を空けて街が落ち着きを取り戻しては、亜人の二人など捕縛必死だろう。

 結果、今に居るのは遠く地平線の望める樹木も疎らな一帯だ。周囲にはジョンとノラを除いて他に誰の姿も見られない。北にフンガス山脈を臨み、人の足に踏み固められた道が延々と続いている。

 向かう先は関所を越えた北の都だ。

「ところで、ノラ、君の姓は何と言うんだい?」

 街を抜けてしばらく、草原を歩むジョンが傍らへと問いかける。

「ノラの苗字かニャ?」

「ああ、まさかとは思うけれど……」

 それまで延々と気になっていた事柄だった。

 思えば彼は彼女の姓を聞いていない。出会って当初、そこまで彼女に興味を抱いていなかったことも手伝い確認が遅れたのだった。ここへ来て、彼の中でのノラに対する興味は、まさに鰻登りである。

 ともすれば、ノラの口から零れた言葉は、彼の想定したとおりの代物であった。

「言ってなかったかにゃ?」

「僕はまだ名前しか聞いていない」

「ノラの苗字も、ジョンと同じスチュアートだニャ」

「…………」

 不意に、遣る瀬無い感慨を覚えるジョンである。

「そうか……」

 何を言うでもなく溜息混じりに頷いた。

 色々と疑問に思うところはある。

 ただ、それ以上に目の前の彼女が分からない彼であった。

「どうかしたかニャ?」

「い、いや、まあ……、なんでもない。気にしないこととしよう……」

 呟いてジョンは頭上を仰ぎ見る。

 一夜明けて、そこには見事な青空が広がっていた。

 遙か地平の彼方まで延々と続いている。時折、何やら名も知れない鳥類の類が空を飛び交う姿が伺えた。数刻前が嘘のような穏やかさである。気温は日の出と共に上昇して、歩み始めれば布切れ一枚でも暖かに思える具合だった。

「なんだか君を見ていると何もかもが今更な気になるさ……」

「ノラがジョンに何かしたかニャ?」

「別に、何もしてないんだけどさ」

「ニャ?」

「まあいい、君が気にすることじゃあないさ」

 ジョンは考えることの一切合財を放棄して、顎を上へと大きく向ける。

 雲一つ見つけられない快晴である。

 心地良い風が二人の頬を撫でるように吹いた。足元に生える背丈の短な草がサァと音を立てて一斉に靡く。その清々しい音を耳としながら、彼は今後の自分の旅路に漠然と思いを馳せるのであった。

 曰く、これから僕はどうなるのだろうと。