金髪ロリ獣耳ファンタジーラノベ

プロローグ

 ゴゴゴゴゴゴと腹に響く轟音が荒野に響き渡る。樹木が根元から崩れるように倒れる。既に倒壊した城が建材を崩して更に背を低くする。薄暗い灰色の空までもが、大気を震わせて尚のこと色を濃くする。

「ふははははは。魔王よ、僕の奥義は強烈だぞ? 心して喰らうがいいさっ!」

 術式の構築と平行して僕は声も大きく叫び声を上げる。

 応じて、巨大な魔力の奔流が、腕の向けた先を目掛けて迸った。

「暗黒闇炭塵撃《ルーヌ・ロゼ》!」

 宙に浮いた僕と僕の仲間達を除いた周囲一帯、何もかもが例外無く破壊される。地面も、建物も、樹木も、そして、魔族も、一切合財が破裂していく。規模の大小を問わずあちらこちらで様々なものが爆ぜている。

 その場に居るだけで、内側から問答無用で内臓を撒き散らす羽目となる。敵の魔族共は必至の形相で逃げ惑う。けれど、脱することは叶わない。周囲はさながら地獄を絵に描いた風だ。それを自分が起こしていると思うと非常に気持ちが良い。

 この上なく心地良い

「ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 そして、目の前では声を上げてもがき苦しむ魔王の姿がある。

「これで終わりだ、お前は僕に負け消え去る運命にあったのだよっ!」

「こ、このような、このような人間如きにぃっ……」

「魔族がなんだ、この僕様の敵ではないのだぁっ!」

「に、人間の分際で、この、このような力を……」

 あちらこちらで大地が爆ぜる。

 世界を震わせんばかりの轟音を耳として、僕は声を上げて笑う。

 全身ボロボロだけど気にしない。

 腕とか足とか、色々と怪我をして痛いけど気にしない。

 だって、目の前には僕よりも更にボロボロなやつが居るから。

「そもそも、この僕様を差し置いて魔王だなんて、その妙に偉そうな称号が以前から気に入らなかったんだよっ! その名を冠するに相応しいだけの力が無かったことを嘆き悔やみ塵と化すがいいさっ!」

「き、貴様、我を殺してただで済むと思うなっ……」

「ただで済まない? だったら何をくれてくれるんだい? もう魔族が支配する時代は終わったんだよ。千年王国も本日で終了だっ! 今日この時をもって始まるのは、そう、人間様の治世なんだ。お前みたいな旧時代の魔王なんてお呼びじゃないんだよっ!」

「くっ、このっ……この歯痒さ、貴様への呪いとして現世へ残す他在るまい……」

「うるさいっ! 朽ち果てろ! お前の時代は終わったんだっ!」

 魔王が腕を振るう。

 けれど僕が居る場所までは到底届かない

 ぴしゃりと緑色の血液が頬に掛かった。

 その僅かが皮膚を伝って口の中へと流れ込む。

 けれど、それがどうしたことか。

「魔王、これで僕の勝ちだっ!」

「ぐああああああっ!」

 お返しだとばかりに、行使する術へ一層の魔力を加える。

 それに同調して相手の表皮より液体が沸騰するよう、ぶくぶくと泡立ちが始まる。血液が沸き上がり、波立ち、内臓器すら体外へと押しださんと勢いづいている。見ていて些か気味が悪い。

 それにしても、なかなかタフな奴だろう。

 僕の上級魔法に耐えるとは伊達に魔王などと呼ばれていない。大した対魔法力である。歳を重ねた爵位級魔族ですら数秒と持たない強烈な魔法なのに耐えている。そんな中で腕を振るう余裕すらあるのだから別格だ。

 しかし、それでも僕の敵ではない。

「ああ、我は敗れる、私は貴様に、人間如きに敗れるのだろう……」

「ふっ、だったらさっさと消えたまへっ! 死にたまへっ!」

「だが、この恨み、この恨みは永遠に渡り晴れることはないであろう……」

 魔王を除いた他の魔族は全て、僕の唱えた魔法を受けて原型を留めず死に絶えている。肉体の内側を無様にも晒して、内部より身体を破裂させていた。それこそ身の内側へ仕込んだ炸薬でも破裂させた風だ。

 その様子を眺めていると、一層のこと高揚感が滾る。

 僕の魔法が魔王を討つ。

 分かってはいた結末だけと、これがなかなか良い気分じゃない。

 真っ赤な瞳に深々と突き刺さった僕の短剣。それを引き抜こうと必死に呻き声を上げる姿は、あぁ、眺めていて滑稽極まる。精々、もがき苦しんでくたばるといい。僕が最強で、コイツは最強から二番目なのだ。

「恨み? 辛み? あぁ、いいさ、構わないさ。死に行く者の言葉は堪らないねっ! それがこの世に魔王と呼ばれた者の叫びともなれば、あぁ、存外心地良いものだよ。道中に積もり積もった鬱憤も晴れてくれるってもんだっ!」

「ぐぁあああああああああっ!」

 更に術へ魔力を籠める。

 応じて、魔王の口からも更に大きな悲鳴が上がる。

「どうだ? 苦しいだろ? お前だって人間と同じ生き物なんだよ。殴られれば痛いし、蹴られれば痛いし、斬られれば、やっぱり痛いし、死ぬときなんて最高に痛いんだよ。魔族がなんだ。それを今更に理解するがいいさっ!」

 周囲一体は既に廃墟と化している。

 この世で最も巨大な城だと謳われた魔王城にしても、僕の魔法の受けては呆気無いものだ。なんてことはない。中級魔法の数発で容易に壊れた。わざわざ中まで足を踏み入れて攻略する必要すらなかった。世間には随分な噂を聞いていたけれど、実際に触れてみてれば大したことないものだ。ああ、やはり僕は最強だ。最高だ。

「貴様は、貴様は永遠に渡り自らの無力を嘆くこととなるだろう……」

「何が無力? 誰が嘆く? それは自分のことだろう? 僕は最強だっ!」

「この身に残る魔力を持ってして呪う、貴様の今後を永遠に渡り呪ってやろう……」

「はははは、できるもんならやってみるがいいさっ!」

「っがあああああっ!」

 そろそろ仕上げである。

 十分に自称魔王の恨み辛みを聞いたところで、僕は最後の魔術式を組み上げる。それは今に唱えている呪文の完成を意味する。流石は僕様のとっておきだ。段階呪文の詠唱過程でここまでの影響を与えるとは堪らない。数百、数千と並んだ上級魔族を一瞬で塵と化し、大本の魔王ですらこの様だ。

 ああ、完成したらどんなもんだろうか。

「さぁて、これでお前も終わりだっ! 朽ち果てろ、魔王っ!」

「ぐあああああああああっ!」

 超絶高速詠唱による古代魔術式の多重展開によって術式は完成する。

 魔王を取り囲むように生まれたのは高密度な超次元魔方陣だ。

 これこそ僕がこの新魔法を作るに当たって策を凝らせた真骨頂。

 なんて素晴らしい出来栄えだろう。

「さようならだ、もう二度と会うことはないだろうさっ!」

「ぎ、ぎざまぁああ、我は許さぬ、ゆるさっ……!」

「究極激烈滅殺撃《ノイン・トゥペス》」

「ぐあああああああああああああああっ!」

 魔王の肉体が弾け飛ぶ。

 それと同じくして、魔王という強大な化け物が座していた周囲一体もまた同様に弾け飛ぶ。それこそ大地の砂や土の全てが炸薬となって弾け飛んだみたいだ。詠唱の完了と共に周囲一体に存在していた有象無象が爆発した。大量に巻き上がった砂埃により周囲一帯が覆われる。視界は瞬く間に零となる。けれど、それすら爆風が押し流して、何もかもを遠く吹き飛ばす。

 目の前が真っ白になる。

 全てが崩壊して、在らぬ方向へと四散していく。

「……あぁ、これこそ僕の魔法、僕の力……」

 何とも得がたい快感に身を振るわせつつ、僕は自分が作り上げた魔法の素晴らしさに恍惚を覚えていた。これこそ魔道の極み。これこそ人生の楽しみ。他に一体何があると言うのだろう。

「がああああああああああああ……」

 魔王は断末魔と共に身を散らし、やがて死に絶えた。

 後に残ったのは巨大な大地の凹みだった。

 その上に立っていた魔王城など跡形もない。

 流石は僕様の超絶最上級魔法だろう。

 魔法の余波により地平線まで見渡す限りは荒野と化して、爆心地に至っては底が見えないほどに深い穴が生まれていた。こりゃ堪らない。連発すれば湖どころか海の一つや二つ容易に作れるのではないかと狂喜する。

 眼下の光景を眺めてほふぅと溜息を一つ。

 マントをかっこ良くばさばさとはためかせながら戦いの余韻に浸る。

 すると、それに合わせて仲間がようやっと僕の下までやってきた。ふよふよと頼りなく空を飛んで近づいてくる。まあ、それも仕方がないことだろう。僕様の凄さが凄過ぎて凄く驚いているのだろう。

「お、終わったのか……」

「うむ、魔王といっても所詮は僕様の敵じゃなかったな」

 マントを風にはためかせつつ、くいと中指で眼鏡の中央を押し上げて語る。

 これは最高に決まった。うん、そうに違いない。

 今、この世で僕は最も輝いている存在だ。完璧で、究極で、最高な、空前絶後の魔法使いとして世界に映えていることだろう。自らの行いを思い、じーんと胸の内に熱いものがこみ上げてくるのを感じる。

「……そうか」

 すると、多少だけ躊躇した様子で相手は頷いた。

「ああ、当然だろう?」

「…………」

「という訳だから、ほら、さっさと帰って凱旋と行こうじゃないか、君達よ」

「あ、ああ、そうだな」

「しかし、この僕をここまで疲弊させたのだから、まあ、伊達に魔王をしていた訳でもなかったということか。これは君達にも十分な謝礼を貰わないことには、仕事の対価として釣り合わないな?」

「……分かってる」

 パーティーのリーダーを自称する男が僕の言葉に小さく頷く。

 その口調は随分と覚束無い。

 どうやら僕様の素晴らしい魔法の威力に驚きっぱなしのようだ。まあ、これは連中にも知らせず、一人夜なべしては、せこせこと開発していた魔法だから仕方あるまい。最終決戦という舞台に相応しい究極破壊魔法として考案したのだから、平民上がりの彼には堪えただろう。

 むふん、堪らんのぉ。

「ほら、帰ると決めたらさっさと帰ろうよ」

 僕はリーダーに背を向けて身体を飛ばせる。

 足元は大穴が開いているので、とりあえずは地面がまともな形で残っている場所まで移動しなければならない。でなければ歩くこともままならない。流石は究極破壊魔法だ。間違っても人里で放つことはできない。どんな苦情が寄せられるか分かったもんじゃないだろう。

「ったく、相変わらず凄い奴だよ、てめぇって奴は……」

「ええ、私達なんて足元にも及ばないわ……」

 リーダーの他にも同じパーティーのメンバーが合流するように僕の下へと向かって来る。口々に僕の栄光を称えているのは良いことだ。もっと褒めて欲しい。そうすれば僕はもっと凄いものを君達に見せて上げられるのだ。褒められて伸びるタイプなのだよ。お母様も僕を良く褒めてくれた。だから僕は此処まで来れたんだ。

「ふふん、もっと言ってくれたまへよ」

「ああ、幾らでも言ってやるよ。お前はすげぇよ」

「そうね、凄すぎるわ……」

「当然だろう? 僕は君達とは格が違うのだよ、格がっ!」

 ああ、とても気分がいい。

 もっと褒めて欲しいな。

「はははは、まあ、僕様は世界最強の魔法使いだからねっ!」

 気持ち良く笑いながらゆっくりと空中を進む。

 さぁて、家に帰ったら今度は何をしよう。

 魔王は倒してしまったし、家の外にはこれ以上、僕様の好奇心を刺激するものは無い。ともすれば、しばらくは実家に篭って新魔法の開発に専念するのも良いかもしれない。人体練成もあと一息というところまで来ていたし、その続きでも始めようか。

 戦闘後の疲労を感じながらも、その心地良い脱力感に身を任せて僕は進む。

「なぁ、スチュアート、ちょっといいか?」

「ん? なんだい?」

 リーダーに呼ばれて後ろを振り返る。

 すると、何だろう、彼は妙な表情をしていた。

 それは冒険を始めてから数ヶ月を経て尚、始めて見るものだった。

「ん? どうしたのだい?」

 魔王討伐を喜んでいるには程遠い顔色である。

 悲しんでいるというか、惜しんでいるというか、慄いているというか、嘆いているというか、色々な感情の入り混じった表情をしている。もしや彼は自分の活躍の場を奪われて少し頭にきているのだろうか?

「何か問題でもあったかい?」

 だから、その如何を問うように僕は尋ねる。

 すると、何だろう、返ってきたのは意味不明な語りだ。

「一仕事終えたところ悪いが、ここで死んでくれないか?」

「え?」

 同時に背中へ強烈な痛みが走った。

 それが刃物による裂傷であることに気づいたときには、既に首と胴体が繋がっていなかった。仲間の一人が上半身と下半身を分断するよう背後から剣を振るっていた。それと時を同じくして、同様に仲間の一人が、数少ない攻撃魔法で首を撃っていた。

 胴を切りつけたのは大陸でも有数の剣士と名高い男。

 首を撃ったのは世界に名を轟かせる博愛と平和の象徴たる聖女。

 そして、僕の正面に浮いているのは伝説の勇者の血筋を引いたその末裔。

 だから、夢にも思わなかった痛みである。

「あ、……あれ?」

 急に視界がぶれる。

 別に動いたつもりなんてないのに、自分の胴体を上から下に眺めるよう場面が移り変わる。凄い勢いで周囲の景色が上に向かっていく。どうしてだろう。どうして僕の身体は仲間に?

「どうし、て……」

「てめぇの力は危険なんだよ……」

「悪いな、これも世界の平和の為なんだ……」

「ご、ごめんなさい、スチュアート……」

 仲間達の声が耳に遠く聞こえる。

 何故?

 どうして僕が?

 え?

 ちょ、ちょっと、なんでこんな風に?

 今まで一緒に冒険をしてきた仲間なのに。

 訳が分からない。どうして僕が彼等に切られて撃たれて、こんな目に遭うのだろう。痛いとか、痛くないとか、それ以上に驚きが大きくて混乱した。そして、意識は混乱へ飲まれているうちに混濁してくる。

 宙に浮いていた身体が落ちていく、墜ちていく、堕ちていく。

「え、あ……ぼ、僕……」

 どうして、僕様が仲間に討たれなくちゃならないんだろう。

 そんな疑問が浮かんで、解決するまもなく闇へと消えるのだった。

 首が胴体から離れてからは然して意識も持たなかった。様々な疑問が脳裏を飛び交うなかで、それでも、自分の死を理解するには十分な時間だった。ただ、そこへ至る理由を理解する暇は無かった。

 そうして、僕、ジョン・スチュアートの然して長くない人生は幕を閉じるのだった。

 何でだろう。

 何故だろう。

 分からない。

 あぁ、分からないぞ……。