喰らえ、メテオストライク!

飲み会 三

 午後十一時。

「あ゛ー! あ゛ー! きもちいいいー!」

 最初にアレな具合へ至ったのは、案の定、エリーザベト姉だった。エヘエヘと気持ちの悪い笑みを浮かべながら、叫び声を上げている。

 あまり酒には強くないようだ。ただ、手にはしっかりとグラスを握り、更に綺麗な正座を依然としてい崩していないあたり、まだ相応の余裕がありそうだ。

 セクハラを働くには、もう少し時間をおいてからの方が良いだろう。

 とかなんとか。

 少し前までは、冷静に目の前の金髪ロリ吸血鬼とセックスすることを考えていた。全力で。隙あらば。オマンコ。合体。粘膜接触。そのつもりだった。恥丘上陸作戦的に。

 だけど、俺にしても大して酒に強い訳じゃなかった。

「だろぉっ!? マジ気持ち良くてぇ、えくすたしぃいい!」

 思わず吠えちゃう。

 まるで怪しい薬でも打ったよう。なんか、それどころじゃない。

 飲酒作用によりチンチンは勃起のぼの字も遙か彼方。萎えまくり。

 マジでポークビッツ

 だけどテンションはアメリカンドッグ

 ちくしょう。今なら、こんなに可愛い女の子と致せるかも知れないのに。頭では理解している。セックス確度大。けれど、チンチンが勃起しない。なんでだよ。今なら後ろから抱きしめて、チンチンをおしりにこすりつけても、もしかしたら、もしかしたら、あぁ、許されるかもしれないのに。

「セックスしたいけどチンチンが勃たないのぉおおおおっ!」

 気づけば叫んでいる不思議。

 これに意中の相手は呆れ顔で呟く。

「はぁ? 貴方、もしかして不能なの? 最低ね! 最低っ!」

「うっせっ! スーパーうっせっ!」

「まあ、その顔じゃあ、セックスなんて、セックスなんて、う、ウフフフフフっ! アッハハハハハハハ! なによ、有り得ないわっ! アハハハハハハ!」

 正座によりムニっと膨らんだムチムチの太股。ズボンの上からでも肉付きの良さが分かる。ムチムチロリータとか、最高にエロいじゃないですか。

 これをバシバシと叩きながら、金髪ロリは可愛らしく笑う。そんなに叩いて良いのですか。僕も叩きたいです。いいや、舐めたいです。ペロペロしたいです。

 だけど、チンチンが勃起しないんだ。

「セックスしてぇよぉ、死ぬ前に一度くらい、生中出しセックスしてぇよぉ……」

 っていうか、もしかして俺が一番に酔っている可能性。

「アハハハハハ! 惨めねぇ? どう? どんな気分かしら? 一度もセックス出来ないまま、未使用のチンチンを抱いて死んでゆくのは、悲しい? 寂しい? それとも切ない? アハハハハハハハっ!」

「な、なんだよ、なんなんだよぉっ!」

 なんという惨め。俺は童貞のまま死んでしまうのか。

 僅か五日後に。

「た、助けてくれよっ、鬼っ子ぉっ!」

 隣で飲んでいる鬼っ子に泣きつく。

 テンションが上がって、勢いのままロリボディーに抱きついてしまう。

 あぁ、柔こくて気持ちいい。推定七歳。

「あんだー? セックスしたいのか?」

「うんっ、セックスしたいのっ! でもオチンチンが立たないのっ!」

「じゃ無理だろ!」

「無理かーっ!」

 無理だったー。ちっくしょう。

 あー、きもちーわー。

 この鬼っ子、柔らかくて凄く気持ちいい。

 セックスしたい。

「ところで、この男、随分と酔ってるわねぇ」

「だな! 昨日は私の方が酔ってたけど」

「面白いし、このまま外へと連れ出しちゃいましょうか」

「おー? 外に行くのか?」

「駄目かしら?」

「つまりあれか、月見酒だな?」

「それも良いわねぇ。あ゛ー、なんというか、風流? 気持ち良さそう」

「よーし、じゃあ外に行くぞぉっ!」

 鬼っ子と金髪ロリ吸血鬼が何か言っている。

 何の話をしているのかと意識を受けたところで、急に腕を握られた。誰かと思えば、我が愛しのエリーザベト姉である。なんてこった、こんな可愛い女の子に腕を握られちゃった。あぁ、可愛いよコジマちゃん。結婚したい。

「いくわよ゛ーっ! 貴方も付いてきなさいっ!」

「あぁ、コジマちゃん、愛してるぅ」

「気持ち悪いこと言ってないで、早くきなさいっ!」

 身体を引かれるがまま、俺は我が家を後とした。

 連れ出される直前、咄嗟に酒瓶を掴み取れた点は自身を高く評価したい。

		◇		◆		◇

 三人連れだって公道を進む。

 アパート近隣は住宅街。時刻が夜中であることも手伝い、人気は皆無だった。ジージジジーとオケラの鳴く音の他、響くモノがあるとすれば、それは俺や金髪ロリ吸血鬼、それに鬼っ子の声だ。

 自動車の排気音すらも遙か遠く聞こえる。

「ほらぁー! ちゃっちゃと歩きなさいよぉっ! ちゃっちゃとぉっ!」

「コジマちゃん、どうして君はそんなに可愛いの? 愛してる」

「私が可愛いなんて、そんなの当然に決まってるでしょ-!」

「おーおー、地面がグルグルまわってるなー! グルグルだぁー!」

 閑静な住宅街。高校入学と共に引っ越して、それなりに過ごし慣れた町内を進む。本来であれば、日々に歩み慣れた道が、けれど、今日この瞬間に限っては、まるで別の道のように思える。

 何故だろう。

 考えたところで、思い浮かぶ理由は一つ。視線の異様な低さ。

 俺は公道をハイハイしている。

 公道ハイハイ。四つん這い。

 いつの間にか首には首輪が嵌められていた。そして、これに繋がる手綱を握るのは、我が愛しのコジマちゃん。金髪ツインテールが似合うロリロリボディーの吸血鬼。

 この首輪はどこから持ってきたのか。

 いやいや、そんなものは些末な疑問だ。

 彼女の右手には我が首へ通じるリードが、そして、左手には俺が家を出る際に持ち出した酒瓶が握られて、時折、グビリ、グビリ、小気味よく喉を鳴らしている。

 また、その傍らでは鬼っ子が、ゴクリ、ゴクリ、同じく酒瓶を傾けては喉を鳴らしている。あぁ、美味しそう。とても気持ち良さそうに飲酒している。

 俺もお酒飲みたい。

「コジマちゃん、俺にもお酒、お酒ちょうだいっ!」

「はぁ? 駄目よ。これ私のだもの。だめ゛ぇー!」

「そんなっ! それは俺が持ってきたのにっ!?」

「下僕のモノはご主人様のモノに決まっているでしょう? ウフフフフ」

「それは酷いっ!」

「それなら、ワンと鳴きなさい? 今の貴方は私の犬なのだから」

「ワンっ! ワンワンワンっ! ワンォオオオオオオオンッ!」

「アハハハハハハッハ! 貴方にはプライドというものがないのねっ!」

 自らの手の平を杯にするよう、コジマ様はグラスから酒を注ぐ。

 そして、これを四つん這いとなった俺の口元まで運んだ。

「ほら、舐めなさい。犬らしくっ! 惨めにっ! 無様にっ!」

「はっ! はっ! はっ! はっ! はっ!」

 お酒、おいしい。

 お酒、おいしい。

 ペロペロする。

 コジマ様の手の平の味が、美味しいっ! 美味!

「お、おいしいっ! おいしいですコジマ様っ! コジマ様ぁっ!」

「ふふんっ、感謝なさい?」

 満足げな表情を浮かべる絶世の美少女。その手を俺は、自らの唾液でベトベトになるまで、必死の形相に舐め上げた。金髪ロリの皮膚美味しい。金髪ロリの皮膚美味しい。

 それからしばらく、我々は公道ハイハイを続けた。

 ズボンの生地越しにアスファルトへ擦れる膝が、一歩を進む毎にズキズキと痛むも、これに気遣うことなくズンズンと。ハイハイ楽しい。コジマ様可愛い。

 引っ張られる首輪の、肌を締め付ける感じが心地良い。

 そうして、ああだこうだと賑やかに歩むことしばらく。

 果たしてどれだけ移動しただろうか。ぶつ切れの記憶は酷く不鮮明。ときどきワープ。それこそ一瞬にして数百メートルを過ぎる。移り変わる周囲の風景は、薄暗がりの中に眺める物静かな住宅が、やがて、賑やかな音と明かりを灯し始めるまで。

 頭がクラクラとしていて、自分が何をしているのか、いまいち不鮮明。

 ただ、ふとした拍子、耳に届いた鬼っ子の声に現実を取り戻す。

「おー、でっかい交差点だぞー!」

 気づけばいつの間にか、周囲は賑やかになっていた。

 なにやらこちらを眺めて、ああだこうだ、喧しくも声を上げる通行人の姿が、遙か頭上、視界の端に窺えた。どうやら、自宅近所の住宅街から移動して、賑やかな繁華街まで移動してきたらしい。

 これを俺が理解するに同じく、鬼っ子が叫び声を上げた。

「車が沢山だぁー!」

 意識を剥けた先、そこには片側三車線の基幹道路と、これに交わる通りがあった。十字路には信号機が設置されて、今まさに青から赤へと変わろうとしていた。深夜とあっても車の流れが滞らない大通り、これが赤信号で一律ストップ。

 車が沢山だ。人の目も沢山だ。

 あれ、俺って公道ハイハイしてね?

「これは行くしか無いわね゛っ!」

「おーっ! いくいくっー!」

「ぐぇっ!?」

 首輪に繋がるリードを引っ張られた。

 コジマ様の吸血鬼な怪力に引きずられて、瞬く間、横断歩道の中央まで移動。まさか、抗うことなど不可能だ。まるで自動車にでも引っ張られているようだ。

 あぁ、肌が、肌が痛い。衣類から露出する肌が、アスファルトに擦られて痛い。痛いけど気持ちいい。なにこれ、気持ちいいよ。気持ちいいんだよ。もっと引きずって。

「よぉおしっ! 踊るわよぉーっ!」

「おーう! 踊るぞぉー!」

 コジマ様と鬼っ子の叫び声が聞こえた。

 どうやら踊るらしい。

 踊るぞ。踊る。

 ならば俺だって。踊ろう。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 立ち上がって、ダンシング。

 路上デビュー。

 最高だ。

 非常に気分が良い。

 横断歩道の上から眺める、信号機前に停止した自動車の群れ。

 フロントガラスの先、唖然とする運転手たちの姿。

「なんという快感っ! コジマさまっ! 気持ちいいです! 気持ちいいです!」

「でしょうっ!? 踊るわぁよぉおおっ! 踊るわぁっ! アハハハハハハハ!」

「うはははははははははははははははっ! 踊るぞ踊るぞ踊るんだぞぉー!」

 三人して意味不明な踊りを全力で。

 そこで気づく自らの首輪。ジャラジャラと音を鳴らす鎖の音。

 犬。畜生。繋がる先、リードの行方。

 なんというペット。芸。

 芸。

「コジマさまっ! オチンチン、オチンチンの命令をっ!」

「いいわよっ! ほら、オチンチンをなさいっ! オチンチンっ!」

「オチンチンっ! オチンチンっ! 私はオチンチンをしておりますっ!」

 オチンチン最高。

 マジでオチンチン。

「わたしもオチンチンするぞっ! オチンチン! オチンチンっ!」

「おうおうっ! 一緒にオチンチンっ! オチンチンっ!」

 鬼っ子と一緒にオチンチン。オチンチン。

 オチンチン楽しいっ!

 一生懸命、腰をカクカク。

 俺と鬼っ子は、とても楽しくオチンチンしていた。

 オチンチンは最高だった。

 けれど、しばらくして、ブッブーと耳障りな音が鳴り始めた。

 クラクションの音だ。

 同時にウザい中年オヤジ系の叫び声が聞こえ始めた。退けとか、どっか行けとか、邪魔だとか、色々と聞こえてくる。なんて邪魔なんだオヤジめ。ここは我々のステージ。それを邪魔するなど言語道断。ゆるすまじ。

 ああああ、うるさいぞ。

「コジマさまっ! うるさいですっ! 自動車の連中が、俺とコジマ様との素敵なオチンチンタイムをじゃましているんですっ! なんなんですかこれはっ!」

「任せなさない!」

「流石はコジマ様ですっ! 愛してますっ! 結婚して下さいっ!」

「結婚だーっ! 結婚だーっ!」

 鬼っ子が叫び声を上げている。

「結婚してくれコジマさまぁああああああっ!」

 俺も便乗しで叫びを上げる。

「わたくしはコージマ・エリーザベト・フォン・プファルツですわぁぁああああ!」

 途端、目前に起こった爆発と、立ち上る噴煙。

 そこまでが、俺の記憶の全てだった。

 気づけば訪れる浮遊感。

 真正面から訪れた爆風に煽られて、俺の身体はどこへとも吹っ飛んでいった。

 意識は失われた。