喰らえ、メテオストライク!

ファミレス 一

 近所のファミレスで昼ごはん。

 俺がチーズハンバーグ定食を注文すると、隣に腰掛けた鬼っ子もまた、同じモノを注文した。昨晩と一昨日の晩で酒席を共に過ごした都合、俺が好むモノは美味モノなのなのだと、勝手に勘違いしたのかも知れない。

 他方、正面に腰掛けた面食い吸血鬼はと言えば、海の幸とトマトのリゾットなる胃に優しそうなものをチョイス。二日酔いの影響だろうか。その肉体が不老不死であることを鑑みれば、精神的なものが大きいのかも知れないけれど。

「おー、これ美味いなっ! トロトロじゃん! なかトロトロ!」

 口いっぱいにビーフ百パーセントを含んで鬼っ子が吠える。

 ぐさっと丸々フォークに刺して、口に千切った肉の端、チーズが垂れる。これを美味そうに啜りながら口の中に放り込んでは笑顔。

 ああほらもう、口の周りにソースをベッタリと付けて。そのままでは服に垂れそうだったので、ペーパー布巾で拭ってやる。指先に伝わる柔らかな唇の感触。

「んんぅううっ」

「おいこら、動くなよ」

 まっさく世話の焼ける幼女だ。俺が即効性のロリコンだったら、今頃は路上で公開レイプ劇場が始まっていたところだ。感謝して欲しい。

 他方、エリーザベト姉は渋い顔。苦虫でもなんとやら。

「ファミレスの定食如きでなにを……」

 酷く不服そうな表情で、リゾットをスプーンに口へ運んでいる。実家が金持ちなのだろう。市井の食事が甚く気に入らない様子だ。舌には合わなかったらしい。

 遠回しで馬鹿にされているようで、ちょっとムカつく。

「これ、もう一つ欲しいっ!」

 早くもハンバーグを食べ終えた鬼っ子。元気いっぱいに言う。セットで付いてきたライスもサラダも無視、ひたすらに肉を喰らいまくって、また肉を欲する。

 なんて贅沢な。

 とは言え、本日に限ってはモーマンタイ。

「いいんじゃないの? コイツの奢りだし」

 答える俺は適当。

「いいのかっ!? やたー!」

「頼め頼め」

「頼むぅー!」

 この場がエリーザベト姉の提供とあって、こちらの調子は適当なものだ。昨晩の飲みが俺の奢りだったのだから、昼飯くらいはオマエが出せよと交渉した結果、昼食の一切合切を引き出した次第である。

「ええもう、当然、どこぞの貧乏人とは違うわよ? こんなファミレスの支払い、どれだけ頼もうと問題ないわ。メニューを片っ端から持ってこさせようかしら? それとも店ごと買い上げた方が良いかしら?」

「アンタってどんだけブルジョアだよ?」

「悪い? 貴方が想定している以上の金持ちよ」

「おいこら、庶民筆頭代表として言う。スゲェムカつく」

「あらそう。貧乏にの僻みは醜いわね。こんなまずい料理をありがたがって食べるなど、正気の沙汰とは思えないもの。まるで路上に捨てられた残飯でも啜っているよう」

「ま、そんな金持ちの天下もあと数日だけどな」

「っ……」

 口元へ運ぶスプーンを止めて、悔しそうな表情にこちらを見つめる金髪ロリだ。

 険悪な雰囲気を隠すことなく言い合う俺とエリーザベト姉。そうした調子、あれやこれや会話の端々で、互いの主張に粗探しをしつつ、昼食の時間は過ぎていった。

 そうして、料理も八割が空となった頃合のこと。

 不意に響く声があった。

 それはここ数日で聞き慣れた声色。

「お姉ちゃん、持ってきたよ」

 パタパタと騒々しい足音の先、視線を向ければ見知った姿。

「あぁ、ご苦労様、ハイジ」

 四人掛け席の脇、紙袋を片手に現れたのは妹さんだ。

 姉が男物のシャツにジーンズという格好でうあるに対して、彼女はピシッとノリの利いた学生服姿だ。綺麗に結われた長めのツインテールが、一歩を進む都度にヒョコヒョコと可愛らしく揺れる。

「お姉ちゃん、流石に朝帰りの始末を妹に頼むのは、どうかと思うんだけど……」

「ちっ、違うわよっ! 朝帰りってなによっ」

「違うの?」

「当然じゃないっ! 誰がこんな男っ!」

「だってお姉ちゃん、雰囲気に流されやすいし、いざという時に失敗するし」

「ぐっ……」

 咄嗟、返す言葉に困るエリーザベト姉。

 この場は妹さんに分がありそうだ。昨晩の痴態を鑑みては、どうしても姉の評価を下げざるを得ないのが正直なところ。

「着替え、持ってきたよ。欲しいんでしょ?」

「うっ……ほ、欲しいっ」

 どうやら妹さんに着替えを持ってきて貰ったらしい。先刻のこと、ファミレスへ向かう道中に端末を片手、あれこれ連絡を取っていたのは、これが理由だったのだろう。どうりで尋ねても教えてくれなかった訳だ。

 流石に男物のシャツとジーパンで街中を出回るのは恥ずかしいのだろう。ベルトで無理矢理に止めたダボダボのズボンと、残念な胸の谷間が丸見えのシャツ。男としは非常にそそるものがある。なので、あぁ、とてもとても残念だ。もう少し眺めていたかった。

「はい、これ」

「ありがとう、ハイジ」

 姉妹の間で受け渡される紙袋。

「まあ、詳しくは聞かないけど……」

 妹さんは、チラリ、俺の顔を垣間見て言葉を続ける。

「お姉ちゃん、男はちゃんと選んだ方が良いよ?」

「わ、分かってるわよっ!」

「だったらどうしてこんなことになってるの?」

「そんなこと、言われなくたって重々承知してるわよっ! 後でちゃんと説明するから、これ以上は言わないで! 私だって思い出したくないのっ!」

 俺にチラチラと視線を送りながら、ああだこうだと賑やかになる姉妹。

 口の周りをハンバーグのソースだらけにした鬼っ子が、何気ない調子に言う。

「おぉーい、オマエらうるさいー」

 ビクリ、エリーザベト姉の肩が震えた。

 彼女はこれに逆らう術がない。

「っ……、わ、分かってる、わよっ」

 途端に大人しくなる。

 余程のこと腹パンが堪えたのだろう。今に晒すみっともない姿格好で外へ出たのも、鬼っ子の存在に遠慮したからで間違いない。下手に口答えしては、次の瞬間、何の予備動作もなく致死性の腹パンが飛んでくるのだ。そりゃトラウマにもなる。

「お姉ちゃん?」

「い、いいから、貴方も席に着きなさいっ」

 少しばかり慌てた調子で、姉が妹の腕を引く。

「え!? ちょ、どうして私までっ!? っていうか、なんでファミレスっ!?」

「良いからっ! ほらっ!」

「お姉ちゃん、ちょっとぉーっ!?」

 可愛そうに。無理矢理に隣へ座らされる妹さん。

 姉の方がピンポンピンポンと呼び鈴を連打して、ウェイトレスを呼びつける。

 都合、強制的に昼食を共とする羽目になる姉妹だった。