喰らえ、メテオストライク!

宝刀捜索 一

 ファミレスを後とした俺とエリーザベト姉妹、鬼っ子の四人は、現在、リムジンに乗り込んで首都高を西に向けて移動していた。車両自体は妹さんが乗り付けたもので、店を出てすぐの駐車場に止っていたものである。

 ちなみに今回はちゃんと四人で同じ空間に収まっている。つい先日、青梅行きの際に味わった孤独な移動とは違う。十中八九で鬼っ子の存在が、金髪ロリ姉妹をビビらせての成果だろう。ありがとう鬼っ子。

 ただ、姉妹の表情は渋い。とても機嫌が悪い。

 出発から早々、エリーザベト姉は非難がましく言った。

「この変態」

 眉毛をハの字に曲げて、汚物でも眺めるような顔つきだ。

「いやいやいや、今回は俺じゃないでしょ」

「随分と気持ちの悪い顔をしていたわね?」

「あれは酷かったねぇー。アヘってたよぉ」

 車内は普通の乗用車とは異なり、二人掛けの座席が、互いに向かい合わせるよう設けられていた。その間にはソファーテーブルも設けられて、更に足を伸ばしても余裕がある。とても広々だ。

 更に傍らには冷蔵庫が設けられている。

 冷蔵庫だよ冷蔵庫。庶民の憧れ冷蔵庫。リムジンと言えば冷蔵庫。

 席の配置はと言えば、俺と鬼っ子が隣り合う形で、その正面にエリーザベト姉妹が並び座っている。二人掛けとは言っても、席と席の間には十分な空間が設けられており、肘置きの幅も申し分なく、とても快適なものだ。

 流石は高級外車のリムジン。しかも白色。ついでに外交ナンバー。

「アンタたちだって、イケメン連中に鼻の下を伸ばしてたじゃないか」

 谷沢たちと楽しそうに会話をしていた二人を思い起こす。

「貴方と一緒にして欲しくないわよっ!」

「流石にフェラチオはしないよ?」

「いやいやいや、アンタたちだって、残り一日になったら、きっとするね! それどころか、さっきのイケメン連中に股を開いて、自分から腰をカクカク振りまくっているだろうと俺は予想しますね!」

 隕石落下まで残り百時間ちょい。

 既にこの段階で、若干一名は既に露出狂としての前科がある。

「そんなことしないわよっ! いい加減になさいっ!」

 どうだか、その主義主張も怪しいものだ。

「ねぇねぇ。ところでそっちの子って、君の恋人? あー、恋鬼?」

 妹さんの発言によって、皆々の意識が鬼っ子に向かう。

 恋鬼とか、なんかギャルゲのタイトルっぽくて良いな。次にラノベ作家志望先輩のコンビニへ行く機会があったら伝えてみよう。こういうタイトルで書いてみてやくれませんかね、みたいな。

「なんだ?」

 一同から注目されて、手元の缶ジュースから顔を上げる当人。

 ジュースは傍らの冷蔵庫からもたらされたものだ。フェラチオを強制終了されて荒ぶる鬼っ子へ、エリーザベト姉からの心温まる贈り物である。おかげで今は落ち着いている。一撃必殺の腹パンは回避された。

「隣の彼とは長かったりするのかなー?」

「んー? 三日目?」

「だな」

「え? そんな最近なのぉ?」

 出会って二晩、酒の席に過ごした仲だ。

「ま、まぁ、この子に関しては気にしても仕方ないわ。それよりも、ほら、貴方たち、これからは仕事の時間よ。しゃんとなさい。他にやるべきことは幾らでもあるのだから」

 鬼っ子の話題を避けるよう、強引に俺と妹さんのラブトークを遮る姉。

 車内が妹さんの血肉に汚れても困るので、俺もこれに乗っておく。

「またどこかでラッキー探しなのか?」

「当然でしょう? あと二日日しかないのよ?」

「は? ちょっと待ってよ。まだ四日あるだろ?」

 昨日までと話が違うじゃないか。

「ラッキー砲の発動日が二日後に決まったのよ。さっき」

「……なにその有り難みのないネーミングは」

 この車に乗り込んですぐ、エリーザベト姉に電話が掛かってきた。なんだろうと疑問に思っていたのだけれど、これを伝える為のものだったようだ。

 しかしながら、賢さが残念ならセンスも残念な女だ。

「今まで集めてきたラッキーを、隕石に向かって撃ち放つのよ。これが地球側の用意できる最後の策ね。もしも失敗したら、もしも隕石の軌道に変化がなかったら、この星は終わりかしら。きっとNHKのドキュメンタリーみたいになるわ」

「の、残りの二日間はどうするのよ? そのラッキー砲とやらを撃った後は」

「もしも成果が上がらなかった場合、人類の滅亡が免れないと判断された場合は、最後の二日間として、各国政府から国民に向けて通達が行われるそうよ」

「マジか……」

 それはまた凄いことになりそうだな。

 リアル世紀末状態になるだろうな。

 あちらこちらでレイプが起こるだろう。

 そう考えると、かなり見てみたい気もする。

 俺は思うのよ。レイプって凄く良いって。

「だからほら、私たちは残った時間を効率的に消費するべきよ」

「むしろ安全に最後を迎えられるよう準備をするべきじゃないか?」

「私たちが後ろ向きになってどうするのよ」

「まー、私たちは吸血鬼だから、人間に襲われても大丈夫だしねー。そこいらの一般人なら、十や二十はモノの数に入らないよ。逆にこっちも遠慮無く、好きな相手をチューチューできちゃうしねー」

「うっわ、もう安全圏に居るからって、すっげぇ他人事だ」

 それでも妹さんなら許せちゃう。やっぱ見てくれが良いヤツは得だよな。

「と言う訳で、惨めな最後を迎えたくなかったら努力なさい」

「雪女を相手に全力で逃げ出した弱小吸血鬼が良く言うよ」

 ただ、それでも悔しいのは事実なので、ボソリ、軽口など呟いておく。生きたまま半身を凍らされて、あまつさえ砕かれた事実は、なかなか忘れようと思っても忘れられないものだろう。近い将来、夢に出るぞ。きっと。

「あの時は生き残るのに必至だったから仕方ないじゃないっ! だ、誰だって自分の命が一番に決まってるわっ! それとも貴方が同じ立場だったら、逃げないで私たちを助けに向かうとでも言いたいわけ?」

「そりゃアンタらみたいな美少女の為だったら、俺は命くらい余裕で差し出すね」

「はぁ? なに自信満々で嘘ついてくれちゃってるのよ」

「出来ないことを出来るって言うと、後で辛い目に遭うと思うよぉー?」

「ハッハッハ! それよりも質問なんだけど、俺らはどこへ何をしに向かっているんですかね? 流石に目的地を知らされないまま延々と遠出するのは怖いんだけど」

 妹さんと合流したことで、鬼っ子の機嫌も気になるところだ。

 この子は正直、何を考えているのか分からないところがある。しかも癇に障ると、予備動作ゼロで致死性の攻撃を仕掛けてくる。正直、この姉妹と同席させるというのは、いつ爆発するか分からない爆弾でも抱えているような気分。

 今はジュースで大人しくなっているけど、何が切っ掛けで愚図るか分からない。

 もちろん、本当は根の良い素直な性格の持ち主だって理解してるよ。こんな可愛いのに、俺みたいなブサメンの言葉を真正面から受け止めてくれる相手、他に居ないよ。しかもチンチンまでしゃぶしゃぶしてくれたし。

 ヤバい、本気で愛してる。俺恋してる。

「言ったでしょう? ラッキーを集めに行くのよ」

「お姉ちゃん、彼が知りたいのはそれじゃないと思うけど」

「え?」

「どこで何するんですかね?」

「あぁ……」

 他方、こちらは少しばかり顔色の悪いエリーザベト姉。

 そんな鬼っ子と同席であるからして、彼女は彼女でテンパっているようだ。ストレスから一人オマンコ祭りを始めてしまうような、非常に脆いメンタルの持ち主だ。この空間はさぞかし胃に響くだろう。

 よく見てみれば、どうしたことか、制服の脇の辺りが汗に濡れて変色している。ストレス性の発汗だろう。鼻を澄ませば僅かばかり体臭が窺える。ストレスで臭くなるタイプの手合いだ。俺も同じだから良く分かる。

 ストレスで脇を湿らせる女の子って最高に可愛いよね。

「私たちはこれから、宝刀を手に入れに行くわ」

「ほうとう? まさか山梨まで移動するの? っていうか何故に?」

「それ麺類じゃない。ふざけてるの?」

「刀だよ? 日本刀だよぉー? 君の国の特産品だよぉー?」

「あー、なるほど。ちょっと勘違いしてたわ」

「まったく察しの悪い男ね。最悪じゃない」

「だねぇ。気配りのできない男はモテないんだぞぉー?」

 妹さんの発言が、いちいち心に突き刺さる。痛い。

 っていうか、勘違いしても仕方ないと思うんだ。今の発言は。

「それだったら別に俺らじゃなくても、普通の人に取って来て貰えば良くない? 場所が分かってるんでしょ? それこそ時間とリソースの無駄遣いってやつじゃん」

「既に何人か向かわせたけれど、一人も帰ってこないの」

「マジか……」

 エリーザベト姉から畳み掛けるよう与えられた悲しい情報。

 一気に気分が滅入った。

「事情を理解したかしら?」

「それってヤバいのが持ち主だったりするんですよね?」

「持ち主は人間よ。私とハイジの二人なら、まさか苦労することもないわね」

「それなら良いけど……」

 しかしながら、一口に人間と言っても色々とある。

 素手で人外連中を蹴散らすような、おいおいちょっと待って下さいと言いたくなるような人間も、決して数は多くないけれど、存在することはする。彼女らが新米吸血鬼である点を鑑みるに、舐めて掛かるのは危険じゃなかろうか。

「もしかして、化け物退治系の人?」

「さぁ? けど、相手が人間なら、私たちの敵じゃないわね」

「いやいやいや、人間だってなかなか侮れないものだと思うけど」

 吸血鬼はプライドが高いのが多いと聞くが、その典型が今まさに目の前に腰掛けている。人間でも中には数百年モノの吸血鬼を倒せる人だって、少なからずいる。だと言うに、この余裕はどこからやって来たのか。甚だ謎だ。

「そろそろ到着するわね」

 如何にも値の張りそうな腕時計を眺めて俺の想い人は言った。