喰らえ、メテオストライク!

飲み会 四

「自宅にバーがあるとか、なにこのブルジョアジー」

 飲み会の会場として案内された先、そこはどことも知れない高層マンションの最上階、その一角に設けられた宅内バーだった。

 宅内とは言っても、設備としては極上です。そこいらの雑居ビルに入っているショットバーなどとは比較にならない。有名ホテルの高級バーラウンジのよう。

 大きなガラス窓の先、外に眺める光景は、夜の明かりに彩られた都心の町並みがキラキラと。チャージだけで数千円は取られそう。

 規模としてはカウンター席が多少と、幅広なボックス席が一つ。

 また、バー設備の対面には、広々としたリビングルームが並ぶ。

 どうやら同階に関しては、フロアぶち抜きのよう。恐ろしく広い。数百平米はある。リビングの先には寝室やシャワールームなど、各種居住空間が続いていた。

 これなら幾ら酔っても大丈夫。すぐに寝室まで行ける。最高の酒飲み空間だ。

「これくらい普通でしょう? まあ、貧乏人には縁の無い場所かも知れないけど」

「いやいやいや、本当に凄いじゃん。こういうの憧れだったんだよ!」

 カウンターの向かい側にはバーテンダーも居るし。

 四十代の渋いオッサンと、二十代前半くらいの綺麗なネーチャンの二人組。

 オッサンの方はダンディの一言に尽きる。長身の白人で、かなりのイケメンだ。長めの金髪をオールバックに撫で付けている。少しばかり痩けた頬と、やたらと深い目元の堀とが、怖いくらいに雰囲気を出してくれている。

 恐らく彼は双子姉妹の趣味だろう。

 もしかしたら、夜の相手もしているのかも知れない。

 なんて羨ましい。俺と代われよ。

 一方、ネーチャンの方はと言えば、こちらもオッサンと同じく金髪の白人さん。女性にしては背が高くて、百七十はあるんじゃなかろうか。ヒールを加えると、俺よりも尚のこと背が高い。シニヨンにまとめられた髪型が、大人の格好良さを感じさせる。

 共に値の張りそうなスーツ姿。

 完璧な布陣だろ。

「……こういうときだけ素直にならないで欲しいのだけれど」

 こういうところで飲むのが夢だったんだよ。

 並の億ションじゃあ、こんなの普通は付いてないよ。仮にあったとしても、共有スペースにいわゆるラウンジとして併設されている程度でしょう。

 この部屋、いったいお幾らですか。

「アンタ、吸血鬼としては最低だけど、人間としては最高だよな!」

「貴方の言っていることの意味が分からないわ」

「持つべきは金持ちの愛人ってことだよ。マジ愛してるわ」

「……いい加減に殺すわよ? 海の底にコンクリで固めて埋めるわよ?」

「まあまあ、それより早く飲もうじゃないの。俺は早くお酒が飲みたい」

「人間のクズね。このアル中っ」

「それ、褒め言葉ですから」

 テンション上がってきた。これはもう飲みまくるしかない。

 俺の隣でも、鬼っ子がバーを眺めてキャッキャしてるよ。

「なぁおい、あれ全部お酒か? お酒なのか? 私でも飲めるのか?」

 彼女の視線はカウンターの先、バーテンダーの後ろにズラリと並んだボトルに注目だ。我が家で行われた酒盛りの比ではない、その圧倒的な酒量に興奮していた。

 パッと見た感じ、どれも高価な銘柄ばかりだ。

「そうだよぉ? 好きなの頼んでいいよー」

「おおぉっ、本当か! 本当にどれでも飲んでいいのか!?」

「本当だよー。どれでも好きなの飲んでいいよぉー」

「おほぉっ」

 妹さんの言葉に満面の笑みとなる鬼っ子だ。

「ここは楽園だな! 酒の楽園だ! 私ここに住むぞ!」

「え? あっ、じゃあ俺もここに住むっ! 住むぞっ!」

「ちょ、ちょっと、貴方たちは何を勝手なこと言っているのかしらっ!」

 我先にとボックス席へ駆け足で向かう鬼っ子。これに負けじと俺も続く。腰を下ろしたソファーはやたらとフカフカで、我が家の座布団の不甲斐なさを嘆きたくなるほど。

 素直に体重を預けると、まるで腰をホールドされたよう。深く沈んで、それはまるで、あぁ、身体が重力より解き放たれたような開放感が。

「すみませーん! 注文いいですかー!?」

「さけー! おいしいのくれー!」

 鬼っ子と二人、三人掛けのソファーに並び腰掛けては叫ぶ。

 すると、すぐに女性の方のバーテンダーがやって来た。その一連の立ち振る舞いは、まるで漫画やアニメに眺める執事のような、酷く恭しいもの。

 おしぼり貰ったよ。おしぼり。すげぇ良い匂いがするこれ。

 俺は鬼っ子の分も併せて、本来であれば絶対に飲めない高い酒を注文だ。たった一杯で、俺の一ヶ月分の生活費が吹っ飛ぶようなヤツ。

「お姉ちゃん、あの二人ってここに居座るつもりじゃないよね?」

「……私に聞かれても困るわよ」

「あぁーん、かなり気に入ってたのにぃー」

 金髪ロリ姉妹が何か言ってるけど気にしない。

 どうせあと四日の人生だ。

 だったら精々、思いっ切り他人に迷惑を掛けて過ごしてやろう。彼女たちだって、俺に対して何ら遠慮が無いのだからな。もう二回も殺されてるんだ、構うもんか。

 こちらだって好き放題やらせて貰おうじゃない。

「おーい、オマエらも早く来いよー。じゃないと殺すぞぉっ?」

 良い具合に箍が外れた俺と同様、鬼っ子の方もまた、すこぶるテンションが上がって思える。その口からは例の殺すぞ発言が容易にこぼれた。

 その実、姉妹に語り掛ける表情は、とても良い笑顔だ。きっとコイツは気分が良くても悪くても、誰でも殺しちゃうんだろう。困った鬼っ子だ。

「わ、分かってるわよっ!」

「あっ、お姉ちゃん、ちょっと待ってよぉ……」

 渋々といった様子で、二人は俺たちと対面のソファーに腰掛けた。

 これを確認して、女性バーテンダーは再び席の下へ。

「お嬢様方はいかがされますか?」

 俺に尋ねた際と同様、おしぼりを両手に渡しつつ注文を取る。

「いつものを貰えるかしら?」

「私もー」

「かしこまりました」

 いつもの、とか一度で良いから言ってみたかったわ。憧れだわ。

 バーテンダーさんは小さく頷いて、カウンターの側へと戻ってゆく。

 糊が良く利いた、ピシっとしたスーツ姿は、かなりグッと来るモノがある。俺はロリコンだけど、あのムッチリした尻と、引き締まった腰回り、そして何より、はち切れんばかりの胸は、かなりエロい。堪らない。大人の魅力ってヤツだ。セックスしたい。

 それに引き替え、目の前のロリたちの平坦具合は、なんと清々しいことか。

「アンタらの私服っていつ見ても優雅だな。そのドレスとか」

「それがなに? 悪いかしら?」

「ブサ男には目の毒だよねぇー」

 血まみれになった制服を脱いで、今の姉妹は私服姿だった。

 いつだか某国の大使館に眺めた際とは、また違った装いのドレスである。一般人からすれば、これからどこかパーティーにでも出掛けるつもりなのかと、問いたくなるほどにフォーマルだ。

「俺だけTシャツにジーパンで場違い感が半端ないんだけど」

「なら出ていけばいいじゃない」

「誰が出てくものか」

「私もボロボロだぞ。和服だぞ」

「いや、アンタはいいんだよ。可愛いから」

「そうかー」

 何気ないふうを装い、鬼っ子の頭をナデナデしてやる。

 サラサラの頭髪が心地良い。艶々している。

「あぁー、もうセクハラしてるよぉ? 小さい女の子にー」

「酒の席でのセクハラは男の嗜み。むしろ義務と言っても良いね」

「おーい、セクハラってなんだよ?」

 頭部を撫でられる姿勢のまま、顔をこちらへ向けて上目遣いの鬼っ子。

 ジッと見つめてくる姿は、すこぶる可愛らしい。

「俺とオマエが幸せになる為の儀式だ」

「おほー」

「どうだ?」

 あー、ギュッてしたい。

 今晩あたり、土下座してでも、なんとかセックスさせて貰おう。ファミレスでのフェラが未だに効いて思える。こうして周りを好みの女性に囲まれている状況も手伝って、もの凄くエロい気持ちになってしまう。

 正面の姉妹にしても、ドレス姿で足を組んでるから、ほら、生足が見えちゃってる。ふくらはぎまで見えちゃってる。妹さんの言葉じゃないけれど、これは確かに目の毒なんじゃないか。

「なら、もっとして良いぞ。セクハラしていいぞ。私に」

「ほらみろ、お許しがでたぞ」

 高ぶる性欲を散らすよう、より激しく鬼っ子の頭をナデナデしておく。

 鬼っ子は為されるがまま、ジッとこちらを見つめるばかり。

「……お姉ちゃん。私、この男のことが、かなり嫌いかも」

「私も同じだから気にしない方が良いわよ。ストレス溜まるから」

「そういうことを本人の前で言うのはどうかと思うけどさ」

 そうこうしているうちにお酒が運ばれてくる。

 済し崩し的にアルコールタイムだ。