喰らえ、メテオストライク!

飲み会 六

「ぶふっ……」

 着替えを終えてバーラウンジに戻ると、エリーザベト姉がワインを吹き出した。今度は対面に誰も座ってないので、人的被害はゼロだ。

 相手の言わんとするところは、重々理解できる。

 十代のブサメンほどスーツが似合わないヤツはいないよ。せめて三十代だったら、駄目リーマンっぽくなれたかもしれないのに。

 更衣室の鏡に確認した時点で、自分でも似合っていないとは理解していた。しかしながら、こうまでも露骨に反応されると、悲しいものがある。

「なぁ、アンタはポンプか何かか? さっきも聞いたけど」

「べ、別に良いじゃない、貴方のその格好が、す、素敵だったからよっ」

 露骨に笑いを隠しながら言ってのけるエリーザベト姉。

 カウンターからはお姉さんが大慌てに飛び出してきた。今にアホ吸血鬼が吹き出したワインをおしぼりで拭う。綺麗にしてゆく。

 出会い頭に抱いたバーテンダー二名に対する大人な雰囲気は、僅か小一時間ばかりの間で完全に崩壊していた。今や完全に子供の小間使い。

 なんだろうな。

「確かに凄く似合わないねぇ。まだワインまみれのシャツのがマシだよー」

「こればかりは俺も激しく同意です」

 だが、他に服がないのだから仕方無い。

「も、もうしわけありません……」

 そして、ソファーを拭い終えて以後は、延々と頭を下げ続けるお姉さん。実は貴方の対応が一番に心に響いたりするので、本当に止めて貰いたい。

 落ち込んでばかりも居られないので、大人しく元居た席へと腰を落ち着ける。

「おしぼりをお持ち致しますので、しばらくお待ち下さい」

「あ、お、お構いなく……」

 慌ただしく駆けてゆくお姉さんを見送って、ハァと溜息。

「まるで七五三ね」

「あー、そうそう、私もそれが言いたかったよぉー」

「どうしてドイツ人のアンタらが、そんな日本の風習知ってるの」

「勉強したからに決まっているでしょう。これでも日本に来てから、それなりに経っているのよ? こんな小さな島国の文化など、私たちの頭なら簡単に把握できるわ」

「凄いでしょ-? 偉いでしょ-?」

「未来永劫ずっと七五三のアンタらにだけは言われたくなかった」

「えぇー? でも、君はロリボディーが好みなんでしょ? 好きなんでしょ?」

 不意に妹さんが横へと腕を伸ばし、姉の胸を鷲掴みにした。

「ちょっ、ハイジっ!」

「あはー、ぜんぜん掴めなーい」

 彼女の指はドレスの薄い生地越しに滑って、碌に肉を掴めず終わった。

「貴方っ、こ、殺すわよっ!?」

「やーん、お姉ちゃんこわぁーい」

「妹さん、マジ最高です! 一生ついて行きます!」

 マジギレ一歩手前の姉と、キャッキャ笑う妹さん。

 何このリア充の合コンみたいな雰囲気。

 こういうのだよ。俺はこういうのが欲しかったんだよ。最高。

「お待たせ致しました」

「あ、どうも」

 賑やかにしていると、お姉さんが新しいおしぼりを持ってきてくれた。

 やっぱり良い匂いがする。おしぼり。

 学校の近所の定食屋でも、良い匂いのおしぼりが出てくる。けれど、ここのサービスは、それとは一線を画している。例えばトイレに立つ度にわざわざ、バーテンダーのお姉さんが、両手に広げて差し出してくれるんだ。

 金髪ボンキュボンのハリウッド女優みたいなネーチャンが。

「おーい、これおかわりー」

「あ、はい、少々お待ち下さいませ」

 一方、鬼っ子はマイペースにお替わりを重ねて既にダブルを五杯目。全く明日のことを考えていない辺り、同じ酒飲みとして本心から尊敬に値する。

 ここなら二日酔いを介抱するヤツも居るだろうから、まあ、いいか。

 千年がどれだけ暴れても、たとえ建物が倒壊しても、俺は痛くも痒くもない。そうだよ。むしろ俺も自らを解放するべきだろう。解き放つべきだろう。

「あ、俺も同じのおねがいしまーす」

「承りました」

 再びカウンターの側へ戻ってゆくお姉さん。

 つい先程にはテーブルのボトルを自ら手にしていた気がするのだけれど、それはそれ。やっぱり新しいグラスと新しい氷で、気持ち良く飲みたいじゃないですか。

 これからが真の酒飲みタイムだ。

 飲むぜ。超絶飲むぜ。一生分だ。

 だって残り四日なんだ。