喰らえ、メテオストライク!

二日酔い 五

 時刻は午後四時を過ぎようかという頃合。エリーザベト姉妹宅で作戦会議である。何故にこのような時間かと言えば、一同、重度の二日酔いから復帰の上、昨晩の後片付けとなり、それくらい時間が掛かった為だ。

 糞尿の匂いも、血肉の汚れも、完全に拭われて元在った態を取り戻したリビング。ダンディーは何処へ共消えた。まあ、全ては姉妹が呼んだ業者が行ったそうで、誰も彼もは二日酔いから来る頭痛と吐き気に呻いていた限りだと思うが。

 そして今はと言えば、綺麗になったリビングのソファーに腰掛けて、皆々、顔を向き合わせている次第だ。今後の予定を確認する為である。俺は千年と並び腰掛け、この対面に姉妹が並ぶ形である。

 ちなみにバーテンのお姉さんとスズメ嬢は目覚めてすぐに帰宅したらしい。

「で、今日はどうするんですかね?」

 何気ない調子に呟く。

 すると、じぃと恨みがましい目でエリーザベト姉に睨まれた。

 真っ赤なワンピース姿が麗しい。ちなみに妹さんは、同じデザインで色違いの白を身につけている。どうやら彼女たちはドレスが、夏の装いとして常のようだ。女性の魅力、特に素材の良さを最大限に引き立てる、素晴らしいチョイスだと想います。

「その今日がもう半分も残っていないのだけれど?」

「その原因をこちらに求めますかね? 俺はずっと寝室で放置プレイだったのに」

「ぐっ……」

 飲酒に際しては尽く記憶を失うエリーザベト姉の為、既に事情の簡単な説明は行われた後だ。彼女の記憶は俺の勃起チンコを妹さんがカップ麺で扱いた後、リビングへ戻ってきたところで、完全に途切れていた。

 邪魔者がいなくなったところで、彼女もまた妹さんに勧められる形で飲み始めて、速攻で喪失した模様だった。相変わらず酒に弱い。そして、気付けばバーテンは死んでるし、リビングは血まみれだしと。

「あ、あれは、ハイジが無理矢理に飲ませるから……」

「えー? でもお姉ちゃん、二杯目からは自分で注いでたよ?」

「注いでないわよっ!?」

「あぁー、いつも通り本当に何も覚えてないんだねぇ」

「え、本当に? ……本当に自分で注いでたの?」

「とまあ、こんな感じだしー?」

 やれやれだとばかり、手の平を胸の高さに掲げては、肩を竦める妹さん。

 果たしてこのリビングで何が行われたのか。俺には知る余地が無い。恐らく、彼女らに尋ねても答えは返ってこないだろう。非常に気になるところだけれど、無理に問いただすこともできない。

 妹さんは言うつもりがないようだし、姉の方はそもそも覚えていない。千年に至っては、今にも吐きそうな顔となり、俺の傍ら、ソファーに横たわっている。彼女だけは、目覚めてから、ずっとこの調子だ。

 昨晩のことはこれまでにしよう。そうしよう。

「で、これからのことだけど?」

 会話の流れを変えるよう、わざとらしく姉妹へ目配せして言う。

「そ、そうよっ! 今日の予定よっ!」

 これには姉の方が乗ってきた。

 強引に舵を取りに掛かる。

 自分に都合の悪い話は無理矢理にでも流したいようだ。

「もう時間に余裕はないのだから!」

「予定なんてあったんですかね?」

「あったわよ! 今日は座敷童の回収だったのよっ!」

「おぉ、座敷童」

「昨日、連絡があったのよ。新しく所在の判明した個体に関して」

 幸せ妖怪としては超有名どころ。

 俺はまだ一度として見たことがない。曰く、歳幼い小さな子供とは、世間的にも広く一般的に知られている。男性体、女性体、共に存在している為、後者とは是非とも知り合いたいと、常日頃から企んでいた。

 なにより人間に優しい妖怪というのが、極めて心惹かれる。学園カーストに疲弊した心を、自宅、座敷童子ちゃんの太股に泣きついて、わんわんと泣きながら、頭をナデナデして貰いたい。想像しただけで、最高に癒やされる。

「そう時間の掛かるものでもないでしょうから、今から出掛けるわ」

「え、今? マジですか?」

 まだ微妙に気持ちが悪いのだけれど。

 それに腹も減ってるし。

「珍しくも都内に目撃情報が出たから、サクッと攫ってくるわよ」

「いやいや、攫うってちょっと、交渉じゃないのかよ?」

「座敷童子如きに交渉なんて、時間が勿体ないじゃない」

「アンタ、弱いヤツにはとことん強いよな……」

 惚れ惚れする。

 そういうところも嫌いじゃない。

「黙りなさい。いちいち相手にしていたら時間が取られて仕方が無いじゃないの。本部に集められただけでも、二、三十はいるんじゃないかしら? あの子たちの集まってる部屋なんて、まるで保育園よ」

「え? 座敷童ってそんなにいるの?」

 驚愕の事実だ。

 俺のなかの座敷童子像が、ガラガラと音を立てて崩れた感。

「私もこうして集める機会があったら知ったのだけれど、あの子たち、亜種も含めれば、日本だけでも相当数が居るわね。おかげで本部の幸せ具合と言ったら、それはそれは酷いものよ。仮に隕石が落ちてもあそこだけは助かるんじゃないかしら?」

「なんて有り難みのない話だ」

 俺は座敷童子に会ったことが無い。一度は会ってみたいなと思うのだけれど、会おうと思って会えるようなものでもない。おかげで知識だけが先行している。

 その本部とやらに興味津々丸だ。

「これも良い機会だし、無事に隕石をやり過ごせたのなら、あの子たちの体内へGPSでも埋め込んで、位置情報を収集するのも面白いわね。その情報を市井へばらまいたら、とても愉快なことになりそう」

 フフフと口元に薄い笑みを浮かべて笑うエリーザベト姉。

 珍しくも少し吸血鬼っぽい。ワルの予感。

「いやいやいや、流石にそれは可愛そうだろ」

 人外とは言え、幼女をGPSで位置管理とか、凄い背徳感。

 ああいや、男児もいるのか。そっちは別にどうでも良いや。

「あら、冗談よ。いちいち本気にしないでくれるかしら?」

「ちょっと、冗談てアンタ……」

 まだ酔ってるのか?

「お姉ちゃんの冗談って分かり難いよねぇ」

「……本当に冗談? 顔がマジだったんだけど」

「お姉ちゃん、冗談を言うとき親指を残りの指で握るから」

「なるほど」

 また一つ無駄な知識が増えた。

 視線を彼女の手元へやれば、確かにギュッと握っている。それも右手と左手、両方とも握っている。理由は知れないけれど、妙な癖もあったものだ。

 強引に心因的な理由へ結びつけるなら、嘘に対する罪悪感が身体を強ばらせるのか。いいや、流石にそこまでピュアな心の持ち主でもないだろう。

 なんせビッチ・オブ・ビッチ。

「え!? な、あっ……」

 どうやら本人すらも意識していなかった事実のよう。

 妹さんの言葉に戦きを隠せないエリーザベト姉。

 途端に焦り始めるのは、これまた阿呆な話もあったものだ。

「なんつーか、色々と不器用な女だよな」

「だねぇ」

 妹さんと頷き合う。

 嘘一つ満足につけないとは。

「そ、それっ、貴方に言われると、凄く腹立たしいのだけれどっ?」

「まあいいじゃん。それよりほら、時間がないんだし出発しよう」

「ぐっ……」

 悔しそうな表情を浮かべる姉を傍目、俺はソファーから腰を上げる。

「コイツは置いてくか……」

 視線を向けた先は、すぐ隣。

 ソファーの上で千年が、くーくーと静かな寝息を立てていた。まだ酒が抜けきっていないのだろう。身を横に為て、肘当てに頭を乗せる形で横になっている。身体が小柄だから、良い具合に眠れているようだ。

「この子を一人で置いていくの、とても不安なのだけれど……」

「俺んちでも平気だったし、別に大丈夫だろ? 凄く良いヤツだぞ?」

「貴方の豚小屋と私たちの家を一緒にしないで貰いたいのだけれど」

「金持なんだからケチケチするなよ。あ、書き置きでも残そう」

「ふん、まあいけれどっ」

 拗ねた様子でそっぽを向くエリーザベト姉。

 数日前、出会って当初より幾らばかりが、話が通じるようになって思える。その理由は十中八九で、千年の身体能力が原因だろう。

 強い者にはとことん弱い彼女だった。

「それって私も一緒に行かないとだめなのー?」

「当然でしょう? 私とこの変態を二人にするつもり?」

「いいじゃんべつにぃー」

「嫌よ。襲われるわ」

「当然だろ? 襲うし」

 これは良い振りだ。当然、即断しておく。

「……本当にキモイねぇ」

「救いようがないわね」

 そんなこんなで、俺とエリーザベト姉妹とは、座敷童子の回収に向かう運びとなった。移動は例によって高級外車のリムジン。本当に金持だよ。この子たちは。