喰らえ、メテオストライク!

飲み会 七

 リムジンに揺られることしばらく、俺はエリーザベト宅まで戻って来た。

 車は運転手が勝手に車庫入れしてくれるし、エレベーターはフロア直通だし、通路も専用のものが用意されている。至れり尽くせりとは、まさにこのこと。

 このまま、なし崩し的に住所を移したい。

 もしも隕石落下が防がれたのなら、真面目に頼み込んでみようか。千年を盾にすれば、強引に住み着くことも可能なんじゃなかろうか。

 とかとか。

 ああ、隕石の影響だろうか、思考がかなり適当になってきている。

 エントランスを越えて、玄関から廊下を歩み、リビングへ。

 三人揃ってツカツカと歩む。

 先行する金髪ロリ吸血鬼な姉妹のお尻を追いかける形だ。

 姉と妹、共に揃ってワンピース姿。それも生地が大層のこと薄うございます。正直、堪りませぬ。胸はぺったんこの癖して、二人とも太股はムチムチだし、お尻も肉付きが良くて、非常に色っぽい。膝上丈の裾から覗く真白な肌が、凄く愛おしい。ムチムチロリータ最高。愛してる。

「あ、帰ってきた」

 リビングへ到着。

 ソファーには相変わらず千年の姿があった。どうやら意識を戻したらしく、身を起こしている。丸半日を眠り過ごして、どうやら持ち直した様子だ。

 彼女は俺や金髪ロリ姉妹の姿を見つけると、不満そうな声を上げる。

「どこ行ってたんだ? ……オマエ、変な匂いがする」

「え? あぁ、座敷童子を探しに行ってたんだよ」

 手には酒瓶が握られていた。

 コイツ、また飲んでる。

 どんだけ酒が好きなのか。

 俺も相当だが、千年はそれ以上だ。酒乱だ。

 強いて言えば学習能力が絶望的。

「お、おねえちゃーん、あの鬼、また飲んでるよぉー……」

 妹さんが今にも泣きそうな声を上げた。

「そんなこと、わ、私に言われても困るわよっ」

 姉の方もこれを目の当たりとしては慌て調子だ。

 二人とも相当に千年が苦手な様子だった。

「ふーん? 座敷童子かぁー」

「そうそう、座敷童子だ」

「でも、座敷童子っていうよりは、神の類い、それも悪神の匂いだぞ?」

「え? 俺、そんなに臭ってるの? っていうか、悪神って……」

 なんか不吉なことを言われた。

 最近になって出会った神様と言えば、福禄寿様くらいなものだ。

 悪神とか、まさか。

「なんて名前のやつ?」

「そう言えば、名前とか聞いてなかったな……」

 相手は人外ちゃん。端末など持っている筈もない。アドレス交換など夢のまた夢。当然、連絡など取る術がない。今更ながらに、彼女は本当に座敷童子だったのかと、少なからず怖いものを感じた。

 思い起こされたのは頭部を吹き飛ばされても復活するタフガイ具合。

「まー、べつにいいけどな-」

「そ、そか。嫌な匂いだったら、その、悪かったな……」

「別に嫌じゃないぞ? ちょっとムカつくけど」

「え、マジすか。それはあの、なんというか、風呂に入って落としてくるわ」

「おー! ありがとなー」

 普段の会話が適当なので、たまに真面目モードになった千年とのトークは、なんだろう、凄く精神的によろしくない。心臓がバクバクとする。なんかこう、無駄に緊張してしまうというか。

 彼女の言葉には、それが何気ない呟きであっても、こちらの想定する以上に重要な情報が含まれていること常々。決して無碍にすることはできない。それにムカつくと言われたのなら、改善せざるを得ないだろう。

「まー、それより飲むぞ-! 今日も飲むぞー!」

「アンタも好きだよなぁ……」

「駄目なのか?」

「いや、駄目じゃ無い。ぜんぜん駄目じゃ無いよ、千年。俺は楽しそうに酒を飲んでいるアンタが好きだ。今日も心地良い飲みっぷりを俺に披露してくれ」

「おうっ、オマエ良い奴だよな! けっこう好きだぞ!」

「ありがとうよ。俺もアンタのこと、凄く好きだぜ」

 ここで飲む分には、我が家の家計も傷まないしな。

 俺も今のうちに高い酒を存分に飲んでおくとしようか。タリスカーの五十年とか、こういう機会がなければ、きっと、絶対に飲めない高級品。貧乏学生の身としては、吐き散らかしても飲む価値があると見た。

「よしっ! んじゃ今日も飲むぞっ! 俺は先に風呂入るけどー!」

「おー! 飲むぞっ! たくさん飲むぞーっ!」

 とても楽しそう、手にした酒瓶を頭上に掲げて吠える千年だった。

 これを目の当たりとしては、エリーザベト姉妹から漏れる愚痴。

「お姉ちゃん、あの鬼、いつになったら帰るの?」

「だ、だから、私に聞かないでよっ!」

 今晩も肝臓には頑張って貰うとしよう。お願いします。肝臓様。

		◇		◆		◇

「も、もうしわけございませんっ! もうしわけありません!」

 昨日に続き、本日もまた派遣されてきたバーテンのお姉さん。ボンキュボンでナイスバディーな金髪シニヨンの白人美女だ。どうやら彼女は姉妹のお気に入りらしく、電話一本で飛んでくる運びとなった。

 ただ、昨日の出来事が多分に影響してのことだろう。その立ち振る舞いは極めて堅い。いよいよ本格的に泣きそうだった。何をするにも一挙一動に落ち着きが無く、小さな失敗を繰り返しては、ごめんなさい、ごめんなさい、謝罪を繰り返している。

 恐らく、ダンディーに関わる何かしらを、目の当たりとしてしまったのだろう。俺自身は現場に居合わせなかったので、詳しいところは不明だ。けれど、この様子では彼が姉妹に食い散らかされる現場を見てしまったのかも知れない。

「いや、べ、別に良いっスよ。これも用意して貰ったものなんで……」

 そして、今まさに彼女は、何度目とも知れない謝罪を繰り返していた。

 顔色は真っ青である。

 原因は俺のスラックスに引っかかったお酒。有り余る緊張からか、お替わりの一杯を手にしたまま、何も無い場所で躓いたのが、つい先程のこと。グラスに注がれていたお酒は、見事に俺の股ぐらへビシャリ。

「申し訳ございませんっ! 本当に申し訳ございません」

 流暢な日本語に繰り返し謝られる。

 とは言え、濡れたのは俺の持ち物じゃない。つい小一時間前、風呂へ入るに際して用意して貰った一着だ。取り寄せは妹さんが電話を一本。僅か数分のうちにぴったりサイズの上下セット、更には靴まで、スーツ一式が届けられた。マジ凄い。

「申し訳ございませんっ! どうか、どうかっ……」

 お姉さんは今にも卒倒してしまいそうな顔色で、俺の股の辺りをおしぼりに拭う。段々と堅くなりゆく愚息を前に、けれど、彼女はそれでも執拗にゴシゴシと。チンコの勃起具合など、まるで見えていないように思える。

 とは言え、染み込んだ水気は、どれだけ擦ろうとも拭えるものでない。

「た、直ちに替えをお持ち致します!」

「あ、いや、別に……」

 止める暇もなく、全力疾走にバーラウンジから駆けてゆく。

 ピンヒールなのに良くやる。

 すぐにその姿は壁の影に隠れて、見えなくなってしまった。

 これを目の当たりとしては、正面から早々に野次が飛んでくる。

「貴方、最低ね」

「女の子を泣かせるなんて、男の子として落第だよぉー?」

「いやいやいや、今のは俺、なにも悪いことしてないと思うんだけど」

 向かい合わせにソファーの並ぶボックス席では、昨日と同じ配置で俺、千年、エリーザベト姉妹とがお酒を飲んでいる。

 今日は同姉妹にしても、一杯目から正真正銘のアルコール。

「っていうか、服とか別にどうでもいいんだけど……」

 今、俺が着せられているスーツ一式が、市場でどれほどの値に取引されているものなのか。詳細こそ不明であっても、大凡、一般人がおいそれと手の出るものでないことは、貧乏学生の俺にだって理解できる。

 生地とか、ボタンとか、素材の一つ一つ風格が違うよ。風格が。

 生活費の数ヶ月分では利かない代物だろう。ダンヒルだかキートンだか知らないけれど、この露骨に中身が負けている感じ。スーツの上等さが俺自身の残念さを際立たせている。とてもとても悲しい。

 なんて、愚痴の一つも呟いたところ、反応があったのはエリーザベト姉だ。

「あら、大した奢りじゃないの」

 真正面から、煽るような軽口を喰らった。

 その顔に浮かぶのは、こちらを挑発するような笑み。

 まさか黙っていられなくて、素直に思うところを伝える。

「別に驕ってなんていないだろ? むしろ謙虚だって」

「その面構えで、衣服に頼ること無く、目当ての異性を落とせるとでも? まさか、そんな馬鹿な話はないでしょう? 元が駄目だからこそ、他よりも余分に努力する必要があるのだとは思わないの?」

「いやいやいや、こんな面構えだからこそ、俺は着飾ることを諦めたんだろ。服で自分の悪いところを誤魔化すなんて、人として最低だろ? 少なくとも、俺はそういう卑怯なことはしたくないね。それなら有りの侭を晒して、当たって砕けろだ」

「……貴方、相当に駄目ね」

 すると、心底呆れた様子で言われた。

 これには妹さんも続く。

「流石にそれはどーかと思うよぉー?」

 どうやら、姉妹で共通した知見の様子。

 二対一となって、少しばかり心がざわめくよ。

「いや、ちょ、ちょっと待った! だって、服なんて、そういうものじゃん!?」

 二人から呆れ顔に見つめられて、こちとら焦る。

 ブサメンのオシャレとか、見ていて無様以外の何物でも無い。

 少なくとも自分はそう思う。

「俺なんかがオシャレしたところで、周囲の人間を苛つかせるだけだろっ!? いやいやいや、オシャレっていうのは、アンタらみたいな、可愛くて美しい、そういう存在にだけ許された行いだろっ! 俺は俺のオシャレを見たくないけど、アンタらのオシャレは凄く見たい!」

 割とマジで反論。

 すると、これにエリーザベト姉は妙なことを返してきた。

「はい、ゲームが始まったわ。これから貴方は冒険に出発する。あ、最初の街で王様から支度金を貰ったわね。それじゃあ、まずは最初に何をする?」

 何の話だ? パッと聞いた感じ、RPGの導入っぽい。

 よく分からないけど、直感の赴くがまま、素直に答えてみる。

「街のタンスやツボを調べまくる」

「……みみっちぃ主人公ね」

「普通だろ?」

「じゃあ、その次は?」

 すると、彼女は質問を続けてきた。

 これに俺は思うがまま、素直に答えて応じる。

「そりゃアンタ、武器屋と防具屋へ行って装備を整えるだろ」

「ええ、そうね、そのとおりよ」

「それがどうかしたのかよ?」

 どうにも要領を得ない。

「はい、青春が始まったわ。これから貴方は異性との出会いに出発する。最初の街で両親から支度金を貰ったわ。まず最初になにをする?」

「ネトゲに課金?」

「しないわよっ! 服を買いなさいよっ! 服をっ! ゲームでは正しい選択肢を選べたじゃないの。どうして現実だと大きく横道に逸れるのよっ!」

「そりゃアンタ、ゲームだったらモンスターを倒していればレベルが上がるだろ? レベルが上がれば、ステータスが上がる。すると、いつかは難しいダンジョンに挑戦できるし、もしかしたら魔王だって倒せるかもしれない」

「ええ、そうね。魔王を倒したら英雄になれるわね。差し詰めこちらの世界であったのなら、ハーレム? じゃないのかしら。酒池肉林というやつじゃない? 男としてこれほど嬉しいことはないでしょう? 最高じゃない」

「だがしかしだ」

「なによ?」

 俺はエリーザベト姉に意義を唱えます。

「それに引き替え、青春ってやつはどうよ? どれだけ服を買い着飾っても、顔面偏差値は一向に上がりやしない。それとも整形しろと? でもさ、数百万を投資して、レベルが一から三くらいまで上がっても、やっぱり活動範囲は最初の街の周辺だ」

「で、でもっ、異性との交友という経験は大きいじゃないのかしら? これを繰り返してゆけば、見た目を補うだけのコミュニケーション能力を得ることは、十分に可能だとは考えられないのかしら?」

「異性との交友の結果、その都度与えられるのは、自らの顔面偏差値に相応しい処遇。どれだけ会話を交わそうとも、意中の女の子は視線を合わせてくれない。他方、イケメンに向けられるキラキラした眼差し。このショックと言えば、ネトゲ課金に値するね」

「……えっと」

 躊躇するエリーザベト姉。

 分かってる。アンタのような良い女が俺に靡くなど有り得ないと。

 だがしかし、好きなものは好きなのだ-。

「それでも君は、僕と一緒に魔王討伐に向かってくれますか? 子孫はブサメン」

「…………」

 尋ねた先、返答はなかった。

 まあ、仕方ない。

 プロポーズ、ここに破れたり。

「だけど、別に良いんだよ。最初の村から先へ進めなくても。城の周りで延々とスライムを狩り続けるような人生だって、ちゃんと生きていられるんだから。生活に必要な最低限のお金だって貯められる。お酒も飲める」

「……なによそれ」

 酷く不服そうな顔で問うてくるエリーザベト姉。

「魔王を倒すのはイケメンの仕事だ。イケメンに寄り添うのは、アンタらみたいな美しい女の仕事だ。だったら、俺みたいなブサメンは何をすれば良いのか? 簡単だ。凱旋するイケメンや、アンタらみたいな美しい女を、精一杯に持て囃すのが仕事だ」

「はぁ? 酷く下らないわね」

「顔の善し悪しっていうのは、どれだけ取り繕うと相対評価だ。それも特定の文化文明が形成した、極めて一時的かつ一方的な刷り込みに過ぎない。事実、人間の美醜に対する価値観は、その時代によって相違が非常に大きい」

「無理して難しい言葉を使うと、逆にボロを出すわよ?」

 茶化してくる相手に構わず、俺は持論を展開だ。

 元々は師匠からの受け売りだが。

「だからこそ、俺たちブサメンはこれに納得できる。結局のところ、イケメンがイケメンでいられるのは、その周りに比較されて、一方的に劣ると称されるブサメンがいるから。イケメンのイケメンたる所以を支えているのが、俺たちブサメンだ」

「…………」

「だとしたら、そんなブサメンのブサイクな仕事は、イケメンのイケてる面以上に、余程のこと素晴らしいものだ。この世界の美醜感の根源を支えていると称しても過言ではないね。まさにオシャレ界のインフラだ」

「貴方、偉そうに語るのは良いけれど、頬が引き攣ってるわよ? っていうか、ちょっと涙目で、えぇ、正直に言って気持悪いわ。ここまで見事にやせ我慢を表現した手合いは、ないんじゃないかしら」

「ぐっ……」

「第一、仮に貴方のようなブサイクが全滅したとしても、既に生まれてしまった美醜の価値観は、当分、消えないと思うわよ。都合数世紀、世間の女はブサイクが世界から一掃されたことに喜びの声を上げるわね。これを貴方たちは惨めに受け入れるの?」

 そう言われると、白旗を揚げざるを得ない。

 くそう、くそう。

「ま、負け惜しみですから。格好付けですから。凄く悔しいもの。でも、そういう感情も所詮は現代教育の賜だと思えば、あぁ、頑張ってるな、人類。国を隔てて、ここまで画一的な価値観を形成するなんてっ、イケメンという概念が、強い、強すぎる……」

 指摘されて、これを否定できない悲しみ。

 どうにも仕方ない。俺の中にもイケメンをイケメンだと評する価値基準は、既に凝り固まってしまっている。であれば、表を切って否定することも不可能だ。イケメンと相対すれば、自然と萎縮してしまうこの肉体と精神だ。

 どうしてこうなった。こんなこと姉妹に対して言いたくなかったのに。

 お酒おいしい。あぁ、お酒おいしい。

「お姉ちゃん、それ以上は構わない方がいいとおもうよぉ」

 妹さんから姉に向けて声が掛かる。

 ガチでそれ以上は止めておけって言う感じの。

 あぁ、痛い。心が痛い。

「え、えぇ、そうみたいね」

 伝えられた側も、素直に頷いて応じる。

 どうやら俺はエリーザベト姉妹から愛想を尽かされてしまったようだ。

「偉そうなこと言ってすみませんでした。本当に申し訳ありませんでした。路上に落ちた石ころほどの扱いでも構わないので、どうか、気が向いたら、少しでも良いので、弄んでやって下さい。僕は貴方たち姉妹が最高に大好きです、せめて痰壺にでも使ってやって下さい。どうかどうか、お願い致します」

 金髪ロリ美少女、愛おしい。

 素直に頭を下げて謝罪の所存にござます。

「これは酷いねぇー」

「……そ、そうね」

 連日の飲み会に身体が疲弊している。心の方も疲弊している。

 お酒美味しい。もう、お酒。お酒。

「すみませーん」

 カウンターへ向けて声を上げたところで、バーテンのお姉さんの留守を思い起こす。つい今し方に俺の服を取りに行くと言って飛び出していったばかりじゃないか。

 そんな直前のことも忘れているとは、かなりアルコールが入って思える。少し勢いを付けすぎたようだ。姉妹などまだ一杯目なのに、こちらは既にダブルを三杯。

 ちょっと抑えていこう。控えめ。控えめ。

「つまり、あれか?」

「ん?」

 ふと、隣から千年の声が上がった。

 何事かと皆々の意識が彼女へ向かう。

「私がこいつらの顔をグチャグチャにしてやればいいのか? コイツらがブサイクになれば、オマエも安心してコイツらと一緒にいられるだろ」

「え?」

 どうしてそうなった。

 お酒に夢中だとばかり思っていたけれど、この人、割と俺の話を事細かに聞いていたみたいだよ。かなり飲んでいる筈なのに、普通に受け答えしてくれる。

 俺が見ていた限りでも、今飲んでいるのが五杯目なのに。

「ちょ、ちょっとっ! なんでそうなるのよっ!?」

「あ、あのぉー、それは流石に笑えないんだけどー?」

 途端、全力で焦り始めるエリーザベト姉妹。

 もしも俺がここで頷いたら、本当にやりかねないのが千年だ。彼女の手に掛かれば、圧倒的な自己修復能力を備える吸血鬼であっても、その顔形を未来永劫、奇形に歪めることも、決して不可能ではないような気がする。

 そう思うと、なんて恐ろしい提案だ。

「違うのか?」

「いやいや、それは違うよ千年。彼女たちはブサイクになっちゃいけない」

「そうなのか? でも、それだとオマエは満足できないんじゃないのか?」

「俺の満足は別モノさ。俺は彼女たちの美しい顔が大好きなのだから」

「そんなにコイツらの顔が好きなのか? 性格すげー悪いのに。特に妹のほう」

「なら逆にこう考えれば良い。性格の悪さを補って余るほど顔が可愛い」

「なるほど」

「性格が悪い点に関しては否定しないのね……」

 ボソリ、エリーザベト姉が悲しそうに呟いた。

 これを無視して、俺は言葉を続ける。

 少し頭がイっちゃってる千年に、ここいらで倫理教育だ。

「ということで、彼女たちの顔をグチャグチャにしちゃ駄目だぞ? もしも二人の顔がブサイクになったら、俺はもの凄く悲しい。とてもとても悲しい。恐らく三日三晩、延々と泣き続けるだろう」

「そか。分かった。ならしない」

 すると、素直に頷いてくれるのが、角付き褐色系ロリータ。

「おぉ、千年、アンタは本当に良いヤツだ。大好きだぞ」

「私もオマエのことは、かなり嫌いじゃないぞー」

 なんて嬉しいお言葉だ。千年さん、アルティメット愛してる。

 だって彼女、お話をするときは常に、俺の目を見てくれるんだもの。これがどれだけ嬉しいかと言うと、もう隕石が落ちようと落ちまいと、どうだって良いくらいに嬉しい。

 ただ、そんな俺と千年のラブトークを遮るよう、妹さんがボソリ。

「あのぉー、こっちとしては、凄く複雑な気持ちなんですけどぉ……」

 遠慮がちに右手を挙げて、小さな声に言ってくれる。

 けれど、それは違うよ妹さん。

「え? でも、性格が悪い上に顔まで悪いとか、最悪だろ? 俺は嫌だよ」

「うっ……」

「ハイジ、止めておいた方が良いわよ……」

「……お姉ちゃん?」

「貴方の性格が悪いのは、今に始まったことじゃないのだし、ここで反論したところで、誰にも得はないのだから。事実は事実として受け止めるべきだもの」

「お、お姉ちゃんっ!?」

 想定外のフレンドリーファイアに戦く妹さん。

「ということで、お替わりを注いできて貰えない? 同じヤツで良いわ」

 どうやら姉の方は、いよいよお酒が回り始めた様子。

 空になったワイングラスを片手に揺すり、お替わりをオーダー。

「べ、別に……私、性格とか、そこまで悪くない筈、だもん……」

 他方、妹さんは実姉からの言葉が存外のことショックだったようだ。平素からの元気に陰りを見せては、もそもそとソファーから立ち上がる。

 何やら自己弁解など一人ごちているが、その性格がよろしくないのは誰の目にも明らか。当然、フォローが入ることもない。

 一人でトボトボとカウンターの方へ歩んでいった。

「あ、俺のもお願いします!」

「おー! わたしもー!」

 追撃を掛ける、俺と千年。

「うぅーあー! お酒くらい自分で作ろうよぉー!」

 声高らかに吠える妹さん。

 それでもちゃんと三人分を作り始める小物感は、かなり嫌いじゃない。

 本当に可愛いよ。後ろからギュッと抱きしめたい。