喰らえ、メテオストライク!

飲み会 八

 ある程度だけお酒が入ってしまうと、そこから先、秩序は容易に失われる。

 バーテンのお姉さんが新しいスーツ一式を持ってきてくれて、これに着替えたのも数刻前のこと。酒の席は誰が何をするでもなく勝手に進んで、皆々が良い具合に酔っ払い始めた深夜零時。

 酔ってないのはバーテンのお姉さんくらいのものだ。

「あははぁ? どうせ性格悪いもん、悪いから、こんなこともできるよぉー」

「い、痛っ! ちょ、ちょっと妹さんっ! そこは本当にヤバいからっ! やめっ」

「あはぁ? 痛いの? やーらしー、やーらしなぁー? 潰しちゃおうかなぁ」

「ぎゃぁっ!」

 場所は代わらずバーラウンジのボックス席。千年とは反対側、すぐ隣に腰掛けた妹さんが、俺の息子を握っている。

 それも潰す勢いでグイグイと。

 俺の股ぐらでは、ベルトが外されて、ズボンと下着も下ろされて、露出した我が息子がビンビンと。当然、美少女金髪ロリータに見つめられては勃起は必至。

 これをムンズと掴み、グイと引っ張りあげるのが妹さんだ。

 快感よりも痛みが先行する緊迫感。

 まるで珍種の芋でも掘り当てたように、遠慮無く掴んでは持ち上げてくれる。都合、俺の身体はブリッジ。ブリッジとか何年ぶりだよブリッジ。

 腰が上がって、ソファーに突いた肩甲骨と、床に踏ん張る足とで、辛うじて姿勢を保っている状況だ。非常に不安定な姿勢とあって、全身がプルプル震えている。

 ちなみにエリーザベト姉はトイレに立って今は席に居ない。

「あはは、こんなことされても勃起しちゃうなんて、本当に駄目だねぇ」

「お、俺は妹さんラブだからっ! 愛してるから! 何されても平気だから!」

 愛してるから。妹さんにオチンチン掴んで貰えるなら、どんなリスクも受け入れる覚悟があります。妹さんを孕ませることができたのなら、俺はもう死んで良い。

「へぇ? じゃー、こーいうのはどーかな?」

「え?」

 何故にそんなものが。

 彼女の手にはマドラーが握られていた。

 いつの間に調達したのだ。

「まさかっ……」

「いくよぉー!」

 そ、それだけは、それだけはヤバい。

 伊達に数ヶ月と入院生活を経験していない。

 カテーテルのヤバさは身を持って知っている。

 その痛みは、あ、やめっ、やめぇっ!

「ぎゃぁああああああああああああああ!」

 尿道へガラス棒が突っ込まれた。

 先っぽのスプーン状に丸くなったところが、管に激しく擦れて激烈に痛い。痛いなんてもんじゃない。ヤバい、コレヤバい。ヤバい、ぜんぜん気持ち良くない。痛すぎて叫び声が、声が止められない。

「ぁあ゛ぁああああああああああっ!」

「うっわー、意外と入るねぇー」

 ズブズブと強引に押し込まれるマドラー。

 痛い。痛すぎる。

「ぎゃああああああああ、い、いたっ! いたいよぉおおおおおおっ!」

「あはははははは、かーわいぃ。いまのきみ、凄くかわいいよぉ?」

「やめ、やめて、おねがい、ぬ、ぬいてっ! ぬいてぇえええっ!」

 だけれども、それでも、妹さんが俺のオチンチンに触れているという事実は、あまりにも嬉しくて、ああ、どうしたら良いのだろう。痛い。痛いが、痛いが心が満たされる、この地獄と天国が同居した感覚は。

「いやだよ? ズボズボしちゃうもの」

「ひぃっ!?」

 妹さんの手が上下に動き始める。

 片方の手はオチンチンを握り、もう片方の手でマドラーを出し入れ。

 少し動いただけでも激痛が走る。勢い良く上下された日には、目も当てられない。見てられない。痛い。世界が歪む。痛み以外の感覚が完全にシャットアウトされて、とにかくひたすらに痛い。痛い。

「あああああああああああああああああああああっ!」

「いーぃよぉ? もっと泣いていーぃよぉ? もっともっと、激しくしてあげるぅ。だって、私、性格が悪いもん。だったらいいよね? マドラーをオチンチンにズボズボしちゃっても、なんの問題もないよね?」

「あ゛るよぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 痛い、痛くて、ただひたすらに痛い。以前、エリーザベト姉に日本刀で腹を突かれたときより、青梅で雪女に凍らされたときより、遙かに痛い。こんな痛いものがこの世界にあったなんて思わなかった。痛い、ひたすらに痛い。

 年齢一桁でビックチンポにレイプされる小学生も、こんな気持ちなのだろうか。だとすれば、ああ、俺は過去の自分を戒めねばならない。ごめんなさい。隕石落下の前日に近所の小学生をレイプしようとしてごめんなさい。

 だから止めて、もう止めて。

「オチンチン壊れちゃうよ゛ぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

「あはははははは! いいよっ! 君のオチンチン、私が壊してあげるぅー!」

「ぎゃあああああああああああああああああああっ!」

 激しさを増す妹さんの腕の上下。

 もうヤバい、意識を保っているのが、辛い。辛いのだよ。辛い。

 だがしかし、どうにも気絶することができない。

 痛みだけが与え続けられる。

「あぁあああああああ、死ぬっ! 死ぬっ! 死ぬぅうううううううううううう!」

「可愛いよ、すごく可愛いよ。泣いてる君、私、すっごく好きだよぉ? だぁいすき」

「いやだいやだいやだいやだいやだぁぁあああああああああ!」

 こんなにも心では妹さんを愛しているのに、肉体は彼女の愛撫を受け入れることができない。悲しい、こんな悲しいことがあるものか。あぁ、痛い、痛いよ妹さん。でも、俺の汚らしいオチンチンを手にしてくれてありがとうございます。

 痛みから目を閉じると、暗がりにチカチカと星が散る。

 こんなに痛いのに、俺の性器は勃起収まらぬ。

 妹さんにオチンチンを握られているという事実だけで、股間はフル勃起を継続だ。

「ほらほら、もぉっと激しくズッボズッボしてあーげるぅうっ!」

「あ゛ぁあああああああああああああああああああああああああああああ!」

 過去に覚えのない絶叫。

 そうした瞬間のこと、不意に股間に響いた刺激。

 バキン。

 良い音が、尿道の中から響いて聞こえた。

「あっ……」

「ギャッ!?」

 ガラスに作られたマドラーが、俺のチンコの中で折れていた。

 ちょうど、尿道の口へ入ってすぐの辺りで、ポキンと折れていた。

「い、い゛やぁああああああああああああああああああっ!」

 俺はこの世の終わりを見た。

 一週間後、地球に隕石が衝突します。そう伝えられた際にも増して、殊更に衝撃的だった。全身の肌という肌がざわめいて、同時、圧倒的な絶望感が頭の中を真っ白にさせる。何も考えられない。

 ただただ衝動的恐怖だけが思考の一切合切を占拠する。

「あははははっ、おれちゃったっ! ごめんねー」

「あ、あぁっ、お、おれの、俺のオチンチンがっ……」

「これじゃー、もう取れないねぇー。どうしよう。一生入れたままかも?」

 妹さんがオチンチンをニギニギしながら言う。

 とても楽しそう。

「おれの、お、オチンチン……」

 一瞬、痛みすら消え失せる絶望感。

 どうしよう。

 どうしようオチンチン。

 このままじゃオチンチンが痛いの治らないよ。

「た、助けてよっ! 俺のオチンチンたすけてよぉおおおおっ!」

 妹さんに縋り付く。

 ガチ泣き。

 涙目。

「えー? でもこれもう取れないよ? ほら、触れなぁーい」

 妹さんが人差し指の腹で尿道口を触る。

 ちくわにキュウリを詰めたような感じの。

 僅かばかりを触れる刺激にも、ズキリ、激しい痛みが全身を駆け巡り、堪らず身体はビクンビクンと震える。いつの間にか眦に浮かんだ涙は、際限を知らず、今は頬を伝いだらだらと情けなくも垂れていた。

「お、お願いしますっ! 痛いんですっ! と、取って下さいっ! どうか!」

「もっと大きくなれば、尿道に余裕が生まれてとれるかなぁ?」

「あ、ぎゃ、や、やめっ!」

「たくさん、たくさん、シゴいてあげる。いぃっぱい感じてねぇー?」

「痛い、痛いからっ! やっ、はっ、やめぇええええええっ!」

「えーい、しこしこしこしこしこしこしこしこしこしこしこぉー」

「ぎゃぁああああああああああああああっ!」

 なんて阿呆な。

 マドラーが尿道内に圧迫されて、バキン、バキン、立て続けに良い音を立てる。妹さんの手コキにより、的確に粉砕されてゆくガラス棒。都度、細かく砕かれた欠片が、尿道を内側からザクザクと刺激する。

 あまりにも痛くて、もうまともに話もできない。

「やめっ、いやっ、ああああああああああああっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ! もう無理です止めて下さいお願いします! 痛いです痛いです痛いんですあぁああああああっ! おげやいがやまぇええええええええええっ!」

「あはははははっ! かーわいい! 凄くかわいいぃっ! もっと鳴いてぇ?」

「や゛ああああああああああああああああああああああああっ!」

 血管が裂けたらしく、尿道から血液が染み出てきた。

 身体の内側に異物を取り込んだ、極めて不快な痛み。過去、これほどの激痛は経験したことがなかった。心身共に挫ける。挫けてしまう。このままでは何もかもが終わってしまう。いっそ死んでしまいたい。

 人生を諦める三秒前。

 意志が崩れる寸前。

 そうした頃合のこと、不意に訪れる衝撃があった。

「おーい、うるさいぞぉー」

 それは千年の何気ない呟きと共に与えられた。

 すぐ隣の席で飲んでいた彼女だ。それがふと俺と妹さんの側に向いたかと思えば、次の瞬間、こちらの下半身へ向けて腕を振るう。

 応じて、ズドン、身体を芯から振るわせる、強烈な衝撃が与えられた。

 何事かと視線を向けた先、そこには根元から抉られた俺の性器。竿に含めて玉までもが失われて、皮膚より先、膀胱を露出する断面が、白い骨の合間に窺える。

「……え?」

 尿道から届けられる痛みも、生殖器が失われた痛みも、妹さんから与えられる手コキの刺激も、一瞬、驚きから一切合切が失われる。

 ピューと吹き出す血液。

 これの飛び散る先、見れば妹さんも、肘から先が失われていた。

 俺のチンチンをしごいていた右腕が、忽然と消えていた。こちらの下半身に同じく、断面からはピューピューと、勢い良く血を吹き出している。

 二人の身体が二人の血液で真っ赤となる。

 隣の席の千年も真っ赤になる。

 かと思えば、どちゃり、何かが床に落ちた。ソファー脇の床に、血まみれの肉の塊が二つ。どっちも非常に見覚えがある。あるぞ。あるある。

「……あ、れ? お、おれの……オチンチン……」

「私の……え? 腕ぇー?」

 未だ勃起状態のチンチンを握ったまま、妹さんの腕が空から降ってきた。

 どうやら千年により、性器と腕とは、えぐり取られたようだった。

「うるさいんだから、ちゃっちゃとオチンチン治せよ?」

 淡々と言ってのける千年。

 こっちはそれどころじゃない。

「っ、ぎゃぁ、ああぁああああああああっ!」

「ぎゃぁあああああああああああああああ!」

 妹さんと俺、二人して声も大きく悲鳴を上げる。自尊心や羞恥の微塵として感じられない、酷く本能的で動物的な声だった。正直、どっちがどっちだか分からないほど。少なくとも俺は分からなかった。

 とんでもない痛みだった。

 ただ、そうした時間も永遠ではない。

 新米とは言え、吸血鬼である妹さんは当然。また、俺にしてもここ数日で順当に人の道を踏み外しつつある。しばらくを悶絶していると、ややあって、段々と痛みの引く感覚を覚えた。

 自然治癒だ。

 悲鳴は痛みと共に段々と小さくなり、やがて、患部を自らの目に眺める余裕が生まれる。股ぐらでは徐々に元の形を取り戻しつつあるチンチンの姿があった。

 完全に根元から抉られた筈のチンチンが、ゆっくりと凸に戻ってゆく。

 尿道が、筋が、肉が、血管が。再生されてゆく。

「お、おぉ……」

 感嘆も上がろうというもの。

 ならば、これは妹さんの方も同様のこと。その愛らしい瞳が眺める先、彼女の右腕もまた、俺の性器と同様に蘇生が始まっていた。既に指先まで骨が伸びており、これに肉が生えては厚みを増してゆく。

「ぐっ、うぅっ……」

 苦痛い悶える妹さんも激しくラブリーだ。結婚したい。

 ややあって、俺と彼女は元在った肉体を取り戻す。

 これを眺めて、千年は俺の機嫌を伺うような調子に言った。

「オチンチン、痛くなくなったか?」

 なるほど、合点がいった。

 そういうことか。

 どうやら彼女は俺の為を思って、ひと思いに介錯してくれたようだ。まさか自分で自分の性器を切り飛ばすほどの勇気はない。

 正直、過程は死ぬほど痛かったけれど、終わってみれば助かった。

「ありがとう、ありがとう、ありがとう!」

「なおったか?」

「治った! すげぇ治った! マジでありがとう千年さんっ! 俺はアンタのおかげで、未曾有の尿道バキバキから解放された。もう、もう、もうっ! アンタは俺の心からの恩人だっ」

 少しばかり荒っぽいやり方だったが、それでも彼の苦痛から逃れられたことは、何物にも勝る悦び。九死に一生を得た感動から、堪らず俺は彼女に抱きついてしまうよ。

 千年、なんて愛おしいんだ。愛してる。

 膝を床について、自らの顔を彼女の胸に埋める形。

 平坦ながらも、なんて包容力のあるパイパイなんだ。癒やされる。

「千年っ! 愛してるぞ!」

「おほー、私もオマエのこと好きだぞ。チューしていいぞ?」

「マジか! こうなったら結婚しよう!」

「おー! 結婚だー! 結婚だー!」

「よっしゃあっ! お嫁さんゲットだぜ!」

 千年、小さくて柔らかくて暖かくて気持ちいい。

 ずっと抱きしめてたい。

 胸に顔を埋めて、すりすりすりすり、頬が熱くなるくらいスリスリ最強伝説。

 やーらかくてあったかいなー。

 すごくきもちいい。

 きもちいい。

 背中に腕を回してぎゅーとする。

 あー、千年かわいい。

 しばらく堪能する。

 千年のロリボディーを抱きしめて堪能する。

「なーなー、ところでそれ、どーするんだぁー?」

「え?」

 ロリボディーに顔を埋めて、和服の生地越し、貧乳に頬をスリスリしていた。これに頭上から届けられた呟き。何の話かと彼女の見つめる先、俺もまた意識を移す。

 するとそこには、床にへ落ちた俺の性器と妹さんの腕があった。

「わ、私の腕ぇ……」

「俺のチンチンがっ……」

 呆然と眺める、それぞれの部位の所有者二名。

 新しい腕とチンチンは生え揃ったものの、旧来のそれは依然として床にポトリ。果たしてどうしたものか、なんともやるせない気持ちが胸に溢れる。俺としては部位が部位なだけに、自分の手で捨てるのが、どうにも憚られる。っていうか、痛々しい。

 どうしたものか、続く言葉に悩む俺と妹さん。

 すると、ここに外野から声が届いた。

 トイレに立っていたエリーザベト姉だ。

「オマンコオマンコオマンコォオオオオオオオオオオオオ!」

 これが卑猥な単語を連呼しながら、バタバタと駆け寄ってきた。

 しかも四足歩行。

 どうやらオマンコモードにスイッチが入ってしまった様子だ。地球の寿命も残すところ三日。いよいよ彼女の精神もギリギリだ。崖っぷちだ。

 そういうところも可愛いよぉ。可愛いよぉ。

「お肉ゲットォオオオオオ!」

 我が愛しの彼女は、俺の足下、他人のチンチンと実妹の腕を両手に掴む。

 更に何をとち狂ったのか、これを頭上に掲げる。

 そして、声高らかに宣言した。

「新鮮なお肉ゲットォオオオオオオオオオオオオ!」

 取られた。奪われてしまった。

 新鮮な俺と妹さんのお肉を。

 断面から血液の滴り、けれど、これが身体を汚すことを厭わない。彼女の金髪を鮮烈な赤が染めてゆく。ドロドロに血濡れたエリーザベト姉も、これまた非常に可愛らしい。彼女には血の赤が良く似合う。

 愛してる。ペロペロしたい。妊娠させたい。

「お、お姉ちゃんっ! それ私のっ! だめっ! だめなのぉっ!」

「うふふふふ、だーめ、これは私のぉ-!」

「まてよおいいいいっ! ひとつは俺のだよっ! 返せよぉっ!」

 何が大切なのか、必死の形相に訴える俺と妹さん。

 これにエリーザベト姉は、ニコリ、満面の笑みを浮かべて言った。

「せっかくだし、皆で美味しく食べましょう!」

 オチンチンと腕を自らの胸に抱きかかえて言う。

 それはお酒に頭が蕩けた皆々にとって、非常に魅力的な提案だった。

		◇		◆		◇

「なーなー、まだなのかー?」

「ひっ……お、おまち、お待ち下さいませっ! す、すぐにっ……」

 バーのカウンターで、バーテンのお姉さんが必死の形相にフライパンを振う。

 ジャーキーでも炙る為だろうか。隅の方に小さいながらもガスコンロが備え付けられていた。これを用いての調理である。小柄な割に意外と火力が強い。

 そんな彼女を視界に置いて、他方、カウンターへ並び腰掛けるのが、エリーザベト姉妹に俺、千年の四名。それまで騒いでいたボックス席から移動した。

 各々、フライパンの上に焼かれるものに興味津々である。千年など先程から足を落ち着き鳴くパタパタとさせている。椅子が高くて床まで届かないらしい。

 席順は左端から俺、千年、エリーザベト姉、妹さんの順だ。

「なぁーんか、匂いは普通だねぇー」

「あはははははは、豚肉みたいだわっ!」

「俺のチンチンがっ、俺のチンチンがぁっ……」

 フライパンの上に焼かれているのは俺のチンチン。

 陰茎と睾丸だ。

 内部に炸裂したガラス片は、包丁を入れた段階で、尿道ごと綺麗に取り払われて、残る肉の部分を今まさに、加熱調理している次第だ。

 鼻腔に香る肉の焼ける匂いは、牛や豚のそれと大差ない。

「なーなー! はやくー! はやくしろよー!」

「そうよぉ? 早くなさい?」

「ひっ、ひぃっ!」

 千年とエリーザベト姉の急かすに応じて、バーテンのお姉さんは、ビクリ、ビクリ、全身を震わせる。この場で唯一、お酒を飲んでいない素面が故の気苦労か。

 一緒に飲めば良いのに。

「私は塩がいーなー!」

「あ、私も塩が良いわ。素材の味を楽しむなら塩よねぇ」

「あと、たっぷりの血をおねがぁーい! トロトロでー!」

「あはははは、良いわねぇ。新鮮な血でお願いするわぁ」

 ジュージューとオリーブオイルに焼かれる俺の睾丸。

 既に股間は元通りとは言え、どうにも股ぐらがムズムズとする光景だ。

「え? あ、あのっ、塩はありますけど、流石に血はっ……」

「えー? ないのぉー?」

 ブゥと膨れる妹さん。

 非難の声は仲間を増やすべく、隣に腰掛ける姉へ向かう。

「お姉ちゃん、血がないなんて信じられないよぉっ!」

「そうねぇ。確かにこれは由々しき事態よねぇ……」

 二人の言葉を耳として、バーテンなお姉さんの顔色は急転直下。

 真っ青だ。

 これに構わず姉妹は言葉を続ける。

「だったら、オネーサンが手首を切ればいーじゃん? ね?」

「あー、そうよねぇ」

「でしょー? ほらほら、はやくぅー」

「それとも切って欲しいのかしら?」

 お姉さんの具合が更に悪くなる。

 今にも倒れてしまいそうなほど、非常に顔色がよろしくない。

 更にはガタガタと震え始める。

 腕が震えて、これに支えられるフライパンもコンロの上に揺れるほど。

「か、勘弁をっ! どうか、どうか勘弁してくださいっ! 他のことであれば何でもしますからっ、どうか、どうかそれだけは許して下さいっ! お願いしますっ! お願いしますっ! 何卒っ! ご容赦をぉっ!」

 フライパンから姉妹に向き直り、平身低頭、旋毛を越えて後頭部が見えそうな勢いに頭を下げては、謝罪の言葉を繰り返し始めるお姉さん。

 恐らくは昨日のダンディの一件が利いているのだろう。

 今し方、俺や妹さんが血を流した点も決して小さくない。というか、バーラウンジはどこもかしこも血まみれだ。まるで殺人事件の現場にでも居合わせたよう。

「お願いしますっ、お願いしますっ! どうか殺さないで下さいっ」

 酷く怯えてしまっている。

 可愛そうに。

 幾らロリでないとは言え、金髪の味方である俺は、彼女を救う義務がある。

 ここは一つ、弁護に回るべきだろう。

「おいこらアンタら、この人が手を切ったら誰が肉を焼くんだよ?」

「何を言っているのかしら? 料理などできる訳がないじゃない」

「そーだぞぉー? 自慢じゃ無いけど私とお姉ちゃんは料理できなーい」

「私も無理だぞ?」

 姉妹に加えて、千年からも駄目出しを喰らった。

 だが、ハイそうですかとは折れてやらない。

「いやいやいや、妹さん、以前に学校でお弁当作ったとか言っなかった?」

「え? あんなの嘘も方便だよぉ? 他人の作る美味しい料理を食べ慣れてる私たちが、自分でわざわざ苦労して微妙に美味しくない料理を作るとか、凄く意味ないよぉ」

 嘘だったんかい。

「転校初日から飛ばしてくれるじゃないですか……」

「貴方が料理すれば良いじゃない?」

「お、俺だって無理だよ。っていうか、自分のタマを自分で料理するとか、そんな惨めなことやりたくないじゃん! めちゃくちゃ悲しいじゃん! でも、ああでも、二人には是非とも味わって欲しい、俺の男の子なトコロっ!」

「じゃあ、オマエの血で決定だな!」

 千年が腕を振う。

「え?」

 応じて、彼女の隣に腰掛けるエリーザベト姉の手首から先が吹っ飛ぶ。橈骨動脈と尺骨動脈が合わせて切断されたことにより、大量の血液が噴き出した。

 カウンターを真っ赤に染め上げる。

 都合、切られた当人も切った千年も、二人の両脇に腰掛ける俺と妹さんも、激しい出血により真っ赤となる。これはカウンターを越えて、バーテンお姉さんの下にまで至った。

「ほらっ! あっち、あっち向けろよなっ!」

「いたいたいたいたいたいたいたいたいたいあいあいいいいいいっ!」

 切断したエリーザベト姉の腕を掴み、千年は噴出する血液をコンロへ向ける。出血間際の勢いは大したものだ。飛沫は二、三メートルばかりを飛んで、フライパンに到達した。

 加熱されたそれは、ジュジュウ、予期せぬ液体の浸入に泡を鳴らせる。

 更に血液は、フライパンを越えて、それを支えるお姉さんもまた真っ赤に染めた。俺たちに同じく血まみれである。真っ白な肌に血液の赤は良く映える。

 もう誰もが血まみれだ。真っ赤っかだ。そこら中がベトベトだ。

「ひ、ひぃっ……」

 一瞬、フライパンを放り投げそうになるお姉さん。

 これを寸前のところで我慢して、必死の形相、調理を続行だ。もしもフライパンをコンロから落としたのなら、どのような文句が飛んでくるか分かったもんじゃない。

 涙目で睾丸と陰茎のステーキを焼く。焼きまくる。

 注文はミディアムレアで。

「お、俺のチンチンが、金髪ロリ美少女の血とコラボってっ、う、美しいっ……」

「あぁああああああっ! いたいたいたいたいたいたいぃっ!」

「吸血鬼の癖に痛がりなヤツだなー」

「うっわぁー、お姉ちゃんの血かぁ……」

 しばらくを噴出して、段々と勢いを失うエリーザベト姉の出血。真っ赤なアーチがフライパンまで届かなくなったところで、千年はこれを解放した。

 途端、痛がり吸血鬼の身体は、椅子から転げ落ちて、床へ両膝を突く。彼女は自らの腕を身体に抱きかかえるよう、その場に丸くなった。痛みからの反応だろう。

 そして、カウンターの下に小さくなり、延々と鳴くのだ。

「痛いよぉお、痛いよぉおおおおおおっ! うぅうううううううううっ!」

 泣きわめく姿も最高にラブい。愛してる。

 丸まった背中とか究極的に哀愁を誘う。かなりエロい。

「あはっ、お姉ちゃんの血とか、想像した以上に好みじゃない味だぁー……」

 隣の席では、顔に付着した実姉の血を指で拭っては口に運ぶ妹さん。

 こっちも十分にエロい仕草だ。俺のザー汁でも同じことして欲しい。

 ああ、そうだよ。その通りだ。調味料としてザーメン提供を立候補すれば良かった。いや、今からでも、まだ遅くはない。後乗せドロドロで、美味しく頂ける筈だ。むしろそっちの方が、より生でダイレクトな俺の味を姉妹に知って貰うチャンス。

「あのー、お、俺のザーメンも調味料に使ってっ……」

 いざ提案しようとしたところで、お姉さんが声を上げた。

 悲鳴染みた声を上げた。

「で、できましたっ! すぐに盛りつけますので、お待ち下さいませぇえっ!」

 彼女は大慌て。白い大きめのお皿をカウンター下から四枚ばかり取り出す。これにフライパンの上で焼かれていた俺の睾丸と陰茎を盛りつけてゆく。

 当然、睾丸は二つしかない。なので包丁にスライスしての提供だ。薄く輪切りにされた睾丸が、幾枚か重ねられるようにして皿の中央に置かれる

 その傍らには、まるでエリンギの如く、縦に切られた陰茎が添えられた。四人前に分けられて、普通サイズな俺の竿は、かなり細くなってしまっている。食感が心配だ。

 最後にフライパンの底に溜る血と塩のソースを掛ける。

 これで一品目が完成。

 コトリ、皿が皆々の前に置かれた。バーテンのお姉さんの震える手に、四人分、俺のチンチンのステーキが行き渡る。

 まさか、自分で自分の性器を食す日が来るとは思わなかった。世の中スゲェな。何が起こるか分かったもんじゃない。

「あれ? オマエの分はないのか?」

 一人だけ皿のないお姉さんを見つめて千年が言う。

「わ、わわわわ、私は結構ですのでっ! み、皆様でご賞味下さいっ!」

 これを謙遜と受け取ったのか、鬼ロリは良い笑顔で答えた。

「そかー。オマエ、いいやつだなー」

「申し訳ございませんっ、申し訳ございませんっ、申し訳ございませんっ」

 いつまで経っても平謝りの止まらないバーテンのお姉さんだった。眦にはこんもりと涙が溜まって、弾けて、頬をツゥと伝る。ガチ泣きだった。

 そうこうするうちに、手首から先を新たに生やして、エリーザベト姉、復活。

 のそのそと床から立ち上がり、元在ったように椅子へと腰掛ける。どうやら痛みは去ったよう。顔こそ血と涙とでグチャグチャだが、泣き止んでいる。

「……これが、オチンチンなのかしら?」

 カウンターの上に置かれた皿、その上に盛られたチンチンのステーキ。

 ホカホカと湯気を上げる肉を眺めて、彼女はボソボソと呟く。

「なんか、小さいわよぉ……」

「うっ……」

 なんて心に響く発言だ。

 実は俺も感じていた。

 血液が抜けた上、焼かれて水分の減った陰茎は、かなり小さい。睾丸も袋から剥き出された為か、普段に眺めていたものと比べて、一回り小ぶりだ。つまり、小さい。どっちも小さい。

「あはー! ちょっと美味しそぉー! かわいいよぉー」

「これ、俺も食べなきゃ駄目なの?」

「よーし! 食べるぞー! ごはんだー!」

 皆々、ナイフとフォークにお食事タイムだった。

 生まれて初めて食べた人間の男性器は、正直、かなり歯ごたえがあった。

		◇		◆		◇

 一品目の提供から、小一時間が経過した。

 オチンチンに続く形で、妹さんの腕も皆で食べ終えた。当然、俺としては後者の方が遙かに美味しかった。生まれて初めて食べる美少女のお肉は、最高の味だった。消化するのが勿体ないくらい。ずっと胃に置いておきたいと切に思った。

 それからしばらく、肉の在庫が切れた頃合のこと。

 異性のお肉を食べたことで発情したのか、どうしても我慢ができなくなった俺は、皆々の目前、素直に欲望を言葉にした。妹さんの腕を食べている最中も、ずっと思い描いていた強い願いだ。

「俺、次は君の子宮を食べたい」

 キリっとカッコつけて、エリーザベト姉に。

「え?」

「俺、次は君の赤ちゃんの部屋を食べたい! 食したいっ!」

「え、ちょ、ちょっとっ! 何を言っているのかしらっ!?」

 慌てるエリーザベト姉。

「おー! じゃあ次はコイツの肉だー!」

「ぇええっ!?」

 これに千年が乗ってくる。

 これでの場は俺のモノだ。

「ちょ、ちょっとっ! やめっ! やめぇえええっ!」

 腕を掴まれて悲鳴を上げるエリーザベト姉。

 お酒に酔ってても、嫌なモノは嫌らしい。

 本気で嫌がっている。しかし、そんな彼女の意志に構わず、千年はもう一方の腕に相手の股間を探る。両者は席が隣り合っているので、一連の行動は素早かった。

 痛がり吸血鬼は必至に抵抗するけれど、両者の身体能力の差は絶対だ。どれだけもがこうと、暴れようと、束縛からは逃れられない。

 ワンピース姿は下半身を弄くるに際して、非常に都合が良い。千年は裾下から腕を突っ込み、無理矢理にエリーザベト姉の下着を引き千切る。

 大きくはだけたスカートの下から、オマンコが露出する。晒す当人にしては、異性である俺の視線を気にする余裕すらないよう。両手両足を振り回して必死の抵抗。

 信頼のパイパン。

 肯定の無毛。

 安心の縦スジ。

 エリーザベト姉の生マンコ。可愛い、可愛い、可愛いよぉ。

「あっ、や、やめっ! いやっ、いやあああああっ! 痛いのいやあああっ!」

「じゃー、引っこ抜くぞー?」

「いやあああああああああああああああああっ!」

 千年の指先が五本、エリーザベト姉のマンコ肉へ、プニっと当てられる。恥丘の辺りへと突きつけられる。膣口を押し広げて、奥へ奥へ。

 フィストファックの更に先。

 爪先が膣内の肉を突き刺し、早々に血液が噴き出す。

「いやいやいやっ! 痛いっ、いた、いたぁっ! えぐ、抉ってるっ!」

 手が腕がズブズブと沈んでゆく。

 性器周りの肉を抉り、内側へ、内側へと沈んでいく。

「ぎゃぁあああああああああああああああああっ!」

「んー? この辺かぁ?」

「や゛だぁああああああああああああああああっ!」

 やがて、腕が深いところまで、膣の中に埋もれる。

 千年は目当ての子宮を探して、グリグリと下腹部に手を動かす。その一挙一動に応じて、エリーザベト姉の口からは耳が痛くなるほどの悲鳴が発せられる。ちょっと可愛そうに思うくらい。

 これを受けては、流石の妹さんも恐れを顕わに身体をブルリ震わせた。普段なら軽口の一つでも叩いたろうに、今は眺めるばかり。下手にちょっかいをだして、千年の興味の矛先が自身に移っては堪らないと言わんばかり、身を小さくしている。

 そうした小心者な妹さんもこれまたラブい。

 一方、俺はと言えば、股間をフル勃起。不謹慎ながらも堅い堅い。

 そして、当の千年はグリグリ、グリグリ、どうにも子宮の感触が分からない様子で、腹の内を漁る。真っ白な肌の下、異物の動く様子は酷く艶めかしいものだった。臍の下の辺りで何かの蠢く様子が、容易に見て取れる。

「あーもーわからないぞー? いいや、ぜんぶ出しちゃえ」

「いやいやいやいやあああああああああああああああああああああっ! 私のしきゅぅうううううううううううううううっ! やだああああああああああやめぇてぇええええええええええええ! 出さないでぇええええええええええええ!」

「んしょっ」

 何かを掴んだ千年が、勢い良く腕を引き抜く。

 引き抜かれた側は、これまでにない絶叫。

「あ゛あああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 全身を激しく痙攣させて、エリーザベト姉は失神した。

 ガクリ、首が倒れて一切合切の反応が無くなる。

「とれたー!」

 ワンピースのスカートの中から引き抜かれた千年の手には、何だかよく分からない内蔵器が握られていた。血でどろどろ、ぐっちゃりしている。

 これを抜き取られた彼女は、千年の拘束が解かれるに応じて、ドサリ、またしても床へと転がった。カウンターの下へと横たわった。

 しばらくをビクビクと痙攣していたけれど、それも多少ばかり経つと収まり、ピクリとも動かなくなった。

 まさか死んでいないだろうな。疑問に思ったところで、患部から白い煙のようなものが立ち上り始める。吸血鬼としての強力な自然治癒が働き始めたのだろう。

 良かった、死んでは居ない。千年は彼女を傷つけるに応じて、十分に手加減をしてくれたようだ。一瞬焦った。凄く焦った。

 死ぬほどに痛いとは、まさにこのことだろう。

 泣き叫ぶ彼女も相当に可愛いよ。惚れ直した。

「お、お姉ちゃん……大丈夫?」

「…………」

 妹さんからの問い掛けにも、エリーザベト姉は反応がなかった。

 他方、俺の興味はと言えば、性器を失った当人から代わって、目の前、千年の手に掲げられる肉の塊へ。血でベトベト、形もぐっちょりしていて、正直、何がどうなっているのか、まるで分からない。

「……それが子宮?」

 小さな手に握られた肉の塊を眺めて、俺は呟いた。

 これに千年は小首を傾げて応じる。

「さぁ?」

「さぁってアンタ……」

 なんか膣穴も一緒に抜けたような感じ。クリトリスっぽいものが表皮と共に、端っこにこびり付いている。ただ、他は判断が不可能。

 こんなことなら理科の時間、人体模型でしっかりと勉強しておけば良かった。そうすれば、どこに何があって、今に眺める肉塊も判断がついたろうに。

 千年の引きずり出したそれは、焼き肉屋で眺める小切りにされたコブクロとは、まるで別モノ。なんか、こう、とにかくドチャっとしている。ドチャっと。

 何がどこにあるのか、まるで分からない。膣はどこだ。子宮はどこだ。悩んで悩んで、それでも、どれが何なのか判断できない。

 悔しい。

 屈辱的だ。

 だから、そう、俺は決めた。将来は医者になるわ。医者になって金髪ロリ吸血鬼の内臓とのエンカウントに備えるわ。エリーザベト姉の内臓を隅々まで理解するわ。

 俺の将来は医者しかない。

 そうなれば、今に眺めるエリーザベト姉の肉にも的確な判断を下し、部位を特定し、機能を特定し、迅速なる判断を下せただろう。なんて素晴らしい。

 この性なるお肉に的確な判断と評価を。

「よーし! 俺の将来設計が決まったぞ千年ぇっ!」

「え? なんの話だ?」

「俺は医者になる!」

「おー、そかー!」

「それじゃあ千年、手に持ってるのお姉さんに渡して」

「おーう。分かった」

「大切に扱えよな? 千年。それは俺の大好物だ」

「わかったー!」

 素直に俺の言うことを聞いてくれる千年。

 なんて性格の良い女だろう。

「良い子だぞ千年ー!」

「おほー、たくさん名前を呼んでくれて、なんか嬉しいぞ?」

「おうおうおう、そんなんで良ければ幾らでも呼んでやるぞ、千年千年千年ぇ!」

「おふほー!」

 ドチャリ、カウンターの上に置かれる正体不明な肉の塊。

 パット見た感じグロテスクだけれど、出所がエリーザベト姉の下半身だと思うと、愛が溢れて溜まらない。生のままでも美味しく頂けるのではないかと、咥内に涎が溢れるのを感じる。妹さんの腕を食して、人肉に耐性でも出来たのだろうか。

 妹さんの腕は非常に美味しかった。

 妹さんの一部を食べていると思うと、勃起が止まらなかった。

 なんていうの? 一体感? みたいな。

「ひ、ひぃっ……」

 一方でこちらは一向に震えが止まらないバーテンのお姉さん。

 カウンター越し、卓上に置かれた肉塊に悲鳴を上げている。ガタガタと露骨なほど身体を震わせている。顔色は真っ青を越えて、精気の感じられないゾンビ肌。

 これに千年は容赦なく、且つ、ぶっきらぼうに言ってのける。

「たのむぞー」

「わか、わ、わか、わかり、ま、した……」

 言葉にならない言葉で答えて、彼女は調理を承諾した。

 肉に付着した血液を落とすよう、シンクで軽く肉を洗う。そして、ある程度を濯いだところで、まな板の上に移動。包丁で肉の塊を細切れにする。一口サイズ。

 再びコンロに火が入れられて、フライパンの上は焼き肉パラダイス。当然、味付けは素材の味を生かす塩。美少女吸血鬼の子宮と言ったら塩で決まりだ。

 三度(みたび)、肉の焼ける匂いがバーラウンジに広がり始める。

「なるほど、これがビッチな中古マンコの焼ける匂いか」

「お、おねぇちゃーん、返事しなよぉー」

「…………」

 身体の修復は始まっても、肉提供者の意識は戻らない。余程のこと痛かったのだろう。しばらくは放って置いてやるのが良さそうだ。

 しかしまあ、白目を剥いているエリーザベト姉も相当に可愛い。ヤバい。

 愛し合いたい。地球の寿命が終わるまで添い遂げたい。

 などと思い人を視姦していると、カウンター越し、不意に声を掛けられた。誰かと言えば、他の誰でもないバーテンのお姉さんだ。

「あ、あじ、あじつけはっ……」

「塩でっ!」

 即答の塩。

 納得の塩。

「は、はいっ!」

 ジュージューと良い音を立てるコンロに期待感が高まる。

 匂いは普通だけれど。

「なーなー、私の肉も食べるか?」

「え?」

 肉が焼けるのをワクワク、待っていると千年から声が掛かった。

 隣の席に腰掛けた彼女からの視線は、互いの身長の都合から、自然と上目遣い。こちらを伺うような眼差しとなる。

 褐色の顔肌にギョロリ、蠢いた白く大きな眼球の酷く対照的な色合いは、酷く魅力的で、くらりと来そうになる。っていうか、全力で来てしまって、惚れ直す。

 褐色肌の角付きロリとか可愛すぎる。結婚したい。子作りしたい。

「私の肉も食べるか?」

「え? いいの? マジで?」

「いいぞ。私もオマエの肉を食べたし」

「うぉおおおおっ!」

 なんて嬉しいご相談。何がどう嬉しいのかは、なんかもうよく分からない。

 けど嬉しい。

 だって千年ともっと深く繋がりあえるのだもの。

 俺はもっともっと、千年と深く、長い付き合いを持ちたいと、切に願う。

 だから、故に、お肉コミュニケーション。

 一方、俺と千年の和気藹々としたやり取りを眺めて、バーテンのお姉さんは今にもゲロを吐きそうな顔となる。これだから素面は困る。貴方もお酒を飲みなさい。

 素面の人間とか、だめだよ。

「あー、でもな……」

 とは言え、本日の〆はエリーザベト姉の子宮にしたい。今この瞬間、他の誰よりも愛する吸血鬼の子宮肉で、フィニッシュしたい。塩味の。

 それに千年のお肉は千年のお肉で、ちゃんと味わいたい。数分後にでも倒れてしまいそうな酔っパ状態では頂けない。

 エリーザベト姉のお肉がビッチ肉なら、千年のお肉は大和撫子肉だ。それぞれ味わい方にも相応しい礼儀を持って挑むべきだろう。お肉に対して失礼だ。

「嬉しい、嬉しいよ、千年」

「そか? じゃあ、どこの肉がいいんだ? やっぱり性器か?」

「しかし、その楽しみはまた今度に取っておこう」

「ん、食べないのか? どーしてだ?」

「千年のお肉はまた今度、お腹が空いている時に食べたいんだ」

「お腹の空いてるとき?」

「別に食べたくない訳じゃないよ? 本当だよ? 大好きだよ? だけど、俺は君のことを愛している。そしてそれは酷く紳士的なものであって、こんな酒に酔ったいい加減な状況で食したいものじゃない。と、僅かに残る理性が激しく訴える」

「ほー」

「分かって貰えたかな?」

「オマエって凄く面倒くさいやつだなぁ」

「ありがとう。今はその一言が何よりも嬉しいよ。千年」

 千年さん、物わかりが良すぎる。

 そういう可愛らしいところも愛してる。

「分かった。じゃあまた今度な」

「うん。また今度。本当にありがとうな、千年」

 二人して頷き合う。

 いつの機会になるかは分からないけど、その時はその時で楽しみだ。千年のプニプニオマンコ、恥丘のお肉を食べたい。ああ、素晴らしい世界。

 千年の褐色ロリボディーとか、可愛すぎる。ギュッてしたい。

 ああ、やばい、食べるとか凄い勿体ない気がしてきた。でも食べたい。俺の身体の内側に入れて、消化吸収して、自らの細胞へと昇華させたい。同化したい。

 可愛いよ。千年可愛いよ。愛しているよ。脳の血管が千切れそう。張り裂けそう。ハァハァが止まらない。胸がドキドキする。

 頭がグルグルする。

 この世の全て、何もかもが回っているような。

 ああ、これはあれだ、アルコールのせいだ。

 どうやら、飲み過ぎたようだ。こういうのを泥酔というのだろうか。少しばかり周りの声が遠く聞こえる。すぐ隣にいる千年も、なんかちょっと遠い。

 グルグルだ。グルグル。

 千年から意識を外した先、どうにも手元が、覚束無い。

 瞼を落とせば、何もかもがとぐろを巻いた渦の中に。

 ぐーるぐる。

 だからだろうか、俺はその声になかなか気付けなかった。

「あ、あのっ……」

 脳内をグルグル回していると、バーテンのお姉さんの声が届いた。意識を正面、カウンターへ向ける。すると、そこにはいつの間にか、真っ白なお皿が。

「あのっ、何度もお呼びしているのですが」

「え? あ、あぁ、なに?」

「あの、こ、こ、こちら……」

 彼女の指し示す先、皿の上には焼きたてのお肉だ。

 ご注文の品というやつだ。

 凄い。いつの間に置いたんだろう。

 ぜんぜん分からなかった。

 僅か一瞬に数分という時間が過ぎたよう。タイムワープ。

 これが酒パワー。

「や、焼けました……」

 俺の他、千年やエリーザベト姉妹の席にも同様に皿が並んでいる。当然、盛られているお肉は、愛しの人の子宮に他ならない。焼きたてのホカホカだ。

「あ、お姉ちゃん。焼けたみたいだよ」

「……うぅ」

 いつの間にやらエリーザベト姉が復活していた。さんざん千年に抉られた為だろうか。肉体の自然治癒が徐々に早くなってきているような気がする。

 耐性というヤツか。

「あはははは、子宮って、どういう触感がするんだろう? 私はじめてー」

「ねぇ、ハイジ」

「なぁに?」

「これって私も食べなきゃ駄目なのかしら?」

「彼はちゃんと自分のオチンチンを食べてたよー。塩味で」

「うっ……」

「それに私も自分の腕とか食べたしぃ-」

「っ、うぅ……」

 目前、皿の上に自らの子宮肉が焼かれるを眺めて、続く言葉に詰まるエリーザベト姉だ。その葛藤は俺もまた経験がある。故に良く理解できる。

 意中の異性の肉ならいざ知らず、自らの肉など、という。

 だからこそ、今、彼女に助言できるのは俺しか居ない。

 彼女へ向けて、その背中を軽く押すよう言う。

「更なる高みを目指して、セルフフェラやセルフクンニに挑戦するも、身体が硬くて出来ずに挫折、涙を流す者たちは、この世界に山ほど居るんだ。それに引き替え今の君はどうだ? 与えられた環境に満足して、更なる高みが容易に手の届くところにありながら、しかし、一向に手を出そうとしない」

「だ、だったら何だと言うのかしらっ!?」

「一緒に行こう、俺がアンタを支えるからっ! 永遠に君を愛し続けるから」

「えっ……」

 ポッとエリーザベト姉の頬が赤く染まる。

「さぁ、一緒に食べよう。君の子宮を。熱々のうちに!」

「……わ、分かった、わよ」

 千年を挟んで、互いに見つめ合う。

 フォークに突き刺した肉の一つを口へ運ぶ。

 それぞれのフォークが、それぞれの下へ。

 互いの腕が伸びる先、大きく開かれた口は、俺とエリーザベト姉の。

 やがて、舌に乗せる。

 ならば、口を閉じる。

 そして、噛み締める。

 ゆえに、味わう。

 咥内に広がるのはエリーザベト姉の大切な大切な赤ちゃん部屋の味。

 ザ・子宮。

 ラブルーム。

「あぁ、これがアンタのっ……」

 幸せな味がした。

 これ以上の幸福は存在しないと、確信できるだけの味がした。今この瞬間、俺はこの世界で最も幸せな人類だと言える。最高の味だった。お肉だった。子宮だった。

 彼女の為だったら、どんなことだって出来る。なんだって可能。そう思わせるだけの、絶対的な幸福、究極的な満足、最上級の充実。

 自身が今に湛える感情への肯定が一挙に押し寄せて、この上なく嬉しい。

「あぁ、愛してるぅ……」

 思わず呟く。

 そして、そこまでが俺の意識の限界だった。

 アルコールが回りすぎた。

 意識が限界に達した。

 俺の肉体は椅子から床へ転がり落ちる。

 なんとか、これだけはと、口の中のものを飲み込み、胃へと送り出す。我が愛しき肉片を。そして、これと同時に意識を失った。ブツン、まるで電池の切れたオモチャのように、身体が動かなくなった。

 世界が暗転した。