喰らえ、メテオストライク!

二日酔い 六

 その日の二日酔いは嘗て無い自己嫌悪を伴った。

「……マジか」

 目覚めたのはバーラウンジの床。

 記憶の最後が示す場所。

 ズキズキ、二日酔いに痛む頭を片手に抑えて身体を起こす。バーのカウンターに並ぶ椅子の一つ、その下に胡座をかいて座り混む。

 何にも先んじて目に入ったのは、昨日にも増して酷い有様を晒すバーラウンジの様相だ。まるで猟奇殺人でも行われたよう。

「…………」

 独り言を呟くにも躊躇する有り様だった。

 これと同時に、胃液が口元まで迫り上がるのを感じる。酷く気持悪い。吐き気は胃の不調から来るものではなかった。それは昨晩に自らの経験した悪食が全て。人肉を食したことへの嫌悪感だった。

 壁に掛けられた時計を眺めれば、時刻は正午を多少ばかり過ぎた頃合。意識を失ったのが午前一時から二時の間であったことを鑑みるに、都合、十時間以上を経過している計算だ。当然、酒も完全に抜けている。

「もう、消化されてるって……」

 吐き出そうにも、対象は既に吐き出せないところまで進んでしまったろう。今頃は糞となって、大腸のあたりで臭くなっているに違いない。そう思うと、酷く申し訳ない気持ちが溢れ出す昨今。

 お酒ヤバい。

「あぁ……」

 俺はなんてことをしてしまったんだ。

 両手に頭を抱え込んで嘆く。自己嫌悪がハンパない。そりゃ確かにエリーザベト姉妹のことは食べてしまいたいくらいに好きだ。大好きだ。

 しかしながら、泣き叫ぶエリーザベト姉を楽しんでいたというのが、あまりにも申し訳ない。妹さんも一時は一緒に笑っていた気がするけれど、それはそれだ。

 とは言え、今は他に為すべきことが山のように。

「……まあ、なるようになるだろ」

 嘆いてばかりもいられない。

 フロアは相変わらずの血まみれ。最後に確認した際と比較しても酷い。俺が意識を失ってからも、他三人は飲んでいたのだろう。バーの周囲のみならず、リビングまでもが血まみれだ。真っ赤だ。

 ゆっくりと立ち上がり、部屋の様子を見渡す。

 エリーザベト姉はリビングのソファーで眠っていた。妹さんはバーのソファーに横たわっている。そして、千年はリビングの床で仰向けの上、大の字に。何故か全員、共に素っ裸である。

 バーテンのお姉さんの姿は窺えない。

「…………」

 本来なら姉妹の裸体に欲情すべきところ。

 けれど、股間はまるで反応しないし、逆に気が滅入るばかりだ。

 エリーザベト姉、あんな可愛いのに。

「とりあえず、起こすか」

 業者を呼ばせて掃除をせねばならない。床や壁はおろか、天井にまで血飛沫の飛んだ部屋では、流石に落ちけない。我が家の惨状とドッコイか、それ以上である。

 稲荷神社からパクってきた日本刀とか、何故か天井に刺さっているし。

 ということで、妹さんの下へ向かう。

 性格は悪いが、この三人の中では一番に話が通じる。

「おーい、おーい」

 ソファーへ横になり、だらしなく足を開いては眠る妹さん。片方の足はソファーの背もたれの上。もう片方の足は床へだらり。

 見事に開かれた股ぐらには否応なく目に入るオマンコ。姉と同様にパイパンだ。産毛のうの字も窺えない。小陰唇がビラビラしていたりもしない。

 堂々たる縦スジ一本。

 パット見た感じ、大変な処女感なのだけれど、これで中古というのだから、世の中、何を信じて生きれば良いのか。女という生き物が信じられなくなる。

「…………」

 こんなに可愛いのに。本来なら写真の一枚でも撮影して、一生の宝物にしたろう。凄くプニプニで艶々で、なんかもうキラキラ輝いている。

 しかしながら、今は彼女たち姉妹を前にすると、どうにも罪悪感が先んじて、それ以上を踏み込むことができなくなってしまう。

「おーい、昼だぞー。起きようよー」

 ペチペチと頬を叩く。

 数度ばかり繰り返したところで、彼女は目を覚ました。

「……ん、うぅ……」

 瞼が開かれる。

 姉と同じ碧色の瞳が、ギョロリ、大きく動いては俺の姿を収める。

 二人の目と目が合う。

「おはよう」

 当然、返されたのは辛辣な言葉。

「……最悪の目覚めだよぉ。いきなりその顔はないよぉー」

 起床直後から大した軽口を叩いて下さる。

 ただ、そんな不貞不貞しい態度も、自らが素っ裸であることを理解した途端、早々のこと焦りと羞恥に飲み込まれた。

 彼女は自身の置かれた状況を理解して、大慌てソファーより身を起こす。同時に床を蹴っては跳躍、俺から数メートルばかり距離を取った。

 一連の挙動は、まるで熱いものにでも触れたよう。とても俊敏だった。逃げられた側としては、割とショックだ。

「えっ、なっ、どうしてぇっ!?」

「いや、しらんがな」

「っ……」

 酷く慌てた様子で、彼女は身を翻す。人間離れした跳躍に窓際まで移動。丈長なカーテンをレールから引き千切る。それを身体に巻き付けて、胸や秘所を隠した。

 都合、部屋にはガラス窓から差し込む陽光。

 窓ガラスから差し込む太陽の日差しを受けて輝く妹さんの姿は、それはまるで天から舞い降りた女神のようだった。一目惚れも致し方なし。

「おぉ、まるで女神のようだ……」

「……どれだけ褒めても、君にはヤラせてあげないよぉー」

 頬を羞恥に染めながら、それでも憎まれ口を叩く妹さん流石です。

「一つ、聞いてもいい?」

「な、なぁにー?」

「なんで裸なんですかね?」

「知りたいの?」

「凄く知りたいです」

「だぁーめ。教えてあげない」

「無念……」

 昨晩の出来事を思い起こしてだろう。少なからず焦りの垣間見える妹さん。それでも必死に体裁を取繕う様子は素直にカッコ良い。彼女の自尊心は相当なものだ。

 もし俺が同じ立場だったら、速攻でファビョって悲しいことになる。

 自分のような底辺野郎からすれば、妹さんの掲げるプライドは一種の憧れ。凄く輝いて思える。こうなりたいとは願っても、決して届かない地点。羨ましい。

 彼女はフロアをグルリ見渡して言った。

「しかしなんかもぉー、色々と凄いことになってるねぇー……」

 つい先程に俺が得たものと同様の感慨を胸に抱いてのことだろう。

「とりあえず、清掃業者を呼んで貰えない? 酷いよこれ」

「そうだねぇ」

「あと、あの二人に新しい服が欲しいんだけど……」

 俺は全裸なエリーザベト姉と千年を視線に指し示して言った。

 目のやりどころに困る。

「あはー、もしかして勃起しちゃった? お姉ちゃんのオマンコ見て」

「正直、襲って孕ませて結婚したいと思いました」

「うっわ、さいてー。……もしかしてヤっちゃった?」

「いいや、残念ながらまだヤってないの」

「ふぅーん……」

 ジロジロと人を値踏みするような視線を向けてくれる妹さん。本来なら不快に思うべきところだけれど、彼女が相手となれば、これもまた快感に変わる。

 意中の相手から意識的に見つめられて、自然と胸の鼓動が早くなった。素肌にカーテンをまとっただけの彼女は、とても魅力的だ。女神だ。

「ま、別にいいけど」

「それよりも今は、先に部屋を掃除してくれよ。凄いじゃんこれ」

「そうだね。昨日にも増して酷いよ。大半はお姉ちゃんが原因なんだけど」

「え? マジですか」

「まーねー」

 昨晩、俺が気を失ってから何があったのか。気になって仕方が無かった。とは言え、きっと妹さんは教えてくれないし、姉の方は覚えていないだろう。可能性があるとすれば千年だ。後でこっそり聞いてみようか。

「ところで、妹さん」

「なーに?」

「お姉さんって彼氏とかいるの?」

「え、なに? もしかして君ってば、お姉ちゃんのこと本気で狙ってるの?」

「当然ですが」

「本当に諦めが悪いねぇ」

「ゾッコンなんで」

 いつか尋ねようと思っていたことだ。

 当人の眠っている今がチャンス。

「お姉ちゃん、とんでもない面食いだから、絶対に無理だと思うけど」

「その点は大丈夫。整形も視野に入れてるんで」

「えぇー、でも君の場合、メスを入れた時点で治っちゃうんじゃないかなぁ?」

「あっ……」

 今更ながらに気付かされた。そのとおりです。

 俺の保有するブサメンには、整形という最後の手段すら残されていない。

 千年が俺にくれた呪いだ。永遠のブサメン。未来永劫、どれだけ時が過ぎようとも、俺はこの醜い顔を世間に晒して、無様に生きてゆかねばならないという、それはそれは恐ろしい呪い。

「間抜けだねぇ。っていうか、どうしてお姉ちゃんなの?」

「だって金髪ロリ美少女じゃん? 最高じゃん? 彼女は美しい」

「金髪ロリが好きなの?」

「うん、大好き」

「ロリコンなの? それだけなの?」

「ロリコンなの。それだけなの」

「うっわぁー……」

 性癖を素直に伝えたところ、妹さんは一歩を後退るほどに引いてくれた。眉間には露骨なまでにシワが寄っている。

 どうやら本当に気持悪いと思っているようだ。けれども、好きなものは好きなのだから仕方が無い。自分の気持ちには嘘なんてつけません。

「まぁ、気長にやるか……」

「何年待っても無駄だと思うけどねぇ」

「どうせ他に好きになる相手も居ないし、何年かかろうが、何世紀かかろうが、俺はアプローチ掛け続けるだけなのさ。マジで一途だし。最高に初心だし」

「最悪のストーカーだね」

「その通りだね。差し当り千年を出汁に使って、本日から同棲を強行します」

「理解してるなら諦めようよぉ。それじゃストーカーっていうより強姦魔だよ」

「大丈夫。最初は和姦って決めてますから」

「いやいやいや、そういう意味じゃなくて。あと、巻き込まれる私の身にもなってよ。せめて自宅にはちゃんと帰ろうよ。昨日と今日でぜんぜん落ち着けないんだけどぉ」

「細かいこと気にしてるとハゲるよ?」

「吸血鬼はハゲないからぁ!」

「それに君も、お姉さんと同じ金髪ロリ吸血鬼なわけで、俺としては相当に好みのタイプなんですよ。出来れば仲良くしたいとか、切に思っているんですよ。愛してる」

「お、お姉ちゃんで満足しといてよぉっ」

「ふひひ、さーせん」

 殊更に眉を潜める妹さん。

 それからしばらく、彼女と共に軽口を叩き合いながら、昨晩の後片付けを行った。着替えを用意したり、清掃業者を呼んだり、財布やら何やら紛失物を探したり、シャワーを浴びてスッキリしたり。眠りこける美少女たちを起こしたり。

 なんやかんやで落ち着きを得る頃には、午後二時を過ぎていた。

 案の定、エリーザベト姉は何も覚えていなかった。