喰らえ、メテオストライク!

二日酔い 七

 片付けを終えて以後は例によって姉妹のお仕事に同行となった。

 部屋の清掃だけは、早々に終えられる筈もなく、本日の晩まで掛かるとのこと。と言う訳で、慌ただしくも部屋に出入りする清掃業者をマンションに残して、我々はリムジンに乗り込み移動である。

 向かう先は本日発射予定のラッキー砲が所在する、姉妹曰く、本部とやら。

 今はその車上での打ち合わせの最中にある。

 目覚めから小一時間を過ぎて、皆々、だいぶ気を持ち直して思える。気持悪いとか頭痛いとか、典型的な二日酔いの訴えも、段々と頻度が下がりつつあった。代わりに問題となるのが、昨晩の記憶を失ったエリーザベト姉の言動。

「っていうか、本当に何も覚えてないんだねぇ、お姉ちゃん」

「あ、呆れないで欲しいのだけれど? 仕方ないじゃない、体質なのだからっ」

「そうだねぇ。でも、知らない方が幸せかも。むしろ私は羨ましいよ」

「ちょっとっ、そういう言い方は余計に怖いわよっ、本当に何があったのよ!?」

「伝えずにいてあげる私の優しさに感謝するといいよ」

「え、あの、そんなに? ねぇ、ハイジ、そんなに私って……」

 まあ、打ち合わせとは言っても、適当に駄弁っている限りだけれども。

 車内は座席が二つずつ向かい合わせに配置されている。俺と千年、エリーザベト姉と妹さん、それぞれ並び腰掛けては、足の短いテーブル越し、正面から向かい合う形だ。

 僅か数日の付き合いながら、この配置にも随分と馴染んで思える。足を組んで寛げる程度には慣れた。少しだけリムジンが身近なものに感じられる。

「あのー、妹さん」

「なぁに?」

「俺、なんか罪悪感がハンパないんだけど……」

「だったら初めから飲ませなければいいのに」

 恐る恐る言うと、妹さんから即座に非難が飛んだ。

「いやいやいや、昨日はそっちも普通に飲んでたような! 穏やかに!」

「あれのどこが穏やかだったのかなぁ?」

「俺の記憶が正しければ、切っ掛けは妹さんだったと思うんですけど」

「……まぁ、その点は否定しないけどぉ」

「え? ちょっと、貴方なのっ!? ハイジっ! また何かしたのっ!?」

「え、えー? だって、なんか気持ち良くなっちゃったから、少し……」

 ギャーギャーと賑やかなエリーザベト姉妹。仲の良いことで。

 ちなみに千年は未だに寝ている。

 身体を椅子へ横たえて、俺の太股を膝枕に心地よさそうな寝顔を晒す。かなり遅い時間まで飲んでいたようだ。スースーと規則的に繰り返される寝息は、どうにも酒臭い。

「なぁ、千年っていつまで飲んでたの?」

「さー? 私たちの方が先に潰れちゃったから分からなぁーい」

「っていうと、コイツが最後か」

「そうなるねぇ」

「ねぇ、ちょっと良いかしら?」

「なんすか?」

「わ、私には尋ねないのかしら? なんでハイジだけ?」

「いやいやいや、アンタそもそも記憶がないじゃん」

「ぐっ……」

 悔しそうな表情となるエリーザベト姉を正面に眺めて、本当に阿呆な子だなぁと、心をほっこりさせる。俺も決して頭が良い方ではないけれど、この子はそれ以上にアホだから、どうにも近親感が沸いて止まない。

 頭が悪いというよりは、悪い意味で天然なんだろう。

「まあ、他では幾らでも聞きたいことはあるんだけどさ」

「なにかしら? 変なこと聞いたら殺すわよ?」

「あとどれくらいで到着するの?」

「……え?」

「アンタらの本部とやらまで、あとどれくらい掛かるんですかね?

「あ、え、えっと、そうね……」

 俺からの問い掛けを受けて、少しばかり慌てた様子で窓の外を眺める。

 今に走っているのは片側三車線、都内を横断する基幹道路の追い越し車線。スモーク処理の為された窓ガラスの先、視界に映るのは隙間無く立ち並ぶ高層ビル群。都会も都会のど真ん中である。

「あんまり遠いようなら、ちょっとトイレ休憩とか……」

 彼女は俺の言葉を遮るよう、こちらを振り向いて言った。

「かなり近いわね。あと数分くらいかしら?」

「…………」

 このコンクリートの森で、果たして彼女たちは如何様に、数多の人外連中を集めて、更には長きに渡り囲っているのか。甚だ気が気でない居心地となった。

 どうにも胸がざわめく。