喰らえ、メテオストライク!

終末 三

 妹さんが運転するヘリに揺られて、一路、やって来ました我が学舎。

 着陸は屋上スペースとなった。

「っていうか、お宅の妹さん、凄いハイスペック」

「なにがよ?」

「いや、ヘリの運転とか、普通に格好いいじゃん」

 マジでロリコプター。

「別にヘリくらい、私だって運転できるわよ。むしろこんなオモチャ、満足に動かせない方がおかしいんじゃないかしら?」

「まるでヘリが運転できない俺が駄目みたいな言い方はやめて」

「貴方は仮にヘリを運転できても駄目だから安心なさい」

「そっすか」

 ローターが停止したことを確認して、一同、屋外へと降り立つ。幸いにして、世間の騒動も同校の屋上にまでは至っていない様子だ。

 移動経路を空に取ったことで、ここへ至るまで、取り立てて面倒に遭遇することなく済んだ。費やした時間も十分やそこらだ。

「それでぇ、これからどーするのぉー?」

 パイロット用のヘルメットを運転席に放り込んで、最後に妹さんがやって来る。

「とりあえず、教室に行きたいかな」

「そう。なら行きましょう」

「おー!」

 エリーザベト姉の言葉に千年が腕を振り上げた。

 屋上を後として、棟内に移動である。

		◇		◆		◇

 学校に人気はほとんどなかった。

 人類終了のお知らせが登校時間より以前に告知された為、大半の生徒は登校を諦めたのだろう。恐らくその行動は三分される。自宅に引き籠り最後の瞬間を待つか、世間に出て欲望の限りを尽すか、好き合った相手と乳繰り合うか。

 個人的に最後の選択を取ったヤツは隕石云々を抜きにしても死ねと思うよ。

「思ったよりも静かね」

「だなー」

「ちょっとつまらない感じぃー?」

「まあ、その方が最後っていう雰囲気があって良いだろ」

 ちなみに今の姉妹は、同校指定の制服姿だ。気分を出す為なのか、わざわざ着替えてからの登校である。妙なところで細かい。

 他方、俺と千年は昨晩と変わらずスーツに和服だ。

「本当に静かだねぇー」

「流石にこうも静かだとつまらないわね」

「いやいや、こういうのが風情あって良いんじゃん」

「そうかしら? 面白くないわよ」

「そうだよぉー」

「まったく、これだから海向こうの連中はわびさびというものが……」

 姉妹からの暴言に愚痴の一つでも呟こうと思った。

 そうした最中の出来事だった。

「いやあああああああああああああああああっ!」

 大きな悲鳴が届けられた。

 本心から嫌がって思える、いやああああ、だった。

「ほらみろ、アンタらが要らんこと望むから、こうなる」

「今の悲鳴だよねぇっ!? いく? 行くよねっ!」

「ちょっと、どうして楽しそうなのよ、ハイジ」

「そういうお姉ちゃんだって、そわそわしてる癖に」

「わ、私は別にっ!」

 なんて不謹慎な姉妹だ。

 とは言え、俺も少なからずソワソワ。

 自然と脳裏に蘇ったのは、つい先刻に眺めたテレビ放送。

 小学生の貴重な集団レイプシーン。

「あっちから聞こえてきたな?」

「ナイスだ千年っ! よし、行くぞっ!」

 千年が指し示す側へ向かい、俺たちは勢い良く駆けだした。

		◇		◆		◇

 辿り着いた先は何の因果か、俺が通うクラスだった。

 そして、そこで目撃する衝撃的な光景。

「うわー、レイプだぁー」

「あら本当」

 エリーザベト姉妹の言葉が示すとおり、同教室では今まさにレイプの儀が執り行われようとしていた。部屋の中央、一人の女子生徒を取り囲んで、数名の男子生徒が輪を作っている。

 前者は制服を引きちぎられて半裸。後者は半数が全裸だ。

 しかもその全てに俺は見覚えがあった。何度を確認しても、クラスメイトである。それも男連中は、同クラスでもイケメンで優しいと女子から人気のある谷沢君と、その仲間たちである。

 女子生徒の方は、多分、学年でも評判の美少女な佐藤さん。

「あぁっ!? コジマちゃんじゃん!」

「それにハイジちゃんもいるじゃん!」

「うぉおおおお、マジでラッキー!」

 男連中はエリーザベト姉妹の姿を見つけて、歓喜を上げた。

 内数名はこちらが何を言う間もなく、わらわらと歩み寄ってくる。彼らが何を考えているのかは、愚鈍な俺にだって手に取るように理解できた。見事にフルボッキした股間の肉棒が伝えていた。

「いやぁーん、おねえちゃん、私たち、犯されちゃうよぉー」

「あら、これは大変ねぇ」

 飢えに飢えたクラスメイト。

 俺にしても、昨晩の一件がなければ、同じように動いていただろう。

 エリーザベト姉妹の魅力は異常なんだよ。

「おら、こっち来いやっ! 犯してやんよ!」

「俺ハイジちゃんのオマンコとったー!」

「じゃあ俺はコジマちゃーん!」

「んじゃあ、俺はこっちの黒い感じのロリね-!」

 まるで薬物でもキメたようにハイな連中だった。

 その手がエリーザベト姉妹及び千年に伸びる。

 けれど、指先は何に触れることなく終わった。ある生徒は股間を蹴り上げられて。ある生徒は脛を蹴飛ばされて。ある生徒は上下真っ二つに分断されて。一様に床へ転がる。若干一名の被害が甚大であるのは、その担当が千年であった為だ。

 他方、俺はと言えば、彼らを迂回して女子生徒の下へ。何の為かと言えば、当然、乱交の宴へと混じる為だ。正直、レイプとか最高に興奮する。昨年くらいからは、好みのロリッ子を除いて、陵辱系でしかヌケなくなってしまった我が肉体。

「俺もまぜてくれぇええええ!」

 全力に駆け寄って、今まさに女子生徒の膣へ陰茎を挿入しようとしていた男子生徒へ渾身の跳び蹴りを喰らわす。正常位で挿入しようとした、その肩の辺り目掛けて、手加減すら忘れての一発だ。

 同級生に暴力を振るうなんて、生まれて初めてのことだった。

 そもそもこうして意見したことすら、思えば初めてなんじゃなかろうか。

「ぎゃっ!?」

 俺に蹴り飛ばされて、男子生徒は吹っ飛んだ。

 ガシャン、窓ガラスを割って屋外へと消えていった。しばらくして、ドスン、地面に落ちたようで、低い音が静かとなった教室に届けられる。想定した以上に軽かった。まるで空き缶でも蹴飛ばしたよう。

 ちなみにここは地上三階。

 結果、都合四名、教室内に存在した男子生徒は一掃された。

 僅か数秒の出来事だった。

「まったく、下らないわね」

「あーもう、なんかリアルに幻滅しちゃったよぉー」

 妹さん、その言い方は将来性に難有りだから、止めた方が良いと思う。

「あっ、あ、あぁ……」

 一息ついて見下ろした先、床には制服を剥かれた女の子の姿。スカートと下着は脱がされて性器は露出。ボタンを飛ばされて、シャツは大胆にも胸の全てを露出させていた。ちなみに乳首はピンと立っている。レイプでも興奮したのだろうか。

「……あ、あの、だだだ、だ、大丈夫ですか?」

 同級生のあられも無い姿を確認。

 ふと冷静になって、俺はどうにも緊張。

 めちゃくちゃ噛みながら問い掛けた。

「田中、くん……」

「これ、き、着ると、いいんじゃ、な、な、ないかな?」

 今まで羽織っていたジャケットを脱いで、その身体に掛けてやる。

 ふぁさぁってヤツだ。

「あ、ありがとう……」

「どどどっど、ど、どういたしまして」

 異性の同級生から感謝の言葉を貰うなんて、生まれて初めてのことだった。

 ヤバい。緊張が凄い。上手く話せない。

 全身がカチンコチンに固まってしまう。舌ベラも思うように動かない。

 だって相手は学園でも指折りの美少女。;

 だからだろうか、背後から冷やかしの声が届く。

「貴方、何を噛みまくっているの? 馬鹿なの?」

「それは流石に気持悪すぎだよぉー?」

 エリーザベト姉妹である。

「し、仕方ないだろっ!? こんなの初めてだし! っていうか、同世代の女の子と話するなんて、年に数回しかない一大イベントだぞっ!? 緊張するなって言う方が無理な話だろうがっ!」

「何マジギレしてるのよ? っていうか、私とハイジはどうなるの?」

「そうだよぉー」

「アンタらは人外だから別枠だ。殺るか殺られるかの関係に遠慮なんて無理だ」

「な、なによそれっ」

「えー、流石にそれはちょっと酷いんじゃないかなぁー?」

「いやだって、仕方ないだろ? 緊張するものは緊張するんだよ。それもは、は、は、裸なんだぞっ!? こんな可愛いクラスメイトの女の子と、しかも裸でお話とか、したら、したら、お、おお、俺みたいな底辺、緊張するに決まってるだろっ!?」

「あはぁー、お姉ちゃん、これ重傷だよぉ? あと、私たちの裸の価値が地に落ちたよぉ?」

「ええ、普通に苛立たしいわ。これほどの侮辱はないかしら? 同い年じゃない」

 テンパってしまう。

 相手はクラスの垣根を越えて、学年でも可愛いと評判の佐藤さん。

 いいや、学年さえも越えて、我が校を代表する美少女の佐藤さん。

 文武両道の才女で、誰にも分け隔て無く接する心優しき佐藤さん。

 同学年に限らず、他学年からも数多く告白を受けた経験のある彼女だ。そんな人がレイプされる瞬間に遭遇とか、緊張せずには居られない。俺みたいな学園カーストの底辺を彷徨うヤツからすれば、声を掛けることすら憚られる手合いである。

「あ、あの、田中くん……」

「え? あ、はい、な、なんでしょうっ……」

 佐藤さんから声を掛けられて、咄嗟、ピンと姿勢を伸ばして直立。

 彼女に限らず、異性との接触に際しては、どうしてもこうなる。更に上手く舌が回らなくて、ついでに気の利いた言葉も喋れなくて、いつだって気まずい空気製造器になる俺マジでブサメン。

「あの、ありがとう。助けてくれて」

「いやいやいや、とんでもない。人として当然のことをしただけですから」

 対人恐怖症とでも言うのだろうか。

 どうしても、クラスメイトと話をするに緊張する。

 エリーザベト姉妹の前では素直に軽口を叩き合えた。けれど、それは一重に相手が人外であるからに他ならない。

 どうしても、どうしても、こうして自らの日常に身を置いては、上手く他人と会話をすることが出来ない。特に異性となると、酷く顕著な傾向を見せる。

 困ったものだ。

 全てはブサメンが悪い。本当、ブサメン最低。この絶望的なコミュ障を形成する百の理由は百がブサメンから来ているんだよ。あぁ、ブサメン。ブサメン。

「た、田中くん?」

「あ、いや、ごめん、ちょっと考えごとしてて」

「……本当にありがとう。あの、もう駄目かと思った」

「そ、そう。良かった。無事で」

「うん……」

 俺の放ったジャケットをギュッと握って、背を丸ませる佐藤さん。

 すぐ近く、血を吹き出して絶命する同級生が倒れているのだけれど、それでも悲鳴を上げずに耐える彼女は、きっと肝っ玉の大きな女なのだろう。

 なんて出来た人だ。素晴らしいね。

「あの、田中くんはどうして、学校に?」

「え? あ、いや、ちょっと学校とか、気になって……最後だし」

「そう、なんだ……」

 凄く気まずい。

 これ以上無いくらいに話が続かない。

 っていうか、今この場で俺と彼女は話を続ける必要があるのか。

 無いような気がするぞ。

 なんて考えていると、佐藤さんから反応が。

「ところで、あの、エリーザベトさんたちは……」

 その視線が俺の後ろへと移る。

 彼女の見つめる先、そこには並び立つエリーザベト姉妹の姿が。

 十分な手加減の上、返り血も回避した同姉妹だから、今日のところはまだ奇麗。どうにも自ら進んで他人の血を浴びる傾向があるから、一緒に行動する身としては、気が気でないのが素直なところだ。

 何故なら彼女たちが濡れるときは、俺も一緒に血みどろがよくあるパターン。

「佐藤さん、だったかしら?」

「やっほー、二日ぶりかなぁー?」

 無駄に陽気な姉妹からの言葉を受けて、他方、佐藤さんは困惑気味。

「あ、は、はい、二日ぶり? だね」

 それでも必至に言葉を返す様子は、流石はコミュエリート。

 半端ないコミュニケーション能力だ。

 伊達に学園カーストの頂点に君臨していない。

「立てるかしら?」

「え? あ、う、うん……」

「こんな日に外出なんて、レイプ願望があると思われてもしかたないよぉー?」

「いや、あ、あのっ! それはっ、わ、私はただ、学校が気になって……」

 妹さんの容赦ない言葉を受けて、佐藤さんは必死の形相に言葉を返す。

「最後くらいは、その、ふ、普通に学校に通いたいって思って、だから」

「ふぅん? どこかで聞いたような話かしら」

「そうだねぇー」

「え?」

 ちらり、俺に視線を向けてくれるエリーザベト姉妹。

 だから何だと言うんだ。

「いいえ、何でも無いわ。こっちの話かしら」

 首を傾げる佐藤さんに対して、忘れて頂戴と語るエリーザベト姉。

 俺は話に混じるのが億劫なので黙っとく。

 けれど、そんなこちらの意志など知らず、妹さんから声が。

「それでぇー、これからどーするのかなぁ?」

「いや、どうするって言われても……」

 都合、場の視線が一様に集まる。

 エリーザベト姉妹は良い。むしろもっと見てくれ。俺はアンタたちに見られると、例えどんな無様だろうと嬉しい。最高だ。愛してる。千年も同じだ。最高にラブいよ千年。

 けれど、佐藤さんに見られると、どうしても駄目だ。緊張する。同じ学校に通う、同じ人間の、同じクラスメイトの、けれど、自分とは性別の異なる相手だから。

 頭が真っ白になる。

 師匠を除けば、女の子と話をした経験なんて、片手に数える程しか無いんだ。

 うああああああ。

 駄目だ。駄目だ。駄目だ。

「じゃ、じゃあ、お酒でも飲もうか」

 だからだろう、俺の口からこぼれた言葉は、酷く情けないものだった。