喰らえ、メテオストライク!

終末 六

 隕石は果てしなく大きかった。

 空の青を追い越して、背中に我が母星を望む。酸素だとか、窒素だとか、オゾンだとか、そういう一切合切を突き抜けた先、パッと見た感じ、ザ・宇宙という空間に、俺は千年と共に浮かんでいる。

 そして、向かう先、隕石が迫る。

 並んで二つも。

「力の使い方は、実地で覚えろ?」

「え? あの、千年……あ、ちょっ!?」

 お姫様だっこが解除された。

 慌てる。凄い慌てる。

 手足をバタバタ。

 けれど、何故か落下していかない不思議。

 ついでに風の抵抗もない。

「今は同じ速度で落ちてるから大丈夫だぞ?」

「え、あ、うぉっ!?」

 なんかこう、あれだ。一方的にアホの子だと思っていた千年から、しかし、航空力学的なことを説明されて、ちょっとばかりショックを受ける。実は凄く頭が良いとか、そういう感じだったら、更に惚れてしまうよ千年。

「障壁も張ってる。呼吸できるぞ」

「いや、もう、何が何だか……」

 まあ、細かいことは良い。

 今は目の前の隕石をどうにかするのが大切だ。

「んで、千年、これからどうするの?」

「あれをぶっ壊して欲しいんだろ?」

「いや、まあ、そりゃそうだけど、下手に砕いても、破片とか凄くない?」

「おー、破片、破片かぁー」

「大丈夫か?」

「じゃあもう、全部、まとめて向こうにやっちゃうぞ」

「え? ど、どうやるの?」

「黒いモヤモヤあるだろ?」

「お、おう」

「それを、こう、前に出して、ドバ―って感じだ」

「いや、千年、そんな適当な……」

 相変わらず大雑把な。

 そこが千年らしいと言えば、まさにその通りなので、決して嫌いではないが。

「ちゃんと力の使い方を覚えるんだ。こんな石ころ、どうにでもなる。それより、オマエはこれをどうにかした後、私を止めなきゃならない。そっちの方が大変で、もしかしたら、止められないかもしれない」

「……千年?」

「いいか? この黒いのを前にだして、ドバ―だ」

「ど、ドバ―か」

「そうだ。全力でドバ―だ」

 俺や彼女の身体から滲み出る黒い靄を指し示して千年は言う。

 正直、何が何だかサッパリ分からない。

「それでちゃんと、私のことを止めるんだ。きっと、この石ころを退(ど)かしたあと、私はオマエを殺す。あの弱っちい吸血鬼も、殺す。他の人間も、ぜんぶ、ぜんぶ殺す。殺しまくる。きっと、あの丸いの全部、壊しちゃう。今も殺したくて、壊したくて、しかたない」

 ちらり、後方の青い惑星へ視線をやる千年。

 彼女にしては珍しく、切羽詰まった物言いだ。

 非常にらしくない。

「だから、オマエがそれを止めろ。この石ころは練習だ」

「止めるって、いや、そんなどうして……」

 っていうか、練習かよ。

「私は鬼だ。集まるのは人間の負の感情。沢山集まると、なんか止まらないんだ。どうしてなのか、私も分からない。ただ、集まってくる。たくさん、たくさん、勝手に向こうから集まってくる」

「……な、なるほど」

 その一言で、少しだけ理解が進んだ気がした。

 エリーザベト姉の口にした始祖という単語を、今ようやっと把握だ。

 師匠からも鬼に関して、似たような教示を受けた覚えがある。

「前は止めてくれるヤツが居たけど、もう居ない」

「居たのかよ。そんな凄いストッパーが」

 どこの誰だ。

 会ってみたいような、会ってみたくないような。

「だから、今回はオマエが止めるんだ」

「まあ、そういうことなら、そうだな……」

 っていうか、それ、最高にカッコ良い役回りじゃん。

 これを大好きなロリータに言われたら、まさか、断れるものか。

 見事に果たせたのなら、死んでも良いは。

「任せろ、千年」

「おほ、ありがとうな。凄く嬉しいぞ」

「っていうか、鬼のくせに、おまえ良い奴なのな」

「良いとか悪いとか、そういうのは私にないな。ただ、お酒を飲めなくなるのは、すごく嫌だから、私はまだそこの丸っこいのを壊したくない。だから、多分、めちゃくちゃ大変だと思うけど、頼んだぞ?」

「おう。俺もお酒を飲みたいから頑張るわ」

「だよな!」

 にんまり、良い笑顔を浮かべる千年。

 なんて魅力的なんだろう。愛してる。

 心底から愛している。

「千年。無事に帰ったら俺の子供産んでくれる?」

「いいぞ? 何匹でも生んでやる」

「よっしゃあああ! なんか、スゲェやる気出てきた」

「そうか? んじゃ、行くぞっ! 一つずつだ」

「おうっ!」

 なんかよく分からないけど、やるしか無いらしい。

 黒いのを前にだしてドバ―だ。

 黒いのを前に出してドバ―。

 今はそれだけを考えよう。隕石も何も無い。

 ただ、千年の為に、俺は――――。