喰らえ、メテオストライク!

VS千年 一

 力一杯、黒いヤツをドバ―っとしてやった。

 もうこれ以上は無いくらい。

 すると千年が言ったとおり、なんかよく分からないけど、それっぽいのが出た。

 結果、隕石は木っ端微塵だ。

 俺と千年で二つともぶっ壊してやった。

 ざまぁみろ。

 おかげで俺は、精魂共に尽きて、どうにもだるい。上手く身体も動かせなくて、千年と共に生身で大気圏突入中だ。凄い勢いなんだ。

 千年の言う障壁とやらがあるので、幸いにして熱くはない。しかしながら、いよいよ近づいてきた地上を眺めるに、恐怖心は凄まじい勢いで上昇中。

「お、おい、千年……」

「っ……ぅっ……うぅっ……」

 俺の腕の中で、千年はとても辛そうにしていた。

 まるで熱病にでも魘されているよう。

 だから、そんな彼女に頼ることはできない。

「うぉおおおお、飛べっ! 俺、飛べっ!」

 必至に念じる。

 黒いヤツはドバ―っと出てくれた。

 だからきっと、空も飛べる筈。

 なんて淡い期待は、けれど、全く答えてくれなくて。

「うぉあああああああああああああああああああああっ!」

 俺は為す術も無く、地上へと落下した。

 最後に見た光景は、どこか見覚えのある都内の高層ビル群。

 千年が軌道を取り持ってくれたのかも知れない。落下する最中、つい今し方まで、あれやこれや地上と自身の位置とを見比べながら、唸っていた姿を思い起こす。

 本当に気配りの出来た良い女だ、千年。もの凄く愛してる。心の底から愛してる。死んでも愛してる。このロリッ子ってば、可愛すぎるだろ。

 絶対に止めてやるからな。千年。

 一瞬、エリーザベト姉妹の自宅が収まるマンションが、見えた。

 落下した。

 並大抵でない衝撃と共に、俺は気絶した。

		◇		◆		◇

「ちょっと! しっかりしなさいっ!」

「おーきーろぉー!」

 再び意識が戻ったとき、すぐ近くにはエリーザベト姉妹の姿があった。仰向けに横たわる俺を覗き込むよう、二人が声を掛けてくれていた。

「う、おぉ……」

 大慌てに身体を起こす。

 場所はビル街の一角。周囲を確認すれば、まるで自身が隕石の一欠片にでもなったよう、数十メートル規模のクレーターが生まれており、その中央に自身は在った。

 他に人の姿は見当たらない。

 落下の衝撃に吹っ飛んでしまったのだろうか。

「そうだっ、千年っ、千年はどこにっ!」

 つい先程に彼女から伝えられた言葉を思い起こす。

 これに答えてくれたのは、エリーザベト姉。

「彼女だったら、ほら、そこに……」

 俺の倒れた場所から二、三メートルの地点。

 姉妹の視線が向かう先、ガラリ、今まさに身を起こさんとする千年の姿があった。身体に乗ったコンクリートの欠片を落として、その下から這い出すように、ゆっくりと、自らの足に立ち上がる。

 最後まで抱いていたつもりだったのに、どうやら手から離れてしまったよう。

 悔しい。

 もの凄く悔しい。

「千年っ!」

 俺もまた立ち上がり、慌てて彼女の側へと駆ける。

「あ、ちょっとっ!」

 エリーザベト姉が声を上げる。

 これに俺は短く答えた。

「アンタらは逃げてくれ! ヤバいらしいから!」

「は? い、意味が分からないわよ! 隕石はもう消えたのでしょうっ!?」

「どーいうことぉー!?」

 それ以上は、二人と言葉を交わす余裕も無かった。

 ゆらり立ち上がった千年が、次の瞬間、こちらへ向けて駆けてきた。大きく振り上げられた右腕が、俺の腹部を目掛けて、凄まじい勢いで振り下ろされる。

「ちょっ……」

「「えっ!?」」

 背中越しに姉妹の悲鳴染みた声が聞こえた。

 俺は千年の拳を自らの両手に受け止める。

「千年っ!」

「ぐっ、ぎぃっ……」

 腹に大穴が空くかと思った。だから、受け止めた手が痺れる程度に済んだのは、大変にありがたいことだ。彼女の言葉は信じるのなら、恐らく、今の俺と千年とは、寸分違わず拮抗した状況にあるのだろう。

 だからこそ、先のお願いに違いない。

「っていうか、いつまで止めてれば良いんだっ!?」

「ぁぁあああああああああああああっ!」

 まるで獣のように吠える千年。

 これ以上は拳が進まないと理解して、彼女は大きく後方へ飛び退いた。かと思えば、その視線が俺から逸れて、背後に立つエリーザベト姉妹へと移る。

 なんて諦めの良い子だ。

「あぁあああああああああっ!」

 狙われたのはエリーザベト姉だった。

 即座、この場で一番に雑魚い相手と判定したのだろう。

 流石だ。大正解である。

「ちょ、千年っ!」

 彼女は地を蹴って一息に跳躍。

 今一度、大きく振り上げられた拳が、我が愛しの金髪ロリ吸血鬼を狙う。

「なっ……」

 狙われた側は、想定外の出来事に硬直。

 このままでは絶命必至。

「待て千年ぇ! それは俺の金髪ロリータだぁあああああ!」

 力一杯に地を蹴って、俺もまたエリーザベト姉の元へと急ぐ。

 迫る千年が全力でなかったのか。或いはこちらの金髪ロリを愛するパワーが、火事場の馬鹿力的に働いたのか。先行する驚異に間髪のところで追いつく。

 終ぞ平時には一度として触れられなかった、惚れた相手を抱き寄せる。

 千年の拳から庇う。

 ズドン。

 低い音が響いた。

 都合、彼女の代わりに、脇腹へ気合いの入った一発を貰って、悶絶必至。手の平に受け止めた際とは比較にならない痛みが腹部へ伝わった。

「っ……」

 白目を剥きそうになる。

 その顔が余程にキモかったのか、腕の中、声を荒げるエリーザベト姉。

「ちょ、ちょっと、貴方っ!」

 とは言え、痛がっている暇は無い。痛い痛いと喚きながら、ゴロンと地面に転がりたいところを涙目に我慢。やせ我慢。危ういところで踏ん張る。踏み止まる。

 そのままエリーザベト姉と妹さんを背後に庇う形へ。

 都合、真正面から猛る千年と相対する。

「な、な、なにを、何を勝手に助けているのよっ!?」

「いやいやいや、俺、アンタのこと大好きですから。当然ですから!」

「っ……」

 外野からの声に適当な軽口を返しながら、意識は前方の千年へ集中。

 これは本格的にヤバい。

「ぁああああああああああああっ!」

 耳喧しくも上がる咆吼から、依然として相手はやる気満々の様子。

 俺に邪魔されたのが余程のこと悔しいのか、とても怒っている。大きく見開かれた金色の瞳が、ギロリ、こちらを睨み付けていた。

 今の千年は凄くカッコ可愛い。

「よーしよし、良い子だ千年。お願いだから、ずっと俺だけを見ていてくれよ。他のヤツに浮気なんてしたら、嫉妬に狂ってしまうぞ」

 その方が他に気を揉む必要もなくて、好都合と言えば好都合だ。

 果たしてどれだけ止めていれば良いのか分からない。ただ、止めろと言われたのだから、止めるしかないのだろう。相手は巨大な隕石を一撃に吹き飛ばすような手合いだ。まさか、放っておけるものか。

 千年は俺が止める。

 俺だけが止められるんだ。

「千年ぇー! 俺だぁー! 愛してるぞぉおおおおー!」

 叫びながら、全力で抱きつく。

 千年に。

「あ、あぁっ、あぁああああああああああっ!」

 余程のこと嫌なのだろう。

 俺の腕の中で滅茶苦茶に暴れてくれる。

 まるでマシンガンのように、連続で腹パン。思わず胃の中のものを吐き出しそうになる。だが、目の前には彼女の美しい黒髪が。まさか、ブサメンの汚らしい胃液に汚す訳にもいかない。今は我慢だ、我慢のときだ。

 一撃を受ける都度、ドン、ドンと、辺り一帯に地響きが響く。

 足下、地面にヒビが入る。

 更には周囲の建物が崩壊を始める。

 いやちょっと、どんだけ凄いパンチなんだよと。

 なんとか腕を押さえつけようと試みるも、こんどは足が動いて、股やら脛やらを激しく蹴りつけてくれる。更には頭を激しく前後に振るい、頭突きまで仕掛けてくれる。まるで駄々をこねる子供のようだ。

「千年、痛いっ、凄く痛いからっ! おねがい、やめてっ!」

 まさか言って聞く筈も無くて、ただただ、今は耐えるしかなかった。

 だって、千年を殴るなんて、とんでもない。

 可愛いロリータを殴るなんて、とんでもない。

 俺は絶対に千年を殴らないね。

 途中、腕の中からスルリと逃げ出されても、速攻でひっついで再び抱きつく。これは本人たっての希望だ。嫌よ嫌よも好きのうちってやつだ。ロリ―タへ何の後ろめたさも伴わずに抱きつく空前絶後の機会。最高。最高だ。

 多少の痛みはご褒美だ。

 こんな幸せ、俺には勿体ないくらいだ。

「ハイジっ! 報道を掛けるわよっ。付いてらっしゃい!」

「え? な、なに? いきなりっ……」

「世間に事情が正しく伝われば、きっと彼女の暴走も収まるわっ」

「えっと、よ、よく分からないけど、分かったっ!」

 そんな俺と千年の傍ら、慌ただしく言葉を交わしては、何処へとも駆けてゆくエリーザベト姉妹。その表情は酷く忙しない。ただ、俺や千年の為に動かんとしていることは、何となく理解できた。

 何を始めるつもりなのか、詳しいところは全く想像が付かない。ただ、今はそんな二人がとても心強くて、もう少し頑張ろうという気分が沸いてくれた。俺はただ千年を止めていれば良のだ。なんて楽で美味しい仕事だ。

「千年っ、も、もうちょっと大人しくっ……っぅ……」

「ああああああああああああっ!」

 こういう激しいのも嫌いじゃないね。