喰らえ、メテオストライク!

VS千年 二

 果たして、どれだけの時間が経っただろう。

 繰り返される殴打に全身の感覚が麻痺したよう。もう無理だと、心より先に身体が悲鳴を上げ始めたのが、小一時間前のこと。

「千年、そろそろ、俺、限界なんだけど……」

 付近一帯は暴れ回る千年と、これを諫めんとする俺の行いにより、完全に廃墟と化していた。他に人の姿は見当たらない。崩れた建物の瓦礫に潰されてしまったのか、それとも無事に逃げ出したのか。

 いずれにせよ、二人っきり。

 千年とラブラブ、二人っきり。

 今も俺は愛する彼女と肉弾戦。

 ハグしたり、殴られたり。

 彼女から別れを切り出されて、それでも必至に追いすがる男って、こういう感じなのかなとか、ふと思ったりする。俺だったら、こんな魅力的な褐色ロリータ、どれだけフラれようとも、絶対に諦めないね。

「ぁああああああああっ!」

「千年は、本当に元気だよなぁ……」

 ただ、心では強く思っても、肉体的には限界が来ていた。

 いよいよ、これ以上はと、終わりを感じ始めていた。

 そんな時に、ふと聞こえる音があったのだ。

 それは屋外に設置された公共の防災スピーカー。夕方の五時くらいになると、夕焼けこやけとかを流し出すあれ。空爆でも受けたような近隣一帯において、未だ放送用の配線が生きていた点はまさに奇跡。

 ピンポンパンポン。

 軽いチャイムの音の後に、女性の声が続く。

『国民の皆様にお知らせします。本日午前十時三十五分に想定されていた隕石の衝突は回避されました。繰り返します。国民の皆様にお知らせします。本日午前十時三十五分に想定されていた隕石の衝突は回避されました』

 淡々とした文句だった。

 酷く現実味の無い、極めて事務的なアナウンスだった。

 どうにも滑稽だ。

 ただ、少し嬉しい。

「やったぞ、千年。なんかちょっと達成感あるだろ、これ」

 国民の皆様とか言っちゃってるくらいだし、この近隣に限らず、他の地域でも同様に流れていることだろう。先にエリーザベト姉妹が言っていた報道とは、これのことだったのかも知れない。

「あ、あぁっ、あぁあああっ……」

『国民の皆様にお知らせします。本日午前十時三十五分に想定されていた隕石の衝突は回避されました。繰り返します。国民の皆様にお知らせします。本日午前十時三十五分に想定されていた隕石の衝突は回避されました』

 放送は一度として途切れることなく、延々と続けられた。

 誰一人も聞き逃すんじゃ無いぞと、執念すら籠もって思える。

『国民の皆様にお知らせします。本日午前十時三十五分に想定されていた隕石の衝突は回避されました。繰り返します。国民の皆様にお知らせします。本日午前十時三十五分に想定されていた隕石の衝突は回避されました』

 そうして、数分ばかりが経過しただろうか。

 いよいよこっちも限界が訪れた。

「千年、ごめん、そろそろヤバいわ……本当に、本当に、ごめんな……」

 意識が失われる。

 長く浸かった熱い風呂から、バシャリ、勢い良く出たときのよう。目の前が真っ暗になる。同時、キィンと甲高い音が聞こえたかと思えば、アナウンスの声も、千年の上げる咆吼も、一切合切が聞こえなくなる。

 ただ、それでも腕だけはギュッと、可愛い可愛いロリボディーをハグで。

 腕の中が暖かい。

 絶対に離したくない。

「あぁ、千年可愛いよ。千年ぇ……」

 こんな最後なら、かなり悪くないなと、心の底から思った。