喰らえ、メテオストライク!

転校生 三

 そうして問題の金髪ロリ姉妹はおろか、誰とも一言を交わすことなく迎えた放課後。

 俺は素直に体育館裏へ向かった。

 部活の類は入っていないので、授業が終わってしまえば暇だ。家に帰ってもパソコンを弄りながらお酒を飲むばかり。こうして時間を潰すことに抵抗感はない。むしろ普段と異なる放課後の流れを少なからず楽しんでいる。

 唯一、文句があるとすれば、屋外なので暑い。

「……来ないじゃん」

 あと、待てど暮らせど転校生はやって来ない。体育館の壁に背中を預けてから、小一時間ばかりが経過していた。やはり聞き間違いだったのか。もしくは遊ばれたのか。

「…………」

 どちらでも、与えられる状況は変わらない。

 それなら考えることは無意味だ。

「帰るか……」

 呟いて一歩を踏み出す。

 平静を装ってはみるけれど、割とショックだった。悲しかった。二人とも可愛かったから。っていうか、心のチンチンにどストライクの美少女でありました。

「あー、可愛かったなぁー……」

 この待ちぼうけ野郎は、かなり顔がよろしくない。顔面偏差値がフツメンに届かない。当然、年齢イコール彼女居ない歴の童貞だ。

 故に学内カーストでも最下層。

 ついでにコミュ障。

 そんな自分であっても、或いは興味を持ってくれる異性が現れたのなら、なんて妄想は幾度と無く繰り替えされて、洗濯しても落ちない枕の染み。

 妄想はどこまで行っても妄想だ。切ない。

「あぁ……」

 帰ってお酒を飲もう。沢山飲もう。お酒おいしい。

 歩み早に数歩を進む。

 すると、まるで時宜を合わせたよう、体育館の壁に作られた角の向こう側から、待ち人が現れた。しかも一人じゃない。姉に加えて、傍らには妹が立つ。共に朝のホームルームで眺めた際と変わらず制服姿だ。

「待たせてしまったわね」

「おまたっせー!」

 二人はこちらへ向けて歩み、三メートルほどの距離に立ち止まった。

 人と人が話をするには少しばかり広い、この間隔はなんだろう。

「で、できれば、もう少し涼しい場所を指定して欲しかったかも……」

 長いこと外で待っていた為、シャツの色が変わるほどに汗だく。

 なるほど。冷静に考えてみれば、相当に汗臭いだろ。それがこの三メートルの理由か。明日から消臭剤とか、付けてみても良いかも知れない。帰りにドンキで買うかね。

「ああいや、だからって別にどうかした訳じゃないけどさ。ごめん」

 っていうか、もう少し気の利いた言葉を言えないのか俺は。

 美少女を前としている為、どうにも緊張している。おかげで、凄いぶっきらぼうなこと言っちゃったよ。出会って早々に愚痴とか、印象最悪なんじゃなかろうか。

「たしかに汗だくだねぇー。なんか髪とかベッタリしてるしぃー」

「場所を移した方が良いかしら? 喫茶店とか」

「いいや、もう今更だから……」

 出会い頭の非難に、文句の一つでも返されるかと思った。

 けれど、彼女たちは俺の愚痴に構わず淡々と言葉を続ける。

「そう? ならこの場で話を進めさせて貰うわ」

「暑いしさっさと済ませちゃおうねー」

 下手に喫茶店など入って、彼女たちと同席しているところを学校の連中に見られたりしたら面倒だ。そういう些末な出来事が、苛め問題に発展するのだと、俺は知っている。ちゃんと知っている。

「一応、遅れてきた理由を説明しておくと、クラスメイトの目から逃れるのに時間が掛かってしまったの。ここまで顕著に外国人を珍しがる気風は、今の時勢、日本人くらいのものよね。まるで動物園のパンダにでもなったような気分だわ」

「本当に賑やかなクラスだよねぇ。お弁当のおかず色々と取られちゃったし」

「あぁ、なるほど……」

 納得の理由だ。

 むしろ良く逃れて来られた。

「謝罪が必要であれば謝るわ。ごめんなさい」

「特に男子からの求愛が激しかったんだよねー。モテモテ?」

「いや、べ、別にいいけどさ……」

 想像以上に素直な言葉を頂戴できて、心が癒えるのを感じる。こうして可愛い子に気遣って貰えると、この世界に自分はまだ存在していても良いのだと認められた気がして、とても安心する。

 が、それも僅かな間の出来事だ。

「ところで、貴方、これが何だか分かるかしら?」

 エリーザベト姉がスカートのズボンから、何かを取り出して言った。

 何かと言えば、つい数ヶ月前に出会って、昨晩まで俺の肩に住んでいたスズメくらいの大きさの鳥。幸せの青い鳥さんだ。

 鳴き声も上げないし、碌に空も飛ばない。

 延々と肩に留っているだけの妙なヤツ。俺みたいな唐変木に懐いてくれた可愛いヤツ。トイレに行くときも寝るときも一緒だった割と本気で嬉しいヤツ。

 ただ、昨晩に俺の肩から逃げてしまった。

「あ……」

 咄嗟、声を上げてしまう。

 本来であれば、そこいらの人間には見えない鳥さんだ。

 とは言え、スカートのポケットに収納とか、酷い。

「事前調査に間違いはなかったようね」

「お姉ちゃん、いつの間に捕まえたの? それブルーバードだよね?」

「昨日の晩、この近くを飛んでいたから捕まえたのよ。まさか、こんなに早く見つけられるとは思わなかったわ。日頃の行いが良いからかしら?」

「へぇ、偶然だねぇ……」

 鳥さんの名前はブルーバードと言うらしい。

「……その子、もしかして君らのだった?」

「見覚えがあるのかしら?」

「ああいや、見覚えがあると言うよりは、こっちで飼ってたというか、一緒に居というか、一方的に御利益に授かってというか……」

 昨晩に逃げられた訳だけど。

「あら、そうだったの。それは偶然ね」

 鳥ちゃんは俺の姿を見つけると、ピィピィ、小さな声で鳴いた。

 よく見れば、その小さな身体は少女の手の中で、ピクピク、身動ぎを繰り返している。ただ、羽の上からギュッと握られているので、碌に動くことができない様子だ。

 俺には必至で逃げようとしているように見える。

 これを見つめて、エリーザベト姉は言った。

「あら、そっちへ行っては駄目よ? 貴方の主人は私なのだから」

 語る表情は笑顔だった。

 ニィと口元の歪に曲がった、少し気味の悪い笑顔。

 その傍ら、同様に怪しい笑みを浮かべて、妹さんが言う。

「お姉ちゃん、あとで私にも貸してね?」

「少しだけよ?」

「あは、やったぁー」

 先方から勝手に居ついて来たので、野良だと思っていた。

 他に飼い主が居たとは想定外だ。

 もしかしたら、虐待されて逃げてきたのかも知れない。

「まあ、ブルーバードは話のついでよ。話の本題に戻りましょう」

 エリーザベト姉は、再び鳥さんをポケットに突っ込んだ。酷い。

 そして、少しばかり姿勢を正しては、こちらに向き直る。その表情は今し方の薄ら笑いから一変して、とても真面目なものとなった。妹さんもまた同様、鳥ちゃんから俺へと意識を移す。

 なんだろう。

 美少女にジッと見つめられて、こっちも緊張してしまう。

 二人とも凄く可愛い。

「色々と聞きたいことはあるけれど、一つ、最も重要なところを尋ねるわ」

「どうぞどうぞ」

 これに続けられた言葉は、なんというか、完全に想定外のこと。

「もしも一週間後、この地球が滅びてしまうとしたら。けれど、それが誰かの努力により回避できるとしたら。貴方は私たちに協力してくれるかしら?」

「……え?」

 随分と突拍子のない話だった。