喰らえ、メテオストライク!

説明会

 結局、場所を移すこととなった。

 しかも自動車で。

 これ以上の話は体育館裏では難しいから、とのこと。

 双子の案内に従い、学校の近くに止めてあった白塗りのリムジンへ乗り込み、以後、終始無言のまま走ることしばし。辿り着いた先は某国の大使館だった。

 お話の続きは、高級感溢れる応接室でのこと。

「隕石?」

「ええ、あと数日で地球にぶつかるわ」

「…………」

 もしも場所が変わらず、高校の体育館裏であったなら、笑い飛ばしたかも知れない。お前は転校初日から何を言っているのだと。

 けれど、今この場に至るまでの過程と、腰掛けたソファーの柔らかさとが、彼女の言葉に圧倒的な信憑性を与えていた。

 マジかよ。

「つい先日、米軍とNASAの主導で最後の迎撃作戦が行われたわ」

「ど、どうなったんだ?」

「失敗したわね」

「あれは酷かったよねぇー」

 足の短いテーブルを挟んで、対面のソファーに腰掛けるのは、金髪ロリ姉妹。共に制服から私服に着替えている。姉は白い色のシンプルなドレス。妹も同じデザインのドレスで、色違いの黒。頭髪を結ぶリボンと同一の配色だ。

 部屋には彼女たちと俺の他、誰の姿もない。

「失敗しちゃ駄目じゃん……」

 今という瞬間に実感が沸かないまま、二人の言葉に耳を傾ける。

「作戦内容はシンプルだったわ。隕石の大きさは約四百四十二キロ。サイズ的に破壊処理が不可能と判断されて、核弾頭ミサイルにより軌道を変更。この際に発生する欠片のサイズは最大で二百メートルから三百メートル。最悪、どこかの都市が一つ潰れる程度で済む、というのが向こう側の説明だったわね」

「だけど、当初想定していた隕石の構成成分と、実際のそれとが違ってたみたいで、作戦は失敗。負荷の計算が間違っちゃって、ピーナッツの形をした隕石を、真ん中で二つに割っちゃったんだよね。おかげで余計に対処が面倒になっちゃって、もう誰もお手上げ状態。落花生じゃないんだから、割っちゃ駄目だよねぇー?」

 んなこと、同意を求めらても困る。

 ケラケラと他人事のように笑う妹さんの態度もどうしたものか。

「割れてしまった隕石の、どちらか一つが衝突した限りであっても、今の地球文明を破壊し尽くして余りある代物とのことよ。恐竜が絶滅したときの比じゃない影響があるらしいわ。衝突予定時刻は今から約百五十九時間後。日本時間だと、そうね、六日後の午前十時くらいになるかしら」

「午前十時だと、えっとぉ……君の学校だと、二時間目の授業の最中だねぇ」

「マジかよ。俺の好きな家庭科の時間だし」

「ちなみに恐竜が絶滅したときの隕石は、十キロくらいのサイズらしいわ」

「今回四十倍ですかっ!?」

 そりゃ飯を作ってる場合じゃないな。

 自分が知らないところで、地球が未曾有の危機にあったとは驚いた。しかも既に米軍とNASAが最終作戦に失敗済とか、事実上クリア不可能な状況じゃない。あれだけ何度もハリウッドで予行練習したのに、どうして失敗しちゃったんだよアルマゲドン。

 っていうか、こんなことは知りたくなかった。

「……んなこと、俺に教えてどうすんの?」

「アメリカ、中国、ロシア、イギリス、ドイツ、フランス、日本、その他多くの国が、この隕石の対応を巡り協力して、実に様々な手段を用いた回避策を提案、実行してきたわ。それこそ数年前からね。けれど、全てが失敗に終わったの」

 数年前から地球はピンチだったのか。

 下手すれば、俺まだ小学生じゃん。

「当初は誰かがなんとかするだろうと、私たちも静観していたわ。これまでもそうであったようにね。人間は個体としてこそ酷く脆い存在。けれども、数を群れれば大妖にも匹敵する。ここ数世紀では殊更に顕著だわ」

「はぁ」

「けれど、流石にもう任せてはいられないの。タイムリミットが近いから」

 なんか語りだしたよ、このドイツ人。

 決して冗談を言っているようには見えないけれど。

「任せるも何も、アメリカが駄目だったんだろ? もう無理じゃん」

 今頃は国の偉いヤツとかが、宇宙船に乗って地球脱出してる頃だろ。

 今の俺は如何に一週間後の十時を迎えるかで頭の中が一杯だ。お酒に酔ってベロンベロンになるべきか。それとも睡眠薬を飲んで眠っているべきか。或いはオナニーの絶頂を合わせるべきか。最後のはかなり難易度が高そうだ。

「この国では、こう言うのでしょう? 困ったときの神頼み、って」

「私たちは君のような人をスカウトして、これに協力して貰ってるんだよー」

 姉妹が示し合わせた様子で言った。

 なんだそれ。

「俺のような人? 神頼みってアンタら、何するつもりだよ……」

 相手の言わんとするところが、まるで理解できなかった。

「ミサイルも、レーザーも、ソーラーレイも、体当たりも、何を持ってしても回避不可能な不幸なの。事実上、人類に太刀打ちできる不幸ではないわ。だからこそ、この史上最高の不幸を迎え撃つのは、同じように、史上最高の幸福でなくてはならないの」

「……幸福?」

「そう、私たちは幸福の力、ラッキーの力で隕石を食い止めるわ!」

 問いかけた俺に、彼女は酷く真面目な表情で答えた。

 断言されてしまった。

 ラッキー。

 ラッキーかよ。

 何と答えたら良いのか、続く言葉が浮かばなかった。酷く漠然としていて、とても抽象的で、具体的に何をどうするつもりなのか、まるで見えてこない感じ。

 それは隕石をどうこうできるほど大したものなのか。

「……マジで?」

「マジよ。大マジよ」

「お姉ちゃんも説明してて恥ずかしいから、こうして居直ってるの」

「いちいち補足説明しなくても良いから黙ってなさい」

「あふん」

 困ったことに本気らしい。

 なるほど。だから神頼み。

「っていうか、それにどうして俺が?」

「貴方には、ラッキー集めを手伝って欲しいの」

「ラッキー集めって……」

 そんなベルマークでも集めるように言わないでよ。

「見えるのでしょう?」

「いや、そりゃ見えるっちゃ見えるけど……」

 なんとなく理解できた。この場に呼ばれた理由が。

「私たちが貴方の高校へ転校してきた理由は大きく二つ。一つは見鬼である貴方に協力を取り付けること。そして、もう一つはこの近辺で度々、目撃情報の上がっていたブルーバードを確保すること」

「あとは私のしゅみー!」

「っていうと、やっぱりアイツって、幸せの青い鳥ってやつなのか」

 なんか妙なことを口走ってくれる妹さんはスルー。

 視線はエリーザベト姉のスカートのポケットへ。

 なんかモゾモゾしてる。死ぬんじゃないぞ、鳥さん。

「ええ。ラッキー度は弱いけれど、ちりも積もれば何とやらよ」

「ラッキー度って……」

 なんか妙な単位が。

「っていうか、そっちが飼い主じゃなかったのかよ?」

「違うわよ。この手の脆弱な存在が、私たちに懐く筈がないじゃない」

「私たちが相手だと、こういう子はすぐ逃げちゃうからねぇー」

 なるほど。ということは遠慮する必要なんてなかった訳だ。

 ちゃんと所有権とか主張しておけば良かった。

 だから制服のポケットなんかに突っ込んでたのか。

 どうりで愛が感じられなかった訳だ。

「細かな所在の知れている相手、特に一定の知性を持ち合わせた、交渉可能な手合いについては、こちらから既に対話を入れて、かなりの数で協力を得ているわ。貴方に行って貰いたいのは、これ以外で詳細の知れない相手の捜索と交渉よ」

「できれば、あんまりそっち系とは関わりたくないんだけど」

 俺は見えるだけだ。他には何もできない普通の人間だ。

 凶暴なヤツに当たったら、隕石の衝突を待つ間もなく死んでしまうよ。

「君に拒否権はないよぉ? もし断るなら、この場でぜんぶ吸っちゃうから」

「え?」

 妹さんが妙なことを口走った。

 姉もこれに続く。

「あら、気づいてなかったのかしら?」

「……どういうことで?」

 正面に並び腰掛けたエリーザベト姉妹は、ニヤニヤ、いやらしい笑みを浮かる。

 その身体から黒い霧のようなモノが、じんわりと周囲に広がり始めた。常温に昇華するドライアイスの発散に指向性を持たせて黒くした感じ。

 ここへ来て、俺は自分のミスに気づいた。

「私とお姉ちゃん、人間じゃないよ?」

「理解しているものだとばかり思っていたのだけれど」

「……マジか」

 なんかもう、段々と驚くのが面倒になってきたな。

 ぜんぜん気づかなかった。

「これでも吸血鬼なのだから。まあ、歳は貴方とそう変わらないけれど」

「生意気なこと言うと、チューチューしちゃうぞぉ?」

 両手の人差し指に頬の肉を開いて、口内を見せてみせる妹さん。開かれた口から覗くのは、ギラリ、異様に尖った犬歯だった。その姿がエロ可愛らしくて、ちょっとチューチューされたくなった。

「化け物も化け物で焦ってるんだな……」

 なんだ、二人とも人外なのか。

 それならそうと早く言って欲しかった。

 緊張して損した。

「そういうことよ。理解したのなら協力なさい」

「そうだぞぉー!」

 姉妹からの提案は、酷く一方的だった。

 当然、ムカっとくる。

 下手に出ろとは言わないが、せめて対等に行きたかった。

 だけれども、彼女たちを相手に抗う術を、俺は持たない。吸血鬼と言えば、不死者の中でも一等に上等な化け物だと、今は亡き師匠から教えられた。仮に見た目相応の年齢であったとしても、俺など鼻くそをほじる合間に、片手でちょちょいのちょいだろう。

「……別に、いいけどさ」

 俺が頷くと、姉妹は可愛らしい笑顔を浮かべた。

 露骨に接待用。

「快諾して貰えて嬉しいわ」

「いよっ、男前っ!」

 ただ、向けられた言葉に、ドキン、胸が早鐘を打つ。

 作り笑いだとは理解している。十分に理解している。けれど、可愛いものは可愛いのです。どうしてこんなに可愛いの。こういう子を彼女にしたい。ドイツ産の吸血鬼はラブいったらありゃしない。

「だろ? 俺マジでイケメン」

 カッコつけてみる。ふぁさぁと前髪を掻き上げてみる。

「どこが?」

「本音と建前が分からないアホの子は嫌いだよ?」

 途端、姉妹はジト目。

 その顔もなかなか悪くない。

「……君ら素敵な性格してるよね。とても」

「でしょう?」

「近所でも可愛い評判の姉妹ですからぁー」

 教室では根暗野郎で通っている。クラスの女子とは碌に話をしたことがない。当然、女性経験はゼロ。中学校に上がって以後は、異性と手を触れ合わせた経験も皆無。生粋の童貞野郎。それが俺です。

 だけれども、今この瞬間、どうにも異性相手に口が軽い。

 相手が人間でないと知ったからだろうか。それとも一週間後に迫った地球滅亡のお知らせがショックだったのか。きっと両方だろう。自分でも驚くほど、下らない台詞がスラスラと出てくる。

「協力する見返りに、姉妹丼で一発やらせて欲しいのですが」

 セクハラが楽しくて仕方がない。

「隕石の衝突を待たず死にたいのかしら?」

「特に断る理由を挙げるとすれば、私は君の顔が嫌だなぁー」

「…………」

 この子たちに罵られると、どうにも胸がドキドキするよ。

 っていうか、一発くらい良いじゃん。

 吸血鬼なんて、ビッチが服着て歩いてるような生き物だろ。多分。

「こんな可愛い美少女姉妹を前にして、お預けとか残念すぎる」

「私は貴方の欲望を一欠片ほども預かった覚えはないのだけれど」

「ブサ男が調子乗ってんじゃねーぞぉー?」

 クラスのイケメン連中が躍起となり挙っていた手合いが、俺と話をしてくれている。まったく、その事実だけでお腹が一杯になるね。女っ気のない生活をしていたからだろう。とても幸せな気分じゃないの。

「とは言え、それだけ余裕があるのなら、捜索の方は問題なさそうね」

 ふっと少しだけ表情を穏やかにして、エリーザベト姉が言った。

「余裕?」

「協力を求めて事情を説明した途端、発狂した者も居たかしら」

「うひゃひゃひゃぁー、って叫んで、いきなり逃げてったのもいたよぉー」

「あぁ……」

 そりゃそうだろう。事実上の死刑宣告だしな。

「話が大き過ぎて、上手く飲み込めてないんだよ。きっと、今晩あたり部屋で一人になってから震えるし。っていうか、絶対に震える自信あるから、だから、どっちか一人でいいから今日は一緒に居てくれない?」

「だから嫌よ。全力で」

「もっとカッコ良かったら、考えても良かったんだけどねぇ」

「……そうですか」

 ちっくしょう。今日から一週間、お酒の量が増えそうだ。

 今もの凄く彼女が欲しい気分。

 このまま童貞で死ぬのは嫌だなぁ。

「ところで、一つ確認したいことがあるんだけど……」

「なに?」

「探すって言ったって、どうやって探せばいいんだよ?」

 まさか座敷童や倉ぼっこの知り合いなんていないぞ、俺は。

「ラッキー系の連中で、大方の目処がついた相手を既にリストアップしてあるわ。これに従って細かいところを捜索して欲しいの。一応、危険度別に分けてあるから、低い方から探せば、貴方で対応可能なモノもある筈よ」

「ある筈よって……」

 どうにも不安だな。

「如何に多くのラッキーを集められるか、それが勝負なの。貴方のような末端の数が物を言うわ。人間と化け物の垣根を越えて、既にかなりの数が、同じようにラッキーを探して世界中を飛び回っているの」

「人間とお前らとで、一致団結した総力戦ってやつか」

「そういうことね。まあ、必ずしも全てが協力的とは言えないのだけれど」

「地球が壊れて欲しい子たちも少なからず居るしねぇ」

「単独で成層圏を離脱可能、尚且つ臆病だったり、隕石の衝突に耐え切る自信がない連中は、早々に地球を逃げ出しているわ。今頃は安全な場所から、事の成り行きを眺めているんじゃないかしら」

「生モノが自力で成層圏を離脱とか、これほど現実味の無い話はない気がする」

「そうかしら? 決して少なくないと思うのだけれど」

「そもそも隕石が衝突しても平気なやつなんているの? アンタらの仲間だって、叩けば死ぬような作りしてるでしょ? メテオされたら普通にアウトじゃないの」

「一部の頑丈な連中や、私たちのような不死であれば、物理的な衝突を耐え切ることは可能だわ。けれど、その後に長らく続くだろう劣悪な地球環境で、延々と過ごすストレスは、あまり想像したくないわね」

「アニメも漫画もゲームもなくなっちゃうしねー」

「あぁ、そういうこと」

 岩石が蒸発するくらい熱くなって、海も蒸発しちゃうんだっけ? そんな状況で何千年も堪え忍ぶってのは、確かに相当なストレスだろう。どうやって堪え忍ぶつもりなのか、まるで想像が及ばない。

 仮に今と同じような生態系が優先されても、人間が生まれて、アニメや漫画を作り出すまでには、とんでもない時間が必要だ。地球誕生から人が発生するまで、四十六億年、人類への旅を引率する羽目になるな。

 これで更に、今と異なる生態系が優先されたのなら、ああ、ヤバいね。幾十億年も待って、やっとのこと現れた知的生命体が、人間とは似ても似つかない形とか、人間の形をしているコイツらとしちゃ、心中複雑な気分だろう。

 俺が当事者なら自殺を考えるね。或いはもう一回、自分で隕石ぶつけるわ。いやでも、その前に太陽が寿命を迎えるんだっけ? 駄目じゃん、完全に詰んでる。地球人類の進化って、実は宇宙的に見ても、凄く尊いものだったんだな。ちょっと感動した。

「なに妙な顔をしているの?」

「あぁ、いや、ちょっと人類発生の素晴らしさに感動してただけ」

「……はぁ?」

 まるで気持ち悪いものでも眺めるよう、ジト目に見られた。

 ほら見ろ、またラブいってば、この金髪ロリ。

 ジト目最高じゃん。

「いやまあ、状況は十分に理解したよ。オッケーだ」

「そう、なら良いわ」

 相変わらず実感は沸かないけどさ。

「リストは今日中に貴方のアドレスへ送るわ」

「え? なんで俺のアドレス知ってるの?」

「平民の個人情報を抜くくらい訳ないわよ」

「平民て……」

 言い方が古いな。

 実は意外と高齢なんじゃなかろうか。

「貴方が見鬼であると、私たちの網に引っかかったのも、精神病棟の入院履歴を走査した結果よ。その過程で連絡先の一つや二つ、幾らでも漁れるわ。当然、親族の住所や銀行口座も押さえてあるから、逃げようなどとは考えないことね」

「うっ……」

 実は頷くだけ頷いて、何もせずに逃げて回ろうと思ってた。

 人生最後の一週間になるかもしれない。当然、色々とやりたいことだってある。最後の一日には、近所に住んでいる可愛い小学生をレイプしようかなんて、ちゃっかり計画していたりするのだから。

 人間、自分の命が懸かれば、どこまでもゲスくなれるものなのさ。

「逃げるつもりだったでしょう?」

「……なんで分かったんだよ?」

「貴方のような小物の考えることなんて、容易に想像がつくわ」

「さようですか……」

「あと若干だけれど、そういった匂いが感じられたから」

「匂い? 匂いって、アンタは犬か何かですか?」

「お姉ちゃん、匂いフェチだからねぇ」

「なんでそうなるのかしら?」

 吸血鬼っていうのは、人間より鼻が良いのだろうか。

「吸血鬼だって鬼の端くれよ? 負の感情には少なからず鼻が利くわ。貴方だってそうでしょう、ハイジ。むしろ、こういった面では、私より貴方の方が優れている筈なのに」

「そうだねぇ。この子がエッチなこと考えてたってことは分かるよぉー」

「え、あのっ、なんで分かるんですかね!?」

「んー、なんとなく? 男の子って単純だし?」

 口元に人差し指を当てて、首を傾げてみせる妹さん。

 レイプ未遂、バレてるじゃん。

「あの、いい加減に居たたまれないので、そろそろ帰っていいですかね?」

 これ以上の長居は、いよいよ危険な気がしてきた。

 見た目可愛いとは言え、化け物には違いない。

 聞きたいことは聞けたので、さっさとお暇しよう。そうしよう。

「そうね。伝えることは伝えたから、帰って良いわよ」

「……どうも」

「それとこれを持ちなさい」

 エリーザベト姉が、何かをこちらへ投げて寄越した。

 受け取った先、手の中には携帯端末が。

「私たちの連絡先が入っているわ。あと、さっき説明したリストも一応ね」

「あぁ、どうも」

「常に持ち歩くようになさい。その端末はGPSで監視しているから、ラッキー集めを怠けたりしたら、すぐに分かるようになっているわ。隕石の衝突を待たずに死にたくなかったら、馬車馬のように働きなさい」

「……酷い話だ」

「一週間後を無事に乗り切れたのなら、ちゃんと報酬は出すわよ」

「ぜんぜん嬉しくないな、それ」

「完全に諦めてるわね?」

「だってラッキーとか、マジねーですよ」

 どんなラッキーが起こったら、衝突必死の隕石から逃れられるの。

 数ヶ月前、幸せの青い鳥ちゃんを拾って以後、俺もラッキーというものの存在は、強く意識するようになった。こうして高校入学と共に一人暮らしをしているのも、そのラッキーのおかげだ。

 一人暮らしをしたい。

 そう願った翌月の出来事だ。

 万年平社員だった四十過ぎの親父が、僅か数週足らずの間で、親会社に異動の上、課長職に昇進、海外の事業部へ栄転、という普通じゃないコンボを決めて、母親と共にアメリカへ渡っていったのだ。

 確かにラッキーはある。幸福っていう目に見えない力は、あると思う。

 だがしかし、それとこれとは次元が違うんじゃなかろうか。

「お姉ちゃーん、このニンゲン使えなさそぉー。ここで吸っちゃお?」

「そうは言っても、今は一人でも多くの協力者が欲しいのよ」

「なんか見ててムカムカするんだもん。こういう男って嫌いだなぁ」

「安心なさい。それは私も同じだから」

 しかもなんか勝手に言ってるし。

「数年前から事情を知ってたアンタらと、今まさに状況を把握した俺とで、同じ温度感を持てとか、幾らなんでも無理な話だろうに。もうちょっと相手を気遣ってくれよ」

「貴方の言うことは理解できるけれど、時間が無いのも事実なの」

「そっすか」

「ということで、話はここまでよ。今日のところは帰りなさい。帰宅後は休んで良いけれど、明日からは十分に働いて欲しいものね」

「了解っす……」

 そんなこんなで一方的に連れて来られたかと思えば、早々のこと帰宅命令を出された。しかも帰りは実費で電車移動ときたもんだ。せめて交通費を寄越せよ。

 まったくもう。