金髪ロリ異世界転生俺TUEEE

第三話

 翌日、俺はロリマンコを伴い街へと繰り出した。

「朝っぱらから街になんの用ですか?」

「あのショタ野郎に着せる服を買うんだよ。いつまでも薄布越しにデカチンを見せられたんじゃ、たまったもんじゃねぇ。ついつい殺したくなる」

「いいじゃないですか。目の保養になります」

「ならねぇよっ!」

 ムカツク。ムカツクわクソがっ!

 ああもう、俺の、俺のロリマンコなのに、あのショタ野郎め! このままでは寝取られてしまうだろう。俺のマリオネットが見ず知らずのショタに寝取られてしまう。

 いっそちょん切ってやろうか。

「んで、服屋はどこだ? しまむらとかユニクロとかねぇのかよ」

 中世ヨーロッパ的な世界観のおかげで、どうにも建物の外観と、その機能とが一致しない。飯屋だと思って入ったら宿屋だったり、宿屋だと思って入ったら飯屋だったり、そんな具合だ。

 看板が少ないんだよ。街並みが綺麗過ぎるんだよ。現代の日本みたいに、あっちゃこっちゃにチカチカ光る立て看板が立ってりゃ話は早いのに。クルクル回ってるコンビニの看板とか画期的だろ。

「あちらに一軒、それらしい店舗があります」

「よし、んじゃ行くか」

 ロリマンコの案内に従い移動。

 向かった先は百平米程度の規模を持つ中規模の店舗だ。石作りのかなりしっかりとした建物である。どこも似たような感じなのだが、コンクリートに作られたビルしか知らない現代日本人からすれば、かなり年季が入って思える。凄い歴史のある老舗に思える。

 何気ない調子に入店。

 店内をグルリ一望すれば、そこには無骨な鎧やら盾やら兜やら。

「って防具やじゃんかよっ!」

「そのようですね」

「お前はショタに何やらせるつもりだよ」

「美しい女と格好良い男は、共に冒険を乗り越えて一つに結ばれるのです」

「誰が結ばせてなるものか」

 まあ、防具だろうと衣服には変わりない。

 適当にアンダーウェア的なものを買って終わりにしよう。あんなショタ野郎の為に街を歩き回るのもムカツク。さっさと済ませてしまうのが良い。

「んじゃ適当に買って帰るぞ」

「防具を買うのですか?」

「防具の下に着るシャツみたいなのくらいあるだろ? それでいいじゃん」

「なるほど」

「あとズボンとかも売ってるといいよな……」

 あのモッコリはムカツク。ダボダボのズボンを穿かせて、絶対に表に出ないようにしないとならない。

 本当、ロリマンコがヤツとセックスとかしたら、俺はもうこの世界から逃げ出す自信がある。間違いなく鬱る。十年は引きこもる確信があるわ。

「嫉妬ですか? ペニスの小さな男は心も小さいですね」

「う、うっせぇっ! ペニスの小ささは謙虚さの表れだ! それに元が小さい方が膨張したときにぐんぐん膨らむんだよっ! そのギャップが良いんだろ!?」

「言ってて悲しくなりませんか?」

「なるに決まってるわっ!」

 ああもう止めだ。天下の往来でチンコチンコ叫ぶもんじゃない。

「さっさと買ってとっとと帰るぞ」

 ロリマンコを置いて、そそくさと物色を開始する。

 ズボンとシャツだ。鎧だの盾だの兜だのは要らない。普段着にしても問題なさそうな布切れを探して、店内を歩み始める。

 店内には所狭しと武具が並ぶ。大半は金属や硬そうな皮に作られた無骨な防具である。もろバトル系だ。日常生活に着ていたら、それだけでバテてしまいそう。

 そうしたアウトオブ眼中な品々を素通り、柔らかい感じの綿っぽい商品を探す。すると、店舗奥の方にそれらしいものを発見した。

 木の箱に放り込まれたズボンやらシャツやらといった衣類。スーパーのバーゲンセールに眺めるワゴン売りのような感じだ。きっと鎧の下に着るアンダーウェア的な衣類の安売りだろう。

 そう決めつけて俺は手を伸ばす。

「これなら良さそうだな」

 その中からできるだけサイズの小さいヤツを探す。ショタ野郎は子供だからな。あんまりデカイとダボダボになっちまう。どれだけ小さくてもパツンパツンになることはないだろう。モッコリが強調されることもなくなる筈だ。

 あ、俺様ってば良いこと閃いた。

「ステータス画面があるんだから、アイテム画面だってあってもいいだろ」

 これ出てきたら、マジで最強じゃんか。良品を安く買い叩いて、高値で転売生活とか、最高にテンプレ俺TUEEE展開じゃんか。億万長者楽勝だよ。ロリマンコのヒモになる必要もない。

「転売最強だろjk」

 目の前のセールワゴンを睨み付けて、ステータス画面よ出てこいと唸る。するとどうしたことか、出てくるじゃないか。ステータス画面。いや、この場合はアイテム画面とでも言えばいいのか。


 名前:木箱
 耐久力:10
 希少性:0
 属性:なし

「ほう!」

 木箱か。まあ見たまんま木箱だし、他に言いようはねぇよな。

 じゃあ次は、この木箱の中に注目してみるとしよう。

 適当にシャツっぽい布きれを掴んで凝視してみる。出てこいアイテム画面。


 名前:旅人の服
 耐久力:5
 希少性:0
 属性:なし

「なるほど、なるほど」

 旅人の服らしい。安っぽい感じがショタ野郎向けでグッドだ。

 よし、これにしよう。

 ついでだから他のもちょっくら鑑定してやろうか。

 次はズボンっぽいやつを手に取って睨む。


 名前:旅人の服(下)
 耐久力:4
 希少性:0
 属性:なし

 あんま変わりないな。普通のズボンっぽいわ。

 まあ、これもショタ向けに買うとしよう。

 更に続けて、幾つか適当に鑑定を進めてみる。


 名前:ぬののふく
 耐久力:2
 希少性:0
 属性:なし
 状態:破損

 名前:皮の腰巻き
 耐久力:5
 希少性:0
 属性:なし
 素材:ハーフウルフの皮

 名前:バンダナ
 耐久力:1
 希少性:0
 属性:なし
 素材:ウェアラビットの皮

 なんつーか、碌なもんがねーな。ドラクエで言えば、最初の村で売ってる一番に安い防具ばっかりだ。こんなもん幾ら装備したところで、屁の足しにもならないだろ。

 やはり、この木箱は売れ残りやゴミ商品のワゴンで間違いないな。当然のようにどれも中古だ。なんか手に持ってるだけで、妙な匂いが漂ってくるし。

 自分用には絶対に買いたくねーな。ショタ用だからこそだろう。

「さて、さっさと買って帰るか」

 これ以上の長居は無意味だ。

 店員の立つカウンターへ向かい、早々のこと踵を返す。

 その過程でふと、目に付いたものがあった。店の隅の方、棚と棚に作られた角のあたりへ、無造作に立てかけられた、棒状の何か。一見しては掃除用具か何かかと、見逃してしまうように思える。

 ただ、なんか気になる。

「……なんだこれ」

 歩み寄って、手に取る。

 長さ一メートルほどの木の棒だ。特に刃が付いていたりすることはない。けれど、取っ手というか、柄というか、そういう感じの握りは付いていた。

 正直、何の役に立つのか全く分からない棒だ。これで殴り掛かれということだろうか。ドラクエ最弱武器、ひのきのぼう的なアイテムなのだろうか。

 ということで、鑑定だ。鑑定。


 名前:死霊の杖(脚部)
 耐久力:9
 希少性:13030
 属性:闇
 状態:破損

 なんかスゲェの見つけた。

 超レアなアイテムっぽくね? 見た感じ完全に木の棒だけどさ。

 「っていうか、幾らだよ」

 値札とか付いてないのか? それとなく探ってみるが、らしい表記は見当たらない。売り物であるか否かすら怪しい。本当にタダの棒である。

「これは買いだろjk」

 店員に聞いてみるか。

 ショタ野郎の衣服と合わせて、カウンターへと運び込んだ。

「すんません、これください」

「あぁ? おい、兄ちゃん、その棒は売りもんじゃねぇぞ。元々は杖だったんだが、武器屋の野郎と喧嘩してな、そのときにぶっ壊しちまったんだ」

「え? 売りもんじゃないのかよ?」

「ちょっと長い棒が欲しいぞコラって思ったときに丁度良いんだよ」

「じゃあ金払うから売ってくれ」

「こんなもん買ってどうすんだよ?」

「ちょっと長い棒が欲しいぞコラって気分なんだよ」

「……なんだそりゃ」

「いいからほら、売ってくれよ。ハリー! ハリー!」

 店のオヤジを急かして、強引に棒を購入。こうなるとショタ野郎の服はついでみたいなもんだ。あぁ、そういやアイツってば、靴も持ってなかったよな。

 くっそ、面倒くせぇ、それも用意しなきゃならねぇか。まあいいや、当面は裸足でご奉仕させるとしよう。しょせんは奴隷だ、奴隷。

		◇		◆		◇

「ところで、さっきから気になってたのですが、なんですか? その妙な棒は」

「バカには理解できない最高の武器だぜ」

「……バカ専用の武器なんですね」

「ちげぇよっ!」

 ショタ野郎の服を買って、ダンジョン宿屋まで戻ってきた。ショタには早々のこと着替えを命じた。便所の小部屋の中でモソモソとやっている。

 一方で俺は、防具やで購入した棒を弄っている。あの妙に高いレア度の所以を調査中ってやつだ。破損って書いてあったからな。できるなら直したいもんだ。

 そして、すぐ傍らにはジッとこちらを見つめるロリマンコの姿が。どうやら、この棒きれの真なる価値を理解できずにいるようだ。訝しげな顔をしている。

 ちなみにコックは隣のキッチンで夕食の仕込み中。オヤジ面は見ていて楽しいもんじゃないので、こうして引きこもっていてくれるのは良いことだ。

 っていうか、何気に今の俺ってば、余所様との共同生活を実施中なんだよな。つい数日前までのソロニート生活からすれば、考えられない変化だわな。

「先っちょにブラシを付けたらトイレ掃除に使えそうですね」

「はん、これだから審美眼のない奴は困るな。物の価値をまるで理解できていない」

「遂に頭が内側から腐り始めましたか?」

「ふふん、好きに言っていればいいじゃない。俺は俺の価値観で動くジャスティス」

「……無性に腹立たしい気分です」

 なんかちょっと勝利的な気分だ。心地が良い。

 本物を知る圧倒的知性が、立ち振る舞いに自信を滲ませているのだろう。揺らぐことの無いご主人様の意思を受けて、珍しくもロリマンコが悔しそうな顔をしている。

「ところで、ここと外を行ったり来たりするのに、いつもお前の魔法が必要なのって、すげぇ面倒だよな? どこでもドア的な魔法ってないのかよ?」

「どこでもドア? なんですか、それは」

「銀行の金庫の中から、気になるあの子の風呂場まで、好きなところへ自由に出入りできる妙ちくりんなドアだよ。お前の魔法だって、似たようなもんだろ?」

「どこへでも、というのは難しいですが、特定の空間を固定的に繋ぐことは可能です」

「おぉ、マジで?」

「たしかに宿屋として客を迎え入れるには、エントランスが必要ですね」

「そうそう、それが言いたかったの、俺は」

「……分かりました。用意しましょう」

「よし、じゃあお前の今日の仕事はそれな」

「相変わらず偉そうですね」

「俺は雇用主、お前は従業員。やっぱり力関係ってのは大切だと思うんだよな」

「一度として給与を貰った覚えはないのですが?」

「え? 欲しいの?」

「くれるのですか?」

「そうだなぁ、まあ、ここ最近の働きを考慮すれば、吝かでもない」

「……期待させておいて、後で落とす作戦ですね。なんて卑屈な主人ですか」

「お前も割と捻くれてるよな」

「主人のせいです」

 確かに多少は俺に責任があるかもしれない。けれど、大半は元よりコイツが持っていたものだろう。コイツの素の性格だ。間違いない。

 ここ数日の付き合いだが、何となく分かる。

「では、地上側で準備をしてきます」

「あぁ、早くしろよな」

「そう難しいことではありません。言われずとも早急に終わらせます」

 言うが早いか、魔法で消え去るロリマンコ。便利な魔法だ。

 結果、部屋に残されたのは俺が一人。

「…………」

 ショタ野郎は未だに便所の中でお着替え中である。シャツとズボンへ着替える程度で、一体何に苦戦しているのか、時間が掛かっている様子だ。

 そして、ベッドの上には昨晩、ロリマンコが着ていたパジャマがある。

「…………」

 なんだろう、凄い久しぶりに一人となった気がする。

 同時に沸き上がってくる圧倒的性欲。

 これはもう、やるしかないのではなかなろうか。

 ザ、オナニータイム。

 男は決断力が命。

 そうと決まれば、ロリマンコが帰ってくる前に、早急に仕事を終わらせるべきだろ。まずは便所に籠もったチンポコタロウが出てこないよう、ドアを封じるぜ。

 俺は大急ぎで部屋の家具を移動。

 トイレのドアが開かなくなるよう、椅子とか机とかベッドとかを配置する。オナニーの最中に奴の顔を見たら、凄い嫌な気分になりそうだしな。

 キッチンの方は大丈夫だろう。あのオッサン、料理を始めると呼んでも全然反応しやがらないからな。当面は籠もりっきりだろう。

 ということで、準備は完了だ。

「やばい、ワクワクしてきた」

 ロリマンコが使っているベッドへ横になる。

 ロリマンコが使っているパジャマを手に取る。

 ズボンを脱いで、露出した息子を左手に握る。

 俺のオナニーはサウスポースタイル。

「あぁ、良い匂いがするよぉ、良い匂いがするよぉっ」

 ロリマンコが使っているパジャマをクンカクンカする。

 一瞬にしてギチギチとなった息子を、アホみたいに擦りながら、なんかもう全力でパジャマの匂いを吸い込む。ちょっと口に含んでみる。更には股間に押し当ててみる。

 数日ぶりのオナニーは最高でありました。

		◇		◆		◇

「戦争?」

「なんでも隣の国が本格的に攻めてきたそうです」

 その日の晩、夕食の席にロリマンコが言った。どうやら、どこでもドアの設置をしていた最中、街の人間が話しているのを聞いたらしい。

「そりゃまた大変そうだな」

「酷い他人事ですね」

「だって他人事だろ」

「劣勢が想定されているみたいで、ギルドに所属する冒険者に加えて、市井にも徴兵令が出ているようです。特に若い男は大半が出兵を余儀なくされるとか」

「ふーん」

 これでイケメンが一掃されれば、世界はまた一歩、平和へと近づく。冒険者とかDQN系のイケメンが多いからな。街が綺麗になるぜ。あと、奴隷も量産される。俺としては嬉しい限りだろ。

 負け組ドラゴンのステーキをモグモグしながら相槌を打つ。

 どんなヤツらと喧嘩してるのかは知らんけど、まさか、昨日の今日でここまでやって来る奴はいないだろ。戦争の最中にダンジョン攻略とかどんだけ余裕あるんだよって感じだし。正直、俺のこと村八分にするヤツらのことなんて知ったことか。

 ただ、コックの野郎はそうでもないみたいだ。

「おいおい、マジかよ?」

「マジです」

 なんか九にソワソワとし始めやがった。

「なんだよ? 気になるのかよ?」

「そりゃ当然だろ? 生まれ育った街が戦争おっぱじめるんだぞ?」

「オッサンってここが地元なのかよ?」

「悪ぃかよ? 首都の方で修行してて、ついこないだ戻ってきたばかりなんだわ。お前に声を掛けられたのが、ちょうど帰ってきて一日目っつーか」

「そんな状況で見ず知らずの相手にホイホイと付いていったのかよ? 正気の沙汰とは思えねーだろ。ぶっちゃけ有り得なくね?」

「おいこら、お前がそれを言うかよ?」

「じゃあオッサンも徴兵されんのか?」

「実家や役所には帰ってきたって連絡してあるから、もしかしたら、上から招集が掛かってるかもしれねぇなぁ。ギルドの連中にも挨拶はしてあるし」

「っていうか、話が急すぎるだろ? いきなり徴兵とかヤバイだろ。そこまでギスギスした感じじゃなかったのに、どうしていきなり戦争モードに入れるんだよ」

「戦争そのもので言えば、過去数年に渡り小競り合いが続いていたそうですよ。ただ、ここへ来て急に相手方の動きが変わったらしいです。何があったのかは知りませんけど」

「なんだよそれ」

「少しは自分の頭で物を考えたらどうですか? 脳味噌が蕩けて消えますよ」

「興味ないね!」

 俺の崇高な脳内リソースをそんな下らないことに割くなんてとんでもない。

 むしろ、俺のことを無視してた連中が一掃されて、新しいヤツらが入ってきてくれれば、再び街でお買い物とか出来るようになるじゃないか。

 なんということでしょう、自国の敗戦がプラスにしかなりません。

 っていうか、昨日まで俺のことを毛嫌いしていた、隣のお姉さんとか、近所の娘ッ子達が、次の日には首に鎖付けられて奴隷やってるとか、心躍るものがあるよな。

「すまねぇ、大将。ちょっといいか?」

「なんだよ?」

 オッサンが箸を置いた。

「昨日の今日で悪いとは思うんだが、明日から少し、家に戻らせて貰ってもいいか?」

「ここのキッチンはどうすんだよ?」

「すぐにもどる、ちゃんと戻る。ただ、どうしても詳しいところを自分の目と耳で確認してぇんだよ。約束の肉も半分にしてくれていい。だから頼むわっ」

 パン、音を立てて両手を合わせるオッサン。更に深々と頭を下げる。そこまでして戻りたいって、どんだけだよ? まったく、家族仲の良いヤツらは見ていてムカツクぜ。俺もこういう円満な家庭に生まれ育ちたかったもんだ。

 そうすればこんなクソな性格には育たなかっただろ。

 俺だって好きでニートやってんじゃねぇよ。いわば社会とか家族とか、そういう生まれ育った環境ってやつに、無理矢理やらされてるんだよ。こっちだって被害者なんだよ。そこんとこ世界は十分に理解するべきだろ。

「ふんっ、別に行けば良いじゃん」

 なんか面白くないな。

「悪い、ありがとうな。恩に着るぜ」

 良い笑顔で礼を言ってくる。

 行けば徴兵されるかも知れないのに、頭がイカれてるんじゃないかコイツ。

「そっちのショタ野郎はどうすんだ? お前もなにかあったりするのか?」

「あ、はっ、はいっ! 僕でしょうかっ!?」

「ここにショタは一人しかいないだろ」

「いや、あの、ぼ、僕は別に……」

 オッサンに同じく、テーブルを囲うショタ野郎。丸テーブルを四人掛けだ。

 声を掛けたら、ビクリ、大仰に肩を震わせた。かなりビビってる。便所に閉じ込めた一件が尾を引いてるんだろうか。

 久しぶりのオナニーだったんで、結構な時間をシコってたしな。オカズがロリマンコのパジャマであった点も大きい。スゲェ出た。黄ばんだヤツが。

 おかげで今は賢者モードだ。故にオッサンの帰省にも寛容になれる。

「お前が帰りたいっていうなら、俺は止めることはしないぜ?」

 っていうか、ショタ野郎に限って言えば、むしろ早く帰って欲しい。コイツが居ると、ロリマンコの野郎が普段の三割増しでウザイ。イケメンに見られているという状況が、ヤツを調子づかせるのだろう。このクソビッチめが。

 つまり百害あって一利無しってやつだ。戦争を口実にリリースできるなら、それが一番じゃないか。そもそも何故に俺はこうして、見ず知らずのショタ野郎と一つ屋根の下、テーブルを囲っているんだよ。意味が分からねぇよ。どうしてこうなってる。

「そうなんだよ。それしかねーよ。お前、ちょっと帰省しないか?」

「え?」

 別にコイツをキープしとく理由なんて一つもないじゃん。

 これならロリマンコも文句とか言わないだろ。

「あの、ど、どういうことでしょうか?」

「だから帰省しろって言ってんだよ。お前だって故郷の一つや二つはあるだろ?」

「え? い、いいんですか?」

「良いに決まってるだろ? 俺とお前は心で繋がったソウルフレンドさ!」

「でも、僕、あの、奴隷として買われたんじゃ……」

「細けぇことはいいんだよ! 友達をいつまでもこんな陰険な場所に閉じ込めておくなんて俺にはできない。俺はそんな酷いことはできやしない! なにがどうしたら、そんな酷いことが出来るのかっ!」

「ロリマンコが帰ってきたとき、トイレのドアを内側から叩いていたのは誰だったか覚えていますか?」

「さて、知らないな。他に客が居たんじゃないのか?」

 さてはロリマンコ、イケメンの里帰りに反発してやがるな。

 だがしかし、俺はこれを断固強行するぜ。

「んじゃ、明日にでも帰ってしまえ。分かったな?」

「あの、よろしいんでしょうか?」

「主様の俺が良いって言ってんだから良いに決まってるだろっ!?」

「は、はいぃ……」

「よしっ! これで全ては元の鞘ってやつだ」

 まったく、これだから戦争は止められねぇぜ。

		◇		◆		◇

 翌日、オッサンとショタ野郎はダンジョン宿屋からチェックアウトした。

 二人を見送って以後、俺はオッサンが最後に煎れていった茶を啜りながら、食後の一服をキメる。僅か二、三日の付き合いだった。思い返してみれば、名前も聞いてない。次ぎに会ったとしても、きっと、誰だよお前状態になりそう。

 そういう意味では、本当に宿屋の客って感じだったな。

「これでまたロリマンコと俺、二人の時間が始まるな……」

「今、凄い鳥肌が立ちました。ぞわぞわって来ました」

「ちょいとご主人様からの命令だ。俺の心を深めに抉る発言は今後許可しない」

「脆い心ですね」

「うるせぇよ」

 テーブルの正面にはロリマンコが腰掛けてる。椅子に座って、足をプラプラさせてる姿がラブリーじゃねぇか畜生が。床まで届かないとか最高だろ。

 両手に大きめのカップを持って、ズズズとか、超絶萌え萌えなんだよ。クソ。

「外の様子が気にならないのですか?」

「いいか、ロリマンコ。ニートとは外を気にしない生き物だ」

「ニート? なんですかそれは。どこに生息してるんですか?」

「ダンジョンの地下六十階だ」

「なるほど、主人に尋ねた私がバカでした」

 そう、俺はニートだ。まさかニートが戦場へ赴いて良い筈が無い。たまにニートを自衛隊へぶち込むキチガイな親がいるらしいが、あんなもんはクソの極みと言えよう。

 せいぜい虐められて精神疾患を抱えて、より金の掛かるニートへ進化するのがオチである。ニートは教育に失敗した親の負債なんだから、死ぬまで世話するのが当然だ。

 それが嫌なら子供なんて作らなきゃいい。

「だから俺は絶対に子供なんて作らないぜ!」

「……誰が誰と子供を作るのですか?」

「ついに頭のみならず耳まで壊れたか? 子供作らない宣言だ」

「真面目に相手をするのがバカらしくなりますね……」

「むしろ今まで真面目に相手をしてくれていたのかという驚きだ」

「とんでもないキチガイ主人に拾われてしまいました」

「俺は常にお前の遥か先を進んでいるんだよ。お前が一歩を踏み出したとき、道は既に踏み固められて、圧倒的な歩み易さを提供すると共に、足腰への負担を軽微なものとするだろうさ」

「外は気にしない生き物であったのではないのですか?」

「ぐっ……」

 いちいち面倒臭いマリオネットだ。くそ。

「まあ、主人がここに籠もるのは勝手ですが、コックがチェックアウトしましたので、晩ご飯は当然として、昼ご飯もままならない状況です。私も主人も料理はできないのです。いよいよ食べるものがなくなりますね」

「そうだよ、そう言えばそうだよ。忘れてたよ」

 すぐに帰るとは言ってたけど、いつ頃帰るとは聞いてない。

 クソ、ミスったぜ。

「こうなったら戦争のどさくさで火事場泥棒するしかねぇな」

「相変わらず発想が惨めですね」

「それがダンジョンで見知らぬ連中を皆殺しにしようとしたヤツの台詞か?」

「泥棒と殺人を一緒にしないで下さい」

「嘆かわしい、そういう区別が良くないんだと俺は思うね。どっちも同じさ。犯罪にカッコ悪いもカッコ良いもねーんだよ。そういう思考がDQNを生むんだ。こんな単純なことも理解できないとか、だからお前はマリオネット止まりなんだよ」

「DQNが何かは知れませんが、主人がそれを言うとムカつきますね」

「ははっ、ザマァ」

 軽く笑ってやると、呑んでいた茶をぶっかけられた。煎れてから少しばかり時間が経っているおかげで、火傷をするほどじゃない。だが、頭から胸元までずぶ濡れだ。

「おいこら、どーすんだよこれ」

 ユニクロ装備は現実世界から持ち込んだレアアイテムだぞこの野郎。

「それで昼食はどうするのですか? 私は不要ですから構いませんが」

「分かったよ。行けば良いんだろ、行けば」

 仕方ない。街へ出掛けるとしよう。

 考えて見れば、飯がどうこう以前に替えの服が必要だ。ショタ野郎の服を買っておいてなんだが、俺は自分の服がこれしかない。流石に三日四日と着続けているので、良い感じに香る。伊達にワキガ認定されていない。

 また、いずれにせよ暇すぎる。ここでロリマンコと駄弁っていても良いけれど、それも限界がある。ここの宿屋には一番大切なものがない。そうだよ、ネット回線だよ。

		◇		◆		◇

「なんつーか、昨日の今日でこの騒ぎかよ?」

 地上は賑やかだった。昨日までも賑やかだったけれど、今日のそれは幾分か趣が異なる。なんか大きな通りには剣やら槍やらを手に武装した連中が列を為していたり、家々は雨戸的なあれを閉めてたり。なんつーか台風前夜って感じ。

「かなり緊迫しているみたいですね」

「ここまでコロッと変わるなんてスゲェよな。流石は異世界だ」

 世間に溢れる異世界転生俺TUEEE組の多くは、戦争が始まったら我先にと活躍を始めるだろう。最近の主流としては、表に立って戦う勇者様を後ろの方でチクチクとディスリながら、最終的に美味しいところを全部掻っ攫うという漁夫の利スタイルだ。

「なんでも街から逃げだそうとすると打ち首だそうです」

「そりゃ一般人が逃げたら誰が偉いヤツを守るんだって話だからな」

「自分で自分の身も守れない存在は大人しく死ぬべきです」

「まったくだ」

「主人を貶したつもりなのですが全く気付いていませんね」

「うるせぇよ。気付いてるよ」

 ただでさえ街ぐるみで貨幣経済から閉め出された俺だ。こうなってくると、殊更に物を買いにくくなるじゃないか。

 攻めてくるなら攻めてくるで、早いところ占領してくれりゃ良いのに。

 耳を澄ませば届けられる町民達の憂鬱な会話。

「父ちゃんっ! 父ちゃんどこいくのっ!?」「悪いな、マー坊。父ちゃんはこれから街を守る為に戦いに行かにゃならねぇ」「あんたぁっ! 絶対に、絶対に生きて帰ってきてねよぉっ」「心配すんなって、これでも冒険者でランクCまで行ったんだ」「父ちゃぁんっ! 父ちゃぁんっ!」「無事に帰ってきたら一緒にヘルミナのお祭りに行こうなっ!」「あなたぁっ! 絶対よぉっ!? 絶対に約束よぉおおっ!?」

 いやもう、この父ちゃん絶対に死ぬね。フラグ立てまくりだろjk

「どうしたのですか?」

「いや、名前すら無いモブの日常に哀愁を感じていたところだ」

「主人には家族がいないのですか?」

「居るけどそれが何だよ?」

「心配にはならないのですか?」

「すげぇ遠くにいるから何が起ころうと問題ないんだよ」

「なるほど」

 正直、新しい寄生先を見つけた今なら、あれが生きようが死のうがどうでも良いんだけどな。いや、でもまあ、元居た世界に戻る系のエンディングを迎えたときは、また世話になるんだから、少しは敬っておくか。ババァ、飯っ!

「おいっ、そこの男っ!」

 不意に声を掛けられた。

 何事かと振り返ると、見知った相手が居た。

「あ、Gカップ」

「……ここで何をやっているんだ?」

「滅び行く日常に盛者必衰の理を覚えているところだ」

「訳の分からないことを言っていないで、さっさとギルドへ来いっ!」

「なんでだよ?」

「まさか、知らないのか? 有事の際において、冒険者には領主の指示する徴兵に従う義務がある。これを破れば冒険者としてギルドを利用する権利を永久に剥奪される」

「は? ちょっと待てよ。そんな契約知らないぞ」

 俺がいつそんなヤバイ契約書に判子を押した。

「いいから来いっ! 早くしろっ!」

 デートのお誘いなら乗ってやっても良いが、徴兵のお誘いは勘弁だ。

「どうするのですか?」

「冗談じゃねぇ。俺は冒険者なんて止めたんだ。今の俺は宿屋の主人だ」

 嘘は言ってないぜ。

「冗談を言っているのはお前の方だっ! 敵はすぐそこまで来ているのだぞっ!?」

「んなもん知らねぇよっ! 勝手にオマエらで滅ぼされりゃいいだろうが」

「き、貴様っ、貴様もまたこの町に暮らす人間の一人だろうがっ! こういう時こそ皆で協力し合うものだっ! それが言うに事欠いて滅ぼされろだと? ふざけるなっ!」

「ふざけてねぇよ! 俺のこと街ぐるみで宿泊拒否したり、入店拒否したり、散々好き勝手やっておいて、いざ自分たちが立ちゆかなくなったら協力しろだ? ふざけてるのはお前らの方だろうがっ!」

「そ、それはっ……」

 ふっ、これはキマったっ!

 やべぇ、今の俺ってば最高に悲劇のヒーローっぽくてカッコイイ。

 こういう役回りに憧れてたんだわ。

「それとこれとは別問題だっ!」

「別問題じゃねぇよ! 日々の生活へ直結する重要な同一の問題だろうが!」

「へりくつをこねるなっ!」

「へりくつこねてるのはそっちだろっ!?」

「それに今回の件でお前が役に立つ人間だと周囲から認識されればっ、これまでの不本意な扱いに関しても、改善されるかも知れないだろうがっ! 物事を前向きに考えられないのかっ!?」

「うっせぇよっ! 最初から好感度上昇率の馬鹿高い美人が、禄な経験もない癖に生言ってんじゃねぇよっ! お前が俺と同じ立場になったら、同じ事ができるのかっ!? 胸張って嫌いな奴の為に命張れますかっ!? あぁっ!?」

「当然だっ! それがこの街に身を置く冒険者としての勤めだっ!」

「だったら今回のところは大嫌いな俺の為に身を張って精々頑張ってくれよ。お前がちゃんと命を賭けて頑張りきったら、次は参加してやらないでも無いぜ? せいぜい死なないように努力しろよ」

「なっ……」

 よっしゃ、決まった。論破してやったぜ。

 怒りからだろう。見る見るうちにGカップの顔が赤くなっていく。

「ほら、分かったらあっちいけよ。ギルドに行くんだろ? さっさと行けって」

 しっしと手を振ってやる。

「もしも負けて奴隷に落ちたら、ちゃんと買い付けてやるから、楽しみにしてろよな」

 すると、しばらくプルプルと震えてから、Gカップは吠えた。

 一際大きな声で吠えた。

「ふ、ふざけるなっ! お前のような糞野郎、こちらから断るわっ!」

 命の恩人扱いも今日で終わりだ。

 人の人に対する価値なんて、簡単に変わるもんさ。

「あとで覚えておくと良い。この街にお前の居場所はなくなるだろう!」

「最初からねーじゃんかよ」

「黙れゲスがっ!」

 ああだこうだと汚い言葉を吐いて、Gカップは去って行った。今にも剣とか抜き出しそうな勢いだった。ありゃマジギレしてたな。間違いない。

 どうやら論破されたのが相当に悔しいらしい。

 逆にこっちはスゲェ気分がいいぜ。清々しい心地だ。

「もしもこの街が勝ったらどうするんですか?」

「おい、決めたぞロリマンコ」

「相変わらず人の話を聞かない主人ですね」

「俺は敵軍に全力で寄与することをここに誓います」

 やっと分かったぜ。俺に与えられた俺TUEEEのスタイルがな。

 悲劇のヒーローで復讐物語。これしかねぇよ。ユーベルブラットとか超絶面白いし。あぁでも、あの主人公はイケメンのショタ野郎でヤリチンだから嫌いだけどな。

「具体的にどうするつもりですか?」

「そりゃお前、この俺の現代知識を使って、高度な情報戦略を仕掛けるに決まってるだろうが。こんな脳筋揃いのかっぺ共なんて一網打尽よ」

「敵の名前すら知らない人間がどうやって高度な情報戦を仕掛けるのですか?」

「……お前って人のやる気を削ぐの好きだよな」

 せっかくやる気になったのに。

 ニートの心は繊細に出来てるんだから、軽々しく触れるんじゃねぇよ。

「まあいいや、分からないのならば調べれば良いじゃない」

「どうやって調べるのですか?」

「その為のロリマンコだろうが。いけ、ロリマンコ。敵の懐を探ってこい!」

「主人は何をするのですか?」

「先に宿へ戻って、冷凍された負け組ドラゴンの肉を解凍しとくわ。今から外に出しておけば、昼飯の頃には良い感じに自然解凍されてるだろ」

「なるほど、これがニートという生き物なのですね」

「流石はINT高いだけあるな。よく分かってきたじゃないか」

 作戦開始だぜ。

		◇		◆		◇

 宿屋のベッドでゴロゴロしていると、ロリマンコが戻ってきた。

「お、早かったな」

 まだ一時間も経ってないだろう。きっと肉も凍ったままだ。

 ちなみにコイツの帰宅ルートは、負け組みドラゴンが炎を吐いていた正規の出入り口とは別だ。昨日、地上へ通じるルートとして新しく設置されたドアである。

 便所にキッチンに出入り口、営業開始数日で随分とドアが沢山付いたもんだ。

「私に雑用を押しつけて自分は昼寝ですか。優雅ですね」

「だろう?」

 ゆっくりと身体を起こす。

 起こそうとしたところで、腹に踵落としを決められた。

「ひでぶっ!」

 ドスっと来た、ドスっと。

「敵はかなり街に近い場所まで来ています。一日から二日の距離です。規模からして先兵ではなく、本格的な制圧軍だと思います。この街の規模からして、戦況は五分五分といったところでしょうか」

「て、テメェ、俺は胃下垂だから他のヤツより腹パン耐性が低いんだよっ。マジでなにしてくれちゃってんだよっ、くっそ、くっそっ……」

「胃下垂とはなんですか?」

「前世イケメンだったヤツが現世に負った業の一つだよ畜生っ……」

 マジで痛い。

 メシ食ってから時間が経ってて良かった。じゃなきゃ吐いてたわ。

 しばらくのた打ち回った。

「これからどうするんですか?」

「どうするか? んなもん、情報戦に決まってるだろ、情報戦に」

「具体的には?」

「あー、んー、そうだなー……」

 情報戦って具体的に何すりゃいいんだよ。

 情報をこねくり回してあれやこれたするのが、いわゆる情報戦ってやつだろう。しかし、俺が持ってる街の情報はと言えば、Gカップが巨乳だってことと、街の偉いがヤツの娘がヒス持ちってことくらいだ。

 糞の役にも立ちやしない。

「何も考えていませんでしたね? これだけ時間があったというのに」

「ち、ちげぇよ。戦略が沢山ありすぎてどれにしようか迷ってんだよ!」

 ったく、面倒臭いな。

 なんで俺がこんなことしなくちゃならないんだ。

 段々と嫌になってきたぞ。

 俺は自発的に動いて何かするのが好きなんだよ。他人に強制されると、途端にやる気とかモチベーションとか、そういうのが下がるんだよ。

 そのせいで学歴もパッとしないし、英語だって話せないんだよ。本当なら今頃は日立とかグーグルとかの基礎研あたりに収まってるような人間なのによ。

「くっそ、せめて地図を寄越せよ、地図をっ」

 一日か二日の距離ってアバウト過ぎるだろ。

「地理もろくすっぽ頭に入ってないんですか?」

「黙れよロリマン。俺はまだここへ来て十日も経ってねぇよ。しかも道中はドラゴン氏のルーラでキメたから、地理もへったくれもあったもんじゃねぇ」

「その割には随分と盛大に町民から嫌われているようですが」

「ふふん、人が人を嫌いになるのに、時間なんて必要ないのさ」

「格好つけて言っても状況は変わりませんよ」

「俺の悲劇のヒーロー度が上昇して、やる気が少なからず増えるから、状況改善に効果大なんだよ。お前は少しは人間の機微ってもんを学ぶべきだぜ」

「では、そのやる気を糧に方策を提出して下さい。今すぐです」

「この腐れマンコはっ……」

 せめて地図くらい用意しとけよな。使えないマンコだな。

 っていうか、ステータスウィンドウとアイテムウィンドウが出てきたんだから、次はマップウィンドウが出てくるべきじゃねぇのかよ。

 そうだよ、マップウィンドウがないネトゲとか糞過ぎるだろ。

「カモンッ! カモンッ、マップウィンドゥッ!」

 叫んでみる。

 しかし何も起こらなかった。

「ついにイカれましたか?」

 今のは練習。今度が本番。もう一回、叫んでみる。

「カモンッ! カモンッ、マップウィンドゥッ!」


名前:タナカ
性別:男
種族:人間
レベル:1
ジョブ:ニート64
HP:5900/5900
MP:0
STR:2400
VIT:3200
DEX:4920
AGI: 900
INT: 310
LUC: 540

 お前はステータスウィンドウだろ。邪魔すんじゃねぇよ。

 っていうか、もしかしてマップウィンドウは未実装なのか? ありえないだろ。マジふざけてるわ。ステータスウィンドウがあるのにマップウィンドウがねぇとか。

「なんだよ、なんだよおい、やっぱりクソゲーかよ」

「…………」

 マップウィンドウなしで、どうやってクリアしろってんだよ。

 ゲームのスタート地点でラスボスとエンカウントするような世界観だぞ。モンスターの分布情報もなしに冒険なんてできるかよ。

 だったらせめて、まとめWIKIとか寄越せよ。

「ステータスとかアイテムが見れるんだから、マップも見られるようにしとけよな。マジで最悪だわ。こんなんじゃ俺TUEEEなんて絶対無理だろ」

 知将系俺TUEEEの道が閉ざされちまったじゃんかよ。

「チート特典だったら、もうちょっとデラックスにしとけよ。マジで糞だわ」

 ふてくされてると、ぼそり、ロリマンコが呟いた。

「……仕方ないので、ロリマンコが地図を描きます」

「え? マジで?」

「こうまでも他人に哀れを感じることがあるとは思いませんでした」

「は? なんで俺がお前に哀れまれてるんだよ?」

「描く物を用意します。ちょっと待っていて下さい」

「あ、おいこらっ!」

 止めるも待たず、ロリマンコは魔法でどこへとも消えていった。

		◇		◆		◇

「なるほど、あの森は意外とデカかったんだな」

「森を抜けると、そのまま山脈に続きます。この山脈は非常に大きいです。人の足で超えることはまず無理だと考えたほうが良いです。ロリマンコならば可能ですが」

 宿屋のテーブルの上、大き目の紙にロリマンコが地図を描く。ここが山、ここが森、ここが川、そして、敵がこのあたり。などなど、真っ白だった紙に近隣一帯の地理情報が被せられた。

「しっかし、お前って絵心ゼロだな」

「主人は他人を思いやる心がゼロですね」

「俺は俺が楽しければ他人なんてどうでもいいんだよ」

「聞いた私が馬鹿でした」

「でもまあ、こういうロリッっとした子供っぽい画風は割と悪くない」

「ぜんぜん嬉しくない気の使われ方をされました」

「贅沢なヤツだな……」

「描くの止めますよ? あと殴って良いですか?」

「わ、分かったから続けてくれよ。ほら、まだ白いところ沢山あるし」

「だったら黙って聞いていて下さい」

 それからしばらく、ロリマンコが講釈を垂れるのに付き合った。一頻りを聞き終えたところで、俺もまた脳内に近隣の地図が思い描けるようになった。

 っていうか、すぐ目の前に描いた紙があるしな。


=====================
 敵                林林林
                   林林
森森森                 林
森森森森
森森森森森
森森森
森森森
森森森   街
川川川川川川川川川川川川川川川川川川川川川川
森森森森
山森森森森森森森森森森
山山森森森森森森森森森森森森
山山山森森森森森森森森森森森森
======================

 良くある川沿いの町ってやつだ。

 一方を険しい山に接しているから、都市としての防御力が高いだとか、森に面しているから冬場の燃料に困らないだとか、内政系俺TUEEEだったら、色々と考えたりするんだろうよ。コークスとか作って俺TUEEEとかしちゃうんだろうよ。

 作中の展開で行き詰ったときは、キャラの感情はさて置いて、周囲環境やその変化を理由に状況打破するのが定石だ。スーパー面白アニメのコードギアスだって、基本的にはその戦法で攻めてきてるし。はぁん、俺ってマジ天才アニメ評論家。

「敵って書いてある方に国境があるのか?」

「はい、そうです」

「ふぅん」

 遠路遥々ご苦労なこった。まあ、頑張って来てくれたんだし、ここは一つ派手に勝たせてやりたいものだな。こんなチャンス、滅多にないぜ。

 どうしたら、遠征軍に確実な勝利を約束できるか。

 いや、勝つというより、負けないことが重要だと思うんだよ、俺は。人生、一度負けると、二度と勝てない身体にされちまうからな。社会は怖ぇよ。

「障害っぽい障害もないよな」

「そうですね」

「ちょっと森が進行方向に飛び出てるくらいか。少し迂回すれば平気だけど」

「森の側から奇襲という可能性を提示できるので、陽動という意味ではプラスに働くのではないかと思います。ただし、あまり大きな動きは難しいでしょう」

「あ、それ俺が言おうと思ってたのに」

「早い者勝ちです」

「くっそ……」

 言いたいこと先に言われると、地味にムカツクな。

「っていうか、これなら別に放っておいても良くね? 五分五分ならいいところまでいくだろうし、イベント起きそうな地形もないし。ぶっちゃけ、面倒くさいし」

「選べるほど充実していた戦略はどこへいったんですか?」

「それよりもほら、開戦まで一日か二日しかないんだろ? だったら、今のうちに生活必需品を集めといたほうがよくね? 戦争になったら決着がつくまで、店とか閉まっちまうんだし」

「またえらく行動の指針が凡庸なところまで落ちましたね」

「大層な主義主張よりも日々の生活の方がなんぼか大切だろ」

「否定すべきではないと思いますが、今は全力で否定したいです」

「ということで、よし、いきなり今日から敵軍だーってことも無いだろうし、街へ繰り出すしようぜ。あっちゃこっちゃ探せば、買い物できる店の一つくらいあるだろ」

「…………」

 ということで、備蓄物資の買い入れを開始だ。

 今度の引きこもりは命がけ。ガチだぜ。入念な準備が必要なんだよ。

		◇		◆		◇

 結論から言うと、駄目だった。

「なんだよおい、どいつもこいつも売れないとか売り切れとか、ふざけんなよ!」

「籠城戦となるのですから、当然だとは思いますが」

「くっそっ、コイツら俺の飯どうするつもりだよっ!?」

 まるで東北地震の直後に眺めるスーパーの棚だ。誰も彼も自分のことしか考えていない。もう少し他人を思いやる心を持ったらどうだよ。店主が在庫独り占めとか、もう絶対に買い物してやらねぇぞ。

「絶対に負けさせてやるわ。速攻で負けさせてやるわ」

「いずれにせよ戦況が落ち着くまで食料は手に入らないと思いますが」

「何気ない顔で占領軍っぽい顔しときゃ平気だろ。略奪し放題だ」

 合戦を前にして賑やかな街の大通り。忙しなく人の行き交うを眺めながら、俺とロリマンコとは道を普段と変わらない調子で歩む。

 徴兵に戦く男連中だとか、俺と同じように日用品の買い込みに必死な主婦だとか、訳も分からず泣いている子供だとか。なんつーか世も末って感じだ。

 ちょっと優越感を感じちゃうぜ。良い気分だろ。

 ナマポやニート共が社畜へ感じる優越感って、多分、これと同じようなもんだ。朝早くから満員電車へ揺られ行くリーマン共を窓の外に眺めて、そろそろ寝ようかなとか、マジ最高過ぎる。

「どうするのですか?」

「こうなったら今のうちから占領軍ぽい感じで町の外に待機して……」

 おくべきかなと考えたところで、不意に明後日な方向から声が上がった。それは男の叫びでだった。それこそ町中に響くのではないかと思うほどに大きなもの。

「敵だぁああああっ! 敵が来たぞぉおおおおおおおっ!」

「マジかよっ!?」

「……早いですね」

 おいちょっと、なんでもう来てるんですか。

「一日とか二日とか掛かるんじゃなかったのかよ?」

「どうやら他に伏兵がいたようですね」

「どうすんだよ、昼飯の用意すら出来てないんだぞ?」

 きっと冷凍肉は溶けきってないぞ。今のまま焼いたら、きっと外側が焦げて、内側が半生で、凄い悲しい感じのステーキがいっちょ上がりだ。しかもドラゴンとか絶対に雑食だから、生肉とかガチでヤバイだろ。妙な菌とか持ってそう。

「敵だっ! 敵がきたぞっ!?」「逃げろっ! 早く逃げるんだっ!」「逃げるってどこへ逃げるんだよっ!?」「女子供を優先しろっ!」「外壁を固めろっ! なんとしてでも侵入を阻止するんだっ!」「もういやぁっ! こんなことなら首都にいれば良かったのよっ!」「おかあちゃぁああああああんっ!」

 敵襲警報が響くに応じて、あちらこちらへ悲鳴が伝搬する。それまでの悲壮感が混乱へと変わる。誰も彼もは突如として飛び上がり、あっちへこっちへ、悲鳴を上げて走り出して行く。笑えるくらい世紀末的光景。

「戻りますか?」

「そうだな。流れ弾にズドンとか絶対に嫌だし、いったん引っ込むか」

 うちの宿屋ほど安全なところはねぇだろ。

		◇		◆		◇

 ダンジョンの六十階に引っ込んでしばらく。昼飯が出来上がるまで、俺はずっとベッドの上でゴロゴロしていた。一時間から二時間くらい、本当に何もせずにゴロゴロしてた。他にやることもなくて、そりゃもう暇な時間だった。

 そして、待ちに待った昼食タイム。

「焼けましたよ」

「おぉ、美味そうじゃん」

 テーブルの上に並ぶ献立は、ロリマンコが焼いた負け組ドラゴンのステーキ。昨晩も思ったけど、パッと見た感じ牛のステーキと大差ないな。

 添えられたパンはコックが昨晩に買い込んだ余りだ。ナイスコック。

「お前、料理が出来るとか、隠してんじゃねぇよ」

「今回は見よう見真似でやっただけです」

「それを隠してたっていうんだよ」

「酷い論理の飛躍ですね」

「次からは、なんでもかんでも聞きまくるから、覚悟しとけよな」

「好きなようにしてください」

 まあ、肉を焼くくらいなら、誰でもできるか。この調子でロリマンコを俺専用のシェフに育て上げるのも悪くない。充実したニートライフには決まった時間に飯を出してくれる奴が必須だからな。ババァ、飯!

「で、お前って処女?」

「いいえ」

「マジかよっ!?」

 ガタンって大きな音が鳴った。思わずテーブル叩いちゃったよ。

 皿の上で肉が少しばかり飛び上がった。

「料理とはなんの脈絡もないですね」

「だって好きなように聞けって、お前が言っただろう」

「そうですね。しかし、いきなり性器の具合を問われるとは思いませんでした」

「っていうか、非処女って、おい、おいちょっとちょっと……」

 なんだよそれ、裏切られた気分だ。

「えり好みできる顔ですか?」

「使い終わったオナホを洗わないで一晩、風呂場に放置してみろよ。翌日それを誰かに差し出して使えっていったら、俺だったら一万貰っても使わねぇな。あぁ、十万貰っても使わねぇ。それが中古の女の腹の中ってやつだ」

「オナホが何かは知りませんが、酷く侮辱された気分です」

「何の為に膜が付いてると思ってんだよ。穴の中を綺麗に保つ為に決まってるだろ? それを結婚してもいないのに、一時の快楽の為に破るとか、人として最悪の部類じゃんかよ。どうしようもないビッチだな」

 なんてこった、コイツ中古なのかよ。

 凄く悲しい気分だろ。

 っていうか、穴は空いてないんじゃなかったのかよ。

 それならまだ素股ダッチワイフとして使えたのに。

「まるで男を知らない、初心な生娘を思わせる価値観ですね。あまり潔癖が過ぎると、人生、つまらないまま終わってしまいますよ? 一時の快楽に身を任せて、小さな楽しみを都度、精一杯に満喫することが、よりよい人生への第一歩です」

「その一時の快楽にウン万も必要だから嘆いてるんだよっ! っていうか、なんでマリオネットに人生を説かれなきゃならないんだよ! 人間様を舐めるんじゃねぇよ!」

「では更に小さな楽しみを見つけるところから始めないといけませんね」

「くっそっ、マジくっそっ……」

 いい加減に落ち込むぞ。鬱になるぞ。この野郎。

 それなら主人の為に股開けよ糞が。

「早く食べないと肉が冷めますよ」

「分かってるよっ!」

 怒りに任せて、もっちゃもっちゃと肉を喰らう。

 うめぇなぁ畜生めが。

 負け組ドラゴンの肉だけが俺の心の支えだぜ。

 食欲で性欲を上書きしたい気分だ。

「っていうか、お前は食わないのかよ?」

「私には不要です」

「ふぅん? こんな美味いもんを不要とか、マジ損してるよな。今のお前ってば、小さな楽しみの一つを一個捨てたぜ? あーあ、勿体ない」

「では食べます」

「食えるのかよ? っていうか、食って大丈夫なのかよ?」

「食べようと思えば食べられます」

「そうなのか」

「ということで頂きます」

「は?」

 気付くと、皿の上にあった肉がなくなっていた。どの皿かと言えば、俺の皿だ。ロリマンコから肉へと意識を移したところで、忽然と消えていた。

 何事かと顔を上げれば、俺が食っていた肉は、何故かロリマンコの手に。人差し指と親指に摘ままれている。どういう仕組みだ。肉がルーラしやがった。

「あ、おいこらっ! それ俺のだぞっ!?」

 咄嗟手を伸ばすも既に時遅し。

「たしかに美味しいです」

 手にしたステーキをそのままガブリといきやがった。

 しかも肉を顔より高い位置に掲げて、こう、なんつーんだ、こっちに見せつけるように口へ運んでのこと。あーん、ってやつだ。

「ナイフで切りもせず噛み付くな! お前は動物か!?」

「なはなはおいひぃへふへ」

「食いながら喋んじゃねぇよっ! 何言ってるのか分からねぇよっ!」

 どんだけ強靱な顎を持ってるのか、ブチン、肉厚なステーキを歯で食いちぎる。可愛らしい口して、随分と凶悪じゃねぇか。

 一息に三分の一を喰らいやがった。

 ぷっくりと頬を膨らませて、モグモグとやってやがる。本当にマリオネットかよ。とんでもねぇ悪食だ。お行儀が悪いったらねぇわ。

 ややあって、ゴクン、ものを飲み込む音が大きく聞こえた。

 満更でもなさそうな表情だ。

 どうやらこのマリオネット、食の喜びを覚えたらしい。残る三分の二も早々のこと腹の中に片付けてしまう。

 そして、最後は指先に付いた油をペロペロと舐めながら言う。

「あのドラゴン、なかなか良いですね。また狩りに行きましょう」

 幸せそうな面しやがって。

 こっちはイラッときたぞ。

「その前にもう一枚焼けよ。俺まだ少ししか食ってなかったのに」

「そうですね。一枚と言わずに十枚ほど焼くべきです」

「意外と食い意地悪いな、お前」

「なんですか?」

「いいから、ほらっ、さっさと焼いてこいよ! ちゃんと中まで火を通せよな」

「分かりました。焼いてきます」

 すこぶる素直に頷いて、ロリマンコは席を立つ。そして、歩み早にキッチンへ向かっていった。ルンルン気分とはこのことだ。心なしか足取りが跳ねて思えたのは気のせいじゃないだろう。

 その日、ロリマンコは日が暮れるまで肉を焼いていた。どんだけだよ。

		◇		◆		◇

 その日の深夜、コックが帰ってきた。

「おい、大将っ! いるかっ!? 大将っ!」

「な、なんだよぉ、こっちは就寝中だぞ……」

 寝ているところを大声で叩き起こされた。せっかく処女膜を取り戻したロリマンコとラブチュッチュする夢を見てたのに、男の声で目覚ましとか最低だろ。もうちょっとで挿入まで行けたのに。

 気分は最悪だ。最低だ。

 しかも夜明けが近いせいか、朝立ちしてる。パジャマがテント張っちゃってて、掛け布団から離れられないぞ。もし部屋にロリマンコしかいなかったら、全力で腰を突き出して、見せつけるよう出歩いてやるのに。ったく、このコック、雰囲気ぶち壊しじゃんか。

「……何事ですか?」

 コックの大声を受けて、ロリマンコもお目覚めだ。

 目元を人差し指で枯コシコシしてる。

 マリオネットも目垢とかでるのか? 食べてやりたいな。

「おうっ、大将、姉御っ、聞いてくれ。上はやべぇぞっ!」

 やたらと興奮した様子で近づいてくる。顔面が厳ついのでちょっと怖い。寝起きに見る顔じゃねぇな。しかもハァハァと息が荒いもんだから、ゲイでも迫られているような錯覚を覚えるぜ。

「ハァハァすんじゃねぇよっ、キモイだろうが」

「これが落ち着いていられるか! 戦争だ、戦争が始まりやがった」

「どんな具合だよ?」

 掛け布団をそれとなく腰のあたりへ被せながらベッドの上へと座る。

 早いところ勃起解除しないとヤバイだろ。

 ただでさえ目の前のオッサンとはショタ野郎の一件でホモ話した後だしな。

「ついさっきだ、敵の大軍がやってきやがった。昼にも来たんだが、それを防いで一段落したと思ったら、それ以上の数がやってきやがったんだ。上じゃ一番外側の壁が維持できなくなって、二つ目の壁まで後退だ!」

「っていうと、もう占領されたのか?」

「三分の一は持ってかれた。だが、まだ、まだ戦えるヤツは残ってる!」

「ふぅん」

「どうやら、かなり早い速度で本隊が移動したようですね」

「やる気があって大変によろしい」

 この様子では五分五分どころか、翌日には占領完了されそうな勢いだ。

「周りも完全に囲まれちまってる。逃げようにも逃げられねぇ。街の連中もかなり捕まっちまった。そりゃもう街の外側はひでぇ有様だ!」

 自分の命が危機に瀕した人間の語り草ってのは、なかなか大した迫力があるな。しかも相手はオヤジ顔だから、熱っ苦しいなんてもんじゃない。

「そんなにヤバイなら、上が静かになるまで、ここに居りゃいいじゃんか。コックやってくれるなら上が落ち着くまで居ても良いぞ。ロリマンコが料理とか始めたから、色々と教えてやってくれよ」

「おいおい、大将っ、街がヤバイってのに料理教えてる状況かよっ!?」

 コックが怒鳴る。

 なんだよ、せっかく良い提案してやったのに。

「じゃあお前はどうしたいんだよ?」

「どうしたいって、そりゃお前、なんとかしたいに決まってるだろうが」

「残念、俺はなんとかしたくないんだな、これが」

「なっ……おい、大将、そりゃどういう意味だ?」

「街のヤツらってば俺に辛く当たるし、別にどうだって良いっていうか、このまま占領されちゃっても構わないって言うか、今は早いところ眠って夢の続きを見たいって言うのが一番だ」

「そんなに良い夢を見ていたのですか?」

「お前とセックスする夢」

「なるほど、では共に地上の様子を見に行きましょうか」

「なんでだよっ!?」

 こんな良い夢、滅多に見れないんだぞっ!? 今すぐにでも眠って、意地でも続きを見るべきだろっ!? なんかキスとか口の中に微妙に感覚があったし、このまま行けば、念願の夢精ができちゃったりするかもしれないのに。

「おい大将っ! 俺は今の言葉になっとくいかねぇぞ」

「オマエが納得しようが納得しまいが、結果は変わらないだろ? 無駄なことに情熱燃やしてないで、ロリマンコに料理でも教えていろよ。俺は寝る。街なんてさっさと占領されちまえば良いんだよ。そうすりゃ俺も幸せだ」

「て、テメェっ!」

 コックの野郎が歩み寄ってきた。

 かと思えば、頬をグーで殴られた。

「へぶっ!?」

「ふざけんなっ! 俺らは命がけで戦ってるんだぞっ!?」

 この野郎、マジで殴って来やがった。

 すげぇ良いパンチだった。

 もんどりうってベッドの上にノックダウンだぜ。

「それが眠てぇだ? 人をバカにするのもいいかげんにしろっ!」

「ってぇ……」

 なんで俺が殴られなきゃならないんだよ。意味が分かんねぇよ。

 別に何も悪いことなんてしてないだろうが。

「テメェを当てにした俺がバカだったっ! 死に腐れこの引き籠もり野郎が!」

「う、うっせぇっ! 引き籠もり上等っ! あと勝手に当てにすんじゃねぇ!」

 売り言葉に買い言葉。

 全力で怒鳴りつけてやった。

 すると、コックの野郎は早々に踵を返す。どうやら、もうここに用はないらしい。そのまま何も語ることなく、地上へのドアへと戻っていった。

 バタン、戸が閉じられれば、部屋はそれですぐに静かとなる。

 口の中を切ったみたいだ。血の味がするぞ。くっそ。

「なんだよあの野郎、勝手に来て、人のこと殴りやがって……」

 マジで痛かったし。

「相変わらずぶれない主人ですね」

「悪いかよ?」

「いいえ。別に悪いとは思いません」

「なら放っておけよ」

 これだからリア充は嫌いなんだよ。自分が得意なものを他人に強引に押し付けてきやがる。自分の世界を広げる為に、その価値観を普遍的なものにする為に、世間の主流とする為に、どこまでも広げてきやがる。そして、自身はこの頂点に立って下々に優越感を感じてやがる。

 そういう侵略行為こそ、真の意味での戦争だってんだ。

 これに比べたら、上でやってる人の生きた死んだなんて、全体を見れば生易しいもんだ。少しばかり金と女が右から左へ流れて終わりだ。何が変わることもない。同じことの繰り返しだもんな。

 逆にリア充どもの侵略と来たら、世界規模で価値観を変えて来やがる。俺ら非リアを滅ぼす為に、自分たちの得意なことを世界の主流として進めて、惑星規模でカースト決めて来やがる。

「と言う訳で、俺は寝るっ! 全力で寝て、夢の続きを見る!」

「そんなにセックスがしたいのですか」

「したいっ! だからもう話しかけるなっ!」

「…………」

 布団を頭から被って眠る。

 床に就く。

 ただ、その日は殴られた頬がズキズキと熱を持ったように痛んで、残る時間を一睡もすることができなかった。あの糞コックの野郎、なんてことしてくれたんだよ。折角、夢の中で脱童貞できると思ったのに。

 初めてだったんだぞ。夢の中で挿入するのは。

		◇		◆		◇

「おはようございます」

 翌朝、気付くとロリマンコがベッド脇に立っていた。既にパジャマから着替えて、平素からのゴスロリスタイルだ。フリルが沢山ついてて可愛いんだよな。見てるだけで、ギュッて抱きしめたくなる。

 ただ、同時に腹立たしくなる。こいつが非処女だという事実が。

「ぜんぜん、おはようって気分じゃないんだけど」

「眠れませんでしたか」

「悪いかよ?」

「怪我を治します。しばらくジッとしていて下さい」

「治せるのかよっ!?」

 だったら昨晩のうちに提案してくれよ。

「あ……」

 ロリマンコの手の平が、俺の顔のあたりに翳される。指紋の一つ一つが確認できる距離だ。かと思えば、同時、手首から先が淡い光に包まれた。

 何事かと身体を強張らせたところ、ふと、頬に感じる痛みが消えた。

「おぉ、痛いのなくなった」

「それは良かったですね」

「お、おうよ!」

 やっぱり凄いな、魔法ってのは。俺もいつか使いたいもんだ。

「今日はどうしますか?」

「どうするって言われても、別にやることなんて何もないしな……」

 俺はニート。言わば引き籠もるのが仕事みたいなもんだ。

 ただ、ここにはネットがない。パソコンもない。本来ならエロ画像を探している時間に、俺は何をすれば良いのだろう。本来ならばオナニーしている時間に、俺は何をすれば良いのだろう。

 時間ばかりが余ってくれる。

 まだ目覚めたばかりだって言うのに、一日を終えたい気分だ。

 なんだろう、この宿屋に籠もりだしてから、気分が良くない方向へ移ってゆく気がする。まだドラゴン氏と遭遇した草原に放り出されてからの数日、外でホームレスしながら苦労していた頃の方が、日々を充実と共に生きていた気がする。

 今の俺は非常に気分が良くない。少なくとも宿無しであった数日と比較して。

「……どうかしましたか?」

「べ、別にどうもしてねぇよ」

 糞、なんだかニートとしての尊厳を否定された気分だ。

「ところで、一つ問題が発生しました」

「なんだよ?」

「肉以外の食料がなくなりました」

「は?」

「肉以外の食料がなくなりました。主に香辛料の類いが」

「繰り返さなくても分かるよ」

「元より備蓄が少なかったのです。数日分しか買い込んでいなかったようです」

「マジかよ……」

 まだ引き籠もり始めて二日目だっていうのに、色々と早すぎるだろ

「っていうか、それってもしかして、お前が肉を焼きすぎたせいじゃないのか? 昨日、かなり長いことジュウジュウとやってただろ。あれってどこ行ったんだよ?」

「気付きましたか……。その通りです。全て美味しく頂きました」

「食っちゃったのかよっ!? マジ何してくれてんだよっ!」

 くそ、このマリオネット、いったいどれくらいの肉を食いやがったんだ。調味料にしたって、コックが持ち込んだやつが、それなりの分量あった筈だ。ぜんぶ尽きるとか、どんだけデカイ胃袋してるんだよ。

 肉はどうにかなるけど、調味料は別だ。ありゃダンジョンじゃ手に入らない。

「くそ、こうなったら外へ仕入れに行くしかないか……」

 本格的に火事場泥棒の時間だ。

 外へ出るのは嫌だ。しかし、飯が塩っぱくないのはもっと嫌だ。

 そう、それが一番の理由なんだ。

「地上へ出るのですか?」

「……悪いかよ?」

 少しひっかかる気がしないでもない。

 けれど、一日三度の飯はとても大切だ。ロリマンコのパジャマでするオナニーを除けば、この宿屋で唯一の娯楽だからな。そも飯を食う以外にやることなんて何もない。

 これを失っては平静を保てまいて。

「いいえ、では向かいましょう」

		◇		◆		◇

「ここはどこだよ?」

 ルーラで移動したので、自分がどこにいるのかサッパリ分からない。

 ちょっとした高台のようになっていて、すぐ近くに作られた腰の高さほどの壁越しに街の様子が見下ろせる。なかなかオサレな一角だ。

 もしも平時であれば、素敵な散歩コースになったろう。ベンチとか置いてあったりして、平日の昼間からカップ酒をキメるには最高のロケーションだろう。

 ただ、そこから眺める光景は、まさに戦争の一色。あっちゃこっちゃから火の手があがっているし、崩れた建物も一つや二つではない。両手に数え切れないほど。

 あ、また一つ、家が爆発した。すげぇな。あれも魔法か?

「この街には城壁が三層あります。その一番内側です」

「なるほど、だからまだ平和なのか」

「ですが、恐らくこの調子では、数日の内に占領されますね」

「だろうなぁ」

 高台から眺める地上は、凄いことになっていた。

 今居る場所はそうでもないが、遠くの方では幾つも煙が上がっている。ギャーだのヒィーだの悲鳴っぽい声も聞こえてくる。街の中は完全に戦乱の最中だ。

「どうやら街の外郭は既に占領されたようですね」

「こうしてみると、かなり迫力あるよな。リアルって感じがするわ」

「なにを今更」

「だって、戦争とか初めて見るし。お前って経験あるのかよ?」

「いいえ、ありません」

「だろ?」

 周りには人の気配がない。俺とロリマンコの二人だけだ。コイツが一緒なら大抵の驚異は問題ないだろうが、やっぱり、他に人が居ないと不安になるな。いきなり敵がやって来て、後ろからグサリとか怖いし。

 どこかに集まっているんだろうか。

「おい、ちょっと街のヤツらとか探しにいこうぜ」

「人肌恋しくなりましたか?」

「ちげぇよ。調味料を探す為に決まってるじゃんかよ」

「そうですか」

 そういや、コックが出入りに使ってるドアってあるじゃんかよ。あれの相方って、どこらへんに置いてあるんだろうな?

 後で暇なときに聞いてみるとするか。

 俺ら以外が勝手に宿へ入ってきたりしたら、絶対に嫌だろ。ロリマンコはその辺り優秀だから、何かしら手は打ってあると思うけどさ。

「んじゃ、あっちの方へ行ってみるか」

「分かりました」

 ロリマンコを伴い移動だ。

 が、歩きだそうとしたところで、不意に声をかけられた。

「あっ! オッサンっ!」

「え?」

 割と大きな声が、急に聞こえたもんだから、ドキっとした。状況が状況だから、スゲェ驚いた。なんつーか、胸のあたりがビクンって震えて、心臓が鷲づかみにされたように痛くなった。

 反射的に振り返ると、知ってる奴が立っていた。

 元ヒロイン候補生の金髪ホームレス少女だ。

「なんだ、お前かよ……」

「だよなっ!? やっぱり、あの時のオッサンだっ!」

 こっちへ向かって小走りにやって来た。

 何の用だよ。

 あぁ、あれか。そう言えば、金を渡してなかったな。

「そういや忘れてた。悪い悪い。これだよな?」

「は?」

「ほら、半分こって約束だったじゃん。草むしりの金」

「あ、あぁ……」

 いつだか森へ薬草採集に行ったときの報酬だ。次ぎに会ったときに渡そうと思って、ズボンのポケットに入れっぱなしになっていたんだよ。

 元ヒロイン候補生に銅貨を渡してやる。

 一瞬、相手はポカンと手の平に載る金を金を眺めた。だが、すぐに調子を取り戻して、声も大きく吠えかかってきた。

「って、今はそれどころじゃないだろっ!?」

「な、なんだよおい、足りないとか言うなよ? ちゃんとそれで半分だからな? 疑うんだったら、なんちゃらギルドに行って確認して来いよ」

「だから、それどころじゃないって言ってんだろっ!?」

「だったらなんだよ」

「戦争だよ戦争、なんで冒険者のオッサンがここにいるんだよ!」

「ここに居ちゃ悪いかよ?」

「冒険者は今みんな敵軍と戦ってるんだぞっ!?」

「あー、それなら俺、もう冒険者は止めたから。無関係だから」

「え?」

「今は宿屋の店主やってんの。だからそれはパス」

「宿屋? オッサン、宿屋の店主だったのか?」

「悪いかよ?」

「いや、わ、悪くはないけど……」

 ステータス画面は未だにニート扱いだけどな。

 あれマジでどうにかならないもんかね。

「この娘はなんですか?」

「お前が登場する前に番張ってたヒロイン候補生だよ。まあ、今はイケメンの騎士様に寝取られて、モブキャラと化したけどな。そういう意味ではお前の先輩って訳だ」

「相変わらず言ってることの意味が半分も分かりません」

「先輩チーっす、って言っときゃいいんだよ」

「おい、オッサンっ! 寝取られたってなんだよっ!? アタシがいつ寝取られたんだよっ!? あと、あの騎士の野郎は関係ないだろっ!?」

「なんだ、寝取られたって単語知ってるのか。頭良いロリだな」

「ば、バカにすんな!」

「キーキーと五月蠅い人間ですね。耳障りです。喰ってもいいですか?」

「食うなよ。貴重な淫乱ロリータ枠なんだから」

 きっと、その膣には大量のイケメン産ザー汁が、溢れんばかりに収まっていることだろう。まったく、これだから人間のロリは良くない。

 いいか? この世のロリは二つに分けられる。育つロリと育たないロリだ。ロリコンとしてどっちが好ましいかなんて、聞くまでもないだろう。

 今も昔もヒロインは人外ロリって相場が決まってるんだよ。

「淫乱ってなんだよっ!? ふざけんなよっ!」

「だってイケメン騎士にお持ち帰りされたじゃん」

「さ、されてねぇよっ!」

「金持ちの屋敷で騎士様一同と乱交パーティーしてたんだろ? 小麦粉を薬って言われて飲んで、気持ち良いのを薬のせいにして、速攻でアヘ顔ダブルピース決めて、自分から腰振りまくってんたんだろ? マジ淫乱だわ」

「してねぇよっ! すぐに帰ったよっ!」

「なんだよ、一発で満足したのか。つまらないな」

「だから一発もやってねぇよっ! そこいらの娼婦と一緒にすんじゃねぇっ!」

「は? 違うのかよ?」

「違うに決まってるだろっ!? ふざけるのもいい加減にしろよ!」

 なんだ、てっきり肉便器になったとばかり思ってたのに。

 そうなると、おいおい、目の前のロリが急に可愛く見えてきたぞ。人外ロリも良いけど、普通のロリもなかなか悪くないじゃんかよ。金髪ロングだし。

 あぁ、ロリマンコとキャラが被ってるんだよな。外見的に。

「まあ、それならそれで良し」

「い、意味が分からねぇよ……」

「気にすんな。こっちの話だ」

 これはモブからサブヒロインに格上げするべきだろう。

 なにより俺に話しかけてくれる貴重なロリだしな。ロリマンコがあまりにもフレンドリー過ぎて、自分の立場とか顔面偏差値とか、色々と大切なところを忘れるところだったわ。日本じゃありえねぇよ。こんなミラクル。

「……少しでも悪かったと思ったアタシがバカみたいじゃんか」

「悪いと思ってたのか?」

「な、なんでもねぇよっ! 思ってねぇよっ!」

「まあ別にいいけどさ。イケメンに勝てるとか思ってねぇし」

「……アイツ、顔は良いけど、中身は最悪だったぞ」

「そうなのかよ?」

「お前の話じゃないけど、いきなり喰われそうになった」

「マジか!? ちょっとそこんところ詳しく!」

 リアルロリのお口からエロトークとかマジ心のちんちん直撃。

「泊まってけって言われたんだよ。それで夜になって、最初は普通に話とかしてたんだけど、急に胸とか股のところ触られたんだよ。だから、思いっきり顔面に蹴り入れて、唾吐いて逃げてきてやった」

「良くやった。褒めてつかわす! ブラボー! ブラボーだ!」

 ざまぁみろ、イケメン騎士が。

「ふんっ、スラムの女を甘く見ると痛い目に遭うんだからな」

 これは良いロリータだ。間違いない。

 騎士にしても、他の女はそうやって落としてきたんだろう。娯楽に乏しい世界だし、女の方も総じて股が緩いんだろう。しかし、どうやらこのロリは勝手が違ったようだ。

 ナイスロリ。

「っていうか、今はそんなことどうでもいいんだよ!」

「お前の貞操より他に大切なことがあるのかよ?」

「あ、あるだろっ!? 戦争だよっ! 街がヤバいだろうがっ!」

「別にどうでもいいし」

「いいのかよっ!?」

「誰が治めたところで大して変わらないだろ? お前はずっとスラムでホームレスだし、俺はずっとダンジョンで宿屋。隅の方で隠れて、後で何食わぬ顔で出てけば、誰も気づきゃしないって」

「オッサン、それ本気で言ってるのか?」

「むしろ疑問なんだけど、なんで一生懸命になるんだよ? お前ってホームレスだろ? 貧乏人だろ? この街の偉い奴に搾取される側だったじゃん。それがどうして、今まで自分たちを虐めてきた奴の為に、命まで張って頑張るんだよ」

「無理に決まってるだろっ!? 相手は共和国領のヤツらだから、アタシたちとは見た目からして違うんだよ! 逃げたところで見つかれば捕まるに決まってるじゃんか! 羽とか尻尾とか平気で生えてるヤツらだぞっ!?」

「マジかよっ!?」

「随分と呆気ない形で方策が敗れましたね」

 おいちょっと、マジでヤバイじゃんかよ。

「くっそ、なんだよそれ、ふざけんなよっ!」

「ど、どうしたんだよ、オッサンっ!」

「ロリマンコ、ここへ来て急遽プランを変更だ!」

「どうするんですか?」

「どうにかする!」

 てっきり同じ人間同士の争いだとばかり思ってたわ。

 そうだよ、ここはファンタジーだよ。ファンタジーの世界なんだよ。猫耳娘とか、リザードマン親父とか、そういうのが闊歩する世界なんだよ。この街にはそれっぽいのが居ないから忘れてたぜ。

 黒人とか白人とか黄色人種とか、そんなの微々たる差だっての。尻に尻尾だの、背中に羽だの、ネルソン・マンデラが助走を付けてアパルトヘイト決めるような手合いが、天下の往来を縦横無尽に闊歩している世界なんだよ。

 くそ、これだから困るぜ、ファンタジーは。

「ロリマンコ、共和国ってやつの説明だ!」

「本当に何も知らないんですね」

「いいから教えてくれよ!」

「共和国はこの国と国境を接する国です。こちらの帝国側が人間至上主義を掲げているのに対して、あちらは亜人、亜属を含めた複数の種族の共存を掲げた国です。この絶対に交わらない主義主張から、両国は古くから常に紛争状態にあります」

「なんだよおい、そんなファンタジー世界にありがちな理由で戦争してるのかよ。そう言う小説、探せばゴロゴロ出てくるぞ。この俺を巻き込むんだから、もっと奇抜な理由で戦争してろってんだよ。まったく、面白味の欠片もねぇ」

「私にどうしろと言うのですか」

「差し当たって、頭から猫耳を生やす魔法を開発すれば良いと思った」

「なるほど、確かにそうですね」

 よし、速攻で問題を解決した。

 俺天才。

 ロリマンコの猫耳モードが見たいぜ。

「……オッサンって魔法使いなのか?」

「いいや、俺じゃなくてコイツが魔法使いだ」

「初めまして、ロリマンコと言います。ロリマンコと呼んで下さい」

「え?」

「この野郎、せっかく人が回収したフラグを、速攻でへし折ってくれるんじゃねぇよ! 人前ではアレクシアって名乗れって言っただろっ!? なんでお前はこうまでも鶏頭なんだよ!」

「アレクシア? 初耳です」

「ひでぶっ!」

 呼び動作無しの右ストレート。頬を殴られた。

 スパンって音がした。ボクシングか何かやってるような音だったわ。

 右の奥歯が抜けて飛んでった。

「こ、この……」

 これで何本目だよ。

 確かこういう感じのオモチャあったよな。ゲーセンのワニワニパニックから脱走してきたようなワニの歯を、指で一本一本抜いてくやつ。黒ひげ危機一髪的なルールで遊ぶやつ。くっそ、名前が思い出せねぇ。

 今思えばエグいゲームもあったもんだぜ。

 日本人はどうしてああもワニを苛めたがるんだよ。

「主人に鶏頭と言われると、想像したより腹が立ちました」

「俺はお前が手を出すときと、出さないときの境界が分からねぇよ」

「知りたいのでしたら、より深くロリマンコを研究して下さい」

「言ったな? いつか覚えてろよ……」

「おい、オッサン、大丈夫かよ? 口から血が垂れてるぞ……」

 ほら見ろ、まだ名前すら交換してないロリに心配される始末だ。

「っていうか、あのさ、アタシより小さいように見えるんだけど……」

「これでレベル三桁だからな。ステータス的にはお前の千倍から万倍は強いぞ」

「どうぞ、先輩、よろしくお願いします」

「な、なんでアタシが先輩なんだよっ!?」

「主人がそう言ってますので」

「意味が分からねぇよっ!」

 以前は初見の人間を問答無用で殺そうとしたロリマンコだ。それが今は見ず知らずのロリに頭を下げている。コイツの行動理念はどうなってやがるのか。そういやコックにも普通に人付き合いしていたな。

 まあいい、ロリマンコの研究は後回しだ。

「とりあえず、頭から耳生やすぞ、耳。三人分頼むな」

「分かりました」

「ちょ、ちょっと待てよっ! アタシは嫌だからなっ!」

「なんでだよ? 死ぬぞ?」

「アタシはそれでも嫌だ!」

「じゃあ尻尾で勘弁してやるよ」

「そういう意味じゃねぇよっ!」

 俺の妥協に吠えて答えるホームレスロリータ。

 何がそんなに気に入らないのか。

「何で嫌なんだよ? 念願の猫耳だぞ?」

「うっせぇっ! アタシはアイツらの真似するくらいなら死を選ぶ」

「おう、カッチョイイ」

 この歳で中二病を発症しているとは有望株だな。

 将来はニートかラノベ作家か。

「……バカにしてるのか?」

「むしろマジで言ってるの?」

「あいつらは母さんの仇だ。一人でも多く殺してやる」

「お前の母ちゃんって、病気だったんじゃないのか?」

「そうだよ。そうだったけど、昨日の夜、アイツらに殺された」

 ホームレスロリータの眦に、ジワリ、涙が滲む。

 唐突にも話題がシリアス路線に転向だよ。

「……なんでこう、いきなり重くなるんだよ」

「戦争ですよ」

「なるほど、戦争ねぇ……」

 人が猫耳にするか犬耳にするか迷ってる時に、前置きなく母親の死を持ってくるんじゃねーよ。なんて答えたらいいか分からないだろうが。いっそ死んだかーちゃんにも耳付けてやろうかこの野郎。

「ロリマンコ、復活の魔法とかないのかよ? ザオリク的な」

「探せばあるかも知れませんが、私は使えません。仮に存在したとしても、行使できる者は非常に限られるでしょう。恐らくこの世に数人といないと思います。あとザオリクって何ですか?」

「なんだよ、復活の魔法も流通してないのかよ。こんな体たらくだから、ドラクエのクロスはバランスブレーカーとか言われるんだよ。ファンタジーだったら蘇生魔法くらい日常の風景にしとけよな」

「ザオリクって何ですか?」

 今のロリマンコの説明からして、きっと、伝説の魔法とか、その手の扱いを受けているのだろう。僧侶がレベル上げた程度じゃ習得は不可能に違いない。つまり、ホームレスロリータの母ちゃんとは二度とエンカウントできない。

 娘さんを僕に下さい、とか、一度は言ってみたかったんだけどな。

「ザオリクって何ですか?」

「お前も妙なところに拘るよな」

「口から出任せですか?」

「……少女の涙を止める魔法さ」

 フッ、と遠い目をして答えた。

「なるほど、私に鳥肌を立てる魔法ですね」

「今回は割といけると思ったんだが。マジで」

「主人の顔では何を言っても喜劇でしかないので諦めて下さい。キモイです」

「おいこら、ロリマンコ、キモイって単語は手軽な割に攻撃力高いから、取り回しに気をつけて使えよ。思わぬところで俺の心が簡単に負傷したぞ」

「そして、主人は先輩の心を抉り続けていますね」

「……なんで俺のせいにするんだよ」

 ロリマンコに指摘されて、意識を再びロリ先輩の側へ意識を移す。何が気になるのか、ジッとこっちを見ているホームレスっ子だ。

 眦が心なしか先程と比較して釣り上がって思える。涙目で釣り目である。ロリコンとしては、猛烈にヤバイ感じだ。キュンとくる。

 仕方ないので話の流れを戻そうか。

「それじゃあ、お前はこれから戦争に行くのかよ?」

 他に上手い言葉が浮かばなくて、素直に訪ねてみた。

「悪いかよ?」

「悪かねーけど、まあ、なんだ……その、あれだ……」

「……なんだよ?」

 貴重なマンコが、と言おうとして、けれど、言える雰囲気じゃなくて、コイツは俺にどうしろってんだ。

「……復讐は何も生まないぜ?」

 日常生活では絶対に出番のない台詞だから、こういう機会に押させておくべきだろ。

 死ぬまでに言ってみたい台詞を一つだ。

「いいんだよっ! それでもアタシはやるんだっ! 絶対だっ!」

「お前じゃ一人も殺せなくて、逆に殴られたりレイプされたり、余計に鬱憤を溜めるだけだと思うけどな。ネットで画像とか見たんだけど、戦時中のレイプってガチでしぬまで犯すらしいから、かなり痛いらしいぞ」

「だ、だったらどうしろってんだよっ!」

「今は大人しくて、十年くらい待てばいいだろ」

「……待ってどうするんだよ?」

「ここが占領されてから時間が経って、少なからず落ち着いて平和になってから、準備万端で通り魔殺人した方が、遥かに効率が良いじゃん。こう、買い物途中の主婦を背後からナイフでグサっとか、余裕じゃん、簡単じゃん」

「そ、そんなのちげぇよっ! なんで主婦なんだよ!?」

「じゃあ主婦じゃなくて、今日ここに来てる兵士を標的にして、そいつをグサッとやればいいじゃん。これだけの規模なら十年経とうが二十年経とうが、百や二百は余裕で見つけられるだろ。お前もその頃には良い感じに成長して、大人になってるだろうし」

「ちげぇよっ! アタシは、アタシは今この手でやりたいんだよっ!」

「それはお前が今日のことを、十年後に忘れちゃってるからか? 今十代の兵士とか、十年後には人生の絶頂期だぞ? そこを後ろからサクっとやったら、今日に戦場で殺されるより、よっぽど悔しい顔してくれる筈じゃん」

「わ、忘れてねぇっ! けど、だけどっ、今が大切なんだよっ!」

「忘れてないなら、今でも十年後でも、いつやったって同じだろ?」

「そ、それはっ……」

「俺的にはやめておいた方がいいと思うけどな。信号無視のDQNに喧嘩売って、逆にフルボッコされた経験者が言うんだから間違いない。あのDQNマジでクソだわ。今度会ったら、絶対に後ろから釘バットで頭をフルスイングしてやるわ」

「……けどっ」

「俺だったら友達が殺されようが、親が殺されようが、今は絶対に逃げるぜ」

 そもそも友達とか親とか、ミラクルどうでもいいしな。早いところ死んで保険金とか不動産とか、こっちに転がり込んできて欲しいもんだわ。そうすりゃ今より豊かにニートできるってもんだ。我が家の財産は全て俺の代で使い潰す予定だろ。

「……オッサンは、それで平気なのかよ?」

「ニートの恨みは深いんだよ。一年や二年じゃ忘れねぇ。逆に相手が忘れた頃になって、当の本人が人生を楽しんでる頃になって、最高の笑顔を輝かせてる頃になって、後ろからバッサリやるのが最高にエキサイティングなんだよ。恨みが深ければ深いだけ、忘れないし、それだけ相手のことを想ってるってことだろ?」

「そ、それは、その……」

 ニートという単語を正しく認識しているか否かは知れない。だた、ホームレスロリータは小さく頷いて応じた。なんか口元を引き攣らせてる。まあ、少しばかり引くくらいが丁度良いんだ。

 子供はバカだから、こういうとき楽だよな。

 これがロリマンコ相手だったら、無駄に冷静な反論をしてくれたろう。

「と言うわけで、大人しく耳とか尻尾とか生やしとけよ」

「で、でも、アタシはっ!」

「いいから、ほらっ」

「おい、や、やめろよっ!」

 貴重なマンコをこんなところで失う訳にはいかねぇよ。金持ちイケメン騎士の誘惑に耐えた強い精神を持つロリータだ。将来有望な俺のヒロイン候補生なんだ。

 だもんで、その細くて可愛い腕を無理矢理に掴む。

 グッと二の腕を握る。お肉がやわらけぇ。肌すべすべ。

 すると、ちょうど見計らったように別方から声が響いた。

「き、貴様っ! 何をやっているっ!?」

 女の声だ。

 成人した女の声だ。

 振り向いたらGカップがいた。

「またかよ」

 うんざりだ。

 セックスの可能性がゼロな女とは、会話をしても意味がないんだよ。エンカウントするだけ時間の無駄なんだよ。

 俺はパンチラや胸チラで満足するような安い男じゃねぇんだよ。

 この世の女は二つに分けられる。セックスできる女と、セックスできない女だ。後者はイケメン以下だな。酸っぱい葡萄なんて根っこから枯らしてしまえ。

「その手を離せっ! まさか、混乱に乗じて暴行を図るつもりかっ!?」

「コイツっていつもスゲェ微妙なタイミングで遭遇するよな」

「だからさっさと殺しておけば良かったのです」

「素直に言うと、ちょっと後悔している俺がいる」

「な、なんだとっ!? 貴様っ、この後に及んで私に牙を剥くかっ!?」

 しかも毎度毎度、いつもテンション高いよな。

 きっと早死にするタイプだ。

 日本で暮らしてたら、看護婦とかしてそうなタイプ。

「戦争はどうしたんだよ?」

「つい先程だ、第三区画内に敵が侵入したとの報が挙がった。今は憲兵と冒険者、加えて街の男衆が総出で警戒を行っている。だと言うに、貴様という男は、いったい何をやっているんだっ!」

 なるほど、この辺りも既に危ないらしい。

 この町の冒険者って弱かったんだな。まだ一日しか経ってないじゃんかよ。

 獣耳軍団に負けっぱなしじゃんか。

「大人しくしているならまだしも、我々の足を引っ張るというのであれば、もはや猶予は与えん。容赦はしない。この場に潔く死ね。元は私が助けた命だ」

「スゲェ横暴を聞いた気がする」

「黙れっ!」

 Gカップが腰から剣を抜いた。

 と同時に、こちらへと駆け迫ってくる。

 ガチで殺しに来てるよ、おい。

「ろ、ロリマンコっ!」

「相変わらず他人任せなのですね」

「仕方ないだろっ!? 俺はコイツより弱いんだから!」

 死に損ないとは言え、あのミノルを一撃で殺したくらいだ、それなりに腕は立つだろう。伊達にパーティー組んでダンジョン攻略してねぇよ。

「主人には強くなろうという気概が感じられません」

「今日日、真面目にこつこつレベル上げする異世界転生俺TUEEEなんてウケねぇよ。そんなもん連載したところで読者は誰もついてこねぇよ」

 第一、読み専にとっての俺TUEEE小説なんて、使い捨てのオナホみたいなもんだ。真面目に書くだけアホ見るぜ。作者にとってはオンリーワンでも、読者にとっては数ある娯楽の一つに過ぎないんだよ。小説に限らず、娯楽コンテンツってのはそういうもんだ。XJapanのHIDEみたいに、後追い自殺がでるようなモノの方が異色なんだ。

 売れっ子絵師がイラスト書いて、商業ルートに乗って、企業が何百万も広告費を払って、名前で金を稼げるようになってから、小説も作家も初めて社会的に認知されるんだよ。そうなるまでは誰が何を書いたところで糞だ、糞。それなら糞は糞らしく糞にしかできないことをやるべきだ。

 Gカップの振るう切っ先が俺の鼻面へ迫る。

 これに両者の間へ滑り込んだロリマンコが応じた。

 小さな手の平を突き出して、頭上より迫る西洋刀の一撃を受け止める。

「なっ……」

 驚愕はGカップのもの。

 受け止められた側は、まさかとばかり、瞳が見開かれた。

 剣と平手とが接して、制止している。

 どちらに分があるのかは、傍目にも明らかな光景だった。

「その者は街の敵だッ! 妹だか何だか知らないが、今すぐに退けっ!」

「残念ながら不可能です」

「このっ……」

 Gカップの腕が筋肉の膨れに盛り上がる。よほどのこと力を込めているのだろう。けれど、ロリマンコは涼しい顔で、これを受け止め続ける。

 どうやらここは慌てなくても大丈夫な場面らしい。

「ナイスだロリマンコ」

「相変わらず見ているだけなのですね。自らの使役するマリオネットが、今まさに切られようとしている状況で、後方に声を上げるだけとは嘆かわしい。その身を挺して庇いに入るくらいの気概が欲しいものです」

「いやいや、見るからに余裕だし」

「ぐっ、き、貴様らぁっ……」

 苦悶の声を上げるGカップ。必死の形相で剣を押している。魔法でも使ったのだろうか。いつの間にか全身が輝いている。スーパーサイヤ人的なあれだ。

 他方、こちらをチラリ眺めて、酷く涼しげな口調に語るロリマンコ。刃を受け止める手の平には掠り傷一つない。どうやらGカップは敵じゃなさそうだ。

 これならステータスを見なくても、どっちがどれくらい強いかくらい分かるわ。

「殺してしまって良いですか?」

「あ、いや、それはちょっと……」

「相変わらず決断力がないですね」

 俺の知らないところで死ぬ分には問題ないが、俺の判断で俺の目の前で死なれるのは、なんだかちょっと嫌な感じだ。具体的には一週間くらい夢に出てきそうだ。

「そりゃほら、子供の前で人が死ぬところとか、見せちゃ駄目だろ」

「上手い言い訳を見つけましたね」

「あ、アタシは違うぞっ!? 別に攫われるとかそういうのじゃっ!」

「その娘を解放しろっ! このクズがっ!」

 さて、どうしたもんか。頭を悩ませる。

 頭を悩ませる?

 いやいやいや、ちょっと待てよ。

 なんで俺が悩まなきゃならないんだよ。

 意味が分からない。どうしてこの俺様が、他人の為に頭を悩ませなきゃならないんだよ。この頭脳はもっと崇高な事業の為に用いられるべきだ。例えば世界の命運を握る大戦略の為に用いられるべきだ。だというに、なんだよこれは。このグダグダ具合は。

「ぶっちゃけ、ありえないだろ」

 ぼそり呟いて、決めた。

 なんでどうして、この俺が悩まなきゃならないんだよ。

 これは有り得ない世界だ。

「ロリマンコ、止めだ止め」

「何をですか?」

「作戦変更だ」

「というと?」

「そもそもこの街にこだわる理由なんてないじゃんかよ」

「今更それですか……」

「飯は手に入らないし、街の奴らは陰険だし、何故か戦時中だし、ここに居たって良いことなんて何もないじゃんかよ。それならもっとこう、俺のことを快く受け入れてくれる街を探したほうが建設的だろ」

「言うことがコロコロと変わる主人ですね」

「状況の変化を敏感に察して、臨機応変に対応できるのが優れた人間なんだよ」

「…………」

 こんな下らないことに付き合ってられるか。

 俺にはもっと相応しい場所がある。

 俺がもっと活躍できる、俺にとって最高のステージがある筈なんだよ。

 そう、ここは違ったんだよ。

「ということで、良し、そうと決まれば、こんな街からはおさらばだ」

 ロリマンコに命じる。

「……そうですね。では私も止めましょう」

「おう、止めろ止めろ」

「これ以上は付き合っていられないので、今日限りでサヨナラです」

「は?」

 ロリマンコの腕が下がる。

 応じて、振り下ろされたGカップの剣が、その脇を通り地面を打つ。

 カィンと乾いた音が辺りに響く。

 勢いの乗った切っ先は、石畳の合間に深く突き刺さっていた。

「せいぜい死なないように気をつけて下さい」

「あ、お、おいっ、ちょっとっ! どういうことだよっ!?」

「それでは、これにて失礼します」

「ロリマンコっ!」

 俺が吼えたところで、ロリマンコは消えて居なくなった。

 例のルーラもどきだろう。

「お、おいっ、嘘だろっ……」

 本気かよっ!?

 ロリマンコが居なくなったら、残された俺はどうすりゃいいんだよ。こんなヤバイ場所に放置されたら、一晩で死亡する自信があるわ。

 せっかく最強メイド持ち系俺TUEEEが順調に進んでたのに。こんなところで終わりかよ。まだラスボス倒してないし、分かれるにしても、次のメイドキャラが手に入ってからだろ。

 っていうか、喪失感がハンパない。

 マジかよ。マジでサヨナラとか言っちゃう系? 言っちゃうの?

 そんなのありかよっ!?

 本当に居なくなっちゃうのかよっ!?

「お、オッサン、いきなり消えたぞっ!? な、なんだよ今のっ……」

「くっそっ、ふざけんなよっ、最後まで面倒みろよっ!」

 どうしよう。どうしよう。

 どうしよう。

「……どうやら、妹にも見限られたようだな」

「ぐっ……」

 見限るくらいなら、最初から話しかけてくるんじゃねぇよ。

 くっそっ。マジくっそ。

 調子に乗ってバカにした分、後が怖いなんてもんじゃない。

 Gカップが良い笑顔でこっちを見てる。

「大人しくしろ。この場で叩き切ってくれる」

 石畳から剣を引っこ抜いたGカップ。それを再びこちらへ構えてくれる。やる気満々ってやつだ。正義の心云々は置いておいて、完全に私怨で行動してるだろ、この女。

「マジかよ……」

 一歩、後退する。

 Gカップの野郎は本気だ。目が本気だ。

 ただ、そんな本気から俺を救うよう、声を上げる奴がいた。他の誰でもない、今まさに俺が拉致らんとしていたホームレス系ロリータ本人である。

「ちょ、ちょっと待てよっ! なんでオッサンを切るんだよっ!?」

 俺とGカップの間に立って、両手を広げてみせる。

 仁王立ちってやつだ。

「なんのつもりだっ!? その男はお前を攫おうとしたのだぞっ!?」

「ち、ちげぇよっ! このオッサンはアタシのパーティーメンバーだ!」

「パーティーメンバーだと?」

「そうだよっ! アタシとコイツは一緒にパーティー組んでんだよっ!」

「……どういうことだ?」

「そっちが勘違いしたんだろっ!? べ、別に犯されたりしてねぇよっ!」

「だ、だがその男はっ……」

「いいから剣を引いてくれよっ!」

 必死の形相で叫ぶホームレスロリータ。

 まさか、コイツが俺の為に矢面へ立ってくれるとは想わなかった。これを受けてはGカップも驚いた様子だ。助けようとした相手に怨敵を庇われたのだからな。膨れあがった怒りと、早合点してしまった羞恥とが、胸の内に渦巻いているのだろう。

「何か弱みを握られているのか?」

「握られてねぇよっ! っていうか、今は喧嘩してる場合じゃないだろ!?」

「ぐっ……」

 遥か年下の子供に正論を突きつけられて、Gカップが怯んだ。

 その隙を突いて救世主ロリータは言葉を続ける。

「あ、アタシたちは行くからなっ!」

「待てっ! だからと言って、その男が許される訳ではっ……」

「オッサンっ! ほらっ、行くぞっ!」

「お、おぉう」

 小さな手が、俺の腕を掴んだ。

 かと思えば、勢い良く走り出す。

 これに促されて、俺もまたその後を駆け足に追い掛けた。

 Gカップが後を追ってくることはなかった。