金髪ロリ異世界転生俺TUEEEラノベ

第四話

「……なんつーか、ありがとう」

「べ、別にいいよ。アタシのせいでもあるみたいだったし」

 Gカップから逃れて以後、喧噪から逃れるよう多少ばかりを走った。辿り着いた先はどことも知れない路地裏だ。周囲を背の高い石作りの建物に囲まれている。昼間なのに少しばかり薄暗い。道幅も二、三メートルでちょっと窮屈。

 中世ヨーロッパで、ローマで、路地裏。そういう単語で画像検索して出てくるような風景。日本人が欧米諸国に持っているイメージなんて、どれも画一的だ。中世ヨーロッパと言えば、それで通じてしまう素晴らしさ。下手に説明するより余程のこと良いな。

「っていうか、あの子ってオッサンの妹だったのかよ?」

「この顔とあの顔で、出所が同じだと思うか?」

「じゃ、じゃぁ誰だよ?」

「将来を約束し合った仲だったが、どうやら俺に愛想が尽きたらしい」

「オッサン、ロリコンかよ……」

 悔しくなんてないんだからな。

 ぜんぜん悔しくなんて、ないんだからな。

 ロリマンコォ……。

「ロリコンで悪いかよ? 小さい女の子が好きで悪いかよ?」

「もしかして、アタシのこともそういう目で見てたのかよ?」

「当然だろ?」

「即答かよっ!」

 ホームレスロリータが一歩、後ろへと身を引く。よく見れば腕やら足やらへ、ブツブツと鳥肌を立てている。露骨な反応は俺の心にダメージ大だ。

 とは言え、ロリマンコの逃走と比較すれば、大したことじゃない。

「仕方ないだろ!? 可愛いもんは可愛いんだよ!」

「いきなり面と向かって、か、可愛いとか言ってんじゃねぇよっ!」

 可愛いという単語に反応して、ホームレスロリータの頬が赤くなった。

 なにこの幼女可愛い。異性との経験の浅さが幼女の良いところ。

 だが、今は目の前のロリを愛でている余裕すらない。他の何よりも、ロリマンコに捨てられたのが悲しい。好きな女に捨てられたヒモ野郎の気分が今なら如実に分かるぜ。

 あぁ、ロリマンコ。

「ロリマンコォ……」

「なぁ、さっきから気になってたんだけど、それってなんだよ?」

「ロリマンコか?」

「そうだよ。な、なんでマンコなんだよ!? 変じゃんかよ!」

「アイツの名前だよ」

「どういう名前だよっ!?」

「うぅ……ロリマンコォ……」

「き、気持ち悪いなぁ……」

 まさか捨てられるとは思わなかったんだよ。

 だって、どれだけ適当を言っても付き合ってくれるし、そういう系のキャラだと判断するのが普通じゃんかよ。嫌よ嫌よも好きのうちっていうか、なんだかんだで一緒に居てくれる嫁属性だって、普通は思うじゃんかよ。

 これだからファンタジーは嫌なんだよ。ちっくしょう。

 これだから俺みたいなコミュ障は駄目なんだよ。ちっくしょう。

 むしろ今まで良くまあ付き合ってくれてたよ。

 そもそも、普通だったら途中で逃げるよな。なんで一緒に居たんだよ。

 嫌なら嫌って言ってくれたら、もうちょっとソフトな感じで、こう、なんつーの? 気遣いもできたりしたかも知れないのに。急にサヨナラとか寂しすぎるじゃんかよ。てっきり今後ともヨロシクな関係だと思っていたのに。

「あーあーあー」

「オッサン、大丈夫かよ……」

「あぁ、大丈夫だ。少し反省な気分なだけだ」

「そ、そうかよ」

 調子に乗りすぎたことは反省しよう。

 俺は反省できる男だ。

 特殊な環境に置かれて気分が高揚していたのだ。

 まったくどうしようもない男だ。

 俺という男はこの世で最も最低の男だ。

 ロリマンコのような素晴らしい女性に嫌われるとは男として糞だ。

 あぁ、糞だ糞。

 なんたる糞だ。

 つい昨日に母親を殺された幼女に、自らの不出来を慰められているくらい糞だ。

 やばい、これ以上の糞はこの世に居ないように思えてきたぞ。

 だがしかし、反省したからと言って、今の危機的状況が改善される訳ではない。高性能ロリータであったロリマンコは失われて、今、俺の傍らに居るのは保護対象以外の何物でも無い足枷ロリータだ。

 そして、俺は生き抜かねばならない。

 いつの日か、ロリマンコにごめんなさい、謝るまで生き抜かねばならない。

 まさか、謝らずに死ぬ訳にはいかないだろう。こんな糞野郎と三日三晩を付き合ってくれたヤツは、彼女が始めてだからな。家族だって、ここまで真摯に俺と向き合っちゃくれなかった。

 それがマリオネット属性の賜物だとしても、いわゆるご主人様絶対服従の命令系統が存在したとしても、裏切れるのに我慢してたってのはデカイぜ。デカイというか、正直、ありがとうございます。

 人形系キャラだと思ってたよ。そういう系のキャラだと思ってたよ。

 じゃなきゃ普通は速攻で逃げてただろうさ。

「お、おい、オッサン、本当に平気かよ?」

「任せろ。俺は平気だ」

「ぜんぜん任せられねぇよ」

 しかも、このロリも俺のことなんか気遣ってくれるし。ロリマンコに逃げられた俺のことなんか気遣ってくれるし。マジで良い奴だし。

 俺のこと気遣ってくれたヤツなんて、小学校の頃に同じクラスだった山田君と、ロリマンコと、それとコイツくらいじゃないか。

 この世界ってば、マジ良いヤツで溢れてるよな。

 一対二でこっちの世界の勝ちだわ。良いヤツ選手権、異世界の勝利だわ。

「……これだからロリは好きなんだよ」

「な、なんだよ、オッサン、もしかしてアタシのこと襲うつもりかっ!?」

「昨日までの俺だったら、間違いなく襲っただろう。あぁ、その麗しい姿に、身も心もめろめろになって、後先考えずに押し倒していただろう。オマエを助けたイケメン騎士と同じようにな……」

「襲うのかよっ!?」

「しかし、今の俺は襲わない」

「……襲わないのか? っていうか、な、なんだよそれ。ちょっと変だぞ」

「そうだ。襲わないんだ。俺はお前を襲わない」

「……本当かよ?」

「当然だ。俺は、お前を、絶対に、襲わない」

 人差し指で自分とロリとを交互に指して、丁寧に宣言してみせる。

 そう、これは俺の誓いだ。俺はこのロリを襲わない。

 襲わないのだ。

「……逆に襲われそうなんだけど、それ」

「仮に勃起が止まらなくなっても、俺はお前を絶対に襲わないだろう! お前が見ているところで、オナニーを始めることはあっても、決して襲うことはしないと誓う! そう、誓うのだよ!」

「そんなこと誓うなよ! 威張るなよ!」

「ということで、ありがとう。俺はもう大丈夫だ」

「ぜんぜん大丈夫に見えないんだけどな……」

「それよりも今は、この危機的状況を如何にして脱出するか、だ」

「……本当に大丈夫かよ」

 さぁ、考えるんだ俺。

 この良いロリータと俺が、無事に生きながらえる為のプランを。

 この良いロリータが、自らの保身の為に俺と共にいることを選択していたとしても、俺はこのロリが五体満足、否、五体満足プラス処女膜を含めた、五体一膜満足で、無事に日常へ戻るまでをサポートする義務がある。

 そう思えるだけの、心の温かさを貰ったのだ。

 こんな良いロリータを殺してなるものか。

 それが俺のこのロリに対する礼なのだ。将来、このロリを嫌いになることはあっても、今この危機的状況は、必ず乗り越えなければならない。それがロリマンコが俺に与えた使命なのであります。

 そう、いつだって感情なんてものは、一方通行なんだよ。

 冷水でもぶっかけられた気分だぜ。

「まずはこの戦争をどうにかしないとな」

「まずはって言うか、それさえどうにか出来れば、万事解決だろ……」

 俺はニートだ。

 しかし、ニートである以前にロリコンなのだ。

 ロリコンがロリを助けずして何を為し得る。

 最初の一歩はロリの力になることからだ。世界を救うのは、その次で良い。マゾなロリを調教するにしても、サドなロリに虐めて貰うにしても、そもそもロリと俺が生きていなければ意味が無いじゃないか。


名前:ベス
性別:女
種族:人間
レベル:5
ジョブ:浮浪児
HP:10/52
MP:98/98
STR:14
VIT:23
DEX:37
AGI:16
INT:40
LUC:13

 見て見ろ、この貧弱なステータスを。

 放って置いたら今日中に死ぬぞ。きっと。

 でも前に見たときよりレベルが上がってるな。

 きっと、色々と頑張ったんだろう。

 しかしながら、今は俺の方が強いんだぜ。

 今度はあの犬っころにだって負けないんだからな。


名前:タナカ
性別:男
種族:人間
レベル:1
ジョブ:ニート64
HP:5900/5900
MP:0
STR:2400
VIT:3200
DEX:4920
AGI: 900
INT: 310
LUC: 540

 見ろよ、このニート64の性能を。素晴らしいじゃないか。

「な、なぁ、オッサンはこれからどうすんだよ?」

「それを今考えてるとこだよ。このままじゃジリ貧だろ」

 高みの見物をするつもりが、三下のヤラレ役として、舞台へ無理矢理に押し込まれた気分だ。しかし、大人しくやられてやるつもりはない。

 生きて再び、俺はロリマンコの前に現れる。絶対だ。

「あの子ってオッサンの仲間だったんだよな?」

「その通りだ。しかし、ちょっと俺が甘えすぎたようだ」

「なんだよそれ」

「アイツが良い奴すぎたんだよな。こんな俺に色々と付き合ってくれたし」

 これだから人付き合いの距離感ってのは難しいぜ。

 あぁもう、ロリマンコ可愛いな。

 離れて始めて分かる相手の大切さって奴だ。

 今まで以上に愛が溢れてきて決壊寸前。もうヤバイ。

「オッサンは魔法使えないんだよな?」

「ああ、使えない。まったく使えない」

 きっと、三十路を待たずして、息子を使ってしまったからだろう。こんなことなら風俗なんて行かなきゃ良かった。そしたら今頃は、きっとファイアボールとか打ちまくりだったのに。

「そういうお前こそ、これからどうするんだ?」

「アタシは……」

「……どうせ頼る相手もいないんだろ?」

 母親も死んでしまったというし、天涯孤独って奴だろ。

 ここへ来てお涙頂戴ストーリーだ。

「だ、だったらなんだよ?」

「パーティーの続きだ。行くぞ」

「え?」

「俺も他に頼れるヤツなんて居ないしな。同じだ、同じ」

「おいちょっと、いいのかよ? アタシなんて何の役にも立たないぞ?」

「お前は十分に役立った後だ。次は俺が役に立つ番だ」

「は? なんだよそれ」

「いいから、ほら、行くんだぜ!」

 自ら先導するよう歩み出す。

 どこへ行くかは決めていない。

 ただ、今は歩き出すべきだと思ったんだよ。

		◇		◆		◇

 すると、歩き出してから、数歩も進まないうちにエンカウントだよ。

「げっ、マジかよ……」

 曲がり角の先から、獣耳を頭に乗せた厳ついオッサンが現れた。

「09g32ljljdfjf@あうぇ!」

 しかも何やら叫びを上げて、こっちに走ってきた。身の丈二メートル近い巨漢だ。耳以外は普通の人間っぽい。帽子を被ったら区別はつかないだろう。腕毛とか臑毛とか髭とか、凡そ獣らしからぬ体毛が、頭のそれと相まって非常に気色悪い

 折角の獣耳なのに、可愛らしさの欠片もねぇ。

 きっと、Gカップが言っていた侵入者ってのは、こいつのことを言うのだろう。どうして俺のところに寄越すかな。この街の冒険者ってのはレベル低すぎだ。もうちょっと頑張れよ。

「お、おい、オッサンっ!」

 良ロリが声を上げる。

 俺も悲鳴を上げたくなった。

 だって手には鉈みたいな武器を握ってる。しかも刃の部分には赤いものが付着している。きっと使用済みだ。もしもあれで切られたら、どこの誰とも知れない相手の血液を体内に迎え入れることになっちまう。なんておぞましい。得体の知れないファンタジーな病気になっちまうかも知れない。

 だが、今の俺は非常にクールだ。

 悲鳴なんて上げちゃいけねぇ。

 距離にして数十メートル。まだ余裕はある。

 ここは冷静にステータスウィンドウを確認だ。


名前:セサミ・フレーバー
性別:男
種族:タケシ族
レベル:28
ジョブ:魚屋
HP:1902/5910
MP:0
STR: 600(+1000)
VIT:1200(+ 600)
DEX: 320
AGI: 510
INT: 110
LUC: 240

 なるほど、やっぱり俺はクールだぜ。

「オッサン、何ぼさっとしてるんだよっ!? 逃げるぞ!」

「そこのロリータ、ちょいと待った」

 カッコの中の補正が気になる。以前もちょくちょく出てたよな。意味不明だから無視してたけど、今ふと気付いた。恐らくは武器や防具による補正だろ。

 きっとパンチで600、鉈を振り回したら1600ってことだ。相変わらず不親切なインタフェース設計だよな。このウィンドウは。しかもバグってるし。

 ただまあ、その辺を加味しても、俺のが強いじゃんかよ。


名前:タナカ
性別:男
種族:人間
レベル:1
ジョブ:ニート64
HP:5900/5900
MP:0
STR:2400
VIT:3200
DEX:4920
AGI: 900
INT: 310
LUC: 540

 ほらみろ、やっぱり強いじゃんか。

 俺のパンチは鉈を振り回すより強いんだってさ。割と真面目に信じられない。本当に頼りとしていいのか? この数値の並びは。

 でもまあ、あれか、ロリマンコの驚異的な身体能力を思えば、それもまたありなのかもしれない。良いパンチしてたしな。

「オッサンっ、なんで固まってんだよっ! 大丈夫なんじゃなかったのかよっ!? 早くしろよっ! あ、アタシ一人で逃げるぞっ!?」

 そうこうしているうちに、すぐ目の前まで迫った獣耳オヤジの鉈。

「オッサンっ!」

 ロリが声を張り上げる。

 それでも一人で逃げないあたり、やっぱりコイツは良いロリだ。

 善良なロリだ。

 人の心を明るく照らす、言わば光属性のロリだ。

 シャイニングロリータだ。

「喰らえっ、シャイニングロリータっ!」

 俺の必殺技にしよう。

 力一杯、鉈アタックをも上回ると設定された右ストレートを繰り出す。一歩を大きく踏み込んで、腰を落とした状況から相手の懐へ飛び込むよう進路を取っての攻撃だ。

「j0g4lkjsぢうふぇっ!?」

 見事命中。

 相手の腹を打ち抜いた。

 他方、鉈は俺の肩越しに空を切る。振り下ろされた腕の肘辺りが、肩甲骨のあたりに当たった。一瞬、ひやりとした。けれど、幸いにして刃の部分はどこに触れることもなかった。伸びきった腕はそれ以上の自由を得なかったらしい。

 結果、俺の勝利。

「がおうぇいj3r2jっっ……」

 獣耳オヤジは意味不明な嗚咽を上げて、バタリ、泡を吹いて倒れた。

 以後、ピクリとも動かなくなる。

「おっしゃぁ……」

 俺スゲェ。

 俺マジスゲェ。

 喧嘩で勝つとか、生まれて初めてなんですけど。

 しかも女の前で暴漢を一発KOとか、カッコ良すぎる。

「……オッサン、た、戦えたのかよ」

「俺もビックリだわ」

 魚屋を一発とか、ニートのステータスじゃねぇな。

 倒れた獣耳オヤジを、シャイニングロリータと二人で、おっかなびっくり眺める。

「オッサン、この猫耳オヤジ……」

「あぁ、死んでるっぽい……」

 やっちまったよ。遂に俺も殺人マシーンの仲間入りだ。

「……この鉈は貰っちゃってもいいよな」

「……以外と逞しいな、オッサン」

 死体から鉈をはぎ取る。

 右手に握ってステータスを確認だ。


名前:タナカ
性別:男
種族:人間
レベル:1
ジョブ:ニート64
HP:5900/5900
MP:0
STR:2400(+1000)
VIT:3200
DEX:4920
AGI: 900
INT: 310
LUC: 540

 おっしゃ、攻撃力1000アップだ。

 これはデカイだろ。

 レベルが上がってるかもと期待したけど、そっちは駄目だったようだ。

 このオッサンより、ダンジョンで踏みつぶしたネズミの方が、経験値的には上らしい。経験値っていうのは強さに比例しないんだな。

 ああ、それとアイテム画面も、きっと同じように更新されてる筈だよな。


武器:祖父の形見の セサミ家の 鉈
防具:ユニクロ
頭:なし
足:血塗られた コンバース
装飾品:なし

持ち物:なし
お金:23000G
ステータス:運動不足、内臓疾患、疲労、ハイテンション

 なんか鉈に嫌な称号が付いてる。

 祖父の形見とか、戦場に持ってくるなよな。

 略奪したヤツが申し訳ない気分になるじゃんかよ。

「オッサン、ど、どうしたんだ? なんか変な顔してるぞ……」

「いや、なんでもない。少しメランコリックな気分になっただけだ」

「なんだよそれ」

「とりあえず、コイツは放置して場所を移動しよう。音を立てちゃったから、他に仲間が来るかも知れない。どれくらいの規模で侵入されてるかも分からないからな」

「お、おうっ、分かった!」

 ロリを促して、今一度、移動を開始する。

 しかし、どうにも疑問の残る結果となった。何故に街の連中は苦労しているんだろう。俺でさえ腹パン一発で倒せる相手だった。偶然にも今の魚屋が弱かっただけなのか。それとも他に理由があるのか。

 よく分からない。

 少なくともGカップは、ミノルにトドメを刺せるくらいには強い筈なのに。

 Gカップとその仲間達が苦労してるとなれば、それはつまり、相手はミノル級の化け物である筈だ。とか考えてるんですけど、そこんところ、どうなってるんですかね。下手にステータスとか見れちゃう分だけ、混乱してるよ。

 疑問を孕みつつ、シャイニングロリータと共に道を走る。

 すると、角を幾つか曲がったところで、開けた場所に出た。

 教会っぽい建物の前に作られた、広場的な空間だ。噴水とベンチがある。そこへと身を寄せ合うように、街の連中が集まっている。怪我をしているヤツも決して少なくない。這々の体ってやつだ。

「街のヤツらだっ!」

 ロリが嬉しそうな顔になった。

「マジか……」

 俺としては複雑な気分だ。

 もしも、この中にGカップがいたらと思うと、腹が痛くなるのを感じるぜ。なんつーか、学生時代を思い出す。はーい、二人組作ってーと同じ系統の痛みだ。くっそ。

「オッサン?」

「あ、あぁ、なんでもない」

 とは言え、ロリが一緒なので迂回はできない。

 見れば一団の中には女子供の姿も伺える。どうやら、避難してきた街の連中が集まっているようだった。規模としては数十人くらいだろうか。

 これを守るように、周囲を警戒する形で、武装した憲兵や冒険者の姿がある。

「あ……」

 ロリが悲しそうな声を上げた。

 何事か。

「ん? どうし……」

 その視線が向かう先を追う。

 すると、いた、いたよ。森で出会ったイケメン騎士が。

「アイツか……」

「ど、どうしよう」

 どうやら、例のイケメン騎士は、この場でリーダー的存在らしい。あれやこれやと周囲の冒険者や憲兵に指示を出してる。とても忙しそうに動いている。

 ロリにとっては跋が悪いなんてもんじゃないだろ。

 そして、俺らが悩んでいる最中、相手もまたこちらに気付いた様子だ。

「……むっ、君たちはあの時の」

 カチャカチャと金属鎧を鳴らしながらやって来る。ロリの顔を見て、ピクリ、眉が揺れたのを、俺は決して見逃さなかったぜ。

 他方、見られた側は、ビクリ、肩を震わせて一歩を後ずさる。口では強がっていたが、トラウマにでもなってるんだろう。可哀想なロリだ。可愛いよ。

「だったらなんだよ?」

 自然と俺も警戒しちまうぜ。

 このイケメンは俺を夜の森に置き去りした前科があるからな。

「避難してきたのか? 他はどうなっている? どこから来た?」

 こっちが身構えていると、相手は挨拶もなしに質問攻めだ。

 このリーダー的存在め、情報に飢えてやがるぜ。

「他は知らねぇよ。ただ、さっきそっちの方で猫耳オヤジに遭った」

「第三壁の内側にまで侵入を許しているという話は本当だったのか……」

「っていうかさ、ちょっとオマエらってば弱すぎないか? 昨日の今日で崩落寸前とか、どんだけ防御力低いんだよ。もうちょっと粘ったらどうなんだよ?」

「なんだと?」

「だってそうだろ? まだ一日しか経ってないじゃんかよ」

 丁度良い機会なので、訪ねてみる。

「それは相手が相応の規模で攻めてきたからだ。個々人の能力で言えば、我々の部隊が共和国の畜生共に劣るなどありえんっ!」

「それってどんだけ多いんだよ?」

「詳しくは分からない。しかし、ざっと見積もって十数万という規模だ」

 十数万か。あんまりピンと来ないな。

 信長ゲーとかやってるヤツなら、規模感とか分かるんだろうか。

 っていうか、そもそもこの街の人口すら知らねぇよ。

「この街ってどれくらいなんだよ?」

「そんなことも知らないのか? 凡そ五万だ」

「マジかー……」

 そりゃ負けるわな。なるほど、数で押されていたのか。

 二倍以上とか、確かに無理ゲーだわな。

「…………」

 いやでも、待てよ。

 コイツってばイケメンだし、金持ちだし、ロリコンだし、見栄を張ってるんじゃないのかね? 素直に自分が弱いからですとか、絶対に言いそうにないもんな。プライド高そうだし、ふかしこいてる可能性がデカイだろ。

 ははぁん、嘘を嘘と見抜けないヤツはなんとやらだ。

 心の清いロリだったら、間違いなく引っ掛かっていただろうさ。

 チラリ様子を窺えば、言わんこっちゃない、俺の隣で目玉を見開いてる。

 驚く姿もラブリーだ。愛してる。

 だがしかし、俺には嘘を嘘だと見抜く、とっておきの裏技がある。ステータスウィンドウがある。ちょっとバグってるのが玉に瑕だが、お前の力量を計るくらいなら、こいつでも十分なのだ。


名前:レイナード・アーモンド
性別:男
種族:人間
レベル:89
ジョブ:聖騎士
HP:7900/5900(+4000)
MP: 792/1000(+1000)
STR:1900(+22500)
VIT:1200(+16000)
DEX:3920(+ 2000)
AGI:1500(+ 3000)
INT: 310(+ 1000)
LUC: 340

 なんだよこれ。どこの装備ゲーだよ。

 狩り場に必須なアイテムとか、スキルとか、そういうのがあった方が、確かにユーザは燃えるさ。しかも、それらを序盤で手に入れちゃったりしたら、絶対にヒーローになれる。そんな夢があるよ、夢が。

 しかしながら、これでは夢もへったくれもありません。

 俺の握ってる鉈とか、完全に立場がないじゃない。

「おい、貴様っ、私の話を聞いているのか?」

「プラス幾つまで精錬したら、ここまで強くなるんだ?」

「は? 何の話だ?」

 そもそも他のヤツらはどうなんだよ?

 イケメン騎士の背後、あっちゃこっちゃで警戒に当たっている冒険者や憲兵共へと意識をやる。当然、ステータスウィンドウを見る為だ。


名前:エイヤー・ドッコイショ
性別:男
種族:人間
レベル:34
ジョブ:冒険者
HP:1100/1900
MP:0
STR:1200(+3000)
VIT:2200(+2000)
DEX: 920
AGI:1800
INT: 210
LUC: 140



名前:ヘイホー・ヘイホー
性別:男
種族:人間
レベル:29
ジョブ:兵士
HP:1000/2900
MP:100/200
STR:1200(+5000)
VIT:1900(+5000)
DEX: 820
AGI: 900
INT: 310
LUC: 140

 凄い現実的な数字だ。

 鉈が1000に対して、剣が3000、槍が5000と。

 こっちは納得の数字だよ。

 つまり、イケメンの持ってる装備が、レアアイテムなんだろう。

 ぶっちゃけ武器を交換したら、このモブ連中でも、イケメン騎士に勝てちゃうだろ。何の為のステータスだよ。どっちが本体だか分からない。

 思えば今まで、普通の人間のステータスを見てこなかった。シャイニングロリータとコックくらいか。俺がステータスを見た人間は。

 他は化け物ばっかりだから、全く気づけなかった。

 って言うか、人間と化け物で素の性能が違い過ぎるだろ。

 このフル装備イケメン騎士が何人か集まれば、確かにミノル一匹くらいだったら倒せちゃいそうだ。Gカップが俺を助けられたのも、あの綺麗な剣と、Gカップ専用フルプレートアーマーがあったからだろう。そりゃ特注するわな。

 幻滅した。人間の可能性に幻滅した。

 ぜんぜんファンタジーな感じがしない。普通に重課金ゲーじゃない。

「おいっ!」

「あ、あぁ、何だよ課金厨」

 成金野郎に怒鳴られた。

「かきんちゅう?」

「いや、なんでもない、こっちの話」

「……妙な男だな」

 訝しげな表情でこちらを睨み付けてくる課金厨。

 これだから金持ちは嫌いなんだよ。

 ドカポンの赤宝箱で、先にレアゲットされた気分だわ。しかも全身フル装備とか、どんだけ運が良いんだよ。デビラーマンになっても、戦闘の選択次第でブッ殺される系だ。

 あれってやられると凄い凹むよな。とっても悲しくなる。デビラー装備奪われるし。デビルモード解除だし。俺はあのゲームで強盗の罪深さを齢十三才にして学んだわ。

「それよりも、おい、お前も我々に協力しろ」

「は?」

 こっちの屈託した思いも知らないで、イケメンが語り掛けてくる。

「男手が足りない。お前のようなクズでも壁くらいにはなるだろう。そこの教会の中に余った防具が収められている筈だ。さっさと装備を整えて来い」

「おいこら、なんで俺がお前に協力しなきゃならないんだよ?」

「なんだと?」

 なんて自己中なヤツだ。

 自分だけレア装備でフル武装しておいて偉そうに。協会の中とやらに、コイツと同じ装備があるとは到底思えない。周りの冒険者連中を確認すれば、誰にだって分かるだろうさ。性能が一桁違うもの。

「俺のこと見捨てたヤツなんかに誰が協力するかよ。アホ言ってんじゃねーよ」

「き、貴様っ、この非常時に何を言っているんだっ!」

「非常時だからって、何でも言いたいことが通るとか、それちょっと素敵すぎるだろ」

「このっ、ふ、ふざけたことっ!」

 見る見るうちにイケメン騎士の顔が怒ってゆく。

 俺の隣にシャイニングロリータが居ることも大きな要因だろう。マンコ触ろうとして逃げられた女が、嫌いな男の隣に居たら、そりゃ気分も悪くなるだろうさ。

 俺だってロリマンコがコイツの隣に居たら、全力で泣くね。おんおんと大きな声を上げて泣くね。きっと立ち直れないくらいの衝撃を受けるね。

 ああもうロリマンコ愛してる。

「ただ、コイツは預かってくれよ。関係ないから」

「え? あ、おいっ、オッサンっ!」

「ここなら人目があるし、このロリコン騎士もいきなり襲ってきたりはしないだろ。あぁでも、人気が無い場所には行っちゃダメだぞ。この手のイケメンはプライド高くて、必ず報復してくるから」

「なっ、き、貴様っ、何をふざけたことをっ!」

「他に頼りになりそうなヤツが現れたら、素直に事情を話して保護して貰え」

「貴様っ! 何を勝手にあることないこと喋っているっ!」

 イケメン騎士の顔は怒りで真っ赤だ。

 その手が腰の剣に伸びる。攻撃力22500の剣に伸びる。

「おいおい、いきなり仲間割れかよ?」

「黙れっ! き、貴様と仲間になった覚えはないっ!」

「さっきと言ってること違くね?」

「うるさいっ! 貴族である私に逆らうつもりかっ!?」

 Gカップといい、イケメン騎士といい、この街の冒険者はどいつもこいつも、煽られ耐性が低すぎるだろ。しかも、すぐにファビョるあたり、どんだけ待遇の良い生活を送っていたか露骨に分かるじゃん。

「別に逆らってないだろ」

「なんだとっ!?」

「お願いしてるだけじゃんか。コイツを保護して欲しいって」

「こ、このっ……」

 加えて、話題に上がるのはシャイニングロリータ。問題の焦点はロリの行く先だ。おかげでイケメン騎士も、上手く罵倒の言葉を続けられない。最後の一歩を踏み出せない。

 流石は俺だ。伊達にネットで論破力を鍛えていないな。

「おいっ、ちょっと待てよオッサンっ! アタシは嫌だからなっ!」

 かと思えば、ロリが吠えた。

「は? なんでだよ? 俺といるより、ここのが絶対に安全っぽいだろ」

「冗談じゃねーよ。こんな変態に守って貰うなんて死んでも嫌だね」

「なっ……」

 トドメの一撃。痛恨の一撃。

 シャイニングロリータの発言にイケメン騎士は絶句。

 何この快感。

 誰かに必要とされるって、凄く気持ちいい。

 生まれて初めてイケメンに勝利した気がする。

 やっべ、俺が勝った、俺がイケメンに勝った。

 嬉しい。凄い嬉しい。

「それにアタシはオッサンとパーティーを組んだんだ。さっき一緒に行くって言ったばっかなのに、もう止めるのかよっ!? それもオッサンの都合で! そんなんだから、あの小さいのにも逃げられるんだよっ!」

「うっ……」

 脳裏に蘇るロリマンコからのサヨナラ。

 このロリ、なかなかパワーがあるな。

 将来は良いツンデレになるだろう。俺が保証するわ。

 少し長めに五年保証するわ。

「ほらっ、行くぞっ!」

 強引に手を掴まれ、引っ張られる。

 イケメン騎士の脇を素通りする形で、ロリ先行により駆け足で移動。

「お、おい、待てっ!」

 背中越しに声が届けられる。

 これを無視して、俺とロリとは広場を後とした。

		◇		◆		◇

「良かったのかよ?」

「は? 当然だろ? 誰があんなヤツに守って貰うかよ。自分の身くらい自分で守るってーの。アタシは誰の世話になるつもりもねぇ。もちろん、オッサン、アンタにもだ」

「強いロリは大好きだぞ」

「だ、だから、人のことロリとか言うんじゃねぇよっ!」

 イケメン騎士の律する大所帯から逃げ出してしばらく、俺とロリとは街の中を彷徨っていた。決して目的あっての移動ではない。

 現状、打つ手無し。しかも、相手は十数万という規模とのこと。

 正直なところは不明だが、今のところは素直に信じておくとしよう。

 甘く見積もって殺されるとか嫌だしな。

 頑張れば包囲の隙間から逃げられるかな、とか考えていたのだけれど、これは本格的に脱出も難しそうだ。包囲網ってヤツだ。

 逃げ出すという選択を取るにしても、それこそ数百という手合いに対して、攻勢からの一点突破を目指すことになるんじゃないかね。

「これは本格的に困ったな……」

「十数万とか、この街の周りを囲めちまうんじゃないか?」

「俺もそんな気がする」

 っていうか、現にそうなってしまっている予感がひしひしと。

「せめてロリマンコさえいれ……」

 おおっと、これは良くない、良くないぞ。ロリマンコはいないのだから。

 俺は俺の力でロリマンコの下へ行くと決めたのだから。

「なんだよ?」

「いいや、なんでもない。気のせいだ。気のせい」

 ニート舐めるんじゃねぇぞ。くっそ。

 絶対に死んでやらねぇ。親が死ぬまで俺は意地でも死なねぇぞ。

 それに嫌なニュースばかりでは無い。キーワードは手に入れた。

 廃課金。

 レアアイテムさえ手に入れば、俺たちにだって、まだ未来はある。ネトゲだってソシャゲだって、金があるヤツが強いんだ。金があるヤツが楽しいんだ。無課金厨は掲示板で虚しく荒ぶっていろってやつだ。

 そして、俺はキーアイテムを知っている。知っているぞ。

「しまった。あの棒ってば、ダンジョン宿屋に置いて来ちまった……」

「オッサン? どうしたんだよ?」

 凄く取りに戻りたい。

 けれど、今戻ったら凄い情けない感じが嫌だ。

 昨日までだったら、あまり気にならなかったのに。

「……仕方ない、こうなったら、新しいレアアイテムを探しに行くぞ」

「はぁ?」

 一個あったのなら、もう一個くらいある筈だ。

 攻撃力1000000くらいのマップ兵器的な剣を手に入れれば、きっと脱出できるだろ。振り回して魔人剣みたいなのが出れば尚良し。ついでに防御力10000000くらいの鎧も欲しいよな。隣のロリが紙装甲だから。

 そう、それしかない。それしかないぞ。

「よし、行くぞっ!」

「い、行くってどこへだよっ!?」

「宝探しだ!」

「はぁ!?」

 俺は自らの足で歩み出す。

 いざ、宝探しの時間だ。

		◇		◆		◇

 レアアイテムというのは、手に入りにくいからレアアイテムと言うのだ。あっちこっちを探し回って、けれど、なかなか出会うことが出来ない。

 更には街の冒険者連中の頑張りが足りないせいで、敵とのエンカウント率が、時間の経つにつれて上昇して来ている。町内にケモノ系オヤジが増えてきている。

 普通、こういう時は猫耳でも美少女属性持ちが出てくるもんだろ。どうして俺が遭遇するのは厳つい顔のオヤジばっかりなんだよ。頭の耳がもったいねぇ。

 ということで、俺とロリは街を絶賛マラソン中。

「うぉおおおおおおっ!」

「あほぉーっ! 見つかっちゃったじゃんかよっ! 何度目だよっ!?」

「仕方ないだろっ、そこにあった剣がレアっぽかったんだから!」


 名前:騎士の剣
 耐久力:109
 希少性:500
 属性:なし
 状態:刃こぼれ

 これで何度目のゴミ鑑定だろう。二桁は越えてるぜ。

「喰らえっ! ゲートオブバビロォン!」

 拾ったばかりの剣を後ろへ向けて投げつける。それは俺が想像したより勢いを持って飛んで行き、見事、追っ手の腹へと命中した。

 グサっと刺さって、俺たちを追い掛けていた犬耳オヤジ死亡のお知らせ。

「よっしゃあ、流石はゲートオブバビロンだなっ」

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 三つ目の壁も、いよいよ決壊が近いんじゃなかろうか。

 早くレアアイテムを見つけないと、シャイニングロリータの体力がヤバイ。

「おい、大丈夫か? やっぱり少し休むか?」

「う、うっせっ! これくらい、ぜんぜん大したことねぇよ!」

「気合いの入ったロリだな……」

「だからロリって言うんじゃねぇ!」

 早くレアアイテムを見つけないとヤバイ。本格的にヤバイ。

 周囲の建物は、まだ形を保っている。侵入してきた獣耳オヤジ族も、内側で粘る街の人間と比べれば、数は少ない。拮抗はギリギリ、危ういながらも保たれている。

 しかし、小一時間ばかりを経過して、その遭遇率は体感で倍近い。確実に数で押されてきている。イケメン騎士の言っていたことは正しかったようだ。

「おっ! いいもん見つけた!」

「次はなんだよぉっ!」

 悲鳴じみた叫びを上げながら、それでも俺に付いてきてくれるコイツは、まったく、良く出来たロリじゃないか。頭が上がらないぜ。

「おい、あれ、あれ見て見ろよっ!」

 走る先、武器屋っぽい店を発見。

 交差した剣が看板してる。間違いないだろ。

「わ、分かったからっ、はっ、はっ、はぁっ」

 ロリのハァハァな呼吸音に興奮しながら、一路、進路を武器屋へ。

 入店。カランコロン。いらっしゃませ。

 店内には人の姿がない。

 加えて、強盗にでもあったよう。商品がそこいらに落っこちていたり、無くなっていたり、とても酷い有様だ。十中八九、火事場泥棒に遭ったんだろう。

 この様子だと、碌なもんが残ってなさそうだ。

 だが、決してゼロではない。頼りなさそうな短刀だとか、見るからに扱いにくそうな大剣だとか、少なからず残ってるものもある。

 こうなれば片っ端から鑑定してゆくしかあるまい。

「ちょっと休んでろよ。使えそうなもん探してくる」

「あ、おいっ!」

 ロリに断りを入れて物色開始。

 なんか出ろっ! なんか出ろっ!


 名前:鋼の投げナイフ
 耐久力:160
 希少性:100
 属性:なし
 状態:良好


 名前:柱斬り
 耐久力:1000
 希少性:300
 属性:なし
 状態:ちょっと微妙


 名前:ドラゴンスレイヤー(レプリカ)
 耐久力:1000
 希少性:200
 属性:なし
 状態:本物買えよ

 くっそ、碌なもんがねぇよ!

 もう三桁近いアイテムを鑑定した。だというに、一度としてレアは見つけられない。これに比べれば、ソシャゲのガチャなんて可愛いもんだ。こんな量産品、何本持ってたところで、戦へ勝ちにいけねぇよ。

 ボールでデビルガンダムに勝てるかっての。

「……マジでヤベェな」

 どうして欲しい時に出てきてくれないんだよ、レアアイテムは。

 ゲーム開始直後にビギナーズラックで手に入れたレアアイテムを、知識不足から売っちまって、後で後悔するパターンだ。よくあるパターンだ。

「本気で焦ってきた。どうするよ、おい、どうするよっ……」

 俺一人じゃない。ロリも一緒なんだ。

 俺が失敗したら、ロリもヤバいんだ。

 くっそ。

 目の前でシャイニングロリータの寝取られ陵辱とか、凄い興奮する。めちゃくちゃ見たい。三桁くらい生中出しされて、孕みから出産へのコンボを早送りで見たい。最高画質で録画したい。

 だがしかし、収まれ煩悩。

 今はそっちも大切だが、それよりもう少し大切なものがある。

 くっそ、股間が苦しいぜ。

「なんかねぇのかよっ! なんかっ!」

 溢れ出す性欲を諫めるよう、うろうろと武器屋の中を歩み回る。

 すると、不意に足下でカツンと音が鳴った。

 なにか蹴飛ばしたようだ。

 見れば床の上をコロコロと転がる、中型オナホくらいの大きさの何か。

「なんだよこれ」

 ズッシリと重い宝石みたいな。中身の詰まったグラスみたいな。

 なんつーの、ほら、あれよ。


 名前:死霊の杖(頭部)
 耐久力:9000
 希少性:213030
 属性:闇
 状態:破損

「レアきたぁああああああああああっ!」

「な、なんだよっ!?」

 これだよっ! これだよこれっ!

 俺が探してたのはこれだよっ!

「うひょぉおおおおおおおおおおっ!」

「オッサンっ!? おいっ、オッサンっ! 遂にイカれたかっ!?」

 努力は報われるんだよっ!

 例え0.001%の確立でも、狩り続けてればカードは出るんだよ!

 ネトゲで超絶激レア引いた気分。ボスドロップ気分。

「任せろ、これから始まる俺の時代っ!」

「任せられねぇよっ! ぜ、ぜんぜん任せられねぇよっ!」

「いいから、ちょっと待ってろ。装備するから」

 右手に強く握り締めて、自分のステータスを確認だ。


名前:タナカ
性別:男
種族:人間
レベル:1
ジョブ:ニート64
HP:4920/5900
MP:10/10(+10)
STR:2400(+500)
VIT:3200
DEX:4920
AGI: 900
INT: 310
LUC: 540

 あれ、なにこれ。

 MP増えたの嬉しいけど、これじゃダメだろ。

「…………」

「ど、どうしたんだよ? 装備ってなんだよ?」

「悪い、今のちょっと無しで」

「は? お、おい、本当に大丈夫かよ?」

 形見の鉈より弱いじゃんかよ。

 握って殴って、プラス500ってことか? んな阿呆な。

 どういうジャンルの武器だよ。

 正直、マシンガンとか貰ってもヤバイ状況だってのに。

「おい、オッサン、なんとか言えよっ! 流石に怖いだろっ!?」

 とか何とか考えてたら、ガシャン、武器屋の窓ガラスが割れた。何事かと振り向く俺とシャイニングロリータ。ガチでビビった。

 すると、窓の外にズラリとならんだ猫耳オヤジの集団。

 同時、ビィイインっと足下に突き刺さった槍。どうやら、槍を投げつけられたらしい。ガラス窓を突き破って、俺の下まで飛んできた感じ。

「おいおい、マジかよっ……」

「げっ……」

 十や二十じゃすまない。三桁近い武装した猫耳オヤジだ。

「fjぁkじぇfd8f0−93j!」「ふぉあいj3rlfかjっ!?」「ふぉあいえじゃfじょいjfl!」「fじゃlkwjfd3jflzsdf90うjlk3j!」「fじゃlk3r09あsdflkj!」

 しかも何か怒り口調で、ああでもない、こうでもない、賑やかに騒いでいる。

 喋る言葉は何を言っているのかサッパリ。

 どうやらこの国と共和国とは、それぞれ別の言語を母国語としているようだ。ドラゴン氏の使うドラゴン語すら話せる、天才言語学者の俺が理解できないとは、相当にマイナーな言語だと見た。

「お、オッサンっ……」

「おうっ、さ、流石にこの数はヤベェな……」

 数秒の後、ヤツらは一斉にこちらへ駆けてきた。

 バイオハザードのゾンビを十倍速にしたような感じだ。

 一斉に、わぁああああっ! って具合に攻め入って来やがった。

「ぎゃぁああああっ、マジかよっ!? こっち来んなよっ!」

「おっさんっ! 投げろっ! なんでもいいから投げろっ!」

「お、おうっ!」

 今に飛んできた槍を大慌てで引き抜く。

 そんでもって、力一杯に窓の外へと投げつける。

 一団の先頭を突っ走ってきた、アラサー猫耳オヤジへ、全力で投げ槍。

「喰らえっ! ゲートオブバビロォン!」

 一直線に飛んでいって、顔面にグサリ、刺さる。

 顔が崩れる。

 なんつーエグさだよ。

 勢い付いた身体は、多少ばかりラリった後、店の外壁にぶつかり倒れた。

 どちゃぁって感じだ。

「あ、アタシだってっ!」

 これに続くよう、シャイニングロリータもまた、投擲。

 すぐ近くに転がっていた投げナイフだ。

 こちらもまた迫り来るアラサー猫耳オヤジにヒット。

 首の根元へ深々と突き刺さった。

 相手は短く呻き声を上げて、途端、酒にでも酔ったよう足下が危うくなる。かと思えば、先のオヤジと同様、店の外で壁にぶつかり倒れた。

 なにこのロリってばカッコイイ。

「よぉーしっ! どんどん投げろっ! 投げまくれっ!」

「お、おうっ!」

 二人して投げる。手近にある刃物を、ひたすらに投げまくる。押し寄せる幾十もの猫耳オヤジ軍団へ向けて、肩が外れるほどの勢いで、延々と投擲を続ける。

 まさか、素直に殺されてやるものか。

 店の中に入られたら終わりだ。何が何でも水際に食い止めるんだ。投げられるものは剣だろうが、斧だろうが、槍だろうが、そりゃもう何でも投げるぞ。

「喰らえっ! ゲートオブバビロォン! ゲートオブバビロォン! ゲートオブバビロォン! ゲェエエエトォオオオブバビロォォオオオンッ!」

「それいちいち言わないと投げられないのかよっ!? うるせぇよ!」

「は? めっちゃカッコイイじゃんかよ? ゲートオブバビロォンッ!」

「は? ぜんぜんカッコ悪いだろっ!?」

「ゲートオブバビロォォオオオオオオオオン!」

「人の話を聞けよっ!」

 ニート64のおかげで、俺の肩は絶好調だ。

 今なら甲子園どころかメジャーで完全試合をキメられそう。

 だがしかし、店内の武器は決して無限じゃない。

 投げまくってたら、早々のこと弾が切れた。

「あ、オッサンっ、もう投げるもんがねぇよっ!」

「マジかっ!?」

 気付けば椅子も机も投げた後だ。

 本当に何もない。

 一方で猫耳オヤジ軍団は、未だ数十人を残している。半分減らせたかどうかって具合だ。全滅までは程遠い。このままじゃ俺らのフルボッコは決定的だ。

 いや、まて、一つだけ残ってるぞ。

 足下に転がるオナホ級の宝石もどき。

「こ、これか……」

 ついさっき見つけた、なんちゃってレアアイテムだ。

「くっそぉおおおおっ!」

 この一球に全てを賭ける。

 頼む、なんか起こってくれ! この際、パルプンテでも何でもいいからっ!

「うぉおおおおおおおおおおおっ!」

 力一杯に振りかぶり、そして、投げる!

 真っ直ぐに猫耳オヤジ目掛けて飛んで行く。コースは内角高め、デッドボール。当たれば鼻がヘシ曲がるぜ。ヘイヘイ、ピッチャービビってる。

 とか阿呆なことを考えていると、妙な現象が発生だ。

 標的へ今まさに当たらんとしたところで、投げた宝石が輝きを放つ。まるで風呂桶にマグネシウムの塊でも放り込んだよう。

「うぉおおっ!? な、なんか来たぞぉおおおおっ!」

「ちょ、オッサンっ! 今度は何したんだよっ!?」

「俺じゃねぇよっ!」

「だったらなんだよっ!?」

 眩しい。もの凄く眩しい。カメラのフラッシュのウン百倍。

 青っぽい光。

 店の外のオッサン連中からも声が上がる。

 どうにも眩しくて、目を開けていられなくて、耐えかねて瞑る。暫しの間、争いの場で敵味方共に一切合切の動きが止まった。

 輝きは数秒ほど続いた。

 ややあって、瞼越しに輝きが収まりゆくのを感じる。あまり長い間、目を瞑っているのもまた危険だ。恐る恐る、ゆっくりと目を開く。

 すると、そこには驚きの光景だ。

「うぉおおおっ!? オヤジ共が復活してやがるっ!」

「な、なんだよこれっ!」

 ゲートオブバビロンで倒した筈の猫耳オヤジ軍団。

 これが自分の足で立ち上がっている。

 ザオリクか? ザオリクなのか?

 超絶治癒魔法で俺TUEEEか?

「オッサンっ、あれっ! アレ見ろよっ!」

「お、ぉお? なんか浮かんだまま光ってるな」

 シャイニングロリータが指し示す先、人の頭くらいの高さに浮かんで、ピカピカと輝いているオナホ宝石があった。

 紫色の光を滲ませて、すげぇ怪しい感じ。

 俺たちの他、生き残ってる猫耳オヤジ共も、この光景を目の当たりとして、動きが止まっていた。酷く戦いた様子で、その様子を見つめていた。

「オッサン、こいつら、なんか様子が変じゃないか?」

「あ、あぁ……なんか、ゾンビっぽいな」

 立ち上がった猫耳オヤジ共は妙だ。幾ら待っても俺たちを襲ってこない。それどころか、うー、あー、うー、あー、知障みたいな声を上げている。

 しかも、よくよく見てみれば、怪我の類いは全く塞がってない。

 頭が潰れてるヤツは潰れたままだし、腹が破れたヤツは破れたまま。

 ガチでゾンビだよ。

 ゾンビ以外の何物でも無いよ。

 っていうと、これはあれだ、ほら、俺が投げたオナホ級が、ゾンビ生成の魔法石だったに違いない。あの光に当てられると、死体がゾンビになるって寸法だ。

 事実、俺とロリは何の影響も受けちゃいない。多分。

 問題ないだろうが、まあ、一応はステータスとか確認しておくか。


名前:タナカ
性別:男
種族:人間2.0
レベル:1
ジョブ:ニート64
HP:4920/5900
MP:9/10(+10)
STR:2400(+500)
VIT:3200
DEX:4920
AGI: 900
INT: 310
LUC: 540

 おいちょっと、またなんか変なことになってないか。

 人間2.0って、どういう種族だよ。

 本来あるべきところから、一歩前に踏み出しちゃってるだろ。

 小数点以下第一位の存在に、根拠ない次世代を感じる。ただでさえバグってるのに、少数とか扱えるのか疑問だ。不安を感じざる得ない。

「オッサン! ど、どうしたんだっ? 変な顔してんじゃねぇよ!」

「そうだよ、お、おお、お前は大丈夫かっ!? 何か変なところとかっ!?」

「あ、アタシかよっ!? アタシは別にっ……」

 そうだ、ロリのステータスも確認しないと。


名前:ベス
性別:女
種族:人間
レベル:10
ジョブ:浮浪児
HP:110/352
MP:198/198
STR: 98
VIT: 89
DEX:230
AGI:516
INT:110
LUC: 19

 2.0は俺だけかよ。

 しかも、こっちは普通にレベル上がってて羨ましい。

 なんで俺だけニート64のままなんだ。

 ステータスは何にも変わってないし。

「たぶん、なんともなってないと思うけど……」

「おう、そ、そうっぽいな……」

 自分の身体の具合を確認して答えるロリ。

 ステータスに異常がなければ、外見にも取り立てて問題は見られない。

 若干、汗ばんで女の色香が漂っているくらいだ。

「オッサン、今度はすげぇ悲しそうな顔してるぞ」

「俺だけ次世代規格に嵌まっちまった感が、なんかスゲェ悲しい」

「……何の話だよ?」

「いや、もう考えるのは止めだ。それよりも今はゾンビパワーで脱出だ」

 駆け足でゾンビストーンへ向かう。

 宙に浮かぶそれを、右手にガッチリとつかみ取った。

「おいオッサンっ! 大丈夫かよっ!?」

「あ、熱くなーい、ぜんぜん熱くなーい」

 掴む瞬間、もしかしたら熱いかも、とか思った。

 だが、幸いにして僅かに暖かい程度だ。良かった。マジ良かった。

「本当に大丈夫なのかよっ!?」

「おい、ロリ、ちょっと見てろっ!? 最高にカッコイイところ見せてやる」

「だからロリって言うんじゃねぇよっ! しかも今度は何する気だよっ!?」

「気分は最高にバイオハザードっ! よーしオマエら、同族を片っ端からぶっ殺してけっ! 街のヤツらは勝手に喰うんじゃねーぞ! 分かったなっ!?」

 手にしたゾンビストーンを掲げて吠える。

 すると、俺の掛け声に遭わせて、猫耳オヤジ系ゾンビが、一斉に動き出した。大きく口を開いて、その牙を見せつけるように、同胞の下へと。

 間違いなく共食いコース。

 猫耳ゾンビ軍団には、理性の欠片も感じられない。腹を空かせた肉食獣のよう。歩みは怪我の具合によって足も速かったり遅かったり。地面を這いずるようにして進んで行くヤツもいる。

 想定通り、念じれば味方として使えるらしい。

 しかも新しく生まれた死体は、次々とゾンビ化していく。腹を斧に破られたオヤジが、また一人、むくりと身体を起こす。そして、今まで肩を並べて戦っていた別のヤツへと襲い掛かって行く。

 なんて素晴らしい。

 今の俺とロリにとって、これほどドンピシャなアイテムは他にないだろ。

「おおっ、すげぇっ……」

「どうだ、見たかっ!」

 とか思っていたら、握る宝石が、パリィン、良い感じの音を立てて割れた。

 粉々になって、指の間から地面へパラパラと落ちていく。

「げっ……」

「オッサンっ!?」

「おいおい、ちょっと待てよ、割れちまったよっ!」

 焦る。めっちゃ焦る。

 だが、俺が命じたゾンビ共に変化はない。

 猫耳オヤジとゾンビ猫耳オヤジが乱闘を始めた。

 恐らくは使いきっりのアイテムだったんだろう。

「マジか……」

「オッサンっ、平気かよっ!?」

 ロリが俺の隣まで駆け寄ってきた。

「あ、あぁ、まあ、ひとまず難所は越えた感じだろ」

「今の何だったんだよっ!?」

「一回限りのお助けアイテムってところだろ」

 シューティングゲームのボムみたいなもんだ。

「なんだよそれ……」

 まあいい、少し想定とは違うが、結果オーライだ。たった二人の逃避行が、これでゾンビ連中を含めて一個中隊規模となった。多少は生存率も上昇したろう。

「よしっ! いけっ、そこだっ!」

「凄いエグいな……」

「戦争なんてこんなもんだろ」

「オッサンは経験あるのかよ?」

「ふっ、これでも幾千という紛争地帯を駆け抜けてきた、母国でも指折りのプレーヤだ。このくらいの乱戦、乱戦の内には入らない。ネカフェの低スペックマシンで全米ランキングトップとやり合った時に比べれば、屁みたいなもんだぜ」

「そ、そうだったのかよっ!?」

 猫耳オヤジとゾンビ猫耳オヤジの壮絶な争い。

 それを俺とロリとは高みの見物。

 つい数分前までは味方だった連中に襲われて、戸惑いも大きかったのだろう。敵勢は瞬く間に追い詰められていった。

 倒された猫耳オヤジは、即座にゾンビ猫耳オヤジとして蘇る。そして、ゾンビ猫耳オヤジは、足を切られようが、手を切られようが、戦意も変わらず特攻する。

 延々と増え続ける無敵の軍団がいっちょ上がりだ。

 バトルフィールドのゾンビ率は瞬く間に上昇。

 僅か数分と経たぬ間に、残っていた猫耳オヤジは全員、ゾンビ猫耳オヤジへと変化した。武器屋の店先は、これまでの喧噪が嘘のように静かとなる。

 俺の命令が原因か、他に理由があるのか、ゾンビ同士が争うことはない。耳に届くのは、うー、あー、うー、あー、知障じみた呻き声。

「いよぉしっ! このまま街を脱出するぞ」

「お、おうっ!」

 活路は開けた。後は突っ走るのみである。

 ゾンビ軍団大勝利。

 このまま仲間を増やしてマサラタウンにサヨナラバイバイだ。

 そう考えていた時期が私にもありました。

 一歩を踏み出したところ、不意に行く先へと現れた人影。なんつーかこう、ブォンって感じで現れた。要はロリマンコのルーラと同じだ。

「何事かと思えば、貴様か。また妙な魔力を放出しおって……」

「マジかよ」

 向かう先、数メートルの地点。

 ヤツだ。ダンジョンマイスターだ。

 全身ローブでスッポリの干涸らびた陰険野郎だ。

「この騒動も貴様が原因か?」

「ちげぇよっ!」

 ねぐらの外が騒がしくなったもんで、様子を見に来たのだろう。まさか、この化け物が街に喧嘩を売るとは思えない。ダンジョン経営してるんだから、コイツもある種の町人に違いないのだ。

「ならば何が起こった?」

「戦争だよ! 隣の国の猫耳軍団が攻めて来やがった」

「……なるほど、そういうことか」

 俺、コイツ嫌いなんだよな。

 一緒にいてハラハラドキドキが止まらない。

 前はドラゴン氏が一緒だったから無事に済んだけど、今回はどうなるか分かったもんじゃない。コイツのステータスはヤバイ。俺なんかが手の出る相手じゃない。

 きっと、ロリマンコだって負けるだろ。

「えっと……オッサンの知り合いかよ? なんか凄い干涸らびてるけど……」

「嫁の父親だから、なんだ、ほら、あれだ、お義父様ってやつだ」

「えっ!? オッサン、結婚してたのかっ!?」

 シャイニングロリが随分と驚いた様子で訪ねてくれる。

 そんなに驚くことかよ。俺だっていい年の大人だぞ、ちくしょう。お前くらいの娘がいたって不思議じゃないんだ。

 まあいい、今はロリより目の前のラスボス攻略が優先だ。

 ロリから陰険野郎へ向き直って言葉を続ける。

「そういう訳だから、ほら、用が済んだなら家に帰れよ」

「ところで、貴様、マリオネットはどうした? 隣のは違うだろう」

 隣のとはシャイニングロリのことだろう。

「……に、逃げられた」

「逃げられた?」

「愛想尽かして、実家に帰らせて頂きますわ! って具合だよ!」

「マリオネットが主人に歯向かった、ということか?」

「歯向かうとか日常茶飯事だろ。どれだけ殴られたか分からないわ。そもそも、マリオネットって言うくらいなら、もう少し何とかならなかったのかよ? 、お淑やかっていうか、従順っていうか」

「……ほぅ、また面白いことを言う」

「な、なんだよ……」

「マリオネットは主人に絶対服従だ。何が起ころうとも、例え自らが危険な目に遭おうとも、主人に歯向かうことはない。私が作成したものとなれば殊更にだ」

「だったらアイツはどうなってんだよ?」

「…………」

 俺が訪ねると、陰険ローブは何やら考えるように黙る。

 バグってるんじゃないのか? ステータスウィンドウと一緒だ。

 作者の性根の悪さが反映されているんだろ。

 とかなんとか、考えていると、不意に相手が動いた。

 一歩、こちらへ向けて歩みが進む。嫌な感じ。

「今日、彼の者は共にいないのか?」

「彼の者? 誰のことだよ」

「貴様の知り合いのことだ」

「……あぁ、ドラゴン氏か」

 今頃は自分の巣で園芸に精を出していることだろう。

 最初に出会ったバハムートスタイルだと、正直、庭いじりをする光景が想像できない。しかし、以前に夜の森で見た金髪ロリスタイルであれば、なんと素晴らしい情景か。妄想して心の温かくなるのを感じる。

「ここ数日は会ってないけど」

「なるほど、ならば都合が良い」

「は?」

「あれは貴様にくれてやるには過ぎた代物だ。ここで返して貰おう」

「お、おいっ、それってっ……」

「なぁに、呼べば来る。間違いなく」

 嫌な予感がヒシヒシと。

 そして、予感は次の瞬間、現実となる。

「死ね」

 陰険ローブ野郎が、手にした杖をこちらへ向けて振るった。

 応じて、巨大な火の玉が飛んできた。

 ファイヤボールだ、ファイヤボール!

 正真正銘、本場ファンタジーのファイヤーボール来たよ。

「うぉおおおおおおおおっ!?」

「お、オッサンっ!」

 何をする暇もなかった。

 咄嗟、ロリを庇うよう、胸の内に抱く。

 本当なら、このまま格好良く、地面を転がり、事なきを得る筈だった。だけど、転がる余裕はなかった。肩越しに振り返ると、目の前まで接近した巨大な火の玉。

 三メートルを超える巨大な火球だ。

 これは死んだ。

 死んだと思った。

 が、何故だろう。いつまで経っても熱くならない。

 瞬殺されたかとも思ったけれど、胸の内に感じるロリの鼓動は確かなもの。

 ぽにゃぽにゃしてやーらかい。

 では何故か。

 何気ない調子で隣を見れば、そこには見慣れた姿が。

「まさか、分かれて一日と持たないとは、情けない主人ですね」

「お、おぉ、ロリマンコォ……」

 ロリマンコだ。ロリマンコが隣に居るぞ。

 火の玉はコイツが防いでくれたようだ。

 恐らくはバリアー的な魔法が発動したのだろう。

「しかも主人が他人を庇うとは、あまりにも意外な行動です」

「別にいいだろ。今の俺はそういう気分なんだよ」

「にわかに信じがたいですね」

「自分の目玉くらい信じろよ」

 ここ数日で見慣れたゴスロリ姿だ。

 なんて可愛いんだろう。ロリマンコ可愛いよロリマンコ。

 俺がロリマンコに萌えている一方、陰険ローブの側からは、少しばかり悔しそうな声が上がる。どうやら、ヤツはロリマンコの登場を想定していたらしい。

「私うらに気配を悟らせないとは、無駄に力を与えすぎたな……」

「創造主が耄碌しただけではありませんか?」

「なるほど、確かに口の悪いマリオネットだ」

「だろ?」

 どこに潜んでいたのだろう。

 いや、今はそんなことを気にしている場合じゃない。

 俺は一際大きな声で吠えた。

「ロリマンコっ!」

「なんですか? 素人童貞チンポ野郎」

「正直、スマンかった!」

 全力で頭を下げる。

 腰を九十度折って、謝罪のポーズ。

 それでも口が悪くなってしまったのは、なんだろう、不思議なものだ。

「……どういう風の吹き回しですか?」

「俺は成長したんだよ、そう、人間2.0とでも言おうかっ!」

 ステータスウィンドウのお墨付き。

「だから何ですか?」

「だから、その……ごめんなさい」

 今度はちゃんと言えた。

 流石は俺だ、やれば出来る。出来るんだ……。

「…………」

「…………」

 結果、妙な間。

 ロリマンコから反応が無い。

 何にも無い。

 普段ならパンチの一発でも入れてくるのに。

 おかげで余所から、お邪魔虫が会話に割って入ってきた。

「マリオネットに頭を下げるとは、とんだ阿呆もいたものだ」

「わ、悪いかよっ!?」

「この数日で、そこまでこの人形に入れ込んだか?」

「当然だろっ!? 超絶可愛いじゃんかよ!」

 今すぐに抱きしめたいぞ。

「ならば貴様に現実を教えてやろう」

 現実とか、俺が一番に嫌いな単語だよ。

「マリオネットは所有者に対して絶対服従。何が起こっても主人に対して牙を剥くことは無い。しかし、これは制作者の意図あってのこと。その一点を失えば、マリオネットは自我を取り戻す」

「おうおう、良くあるパターンだな」

 オチは見えたわ。

 この陰険ローブが、ロリマンコのリミッターを外して、ロリマンコVS俺。

 しかし、俺とロリマンコの間に育まれた真実の愛が、彼女の心を導く。ラストは二人の共同作業。目の前の憎らしい陰険ローブを打ち倒すっていうストーリーだ。

 胸が熱くなるな。燃え展だ。

 最後の方でOPのロックアレンジが流れちゃったりするんだよな。

 ああ、困ったな。ぜんぜん出来る気がしない。

「やっぱりか……」

 どうやら、やはり、思った通り、ロリマンコはそういう存在だったらしい。強制嫁属性だったらしい。だからこそ、今もこの場に現れることが出来たのだろう。恐らく、俺はストーキングされていたんだろう。

 こういう展開が待っているのだったら、頑張ってフラグを立てておくんだった。ロリマンコに、ご主人様のことなんて、べ、別に好きじゃないんだからね。とか言われたら、今季のアニメ全部見れなくても良いい。

 いや、しかしそれはそれで、楽しくない。きっと、凄く楽しくなかった。

 何故かそういう気がする。そもそもロリマンコに媚び売ってどうするよ。俺はヤツと対等な存在でいたいんだ。それが何よりも大切なんだ。

「せいぜい苦しんで死ね」

 陰険ローブの腕が動く。

 突き出された指先の先、小さな魔方陣っぽい魔方陣が現れた。かと思えば、その中央から紫色の光がビーム。一直線にロリマンコの身体を捉えた。

 AAA級、平坦な胸の谷間を一撃だった。

「っ!?」

 声にならない悲鳴がロリマンコの口から漏れる。

 手足がぴんと伸びて、全身から痙攣を始める。よく見れば足が宙に浮いている。悪役の光線に打たれて、アバババババっってヤツだ。

 俺はと言えば、全く反応できなかった。身動き一つ取れなかった。

 シャイニングロリは状況について来ていない。

 周りのゾンビ連中は、あー、うー、あー、呻き声を上げるばかり。

 陰険ローブ野郎のソロステージ。

 やりたい放題だ。

「さぁ、お前の心は自由となった。今晴れて、思うがままに振る舞うといい」

 お義父様が娘に言う。

 娘婿はガクブルだ。

 その言葉に応じるよう、ロリマンコの身体が光を発する。

 輝きは一瞬。

 ピカリ、光ったかと思えば、輝きの収まって以後、ロリマンコは痙攣を収める。自らの足に立ち、元の楽な姿勢へと戻っていた。

 なんかこう、うぉおおおおおおおお、叫んで変身を終えたスーパーサイヤ人のあれだ。とても静かな感じ。金色の光がフォンフォンしてたりはしないけど。

「…………」

 ああ、とても不思議な気分だ。怖いけど、怖くない。

 もしかしたら、俺自身、この先が気になるんじゃなかろうか。

 真のロリマンコが。解き放たれたロリマンコの人格が。

「ろ、ロリマンコ……」

 緊張を隠せぬまま、俺は声を掛ける。

 ロリマンコを越えてスーパーロリマンコとなったロリマンコ星人。

 あぁ、ロリマンコ可愛いよロリマンコ。

 しかし、なんだ。

 段々とロリマンコという単語にマンコとしての興奮を覚えなくなってきている。あまりにも使いすぎたようで、日常の言葉として脳味噌が認識しているんだな。

「…………」

「おい、き、聞こえてるか? ロリマンコ……」

 どんな反応が返ってくるのか、不謹慎だが、楽しみにしてしまった。

 例えそれが一撃必殺のパンチであっても。

 理由は自分でもよく分からない。

 ただ、願うとすれば、一つ。

 できれば、あまり痛くはしないで欲しい。一瞬で終わらせて欲しいなと。

「おーい、ロリマンコー」

 もう一度、声を掛ける。

 すると、俺のほか陰険ローブやシャイニングロリが見守る最中、ロリマンコは。

「……何も変わらない自らの思考に、絶望しました」

 ボソリ、心底嫌そうな顔で言葉を漏らした。

「な、なんだと……」

 この反応を受けて、他の誰よりも驚いたのはお義父様だ。

 目の前の光景が信じられないと言わんばかり。

 これに娘もまた瞳を見開いて訴える。

 彼女も父親と同様、自分自身が信じられないよう。

「今の魔法は失敗したのではないですか? もう一度、お願いします」

「そ、そうだな、もう一度、試してみるとしよう」

 どうやらロリマンコにしても、義親父と同様の認識は内に秘めていたらしい。自分の思考が作られたもの云々。故に俺のような碌でなしの糞野郎に付き合っているのだと。

 なので、テイクツー。

 やり直しだ。

 陰険ローブが紫ビームを放つ。

 ロリマンコが痙攣する。

 ビクンビクン。

 今し方と同じ光景が、俺の前で展開された。

 輝きは先程より少しばかり長く続けられた。

 やがて消沈。

 結果、ロリマンコは心身共に自由な存在となる。

「……そんな馬鹿なことが……」

 自らの両手を見つめて、しかし、その表情に浮かぶのは驚愕。

 語る調子は先程にも増して、深い悲しみを湛えて思えた。

 どうやら、何かが想定と違うらしい。

「この、この心は紛い物だとばかり、私自身も信じていたのにっ……」

「なんだとっ……」

 親子揃って、酷く戦いた様子だ。

 しばらくの間、わなわなと震えていた。

 ややあって、娘が吠えた。

 俺に向かって吠えた。

「ど、どうしてくれるんですかっ! ロリマンコの精神が大変なことになっていますよっ!? これは間違いなく、主人がなにかしたんですねっ!? そうですねっ!? 私の心がレイプされていますよ!」

「し、してねぇよっ! なんもしてねぇよっ!」

「ではどうして、ロリマンコは主人を殺していないのですかっ!? 自由になったロリマンコは主人を殺して、晴れて真なる精神を手に入れるという筈がっ! 最高にドラマティックな展開が!」

「そりゃお前っ、こっちだって都合ってもんがあるだろっ!?」

「主人の都合なんて知りません!」

「最後まで聞けよっ! 精神を解き放たれ自由になったお前が、俺と死闘して、最後は俺の祈りが通じて、お前が真実の愛を手に入れて、俺と仲直り! 一緒にそこのローブ野郎をぶっ殺すっていう! 最高にラブロマンスな展開が!」

「真実の愛? キモいので二度と口にしないで下さい」

「おぶふっ!?」

 殴られた。

 歯が抜けた。

「て、テメェ……」

「見て下さい、鳥肌がこんなに」

「……地味に凹むから、鳥肌だけは止めような? いや、本当」

「今後は鳥肌を自由に立てられるよう、修練を積んでおきます」

「マジやめろよっ!」

 殴られはした。けれど、俺は死ななかった。

 歯が一本抜けた、だけ、だ。

「まさか、こんなことが……」

 他方、当人にも増して驚愕から立ち直れないのが、陰険ローブ野郎だ。

 こっちを見つめたまま、驚きに固まっている。

「なあちょっと、これってどうなってるんだよ」

「私が知るかッ! 貴様こそ、コイツに何をしたっ!? 確かに今の魔法で、私はコイツの封を解いた。枷は確かに掛かっていた。そして、これを絶対の感触と共に、全てを解放したのだ!」

「じゃあこりゃなんだよっ!?」

「だから何をしたと訪ねているんだっ、私の作品にっ!」

「だから何もしてねぇって言ってるだろっ!? お前が作ったものを、お前より遥かにザコい俺がどうこうできる筈ないだろっ!? 何もしてないのに罪悪感とか、理不尽にもほどがあるだろっ!?」

「ぐっ……」

 議論は平行線。

 解決の糸口は見つかりそうに無かった。

「ま、まあいい、ならば、まとめて殺すのみよ。あぁ、マリオネットは回収か。それには色々と突っ込んでいるからな。見ず知らずの人間にくれてやるなど惜しいが過ぎる」

「この陰険ローブ野郎っ、開き直りやがった」

 俺とロリマンコを正面において、臨戦態勢を取るローブ野郎。

 意地でも俺の嫁を取り戻したい様子だ。

 一度は渡した手前、なんて意地の悪い奴だろう。

 まるで俺みたいだ。

「お、おい、ロリマンコ。お前の親父がご立腹だぞっ!」

「主人が私のパジャマでオナニーをしていたことは知っています」

「なんでいきなりその話になるんだよっ!? っていうか、知ってのかっ!?」

 まさか見られていたのかっ!?

 俺の恥ずかしいところを!

「当然です。あれだけべっとりとザーメンをつけられたら、嫌でも気付きます。おかげでその日はべとべとして、寝付くのにとても時間が掛かりました」

「マジか……」

 そう言えば、射精した後は普通に放置してたな。

 っていうか、そのまま着たのかよ。凄く興奮しちゃうよ。

 やばい、勃起してきた。

「そんなに私が好きなのであれば、その父親くらい説き伏せて下さい」

「ハードルの高いお義父様攻略だな」

「できないのですか? では今日でお別れです」

「任せろ。俺ならできる」

「……本気ですか?」

「当然だ。俺は愛の戦士。ロリマンコ愛の戦士」

 自らを鼓舞して、一歩、前へと歩み出る。

 俺ならできる。俺じゃなきゃできない。

 そう、これは俺のロリマンコに対する、愛の証明なのだ。

「私に勝てると思うか?」

 陰険ローブ野郎が答えた。

 当然、俺が返せる言葉は、唯一。

「と、当然だろっ!」

 命がけのお義父さん攻略。

 ちゃぶ台返しはクリティカルヒット。心と体を打ち砕く。学歴が、職歴が、そして何よりも給料が足りていないっ! ボーナスは僅か三十万! 

 しかし、俺を見つめる眼差しは、自らを娶れと祈る嫁の願い。思いは世代を超えて、年収一千万越えの上場企業課長役職を打ち破る。

「そんなに具合が良かったか? 人間には過ぎたおもちゃだろう」

「まだ乳首すら舐めちゃいねぇよっ!」

 即答だ。

 チューしてパジャマでオナニーしたくらいだ。

「……不能か?」

「ちげぇよっ! 今もはち切れんばかりに勃起してるってのっ! これを見ろよっ! おら、おらおらっ! 見ろよ俺の極太スティックさんをっ!」

 自らの股間を膨らんだジーパンの生地越しに指さす。

「貧相なものを見せつけるな」

「うぉおおっ!?」

 不意にローブ野郎が腕を上げた。

 大慌てで後ろへ飛び退く。

 同時に指からビーム。

 今その瞬間まで立っていた地面に、拳大の穴が空いた。

「て、テメェっ、いきなりなにすんだよっ!?」

「黙れ。これ以上は時間の無駄だ」

「どうしたら娘をくれるんだよっ!?」

「欲しかったら奪い取ってみるといい。自らの力でな」

「くっ……」

 なんて熱血親父だ。昭和の産物だ。

 だがしかし、俺には力などない。ステータスウィンドウのおかげで、自分の性能はこの上なく客観的に測れてしまう。並んだ数字の数は、目の前の相手と比較して、桁が三つばかり違う。


名前:タナカ
性別:男
種族:人間2.0
レベル:1
ジョブ:ニート64
HP:4920/5900
MP:9/10(+10)
STR:2400(+500)
VIT:3200
DEX:4920
AGI: 900
INT: 310
LUC: 540


名前:リチャード
性別:男
種族:リッチ
レベル:680
ジョブ:ダンジョンマスター
HP:125900/125900
MP:500000/5000000
STR: 92400(+10000)
VIT: 83200(+120000)
DEX: 74920
AGI: 60900
INT:100210(+100000)
LUC:  4040

 どうするよ。どうしたらいいんだよ。

 ゾンビ連中を総動員したって勝てる気がしない。アイツら数は多いけど、全体魔法とか喰らったら瞬殺コースだからな。きっと炎系の魔法で効果二倍補正を喰らって、六桁ダメとか受けるタイプだ。とことんザコなんだ。

「何か、何かないのかよっ……」

 ステは弱くても、こう、一発逆転的な何かが。

 そうだ。

 閃いた。

 スキルだよ、スキル。人間2.0になったんだから、何か増えてる筈。


パッシブ:
 内臓疾患 Lv5
 虚弱体質 Lv3
 アトピー Lv5
 ワキガ Lv10

アクティブ:
 すかしっぺ Lv10
 死体操作 LvMax
 死霊生成 Lv5

 すかしっぺと内臓疾患のレベルが以前より上がってる。腸の調子が良くないのかも知れない。とても気になる。もしかしたら、悪い病気なのかも知れない。

 三年前、社会人時代に人間ドッグを受けたときは何も指摘はなかった。恐らくニート生活が祟ったんだろう。まあ、運動らしい運動なんて腕の上下くらいしかないしな。

 いや、今はそんなことどうでもいい。

 むしろその下だ。なんか来てるじゃない。新作スキルだ。

 すかしっぺの下に二つばかり並んだカッコイイ単語がマッハ気になる。

 間違いなくさっきのオナホ石が原因だろ。オナホ石を使ってスキルゲットした感がひしひしと伝わってくる。ただ、相変わらず使い方は不明だ。

 これが人間2.0のスキルか。

 すかしっぺと同列に並ぶということは、実行に際して条件やテクが必要な筈だ。失敗したら実が出る恐れありってことだ。

「どうした? 諦めたか? ならば終わりだ」

 ローブ野郎がこちらへ向かい、一歩を踏み出す。

「ま、まてよっ! ぜんぜんこれっぽちも諦めちゃいねぇっ!」

「これ以上は時間の無駄だ。終わりにしてやる」

「っ……」

 その腕がこちらへ向けて、掲げられる。

 手の平を正面に、その先数センチのところに魔方陣。

 きっとまたビームでも撃つつもりだろう。ビームでも。

「く、くっそっ」

「死ね」

 更に一歩、俺たちの側へ歩みを進めるローブ野郎。

 誰が死ぬか。死にたくないわ。

 ロリマンコとラブセックスするまでは、死にたくない。

「こっち来んなぁぁあああっ!」

 全力で吠えた。俺が。丹精込めて吠えた。俺が。

 すると、どうしたことだろう。ローブ野郎の歩みが止まる。

 足を上げた姿勢のまま、次なる一歩を踏み下ろせない。

「き、貴様っ、何をしたっ……」

「マジかっ!?」

 そういやあれだ、リッチもアンデッドだ。

 アンデッドと言えば死体だろ。死体。

 つまり我がスキルの操作対象。

 俺のロリマンコを思う熱い心が、同スキルを発動させたに違いない。

「ぐっ、身体がっ、身体が動かんっ……」

「フッ、お前の身体は我が能力が掌握した。何をしたところで無駄だ」

「なんだとっ……」

「まずは、そうだな……」

 公開ストリップの開幕。

「そのやたらと防御力の高い装備を脱いで貰おう。全身ローブとか普通にカッコイイんだよ。羨ましいんだよ。布きれの癖に防御力高いとか、憧れじゃんか」

「ぬおっ!?」

 俺の言葉に従い、ローブ野郎が自らの手で衣服をはだけさせる。

 すると、布きれの奥から現れたのは、腰骨に若干の皮がへばり付いた限りの、骨格標本さながらな肉体だ。しかも下着を着けていない。露出狂さながら、ローブ一丁。

「うわ……」

 しかも、なんだよコイツ。股が寂しすぎる。チンコには骨が無い。故に肉を失った骨系アンデッドには、チンコがないんだ。そして、コイツ骨系アンデッドなのである。

 本来、肉棒が生えているべき箇所には、骨盤っぽいものが見えるだけ。

「き、貴様っ……」

「スケルトン系のアンデッドってチンコがないんだな」

「殺す……殺してくれるっ」

 途端に怒り始める露出アンデッド。

 だが、ここまでは練習だ。

 俺の本懐はこれからだ。

「さてこら、次がいよいよ本番だ」

「き、貴様っ……この私を殺すつもりかっ……」

「殺す? 冗談じゃない。義親父には孫の面倒を見る義務があるだろ」

「……孫だと? なんの話をしている……」

 ロリマンコは言った。親父を説得しろと。

 だから俺はコイツを説得しなければならない。

 一生に一度は言ってみたい台詞、そう、栄えあるナンバーワンはこれだ。

「お義父さん、娘さんを僕に下さい」

 真摯に頭を下げて、腰を九十度曲げる。

 お辞儀スタイルで挑む。

 俺はマジなんだぜ。娘さんに惚れているんだぜ。

「ぐっ……」

 対して、これに必死の形相で抗うお義父さん。相当に俺のことが嫌いらしい。何かを堪えるように全身を震えさせている。

 当然のこと、こっちだって必至だ。全力で祈祷。祈りまくり。早く頷け、首を縦に振れ、思いを言葉にすることはせずとも、胸の内に繰り返し願い続ける。

 結果、両者は拮抗。

「ぐっ……」

「ぬぅっ……」

 双方共に反応のない時間が数秒ばかり。

 けれど、やがては訪れる最後の時。

 父親が娘を送り出す、感動のシーン。

 ゆっくりと、ギギギギィ、ぎこちなく、その首が縦に振られる。

「……良い」

「っしゃぁっ!」

 やった。言質を取った、取ったぞ。

 他の誰でも無い、俺だけの力で。

「くっ……こんなことがっ……」

 ローブ野郎は酷く悔しそうだ。そりゃそうだろう。

 俺だったら数年は引き籠もるな。娘の前で股間丸出しの上、見ず知らずの男に無理矢理、娘を上げちゃうよ宣言とか、どんだけ寝取られ好きなんだよ。有り得ないだろ。

「ロリマンコっ! 俺はやったぞっ!」

 ロリマンコ振り返る。

「……酷い話もあったものですね」

「だ、だってお前がやれって言ったじゃんかよっ」

「その言葉に反論できない自分が悔しくてなりません」

 そんなこと言われると、誰がどのくらい悪いのか、分からなくなってきた。別に俺は変なことしてない筈だ。周りがやれと言ったから、やってやったんだぞ。

 いずれにせよ、証言は証言だ。

 娘は確かに頂戴した。これでローブ野郎に気兼ねする必要はなくなった。前回はドラゴン氏に手伝って貰ったしな。

 しかも今回に関しては、ロリマンコ本人の言葉も介してのこと。本人は冗談のつもりかも知れないが、残念、俺は本気なんだよ。

「人間如きに、人間如きにやれるなどっ……」

「うぉっ、まだ動くかよっ!?」

 封じたと思われたローブ野郎の身体が、しかし、ゆっくりと動き出す。

 この期に及んで頑張ってくれる。

「この程度で、私を封じられると、思うなよ……」

「マジかよっ!?」

 こちらへ向けて右腕が掲げら得た。掲げられた指の先、浮かび上がるのは光の筋に描かれた魔方陣だ。どうやら、スキルが負けたようだ。ガチで俺を殺しに来ている。

 きっと魔法で打ち抜くつもりだろう。

 やはりステータス差は絶対なのか。

 せっかく証言を得たというに、あぁ、この状況は歯がゆいぞ。歯がゆい。

「くっそっ……」

 だがしかし、これ以上はどうにもならない。

 打てる手は全て打った。出せるウィンドウは出し尽くした。

 これ以上のミラクルは各種ウィンドウの仕様上、困難といわざるを得ない。

 ならば、残る手段は唯一。

「いいのかっ!? い、いいのかっ!? 俺にはすげぇダチがいるんだぜ!?」

「……どこかで聴いたような話だな……」

「ぐっ……」

 だって、それしかないんだよ。

 俺のダチ最強伝説。

「そう都合良く、毎度毎度、彼の者が助けに現れるものか。彼の者にとっての人間とは、路傍に落ちた石ころ以下の存在。ならばある種の気まぐれ。そう容易に意味をなすものでは無いと知れ」

 一歩、また一歩と、こちらへ歩み寄ってくるローブ野郎。

 俺の死体操作スキルに、根性で抗って思える。

 やっぱり駄目か。駄目なのか。

 ドラゴン氏、今頃は巣で園芸にウキウキだろうし。

「ほ、本当にいいのかよっ!? エンシェントドラゴンとかいって、超絶すげぇダチなんだぜ!? お、俺のピンチとしったら、きっと駆け付けてくれて、お前なんて、すげぇ炎で、けちょんけちょんにしてくれるんだからなっ!」

「好きなように呼べば良い。ほら、呼んで見せろ」

「う、嘘じゃねぇぜっ!? 俺のダチのエンシェントドラゴンは、黄金色の鱗が超絶イカシタ、最高にカッチョイイ、絶対最強ドラゴンなんだぜっ!? 仕事が庭師っていうのも、お茶目でなんか良い感じなんだからなっ!?」

「うるさい。黙れ。そして死ね」

 ローブ野郎の腕が、こちらへ向かいかざされる。

 なんか、手の平の正面に魔方陣とか浮かび上がってるよ畜生が。

 あああ、これはヤバイ、ヤバイ感じ。

 流石に前と同じってのは芸がないよな。ないない。自分でも思うもの。

 ロリマンコの生みの親ってことは、ロリマンコより強いってことだ。

 終わりだ。

 このまま二人一緒におだぶつだ。

 まあ、ロリマンコに謝れたし、少しは良かったかな。

 ロリマンコ可愛い。

 ロリマンコ可愛い。

 よし、死ぬまでずっとロリマンコ可愛いと念じて死のう。

 最後の瞬間まで、胸の内をロリマンコで満たして死のう。

 そう執念を燃やしていた時期が、私にもありました。

「おい、お前。丁度良いところに居るじゃないか」

「え?」

 ふと、背後から声が掛かった。

 振り返ると、何やら歳幼い少女が一人、立っているではないか。

 俺好みの金髪ロリータだ。あぁ、ちなみに金髪ロリータとは言っても、シャイニングロリとは別物だ。あれよりも少しだけ背が小さくて、歳も幼いように見える。あと、目つきが鋭い。そして、着ているものも小綺麗だ。

「お、おぉ、美しい……」

 死ぬ瞬間の光景が、このロリータなら、まあ、悪くないのかも知れない。

 訳の分からないローブ野郎の裸体よりは圧倒的にマシだ。

「相変わらず口が上手いな」

 っていうか、ドラゴン氏じゃないか。

「ところで、これはどうしたことだ? 街がやけに騒がしいが」

「あ、いや、これはそのっ……」

 マジで出てきたよ、この人。このドラゴン。

「ぐ、ぐぬぅっ……」

 ローブ野郎の勢いが途端に失われる。

「おい、答えろ」

「す、すんませんっ! それが、このローブ野郎がいきなり街に攻めて来やがってっ! 俺がこの町を貰った、とか言いやがったんスよっ! そんで、俺は必死に守ろうとしたんスけど、力が足りなくてっ、も、申し訳ないッスッ!」

「ほぉ……」

 俺の必死の弁明。

 これを受けて、ドラゴン氏の視線がローブ野郎へと向かう。

「なっ、き、貴様っ! 何を言ってっ……」

「この町にはな、私の先生がいるのだよ。それを巻き込むというのならば、お前は今すぐに死ね。土の礼はしてやるが、それも今日限りだ」

「ひっ……」

 ドラゴン氏が腕を翳す。

 応じて、その指先から黄金色のビームが飛び出た。

 それは一直線にローブ野郎を目指して進み、その身体を貫いた。

「ゃああああああああああああああっ!」

「ふんっ、汚らわしい声だ」

 数瞬の後、ロリマンコの義親父さんは、この世から跡形も無く消滅した。

 お別れを言う暇もなかった。

「ま、マジか……」

 俺の口から出任せが、僅か数秒で人一人、アンデット一匹の命を奪った。

 か、感慨深いものがあるな。

 瞬殺ってヤツだ。

 すみません、間違えました。では色々と済まない世界だ。

 ドラゴン氏、マジで怖ぇ。スゲェ怖ぇ。ヤバイよ、ヤバすぎる。

「ふむ、邪魔なヤツは捌けたな」

「う、うすっ! ありがとうございますっ!」

 しかも、ドラゴン氏の語る姿は、他者を殺したにしては平然としたもの。

 本人にとっては、道端の石ころを蹴飛ばした程度の意識なのだろう。

「しかし、この様子では先生も、生きているのか怪しいものだな……」

「俺がついていながら、す、すんませんっ! 申し訳ないッスッ!」

「……過ぎてしまったものは仕方ない。これもまた人間という生き物だ」

「本当にすみませんでしたっ!」

 割とガチで頭を下げる。

 嘘だとバレたら後が怖いだろ。

「いい、気にするな。お前はそもそも酷く弱いしな」

「うすっ……」

「仕方ない、他にまた先生を探すとしよう……」

「もしや、な、何かあったのですか?」

 憂いを帯びたドラゴン氏の物言いを受けて、俺はすぐにピンときた。

 この不幸な金髪ロリのことだ、また何か面倒が起こったのだろう。

「それがどうにも、新しく芽吹いた花が、お前と同じで酷く弱々しくてな……」

 相変わらずの園芸ネタだ。

 種を植えて僅か数日でこのざまとは、流石は前代未聞の低LUKだ。

 恐らく、環境が目当ての植物と合っていないのだろう。

「な、なるほど、それは急いだ方が止さそうッスね」

「ああ、仕方ないが、他の街を当たるとしよう……」

「そうっスねっ、芽が出たばかりの植物は凄く弱いですから、急いだ方が良いと思うっスよ。もしも可能なら、根っこと一緒に周りの土を一緒に掘り起こして、専門家のところへ持ち込むのもありかと」

「ほうっ! なるほど、それもそうだな」

「うすっ!」

「貴様、なかなか良いことを言うではないか」

「うすっ! ドラゴン氏にそう言って貰えて恐縮ッスっ!」

 俺の言葉を受けて、何やら驚いた表情となるドラゴン氏。

 かと思えば、こちらを寝定めするような眼差しに見つめてくる。

 何事かと緊張。

 すると、続けられたのは驚愕のお誘い。

「おい、お前も一緒に来い」

「え?」

「お前はなかなか使える。私と一緒に来い」

「あ、いや、それはっ……」

「そこのメスはお前のか?」

「そ、それはそのっ……」

「ならば共に来い。それで良かろう? では行くぞ」

「ちょっ……」

 即断即決。

 凄い決断力だ。

 本人の意思が介入する余地は無かった。

 次の瞬間、俺とシャイニングロリは街から姿を消すのだった。