金髪ロリツンデレラノベ 第一巻

エピローグ

気がついた時、俺はベッドで眠っていた。

「……………………あぁ?」

まず目に付いたのは真っ赤に染まった自身の体である。

「なんだよこりゃぁ…………」

着ているTシャシはもちろんの事、シーツや枕諸々が、見るも無残に赤く染まっていた。もはや洗濯して何とかなるようなものではない。買い換える必要があるだろう。それにかかる費用を目算して、頭が痛くなるのを感じた。

「……………………」

だが、その刺激的な目覚めに急激に脳を覚醒させる。おかげで寝具の買い替えに伴う費用の概算など頭から吹っ飛び、その代わりに、自身が気を失うまでの出来事を思い出した。

しかし、周囲にあるのは見慣れた家具に家電製品達である。見紛う事なき自分の部屋だった。慌てて服を脱いで、身体中の様子を確認する。だが、気を失う前までは確かにあった怪我のいずれもは、何処にも見当たらなかった。当然、それに伴う痛みも無い。潰された腕もしっかりと治っていた。

「どうなってんだ?」

一人呟いて舌を動かすと、口の中にドロドロとして、それでいて鉄臭いものを感じた。

指で咥内を弄ってみると、ドロリとした赤いものが付いて返ってきた。それは血液だった。口の中でも切ったのだろうか? しかし、体中の怪我が治っていると言うのに、咥内だけは治っていないというのもおかしな話だ。

「………………俺の部屋だしな」

身に着けているTシャツは、生地の本来の色を見つけるほうが難しい程に、ひたすら赤い。そんな明らかに不自然な状況にあって、けれど、自分は普通に部屋で寝ていた。そもそも隣町にいた筈なのに。

「ん?」

ふと視線を横にやると、ベッドの縁に突っ伏し眠るエリーゼの姿があった。スースーと静かに寝息を立てる様子は、起きて毒を吐き散らしているヤツとは同一人物だとは思えないほどに可愛らしい。

「エリーゼ?」

ただ、その身体は俺と同様に、血に塗れて真っ赤に染まっていた。屋敷で最後に見た時には小奇麗な姿であった気がするのだが、何かあったのだろうか?

「…………………………」

窓の外からは、チュンチュンチチチと雀の囀りが聞こえてくる。時計に目をやると時刻は午前9時だった。

「……朝か」

なんだかよく分からないが、とりあえず、この真っ赤な身体を何とかしたい。バリバリに固まった血液が皮膚にまとわり付いていて気持ちの悪い事この上ない。シャワーでも浴びるとしよう。

ベッドから起き上がるべく体を動かすと、スプリングの軋みにつられて、眠っていたエリーゼが目を覚ました。

「あ、起きたか」

「……………………」

目を開いて暫しの間は、寝起きの呆け顔を露に、周囲を見回したり、目を瞬かせたりと、寝起きの余韻に浸っていた。けれど、それも僅かな間である。自身の置かれた状況を理解すると、すぐに普段の小憎たらしいエリーゼに戻った。

「…………それは私の台詞だ馬鹿者」

「なんでだよ……」

流石というかなんというか、寝起きにありながら、第一声で馬鹿者呼ばわりである。眠気眼を擦りながら、エリーゼは小さく欠伸をして答えた。

「勝手に出しゃばって、勝手に無茶をして、勝手に倒れて、勝手に死にかけて、後始末は全て私に任せっきりと来たもんだ。お前もたいした奴だな」

目覚めて間もないにも関わらず、此方が置いてきぼりを食らう程の毒舌を、一気にまくし立ててくれる。

「え、あ……」

それは屋敷で俺が倒れた事を言っているのだろうか?

「っていうと、お前が俺を?」

「でなければ何故お前がここに居る?」

「そりゃ……、そうだけどさ」

コイツが俺を運んでくれたのか。

「しかも、あまつさえ私に面倒をみさせておいて、自分はぐーすか居眠りと来たものだ。開いた口が塞がらぬとはまさにこの事だよ」

のっけからマシンガンのように飛び出す暴言に開いた口が塞がらなかった。

「そ、そりゃ悪かったよ。でも、どうにも体が動かなかったし、意識は飛ぶし……」

「当たり前だ。あれだけ直射日光を浴びておいて、なおかつ動き回っていたのだ。もしあの場で私が血液を与えなければ、今頃お前は死んでおったぞ?」

「嘘っ!?」

「嘘なんぞついてどうする。しかもお前ときたら、折角与えた血液を何度も吐き出しおってからに、あの後で私がどれだけ苦労したか判るか? おかげで体中が血まみれだ」

「え、ああ、いや、まあ、その…………、ありがとうな」

「ありがとうな、か。それだけでは足りぬな。全く足りん」

「なんだよそりゃ」

「お前に大量の血を飲まれたせいで、私は重度の貧血なのだぞ? それを謝辞一つで済まそうとは随分と都合のいい奴だな」

「俺に飲ませたって……、お前の血をか?」

「そうだ。以前説明しただろう?」

それは、普通だったら日の光を浴びると死んでしまう吸血鬼が、しかし、例外的に太陽の下で行動できるようになる、という効能があるエリーゼの血液を指す。俺にとっては常用必須の薬みたいなものになる。

「そのおかげで助かったって寸法か」

「言っておくが、この貸しは相当にでかいぞ?」

エリーゼはニヤリと不敵な笑みを浮かべて続ける。

「言わば私はお前の命の恩人、という事になるわけなのだからな」

「ま、まあ、順当に考えればそうなるな……」

なんだか、話は段々とよくない方向に向かっている気がする。

「となるとだ、つまり、これからのお前は、私の所有物となるわけだ」

「はっ!? 何でっ!?」

「当たり前だろう? 死骸の一歩手前だったお前を拾ってやった上に、あまつさえ血を分けて助けてやったのだ。すでにその身体はお前のもので無く、私の所有物であってなんら問題はあるまい?」

「どういう了見だよそりゃ」

「さぁて、そろそろ朝食の時間ではないのか? 私はとても空腹を感じているんだ」

「お前、ちょっとばかし元気になりやがったからって調子に乗んなよっ!」

「主食はパンが良いな。スープはポタージュ、サラダはトマトを多めに入れてくれよ?」

「お前になんか助けてもらわなくたってだなっ……」

「ジャムはアローニャ、無ければブルーベリーでも良しとしよう」

「この野郎、人の話をっ…………」

「私はとても空腹なのだ、30分以内に作ってここへ持って来い」

「………………」

全然聞いちゃいない。

「ああ、それと言っておくがドレッシングはフレンチしか認めないからな? 分かったか?」

「………………」

「無論、デザートを忘れたら明日の日は拝めぬと思えよ?」」

「………………」

「聞いているのか?」

あぁ………………。

どうやら俺はとんだ貧乏くじを引いてしまったらしい。

「どうした? 早く支度をしに行くといい」

一体、どこの国のお姫様だろうか?

「またお前は私を無視するのか?」

しかし、

まぁ……ね。

「おい雅之っ!」

「はいはいはいはい、分りましたよ。作ってくるから大人しく待ってろっての」

たまにはこういう賑やかなのも悪くない。

「うむ、待っていてやる。早く作ってくるのだ」

露も終り、夏もそろそろといった6月は末日。

窓の外を流れる風は澄み切った青に彩られ、木々の枝を揺らしゆく。

穏やかな陽気に当てられたのか、

囀る雀の鳴き声をBGMに、足取りも軽く俺はキッチンへと歩みを進めていった。